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ボトルメール 僕が魔法に出会った意味  作者: しーしい
第一章 少年時代
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第二節 言葉

 僕たちは、言葉と文字を学ぶために施設に入れられた。

 小学生の僕たちが、言葉も分からない『世界』で暮らすのは無理があるので、受け入れるしかない。


 僕たちを助けたのは確かに警察だったようだが、すぐに制服の違う別の組織に引き渡された。

 ここは岩国のような軍隊の基地で、施設はその中にある。

 僕たちに、外出の自由はない。自由があったとしても、途方に暮れただろうけれども。


 校庭で、教練場と呼んだ方がおそらく正しいのだろうけれど、制服を着た兵士がひたすら訓練を続けているので、軍隊なのは間違いない。

 ほとんどの兵士は、槍とサーベルの訓練をしている。『魔法』を使う者は、その五分の一、百名ほどだろうか、『魔法』は資質ある者の技術のようだ。


 この『魔法』には、欠点があるように思える。

 【魔法使いサニー】や、【奥様は魔女】における魔法のように、少ないジェスチャーやウインクだけでは使えなかった。

 (マハリクマハリタはアニメ魔法使いサリーから)

 細心の腕の振りと、正確な指操作、そして呟きが最低三秒は必要だ。

 だから、遠距離からの攻撃となるのは必然なのだろう。


 だけど鮮烈なまでの威力は、僕を引きつけた。奴隷商人を殺した魔法は、あれでも手加減をしている。

 訓練によく使われている『魔法』は、人を模した板を三十枚以上、一瞬で木っ端微塵に破壊する。

 アメリカ軍の爆撃機がベトナムに投下する爆弾を、人間が発射しているようなものなのだ。


 ◇


 施設の宿舎と、教室は隣同士だ。だから欠席という概念はないし、全てが給食だった。

 卵焼き、餅のようなパン、野菜と果物、牛乳からなる朝食を食べると、教室に向かう。


 「あの餅嫌いなんだよな」ケンは朝から気分が悪そうだ。脱脂粉乳や鯨ベーコンよりは、よほど良いと思う。

 「ヘシェルでしょ、ケン」

 日本語と『世界』の言語には、全く共通性がなかった。

 だからものを指差して、先生が発する言葉を覚える事から始まる。


 「ウル、イ、アタム、ヘシェロ、タイ」【ヘシェルが嫌い】に、断定のニュアンスを付加したトカルイスン語だ。

 「タカシは頭良くていいな」

 名詞の次は、動詞などの他の品詞を覚える。


 トカルイスン語には格変化があって苦労したが、敬語や役割語はない。 

 学習にはジャスチャーを交えるが、ジェスチャーは文化的な差異が大きかった。

 だから先生と、日本語とトカルイスン語の品詞を交換して精度を高めていった。


 言葉を覚えるのは、幼稚園と小学校をやり直すようなものだけど、概念となると中学校の範囲だ。

 もっとも施設に入ってる間に、日本での中学校入学式を迎えた。『世界』には月が十三個あるので、日付で概算したものだ。

 今まで覚えてきた基本的な言葉を使って、概念を説明しなければならない。


 僕が真っ先に知りたい概念は、やはり『魔法』だった。

 『魔法』を説明するのは、とても難しい事だ。

 というのも、地球には魔法は実在しないし、日本語の魔法の定義はまるで曖昧だからだ。

 そして『世界』における『魔法』については、断片的でわずかな知識しかなかった。


 先生はとても頭のいい女性で、加えて違法ストライキで自習にする事もなかった。

 概念をあらわす単語の授業で、僕が説明した事のほとんどを、先生は的中させた。


 『魔法』を必死に説明した結果、先生からは三つの単語が出てきた。

 「アブ、ウト、ケラハリムス、ウト、ソフィアム、ウラ、エ?」

 窮した僕は、窓から見た『魔法』の動作を再現した。呟きは聞こえなかったので、ジェスチャーのみだ。


 その時僕は、腕・指にうねるような未知の脈動を感じて動揺した。

 煮えたぎった血液のような力の流れは、出口を求めて体をかけめぐり、それを見つけられずに中ではじけた。

 薄れていく意識の中で、呟きすなわち『言葉』は『魔法』の欠かせない要素である事を理解した。

 「ハカ、イル、嘘つき、カム、魔法使いサニア、ウト、奥様は魔ジャ、ロ……」

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