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乙女ゲームのモブに転生したので縁結び相談室を作る  作者: ねんねこ
16話 自分の事になるとポンコツ
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08.着ぐるみの魔物(2)

 ともあれ、こちらからクエストに誘った以上、棒立ちという訳にもいかないのが事実。私は出来るだけ魔法の射程圏内ギリギリに入り、魔物へと狙いを定めた。あまり近づくと思わぬ動きで距離を詰められ、お陀仏などというアホな事態に陥りかねないからだ。

 距離が離れると、途端にエイムがダメダメになるのは前世のゲームでもよくよく体験してきた。そしてそれは現実にも遺憾なく発揮され、なかなかここぞというチャンスが訪れない。


「シキミ、もしかして狙い撃ち下手なの? 集団戦じゃなかったらもう死んでるな!」


 けらけらと笑うアリシアに気を取られつつ、ようやく魔物がその足を止めた。こちらに気付いている様子はなく、交互に仕掛けてくるオルヴァーとベティに対し攻めあぐねている様子だ。つまり、私の事など眼中にない。存在すら忘れられているかもしれない絶好のチャンスだ。

 ――今だ!

 心中で叫び、風の魔法を放つ。オルヴァーのそれとは比べ物にならない小規模ではあるものの、油断している所に使えばそう大差はないだろう。


 放った風の刃が着ぐるみの片腕を引き裂く。布が裂けるような音に近かったのだが、その中に――何故だろう、水気のある肉を掻き混ぜたような音も聞こえた気がした。

 引き裂かれた腕からは綿――ではなく、何か暗い闇のような物が見え隠れしている。空洞では無いのだが、名状し難い未知の物質が詰まっているような気がしてならない。


 だがそれが何であるのか観察を続行している暇は無かった。

 とても二足歩行の生物とは思えない奇妙な動きで着ぐるみが私の方を振り返る。黒いビーズらしきもので構成されている両目はいまいちどこを見ているのか分からないが、位置的に私の事を見ていると思って間違いないだろう。


「ひぇ……」


 次の瞬間、やはり変な体制からかさかさと着ぐるみが動き始める。当然、布を裂いた不届き者へ向かってだ。


「ひぎゃあああ!? 動きが恐い!!」

「あっはっはっは! 良いリアクションだ、シキミ」


 笑うアリシアに助けてくれる様子が全くない。私でもそう思ったが、オルヴァーやベティもそう思っているらしい。

 慌てた様子のベティが、やはり慌てて踵を返すのが視界の端に写る。

 また、既に身体を反転させてこちらへ突進して来ていたオルヴァーが悪態を吐いた。


「何をやってんだ馬鹿!!」


 ――ごめんなさい!! 自分の身を守れないなら、割って入るべきじゃなかった!

 そうは思ったものの、残念ながら言の葉にはならない。私が魔法を使用していたからだろう。着ぐるみはいつの間にか武器をポールアックスに変更している。今は魔法耐性が高い状態なので、悪足掻きの魔法は通用しない。

 また防壁魔法に関してもギリギリ間に合う程度のものだが、強度が足りずガラスのように叩き割られる事は請け合い。

 ならば薄い望みではあるが、真横に転がってポールアックスの一撃を回避する方が生存率が高いだろうか――


「よし、シキミ。口を閉じろ。絶対に喋ったりするな」

「――え?」


 横から出てきたアリシアが、重量を感じさせない程軽やかに私を担ぎ上げた。気分はさながら米俵だが体感的には米俵よりも軽々と持ち上げられている。まるで重力など無いかのように、あっさりと振り回されたのだ。流石の人外。

 そのまま人を抱えているとは思えない優雅さで、その場からトンとジャンプしてまずは着ぐるみのポールアックスを爽やかに回避。戦う事はせず、武器の間合いから外れる。


 着ぐるみが追ってくるかに思えたが、横合いから追い付いたオルヴァーが姿を現したので、私を追い掛けるには至らなかった。また、程なくして少し距離が離れていたベティも合流。状況は私が横槍を入れる前に戻った。

 そうなった所で、着ぐるみからは目を離さずオルヴァーがすかさずクレームを入れた。


「おい! 何もしないなら、せめてシキミの面倒を見てろアリシア!」

「カッカするなよ、細かい奴だな。ちゃんと見てたから、今助けてやったろ」

「こうなる前に! 止めろ!!」

「あっはっは! キレ過ぎだろ。なあ、シキミ」


 確かにキレ過ぎではあるが、これがオルヴァーというキャラクター性なので大歓迎だ。思わぬ本人らしい一面が見られて、私は満ち足りた気分でアリシアへ向かって親指を立てた。


「邪魔しちゃった事は本当に悪いと思ってるけど、これはこれで良いかな!」

「お前もなかなか変わったやつだよな。ま、ギルドのメンバーらしくていいか……」


 ――そうだ、こうしてる場合じゃない! 武器が切り替わっていたし、耐性が切り替わった事を2人に伝えないと……!

 今は魔法耐性が高い状態。無駄に魔力を消費させる訳にはいかない、と戦闘中の2人へ視線を移す。が、普通に剣等を振り回して着ぐるみと相対していた。もう法則を覚えたらしい。という事はもう私はお役御免という訳か。切ない。


 そうこうしている内にオルヴァーが着ぐるみの足元を風魔法で吹き飛ばす。自動掘削機のような勢いだが本体は魔法耐性が高い状態なので然したるダメージはないようだった。が、体勢は大きく崩れている。

 すかさずベティが背後から斬りかかった。それは持っていた武器で一撃を防ごうとした着ぐるみの、まさに武器を持った方の腕を跳ね飛ばす。相変わらず綿等は噴出さず、腕があった場所には黒々とした『何か』が詰まっていた。

 更にオルヴァーが追い打ちを掛ける。大剣の一撃は寸分狂わず着ぐるみの肩から腰に掛けて袈裟懸けに振り下ろし、そして着ぐるみ本体を2つに切り分けた。


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