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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
ワルツ
98/131

円舞曲

さてさて、さてさてさてさて。終活なわけだけど、まず何を第一目標とするか。


とりまにちも通りにエンディーすってきな?

それ何語?

とりあえずまぁいつも通りに終わらす的な?ってことでしょ?でもせっかくなら本来の『月の使徒』のスペックも見ておきたいよね

けど相手は?瑠璃也お兄ちゃんは居ないよ?

いるじゃん、瑠璃也お兄ちゃん以外にも

ああ、それじゃそれとなく言っておこうか


察した私、緋音3号は、隣で体の調子を確認する『月の使徒』に、美味しい情報を渡してみる。


「お月様お月様、今代の『フィーダー』なんですがね?大分進化を遂げたようで、ちょっとつまみ食いしてもそれはもう極上の味が保証されていることでしょう。どうです、案内しますよ」


ちなみに『フィーダー』というのは星言語。その惑星を仕切る、生態系ピラミッドの頂点の頂点に位置する生命体のことを言う。今代で言えば、人間だ。


「ほう?よかろう。案内せよ」


というわけで来ました地球防衛軍本部付きの第三拠点。最初っからメインを強襲しては旨味も半減しようと説得した形だ。


「敵襲敵襲!少数の『M』が侵入中!」

「敵の数は!?」

「8人だ!たった8人に、100人が殺られている!」


わかるわかる。手に取るようにわかる。相手はかなり自信を持っているのだろうこの通信にかかる暗号も、私にかかってみれば幼児が積み木で作った家のように脆い。だてに何億年諜報活動をしていないのだ。

しばらく暴れること数日。とうとうお月様が飽きて来ちゃったころに目的の者たちがやってきた。


「ああ、なるほど。あれはたしかに…旨そうだな」

「でしょう?」


やってきたのは四聖獣部隊正当後継者の面々。それに加え、今はなき各国の最高戦力達のなかで、『黒』の襲撃から逃れたもの達だ。

廃れた荒野で私達は相対する。先に攻撃を仕掛けたのはやっぱり…相手のほうだ。

銃弾が的確に脳髄を貫く。続いて四肢の付け根に三発ずつ、撃ち込まれる。この正確な速射はさすが、麒麟の久和だと言えるだろう。しかし私は『複生』という能力と同時に、『復元』という能力も持っている。個を殺すためだけに作られた兵器の数々は私には効かない。そして隣を見れば…


「ほん…これが今代の文明の味か。辛味が効いてて旨いな」


まるで氷が昇華するように、銃弾が消えていっていた。『月の使徒』は一糸纏わない姿で、優雅に浮遊しているだけ。

次は加重能力者の中で世界最高の力をもつ者が私達に圧をかけてくる。これには『月の使徒』も驚いたのか、少し固まっていた。そして、お腹を抱えて大笑い。


「はっはっは!はひ、ひはははははは!!なんだなんだ、今代の『フィーダー』は珍妙な術を持っているではないか!!先代の『フィーダー』とは比べ物にもならんな!!」


瞬間、増していた重力が消え失せた。翠沙お姉ちゃんの力を使ったのだろう。しかし相手は加重能力者一人ではない。星をも殺せる、人類でも異端な存在、あの『星柳』がいる。

頭上を見れば、空一面を埋め尽くすほどの隕石が。これを見た『月の使徒』はさらに笑みを深め、目を見開かせていた。


「さいっこう…最っっっ高だよ人類!!まさかこれほどまでに旨くなるとは…腹を空かせて待った甲斐があったってもんだ!!」


しゃくり。そう擬音が聞こえるような感じで、『月の使徒』は咀嚼した。そして…信じられないことに、この星の外部から来たはずの隕石達は、一切合切が消え失せた。


あれ、どう思う?

呼び寄せたのは深琴ちゃんの能力でしょ?地球由来の能力で呼び寄せたから食べれたんじゃない?

なるほど


次は氷結能力者の頂点。ブリザードの異名を持つ者の攻撃。私達は一瞬で凍らされ、機能を停止する。しかし次の瞬間には全て無かったことになっていた。

続いて超高密度の砲弾が私の下半身を吹き飛ばした。集束、硬化の能力に秀でた四聖獣の源武か。だけど私には効かない。もちろん、『月の使徒』は苦いなとか言いながら食べている。

千の武器で体を切り裂かれて撃ち抜かれて絞められて殴られても私には効かない。もちろん、『月の使徒』にも。

現存するあらゆる毒の先、魂に効くというような毒も私には効かない。

光を収束して撃って来ても私には効かない。私の『復元』は光の速さよりも早い。もちろん『月の使徒』には届いてさえない。

振動系能力者の頂点、地震すら発生させる能力も私には効かない。特殊な体の動きでずっと立ったままでいれる。もちろん浮遊してる『月の使徒』には地面が揺れてるという認識さえない。空気を揺らして音響弾にしても、案の定だ。

雷を打ち込んできても私達には効かない。水分を奪ってきても私達には効かない。爆発させられても私達には効かない。光を奪われても私達には効かない。魂を直接攻撃されても私には効かない。魅了されても私達には効かない。大地に埋められても私達には効かない。大地を陥没させても私達には効かない。空気を奪われても私達には効かない。太陽並みの温度を叩きつけられても私達には――


「飽きた」


『月の使徒』がそう、ぽつりと呟いた。それはそうだろう。開けられる箱が全てビックリ箱だと分かっていたら驚くもなにもないのと同じで、こう短時間に変化させ続けられれば変化に飽きがくる。


「それにしても貴様も…珍妙な術を持っているな?」

「お月様の信者なもので」

「そうか」


そうか。それで終わり。もともと意味もない質問だったのだろう。私としても詮索しないでくれて好都合だ。


「そろそろ一思いに食うか」

「そうですね」


私の方も、『月の使徒』の性能を測れるだけ測れたので満足だ。これ以上の引き延ばしは完全に無駄。

しかし、ここで不測の事態が起きた。


「がぎっ!?…がっ!」

「えっ、えっ??」


急に『月の使徒』が苦しみだした。意味がわからなかった。ここまでなにか、『月の使徒』を苦しませるようなことは…まさか!!?


「あ、あ…緋音、ちゃん…?」

「なっ!まさか、翠沙お姉ちゃん!?」


信じられない。あの人格は完全に『月』のものだったはず。そこから自我を取り戻すなんて…


「わた、私…世界、守るって、救うって決めたのに…頭、私がどうにかなっちゃって、わた…が、世界、壊したく…ない…世界…壊したくない!!」

「でも、私にどうしろって!」

「混ざって、雑ざって…あァ…やっト、トり返せタ」


雰囲気が先ほどまでの『月』のものと、そして今までの『翠沙お姉ちゃん』とは全く別のものへと変わった。私はなにがなんだかさっぱりわかんなくて、どうすればいいのかわかんなくて。そこで思い出した。

流れに乗れ

そうだ。流れに身を任せて、かつ流れを作って。まずは様子見だ。


「おはよう、『月の使徒』」

「ン?あァ、緋音ちャン…ん"ん"…あーあー、ん"ん"………月より団子……目を見て顔見ず…緋音ちゃん。どうやって声出してんだ『白江翠沙』」


これは…どっちだ?『月』か、『翠沙お姉ちゃん』か。なんだ、この世界。新しいことが起きすぎてる。


「緋音ちゃん、安心して」

「それは…どういう?」


最悪の場合…竜也おじいちゃんに『月の使徒』を殺してもらうしかないかもしれない。うまく誘導しないといけないけど…

と、そんな私の不安はいい方向に外れた。


「私は『翠沙』。『白江翠沙』じゃない『翠沙』。『月の使徒』を媒介して私を支配してた『月』を食って表面化した、『白江翠沙』の双子とも言うべき存在だよ。…双子というより分身?あの子の負の感情のやり場が私だから、人格の1つってことで。じゃないと心を守れなかったんだね、負い目があるからさ」

「ということは翠沙お姉ちゃんであって翠沙お姉ちゃんじゃないってこと?」

「そ。流石の月でも何十億年と積み重ねた負の感情は食べ切れなかったっぽくてね。『白江翠沙』の人格も生きてはいるよ。表面化することはないとおもうけど」

「で…その…翠沙、さん?は…」

「呼びづらいよね…それじゃ暫定的に黒江で…いひひ、なんかるーくんと一体化したような感じだ」


うっわぁ…うわぁ……もう何がとは言わないけど全体的にキモい感じが……なるほどね。『白江翠沙』が溜めてきた負の全てが『黒江翠沙』にいっているとしたら、瑠璃也お兄ちゃんとのあれこれや欲求が曲がりに曲がってるわけだ。ここら辺が幼なじみである翠沙お姉ちゃんと妹である私の違いかな…?


「それで、黒江さんは」

「黒江でいいよ。むしろそう呼んで?人格は違くてもさ、もともとは翠沙だったんだから、私にとっても緋音ちゃんは『白江』と変わらず緋音ちゃんだよ」

「そっか、それじゃ黒江…お姉ちゃん。黒江お姉ちゃんは、これからどうするの?」

「とりあえずあの人達と遊びたいかな。肉体の主導権を握るのは初めてでさ。ふへへ、結構楽しみなんだ。まぁ、いまの私は『黒江』と『月』が混ざってる状態でさ、存在っていうか人格が気持ち悪いことになってるんだよね。だから早めに終わらせるかな、るーくんとはもう会えないし」


気持ち悪い言動はなるほど、そういうことか。……そういうことか?私には元来の性質としてそうなってるんだとしか思えないんだけど。

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