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現代版人魚姫 その1

作者: 窓井来足

個人的な意見ですが。


原作で悲惨な目にあった女の子とか。

二次創作ではおバカな世界観で幸せになってほしいと思いません?

 現代版人魚姫 その1


 さて、『人魚姫』の物語は有名なので。

 とりあえず人魚の姫をナンパせんとしていた王子……ではなく、人魚の姫が難破船から王子を救った辺りは軽くすっ飛ばさせていただこうと思う。

 と、いうわけで。

 いきなりだが、話は「海の魔女から人魚姫が『尻尾を脚にする薬』を手に入れる」場面から始まる。

 そんな手抜きでよいのかということは気にしてはならない。



「それじゃあ、アンタの声と引き替えに人間の脚が手に入る薬をあげようと思うんだけどぉ……いい?」

「ええ。それで構わないわ」


 今、まさに。

 人魚姫が魔女から薬を受け取り、それを服用しようとしていた。

 と、その時!

 ドボン!


「ガ、ガボガボガボ……」


 突如王子が飛び込んできたのだ。

 もちろんのことながら、王子は普通の人間である。水中で呼吸ができる訳もない。

 そもそも水中で王子が呼吸ができるのなら、人魚姫が沈む船から王子を助ける必要性がなくなり、『人魚姫』の物語は成り立たなくなってしまうではないか。

 なので、当然王子は水中で呼吸などできないのだ。


「ちょ……これってやばくない? ちょっと魔女さん! 魔法で王子を助けて!」

「えぇ~ アタシにタダ働きしろっていうのぉ~?」

「王子なんだからお金ぐらい後でいくらでも出すでしょ。いいから助ける」

「う~ん……仕方がないなぁ」


 王子がお金を出すと決まっていない以上、もしかしたらタダ働きになるかもしれない仕事なので。

 本当は不満な魔女であったが。

 しかし、自分の住処の中で王子が土左衛門になったら寝付きが悪くなりそうだと思ったので。

 結局、魔法の力で助けることにした。

 王子は水中で呼吸ができるようになったとはいえ、今まで溺れかけていたので、しばらくゼェゼェといっていたが。

 しばらく休むとあまり問題はなく回復した。


「ふう。助かったぁ」

「……あの、なんで王子様ここにいるんです?」


 人魚姫の疑問ももっともである。

 本来の物語なら、王子はそもそも人魚の存在すら知らないはずなのだ。

 で、その姫の疑問に対して、王子は、


「実は君に助けられたときの記憶が少しあってね。この辺りは人魚伝説もあるから、家臣に命じて探させたんだよ」


 と、本来の物語とは違う設定を口にする。

 まあ、この辺りは「現代版」なので仕方がないとして。


「でも、それじゃあ飛び込んできたことの説明にはならないですよね?」


 と、人魚姫が指摘するように、王子の説明は〈王子が魔女の家に来た理由の説明〉にはなっていない。

 果たして、王子は何をしに魔女の家までやってきたのだろうか?


「家臣が言うには何か君、人魚やめようとしているらしいじゃないか」


 人魚姫に対して、そう訊ねる王子。

 そんなことまで調べてあるとは、流石は王家に仕える者たちである。

 まあ、それはともかく。

 それに対して人魚姫は。


「いや……その……それは……王子様に会うために……」


 と、戸惑いながら返答する。

 さっきまで「声を失い、更には歩くと激痛が走るような脚になったとしても、惚れた王子に会いに行く」という。

 よくよく考えると一昔前の少年漫画に出てくる筋肉質(マッチョ)な主人公でも耐えられるかどうかわからないような、難易度Sクラスの試練に挑むという覚悟を決めていた人魚姫だったが。

 実際にその惚れた王子を目の前にして、「あなたのためにそこまでしようと思っていました」というような内容を口にしようとするとやはり、動揺してしまうのであった。

 しかし、原作の方もそうだが。

 「惚れた相手のためにどんな試練も乗り越えてやる」という覚悟だけみると。

 人魚姫の性格というのはかなりタフな気がするのだが……まあ、それは置いておくとして。

 人魚姫の、その戸惑いながらの返答を王子は、


「そんなの駄目だ!」


 と、強気の態度で否定する。


「え?」


 王子に意外なことを言われて困惑する人魚姫に王子は、


「いいかい? 人魚姫は〈人魚〉だから人魚姫なんだよ。〈人魚〉をやめたらただの姫じゃないか」


 と力説。

 ちなみに、この作品で「人魚姫」を省略形で「姫」と呼ばないのはその辺りも考慮してのことである。

 まあ、そんなことは読者にはどうでもいいかもしれないけど。

 王子の説明を聞いた人魚姫は、頬を赤らめながら、


「そ、それはつまり……そのままの私がいいってこと?」


 と、訊ねる。それに王子は、


「そうともさ」


 と、即答。

 それを聞いて、


「そう言ってくれるなんて。やっぱりこの人を好きになって良かった……」


 などと、目を潤ませながら呟く人魚姫。

 水中なのにどうやって潤ませているのかは気にしてはいけない。

 さて、しかし。

 筆者(わたし)は毎回『人魚姫』の物語を読むと疑問なのだが。

 あの話、悲恋の物語みたいに言われているが。

 人魚姫の恋は勝手な片思いの上に。

 恋に落ちた理由もイケメン王子に一目惚れしたというようなものであり。

 人魚姫がラストで泡となり亡くなったことは可哀想なので「悲劇」かもしれないが。

 決して「悲恋」ではないような気がしてならない。

 いや、別に人魚姫を「危ないストーカー女」とか言いたい訳ではない。

 話を戻すと。

 何で一目惚れの片思いなのに「やっぱりこの人を」なんて人魚姫は考えたのかということだが。

 まあ、原作でもそういう奴なので仕方がないというところである。

 しかし、そんな危ない……いや、思い込みの激しい人魚姫も、王子の放った、


「人間の上半身で腰から下が魚なんて最高じゃないか。ああ、できればその尾びれでビンタされたい……」


 という言葉には、


「え…………?」


 と、首を傾げるしかなかった。

 更に追い打ちをかけるように王子は、


「ついでにその、すべすべしていそうな尻尾の腹側に頬ずりしたい……」


 などと言い出す始末。

 前のはともかく、こちらは完全なセクハラである。


「………………」


 黙ってじっとジト目で王子を見つめる人魚姫に対して、


「何か?」


 と、訊ねる王子。

「いや、何が『何か?』だ」と横に立っている、さっきからまったく台詞がない魔女がツッコミを入れるよりも早く。

 人魚姫のビンタが王子の左頬に炸裂した。

 無論、王子の望んだ〈尾びれビンタ〉ではなく、普通に手によるビンタである。


「前言撤回! こいつ変態だ!」


 さっきまでと、違う種類の涙を目に浮かべた人魚姫は、王子を指さしながらそう叫ぶ。


「な?」


 変態扱いされたことで戸惑う王子。

 今度も魔女は「何が『な?』だ。普通に変態だろう」とツッコミたかったのだが。

 それよりも早く人魚姫が、


「魔女さん! 助けてください! こいつ変態です!」


 と泣きついてきたので、ツッコむことができなかった。

 ツッコミを入れたいのに、人魚姫がそれを邪魔するためにできないことが二回続いた魔女は、


「ええ~ 助けるのぉ~?」


 と、露骨に面倒臭そうな態度を示す。

「私、こう見えても人魚『姫』ですから。お金はありますから。お礼は後でしますから」

 と、頭を下げて頼む人魚姫。

 対して王子も、


「ちょ、ちょっと待って。僕だって王子だ! 後で礼はする! 魔女さん! 頼む。僕の方に協力してくれ!」


 と、同じく頭を下げて頼む。

 王子の頼みに対して、魔女は、


「ちょっとあんたさぁ、アタシにお金出して人魚姫口説く協力しろって……お金で愛が買えると思っているのぉ?」


 などと、魔女らしからぬ正論を口にする。

 それに対して王子は、


「時間さえくれれば、彼女を説得してみせる。そういう意味ならお金で愛も買える」


 などと現実的に反論。

 それを聞いて納得した魔女は、


「どっちを手助けしようかなぁ……」


 などと呟き、両者を見回す。

 無論、魔女にとってはどっちを助けても大差ないのだが。

 迷ったフリをしていれば、お互いに競い合って払う金額が上昇するだろう。

 と考えた魔女は、少なくとも表面上は迷っているように演技することにしたのだ。

 そして、そんな魔女の予想通り、


「よ、よし。助けてくれたら三百、三百万まで出す!」

「僕に協力してくれたら三百五十……いや四百万だ!」


 と醜い争いを繰り広げる二人。

 果たして、この変態男とストーカー女の間に愛など芽生えるのだろうか?

 謎である。

 ……が、一つだけ言えることがあるとするならば。

 二人の愛を利用して、大金を手に入れようとしているあたりは流石は〈魔女〉といったところである。

原作の『人魚姫』が救いようのないラストなので。


まあ、こちらはその二次創作である以上。

別の意味で救いようのないラスト……というところです。

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