表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/191

12.今日の成果

 ルグレの方へと持って行かれていた意識が引き戻されたのは、その後すぐだった。事の成り行きを見守っていた彼――私の最推し、オルヴァーが口を開く。


「チッ、雑魚共が。見苦しい姿を晒すな」


 ――ひええええ!! ガチトーンの罵り、いただきました!

 心中で叫ぶ。同時に動悸。別に彼の吐いた圧倒的な暴言に気圧された訳でも、傷付いた訳でも無い。彼はこういう性格なのだ。それを間近で見る、聞く事が出来た喜びに興奮が抑えられない。


 ちら、とルグレが仲間の冒険に目をやる。特に注意するでもなく、剣の柄に手を掛け、淡々と宣言した。


「では、我々もクエストを終えましょうか」


 そこからは作業だった。アリシアが何なのかよく分からない魔法を放ったり、ルグレとオルヴァーの近接物理攻撃。加えて終始無言だった少女、シーラの補助魔法。各自がきっちりと役割分担し、こなしていく様は完全にベルトコンベア式である。

 こちらが手も足も出ず苦戦していたタウロスセットを難なく片してしまった。作業を終えたアリシアがははっ、と元気に笑う。達成感からの笑顔だろう。


 それを見ていたベティがやや悔しそうに歯噛みした。


「流石はうちの武闘派……。こんなに実力差があるのか」

「大丈夫だよ、その内ベティもあれより強くなるさ」

「ええ? 何その根拠の無い励まし」


 ゲームではそこらのギルドメンバーよりムキムキに育成したので、きっとなれない事は無いはずだ。半信半疑のベティにガッツポーズを向ける。


「おい」


 推しメン・オルヴァーの声だ。誰に声掛けしたのかと顔を上げれば、間違いなくこちらを向いている。しかも虫ケラでも見るような目。ご褒美です。


「貴様等、自分の力量も分からんのか。弱いなら引っ込んでろ」

「待って……オルヴァー……」


 やんわりと憤る戦闘狂を宥めたのは、それまでずっと口を閉ざしていた少女、シーラだ。そして彼女は意外にも私達への助け船めいた言葉を吐き出す。


「この人達が……向こうで、お肉を焼いていたから……わたし達はタウロスに出会えた。……だから、あまり責めない方がいい、と、思う」

「それもそうですね。結果として、こちらのクエストも片付いた。それで良いでしょう」


 取り纏めたのはパーティのリーダー格、ルグレだ。手を叩き、これ以上の問答に意味は無いと言わんばかりの空気を放っている。

 ところでさ、とアリシアが割って入った。


「もう良いから戻ろうよ。お腹減ったんだけど」

「ええ、ええ。承知致しました。と言うわけです、お二人とも。アリシアが空腹なそうなので、戻ると致しましょう。そちらは? ご自分達で帰還出来ますか?」


 ルグレの問いにデレクが首を縦に振る。


「ああ。俺達は自分で戻るから、気にしないでくれ」

「了解しました。では」


 素早く踵を返したルグレがとても自然にアリシアの手を引く。私は目を細めてその様を見送った。


 ルグレとアリシア――DLC扱いで追加された、戦闘専門の友情キャラクター達だ。彼等には固有のルートが無い。恐らくは既に彼等がパートナー契約を結んでいるからだろう。一応、2人と親睦を深める事でサブイベント的な友情ルートは解禁される。

 パートナーを作った後でも友情イベントは見られるので、一度だけ鑑賞した。何だか緩いメリーバッドエンドのようだったので、2周目以降はイベントを起こさずスルーしたシナリオ。

 何だかこの2人の関係性は恋人でも家族でも、或いは友達でも無さそうなのだ。常人には理解出来ない、全く意味不明な感情を持っている人達。

 ギルドへ来る前、何かの一戦を越えて来たのだろうか。


 ***


 その後、私達は怪我人がいる事も相俟って即ギルドへ帰還した。まだまだロビーにたくさん人も居た事だし、相談室を開けておこう。


 そう考えつつ、クエストに誘って貰った礼をベティとデレクにしようとしたところ、やや暗い面持ちのベティが不意に口を開いた。


「今日は迷惑を掛けて悪かったよ」

「えっ? い、いやいやいや! 私こそ、全然役に立てなくてごめんね」

「そんな事無い。シキミ、お前は頑張ったよ。初クエストとは思えない手際の良さだった。なのに私は、大事な局面で転んで怪我なんて……。オルヴァーにも貶されるし……」


 うーん、と困ったようにデレクが腕を組む。彼は彼で反省点があるようだが、ベティ程沈んではいないようだ。私は慌てて言葉を掛ける。


「次、次出来ればいいよ! ね?」

「……そうだな。次もシキミを誘うから、その時は完璧にエスコートするよ。私、強くなる! もっと!」


 流石は本作ヒロイン。沈んだ状態からの復帰が華麗だ。というか、私の中身を伴わない言葉の何を受けて強くなろうと思ったのだろうか。人に意見を仰ぐまでもなく、答えが決まっていたのかもしれない。


「じゃあ、シキミ。今日はお疲れ様。デレク、ありがとう、私を置いて行かないでくれて!」

「ああ! 足が治ってから、次のクエストに行こう。シキミ、俺もたまには相談室に顔出すからよろしくな」


 そう言って、今日のクエストメンバーはこの上なく爽やかに解散した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ