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乙女ゲームのモブに転生したので縁結び相談室を作る  作者: ねんねこ
12話 季節のダウンロードコンテンツ
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06.囮作戦(2)

 町をゆっくりと歩きながら小物などを視界に入れる。そんな物ばかりを見つめていると、不意にオクルス=アリシア事件が脳裏を過ぎった。私の悩みの種であり、胃痛の種でもある。


 思い出されるのは、私がオルヴァーにした贈り物のアドバイスだ。生活雑貨などを勧めた記憶があるが、アリシアに渡すなら生活雑貨じゃ駄目だろ。とんだ見当違いのアドバイスだったと内心で項垂れる。

 分かっていたら勧めなかったけれど、もう後の祭りだ。オルヴァーもさぞや困惑した事だろう、こんなクソみたいなアドバイスを貰って。


「――シキミ? 百面相して、どうした?」


 私の様子があまりにもおかしかったからだろうか。ベティが若干引いたような声音でそう訊ねた。我に返る。


「あ、いや……」

「何だか元気がないぞ。もしかして――緊張してる?」

「あー、うん、そうだね。緊張はしてる」


 理由はそれではないが、馬鹿正直に事の顛末を話す訳にもいかないので苦笑してその言葉に乗っかる。予想が当たったのが嬉しかったのか、ヒロイン様は満面の笑みで気安く肩を組んできた。


「そうだろ! でも大丈夫! 何てたって私達が付いてるからな!」

「そうだね……」


 ――すっごく癒やされた。

 心配事は全く消えて無くなってはいないが、それがどうでもよくなるくらいにはヒロイン様に癒やされた。もう何があっても恐くない。

 尊さに胸を抑えていると、やや興奮した様子のスピサが店の一つを指さし、デレクへと何事かを捲し立てているのが目に入る。大変意外な事に、囮ショッピングを一番愉しんでいるのはスピサその人のようだった。

 兄弟が男ばかりなので、同性同士での買い物が珍しいのかもしれない。母親であるラヴァはショッピングに適さないだろう。なにせ、彼女は拘りが強すぎる。別行動が最適解だからだ。


 小さく唸った私は更に胸を抑える。予期せぬ尊すぎる光景に心が潰れそうだった。プレイヤーに刺激が強すぎる光景は小出しにして貰いたい。死んでしまう。


「ちょっと、シキミ? 大丈夫?」

「大丈夫。ちょっと、胸が一杯になっただけだから」

「お前それ、本当に一度病院へ行った方が良いぞ。悪い病気なんじゃないの?」

「ううん、発作だから」

「いや、その発作がヤバい病気の前兆なんじゃないかって言ってるんだけどさ」


 不治の病である事は確かだが、こんな事情で病院へ行ったら医者に渋い顔をされるのは請け合い。ベティの提案と言えど呑めるはずもなかった。


 ――と、不意にスピサから振り回されていたデレクがこちらへ戻ってくる。何やら神妙な表情をしていた。


「どうした、デレク?」


 パートナーであるベティの問いに、肩を竦めたデレクが応じる。


「そろそろ囮作戦を前に進めた方が良いかと思うんだ。俺達が一旦席を外す、っていう」

「あ、ああ! そういえばそんな作戦だったな!」

「買い物を楽しみ過ぎだぞ、ベティ」


 コソコソと話をしていると、その輪にスピサが加わった。彼女の切り替えの早さは一級品だ。先程まではショッピングで浮かれた様子だったというのに、真剣な表情を浮かべている。


「それじゃあ、私はシキミと残るわ。何故かギルドマスターが、シキミと二人で行動するのなら私が適任だって」

「そうだな。確かに、シキミを一人にするのは少し恐い。スピサに付いていて貰おう」


 ――これ多分、見た目的にはスピサが一番か弱そうに見えるから居残り組に選ばれたんだろうな。

 私はその事実に気付いてしまったが、当然口にはしなかった。

 見た目がまだまだ子供で、且つ華奢な見た目をしているスピサは候補3人の中で最も脆弱そうに見えるからだ。実際にはこの場の誰よりも強いのだが、そこはそれ。見た目のお話である。


 この編成を不思議に思っていたが、点と点が繋がる感覚に頷く。見た目がかなり冒険者風のベティとデレク。そして明らかに素人っぽい見た目の私。最後にひ弱そうな少女。この面子で冒険者2人が席を外せば、そのタイミングで作戦に引っ掛かった闇ギルド残党が襲い掛かって来るのは自明の理だ。

 襲い掛かって来るタイミングを極力操るのが、この作戦の真意なのだろう。シンプルだが奥深い、それが囮作戦の真髄だ。


 しかし、やはりギルドマスターの信頼は基本的に薄い。意外と優秀な人ではあるのだが、如何せんあの適当この上ない性格。仕事をしているのか、していないのか分からない勤務態度。

 常に付きまとうサボり疑惑からして、ベティ達はやや不安を覚えているようだった。


「それじゃあシキミ、私達は一旦離れるけど……何かあったら、すぐに呼ぶんだぞ! こっちもあまり離れないように行動するからさ」

「そうだよな、俺もいまいちマスターの言う事は信用できないっていうか……。あの人、大味だし。俺達で調整しないと。スピサも、何かあったらすぐに呼んでくれよ」


 デレクの言葉にスピサが鼻を鳴らす。


「誰に物を言っているの? 貴方達より、よっぽど私の方が戦闘に向いているわよ」

「そうかなぁ……」


 彼女の言っている言葉は真実なのだが、デレクは胡乱げで曖昧な笑みを浮かべている。現実だとベティの攻略速度がゆっくりなので、スピサとの力量差を知らないのだろう。サラマンダーとのハーフなだけあって、彼女は普通に恐ろしく強いので舐めたクチは利かない方が賢明である。


 こうして、名残惜しみながらも囮作戦を成功させる為、二手に別れたのであった。


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