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08.行方知れず(1)

 ***


 紆余曲折を経て、ようやく医務室で治療を受ける事が出来た。前回のような大怪我ではなかったので、起き上がって普通にベッドに腰かけている状態だ。

 やはりブーツというワンクッションもあったおかげで、大して酷い怪我ではなかった。少し休んで足の感覚が戻ったら帰って良いとも言われている。


 そんな訳で、一度離脱して見舞いの為に戻って来てくれたスピサに怪我の具合を伝えた。


「大した事が無くてよかったね。最近、怪我をするのが趣味なの?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「冗談だよ。そうだ、いなくなったサイモンだけれど、見つけられなかったわ」

「捜してくれてありがとう。やっぱり見つからないよね」

「けれど、ギルドマスターが興味を示して捜すのを手伝ってくれているわ。強盗を野放しには出来ないって事になっているみたい」

「マスターが? それはそれで、ちょっと恐いんだよね……」

「私もそう思う」


 それにしても、とスピサが悩まし気な溜息を吐く。


「サイモン、思っていたよりもずっと強かった……。あれ、最初から聖職者じゃなかったんじゃない?」

「そういう所があるよね、サイモン」

「何事も全力で行うタイプじゃないもの。今回も恐らくそう。本来ならもっと手強いって事」

「確かにそうだね」


 そういう訳だから、とスピサはぱちんと手を打った。


「私はたぶん、役に立たないわ。ところで話は変わるけれど、オルヴァーがあなたに話があるって言っていたかな」

「話が変わってなさそう……。ええー、起き抜けにお叱りを受けちゃう感じか」


 クスクスと笑ったスピサは、オルヴァーの声が苛々するから帰るという殺伐とした理由で見舞いを終え、医務室からさっさと出て行ってしまった。


 ***


 ――早く……早く、動くようになって! 私の足!

 祈るような気持ちで自身の回復を祈る。別にその作業が必要な訳ではないが、オルヴァーが後で来ると言っているそうなので、それまでにはぴんぴんして元気なアピールをしたい。小言の度合いが変わって来る。

 怒られるのは一向に構わないが、他人の怪我についてイライラしている彼は普通に解釈違いである。彼は怪我した人間の怪我した足をへし折って身の程を知れと平気で言うタイプだからだ。


 そんな願いも虚しく、廊下が少し騒がしいなと思ったら件のオルヴァー本人と――そして何故かルグレがくっついて訪問してきた。ルグレがいたので別の誰かに用事か、と淡い期待をしたが信じられない程にしっかりとした足取りで突撃してきたので間違いなく私への用だ。

 ――いやでも、それにしたって凄い組み合わせだけれど。

 アリシアではなく、ルグレが来たのは何事だろうか。自然と警戒してしまい、身体が強張る。


「――ようシキミ、お前また怪我をしたって?」

「詰め方がパワハラ上司っぽいって……。いや、その前にルグレさんは何故ここに?」


 ああ、と指摘を受けた彼は薄い笑みを顔に貼り付けたまま応じた。


「実は本日、アリシアは不在でして。どうせ後から貴方の話を聞きたがると思ったので、先手を打って状況を確認しに来ました」

「うーん、解釈一致!」

「それは良かったです」


 意外と――というか、アリシアにのみ繊細な気遣いが出来る男、それがルグレである。彼女の為に用はないが事情を知る為、医務室に来たのは非常に納得がいく理由だ。


「そうじゃねえだろ、危機感はどこに捨てて来た? 鞄なんぞを拾おうとして、要らん怪我をしたらしいな」

「いやあの鞄は……無くすと、私が社会的に死ぬので……。ひょっとしたら、身体の怪我より高くつくやつというか」

「ハァ?」

「柄悪すぎ……」

「サイモンなら高跳びしてどこ行ったか分かないぞ。まあ、最近の奴はかなり様子がおかしかったが」


 そういえば、とルグレがおかしそうに笑う。


「例の見た事のない魔物達が押し込められていた屋敷も、サイモンさんと関係があるようでしたしね。それで、どうします? 恐らく見つけ出すのは難しいと思いますが、サイモンを追うのですか?」

「そうですね、追うと思います。鞄――の中身を回収しないといけないので」


 おい、とオルヴァーが眉根を寄せてルグレの腕を小突く。余計な事を教えるなと言わんばかりだが、それでもルグレは止まらない。


「大変面白そうですので、僕からささやかな情報を」

「止めとけ。聖職者とはいえ、シキミがサイモンをどうこう出来るとは思えない」

「そんなの、僕だって一人で猪のように向かって行く事は想定していませんよ。ご自身でどうにか解決するでしょう? 流石にシキミさんを馬鹿にし過ぎです」

「ああ言えばこう言う。よく回る口だな」

「はい。よくそう言われます。それで、サイモンさんの居場所ですが。ギルドマスターなら何か知っていると思いますよ」


 盛大に舌打ちしたオルヴァーが、最早肩を竦める。


「行くぞ、シキミ。どうせ放置してたら、碌な事にならない」

「あ、有難い!」


 どうやら付き合ってくれるらしい。非常に親切で助かるが、意図が不明過ぎて正直少し恐い。そしてルグレは情報提供だけして、高みの見物を決め込むようだった。


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