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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
ワルツ
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円舞曲

『人類はな、戦うようには出来ていないのだ。進化の過程から、牙を知恵へと変えてきた。それゆえに人類が肉体だけで戦うのは非効率だ。だが知恵を搾って作り出した道具を使うことに関して、人類の構造は生物の中でも最適だ。定形の、という言葉が付くがな。ゆえに、武器を持て。知恵を搾れ。武器を捨て、知恵を無くしたのなら、獣になれ。効率の良い戦い方とは、そういうものだ』


おじいちゃんから戦闘の指南を受けるとき、まず最初におじいちゃんが言う言葉だ。何度も言い聞かされてきたから、翠沙お姉ちゃんも覚えてるだろう。だからまず…


「服を着よ?翠沙お姉ちゃん」

「呼び分けなくていいの?」

「翠沙お姉ちゃんは翠沙お姉ちゃんなんでしょ?なら私はいいよ、反応してさえくれれば。それはいいから、まず服を着よ」

「えぇ、楽で良いんだけどな」


道徳的に悪いと思われるものは黒江お姉ちゃんに分配されるのか、はたまた白江お姉ちゃんの深層心理に露出願望があるのか…難しいところ。

なにか考えた様子で一向に服を着る様子がない『月の使徒』に私はどんどん、そんな疑念が深まってしまった。


「どうしたの?相手がこっちに攻撃が通らないってわかって様子を見てる間に決着つけないとだけど」

「うん、それはわかってるんだけどね?デザインどうしようかなって」

「適当でいいじゃんそんなもん!」


どこか抜けてるところはそっくりそのままなようで安心したというかなんというか。


「『月の使徒』で初の専用武装なんだよ?凝りたいじゃん」

「それじゃ使徒ってことで司祭か神父っぽい服でよくない?」

「そこは修道服で…いいね!それ」


浮遊していた『月の使徒』の肩甲骨の間から大人の頭部大の、光の珠が8つ出てきた。それらが不規則に『月の使徒』の周りを飛び回り始めたと思うと、次々と『月の使徒』の服が出来上がっていく。結果出来上がったのは黒い布地で、黄色い刺繍の凝った神父服とも修道服ともとれるような衣服。それを纏った『月の使徒』の背中に8つの光珠が等速で円を描いて控えてるんだからそれはもう神々しい感じがするというもの。


「武器は?」

「これ自由に形とか変えられるんだよ」


と左手を光珠の軌道上に置いたときに一番近かった光珠が手のなかに入った。そして『月の使徒』がそれを握りしめた途端、一瞬で弓の形へと成った。

今度は右手を光珠の軌道上へと置いて、一番近かった光珠が右手に収まる。弓同様それを握りしめた途端にそれは矢となった。


「へえ、面白いねそれ」


と、等間隔で等速に動く光珠に触ってみるけど、スカッとすり抜けてしまった。


「えっ?」

「あーこれね。どうやら私にしか(さわ)れないみたいなんだよ。何もない状態ならただの概念みたいっぽくてね。でもほら、これ」


と光の矢を渡されると、問題なく(さわ)れた。


「概念を私が形にしてあげるとさ、(さわ)れるようになるっぽいんだよね。あとは…珠の状態から形にするのは私が()れないといけないっぽいけど、形にしたのから珠にするには、別にどれだけ離れてても大丈夫みたい。そして珠の状態だったら自由に引き寄せたり、好きなとこに出現させられる。ほら」


と矢をつがえて四聖獣の面々がいる方向に狙いを定めた『月の使徒』。そして背中の光珠が一つ消えたと思ったら、ちょうど四聖獣の面々と私達を直線で結んだ中点に光珠が出現した。それに狙いを定めた『月の使徒』は矢を放つ。矢は中点の光珠を穿ち、四聖獣の麒麟の眉間直前で光珠に戻り、静止したあと、中点の光珠と同時に消えた。そしてまた『月の使徒』の肩甲骨の間からポンポンと音が鳴るかというように、出てきた。もしかしたら産まれたという表現のほうが正しいかもしれない。


「それとこの光珠で作るものの大きさは、光珠の大きさに依存しないってのもあるのかな?例えば、この光珠で月も作れる。けど概念を形にするのに時間がかかりすぎるから実用的ではないね。光珠で月を作るには実際に月ができた時間が必要みたいだ。あとは…一度作った形は記憶させて一瞬で作れるようになる。記憶させて一瞬で作ったものを珠に戻してもう一度何かの形にしようとした場合、一瞬で作ったものを一から作るときの半分の時間、クールタイムみたいなのが必要。まぁ、使い勝手としてはこんなもんかな?」

「ふーん…聞いた感じだと便利そうだね。いいなぁ…私のときなんかそんな、『月の使徒』の固有能力っぽいのなんかなかったのに」

「ふふ、白江としては『複生』能力がそれだと思ってたっぽいけどね。それじゃとりあえず、実践で使ってみようか。その前に(ひと)芝居も挟んで」


と弓を槍に変えて握りしめる『月の使徒』。さらに背後の光珠三つを前方へと移動させ、『ゲート』を開いた。出口は四聖獣の面々の目の前。

『月の使徒』は『ゲート』で移動したその瞬間に、右手に持ってる槍を麒麟の心臓へと突き刺そうとする。


「――っ!?」

「重三っ!?」


深琴の悲鳴が上がる。しかし重三の胸を貫くはずの槍は、その直前で止められていた。『月の使徒』自身の、左手によって。


「ダメっ!!やめ、殺しちゃ、ダメ!!」

「翠沙、ちゃん…?」

「久和、くん…いきなりで悪い、ん…だけ、ど、どうか、私が完全に操られる前に…るーくんが守った世界を壊す前に、私を殺して…!!」


とんだ茶番だと思う。完全に操られる前にって言ってるけど、完全に操られた後に自分で食い破ってたじゃん。

と完全に気配を消して、景色に紛れて盗み聞きする。


「…どういうわけかわからないけど…とりあえずわかった。そんな苦しそうな顔をさせ続けてたら、瑠璃也に顔向けできないからな…」

「あ、あぁ…もう、ダメみたい――」

「翠沙、ちゃん…」

「――どうか…躊躇いなく、私を殺して……」


『月の使徒』の腰の辺りから漆黒の翼が三対、生えた。上の一対が羽ばたいて、中の一対が『月の使徒』の体を隠し、下の一対が攻撃を繰り出す。『月の使徒』が正気(?)だと知ってる私から見れば、どうも痛々しいというか、見てるこっちがむず痒くなってくる。

しかし相手もプロだ。『月の使徒』自身が言った躊躇いなく、という言葉がなくても、例え相手が最愛の人でも、彼らは敵を抹殺するだろう。もちろん、親友の幼馴染だとしても、友達だとしても。


「正面高壁!」


天王寺君の素早い判断と正確な指示で、初見だったら私でも殺されてそうな『月の使徒』の攻撃を防ぎきった防衛軍の面々。その攻撃とは、攻撃用の翼が振動して、硬化した羽を広範囲に飛ばしてくるというもの。威力はその一つ一つが翠沙お姉ちゃんが放つ矢と同じ威力だ。


「対象に過重能力発動!気流操作で……なに!?」


せっかく使った過重能力も『月の使徒』による無効化の能力で掻き消される。それに驚いた天王寺君は一瞬だけ、ほんとに一瞬だけ硬直してしまった。しかしその一瞬が命取りだ。


「消えっ――」

「ぐっ!?」

「源さん!?」


フッと姿を消して源武へと攻撃した『月の使徒』。しかしさすがプロ。急所に当たることを避け、左腕へと攻撃が逸れてしまった。守朔が源武への追撃を防いで、青龍が源武の傷を癒す…が。


「な、治らない!?」


『月の使徒』の能力は喰らうということに特化している。それはもちろん、主である『月』が捕食者だからだ。

『月』の捕食方法は地球へと突っ込んで一体化するか、月操獣を操り地上の文明をを食べやすい状態にした上で、その未来を吸収…喰らうというもの。そう、その未来を喰らうという能力が、源武の治癒を阻害しているのだ。

『月の使徒』からの攻撃で負った傷は治そうとするだけでは治らない。治癒能力によって解決するような方法では、『月の使徒』の能力によって治る未来を喰われてしまうからだ。治したいというのならば、体ごと再構成するくらいしかない。

そんなどうしようもない状態へと陥っていると知りもしない防衛軍の面々は、それでも数多くの経験から、ひしひしと肌で感じていた。自分たちが相対している相手がこれまでとは一線を画す能力を持っていることを。超能力は効かず、獣のように考えなしに突っ込んでくるわけでもなく、さらに戦闘技術までも持っていて、負った傷は治らない。最悪の敵。そう、共通の認識で相対す。


▲▽




激しい攻防は二時間にも及んだ。立っている者は減り、防衛軍側はそのほとんどが息絶えている。

その数少ない立っている者といえば、もちろん『月の使徒』を入れて、五人。流石と言うべきか、対個になれば無類の強さを誇る『麒麟』の久和。そして能力で言えば『地球の使徒』、瑠璃也に匹敵するほどの才覚を持つ天王寺。しかしもう二人は意外なことに、瑠璃也と翠沙の旅の同伴者である『地球の巫女』ラーマと、その兄アダムだった。


「こいつは…キチぃな」

「全力を尽くすしかないですよ」

「僕の支援も役にたってると良いんだけど」

「少し…限界が近いな」


脳が冴え切っていてもはや会話にすらなっていない。そんな彼らの状態は崖っぷちそのものだ。

『麒麟』の久和は、特殊な銃を速射し、特殊なリロードをしながらまた速射というスタイルだ。扱う銃の数は同時に四つ。速射した銃をマガジンのストッパーを外して宙へと投げて落ちてくる前にマガジンを投げてリロードし、落ちてきた銃を取って速射。これをお手玉のように繰り返す。久和という男は、意外とやっていることは繊細なのだ。だからこそ、もう指の感覚が無くなってきている現状の先はそう長くない。

天才である天王寺もまた同じだ。数々の妨害をして自分のフィールドに『月の使徒』を引き込んできた天王寺も、相手が悪かった。天王寺にとって『月の使徒』は張り巡らした数々の罠を突き破って、または無力化して突進してくる獣。空振りに終わった罠など三桁に届くだろう。万策尽きた。これ以上に当てはまる言葉はない。場所を代えて数々の罠と策を張っていたがいまは、先ほど倒れた仲間に頼んだ策によって、この地はまた、草木も生えないような荒野へと変わり果てた。だがそれでも、天王寺は策を巡らしている。雑巾のように絞りに絞った知恵をさらに絞って、それでも出なければ繊維一本一本をほどいて、知恵の一滴までも捻り出す。

『地球の巫女』であるラーマは支援に徹している。防御は兄であるアダムに任せっきりだ。そんな彼女のやることは地味だが、確実に貢献していた。喉の渇きを抑え、汗を渇き易くしベタつきと滑りを抑え、疲労を軽減し、光量を出来うる限り適切に保つ。自身の超能力を使ってるわけではないラーマには目だったピンチというものはなかったが、防御をアダムに依存しているためにアダムが崩れてしまえばおしまいだった。

そんなアダムはもう疲弊しきっている。いくら『月の使徒』の超能力との相性が良くて、『月の使徒』がアダムの防御を喰いきれないのだとしても、こうも戦闘時間が長引いては力量の差が物を言う。『白江翠沙』と過ごした時間で補っていたそれも、疲れが出て来てからはあまりアテにならなかった。

そして、とうとう。


「ぐっ…かは!!」

「――(にい)……」


アダムが攻撃を受け止め切れずに、その腹部に風穴を開けた。溢れる血飛沫はラーマの顔を汚し、地を濡らす。それを諦めた顔で見るラーマと、冷めた顔で見る『月の使徒』。重三は焦燥した顔でその光景を見届け、天王寺は戦況がより悪化したと苦々しげに見る。

けれど当のアダムは…


「ごめんな、ラーマ…体張って守ったこと、あいつらに誇っていいの…か、な――」


ラーマを背にして、笑っていた。笑って、逝った。

『月の使徒』がアダムを貫いた攻撃は本来ならば、ラーマを貫くはずだったものだ。その攻撃をアダムがかばう形で受けたのだった。アダムを貫いた攻撃…その槍は、アダムのおかげでラーマの腕をかすり、ラーマが描いた魔法陣のような紋章に突き刺さっている。

ドスリ、と鈍い音がした。少しだけ土埃が舞った。そのせいか否か、ラーマの瞳から涙がこぼれ出た。


「あ、はは……。…どうして…ねえ、答えてよ、翠沙……なんで僕達が!!こんな風に戦わなくちゃならないのさ!!」

「……」

「一緒に過ごした仲だろう…なんで…」


槍を握りしめた『月の使徒』が無防備に慟哭するラーマに、その獲物を構える。ラーマは構わず、涙を流して、祈るだけ。どうして。どうして、と。どうして…


「なんで…瑠璃也」


その言葉を紡いだ瞬間、『月の使徒』の槍が突き刺さった紋章が眩く輝き出した。


「――っ!?」

「な、なにっ?」


『月の使徒』が反射的に両腕で目を庇って後ろへと大きく飛ぶ。条件発動の地雷だと判断したためだった。

しかし当のラーマも何がどうなってるのかわかっていない。彼女がその場を動かないのは、腰が抜けて動けないというのが正しい表現だ。ラーマを救助にきた久和と天王寺も自爆かと諦めた程だった。

大きく後ろに飛んだ『月の使徒』。視界を遮っていても地面がどこかを見失うほど柔な鍛練をしていないが、光量からして大規模な爆発だと判断して、着地を考えない全力の後ろ飛びだった。だから足で着地ではなく、一度右手で体勢を調整して側転するように着地する予定だった。

目を閉じていても、ラーマが描いた紋章から溢れたエネルギーが膨大なものだと感じ取れる。しかもそれはものすごい勢いで拡散していっていると感じられる。

着地を考えずに大きく後ろに飛んで良かったと思うと同時にこれは間に合わないと悟った。せめて損傷を受ける面積を減らそうと、体を地面と平行にして背中で着地する体勢になる。そして、間に合わずとも被害を軽減しようと、羽で体を包もうとする。最悪足はどうなってもいいとさえ思っていた。

――けれど。予期しない事態が起きた。


「え?」


拡散するエネルギーが全身を包むのを認識した瞬間に足からの衝撃に備えた。しかし実際に衝撃を感じたのは足ではなく肩。そんな、地面の位置を間違うわけも、そして自分がいまどのような体勢かを把握できていないわけもない。そう考えた『月の使徒』はふと、違和感に気づく。

壁にぶつかったのならまず頭頂部に衝撃が来るはずだ。なにせ、地面と平行だったはずなのだから。そして衝撃は一方向からではなかった。下から…そう、掬い上げる感じの力の加わり方だ。それはまるで…なにか繊細で大事なものが勢いよく飛んできたときにするような…そう、受け止め方だ。ぶつかるのとはわけが違う。受け止められた。

しかも、しかもこれは。この感触は…!!


「こりゃまた可愛らしい砲弾を受け止めちまった」

「な、なんで…どうして!?」


腕を下ろして目を開けるとそこには地球に溶けたはずの瑠璃也の笑顔があった。

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