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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
ワルツ
97/131

円舞曲

○◎●


「あっ、い"!!」


懐かしい感覚に苛まれる。『黒』ができてからは感じる必要の無くなった感覚。それがいま、もう一度私の全身を蝕んでいた。


「翠沙お姉ちゃん!?」

「あ…はは…懐かしいな、この痛み。全身の細胞という細胞が、引き裂かれる感じ…」

「それじゃ、やっぱり」

「うん…どうやら、『月の使徒』がこっちに流れてきてるみたい…懐かしすぎて愛しく感じるよ……そんなわけ、ないけど!!」


自分という存在を貶められてく感覚。どんどん自分が無くなって…

どこかで、ビキと何かが壊れる音がした。


「あ、これやばいかも」

「そりゃいままでずーっと使ってなかった器にものっそい大きなものをねじ込もうとしたら壊れるっしょ」

「そんな…軽いノリで」

「まぁ、どうせ繰り返すことは決まってたんだし、無理に抵抗しないで。そっちのほうが危ない」

「それも、そう、だね」


何かが壊れる感覚は今も続いていて、世界を救うという覚悟が揺らぎそうになる。

私という存在が割れていく。私という存在を構成する原子全てが夜空に瞬く星屑のように散りばめられていくよう。

そしてとうとう、それが響いてきた。


『これは…これはこれは。極上の器よ。先ほどまでの出来損ないとは比べ物にもならん。最高に気分がいい』


懐かしいな、くそったれ。忌々しい月め、二度と意思疎通をしたくなかった。


「こっちは最悪の気分だよクソ野郎」

「…やっぱり、翠沙お姉ちゃんじゃないと『月の使徒』の権限は十分に引き出せないみたいだね。私のときは月の声なんか聞こえなかった」


『では、その器。貰い受ける』


体が自分の意思に反して動き出す。完全に主導権を握られた。


「ほう、大分鍛えていたようだな」


そして、私という存在を構成していた核が月の重みにすりつぶされた――――


●◎○


△▼


「こんばんは、お月様」


どうやら翠沙お姉ちゃんは消えてしまったようだ。まぁ、繰り返せば人格は戻ってくるってことはわかってるんだし、焦る必要はない。

さて、と私は考える。この世界の落とし所を。

『月の使徒』の移譲の仕方は分かった。けれどこの方法は得策ではないということも同時に分かった。なにせ、瑠璃也お兄ちゃんを地球に溶け込ませないといけない。よって、一番の得策はといえば『黒』を翠沙お姉ちゃんが『月の使徒』を得る前に全滅させてること。…いや、『黒』を繰り返す前に全滅させてることか。ウイルスによって『器』がもう一つあることに気付かれれば、せっかく『月の使徒』を移譲したのに私も一緒に『月の使徒』になってしまうと予想できる。『月の使徒』が翠沙お姉ちゃんに移った後だったら月も特別『月の使徒』を増やすために器になる存在を探しはしないだろう。

考えれば、もうこの世界で知りたいこと、やっておかなければならないことはもう無いように思える。この世界で新しく知ったことをまとめてみよう。

『月の使徒』の譲渡方法とそれに伴う副作用。

瑠璃也お兄ちゃんと天王寺空を会わせると、天王寺空が才能を開花させて瑠璃也お兄ちゃんの代わりになれる。

天王寺空が瑠璃也お兄ちゃんの代わりに軍の指揮官になれば、瑠璃也お兄ちゃんがいるときと同等の戦力アップとなる。実際、今回の計画に半年かそれ以上の遅れが出てた。

天王寺空と瑠璃也お兄ちゃんが出会ったことで瑠璃也お兄ちゃんは世界を旅できるほどの余裕ができて、アダムさんとラーマさんに出会うことになった。『地球の巫女』は瑠璃也お兄ちゃんが地球との繋がりが一切なくても、地球の意思を汲み取れる重要な存在だ。…まぁ、どこで使えるかはわからないけど。

瑠璃也お兄ちゃんは地球に溶け込むことができる。ただ戻れるかどうかは不明。

主だったものは以上。停滞してた近頃ではなかなかの収穫だと思う。だからこそ、この世界の一番良い終わらせ方を考えないといけない。

さて、どのように終活しようかと考える。

瑠璃也お兄ちゃんが地球と一体化している以上、次の世界ではかなりの確率と割合で地球に侵食されてるだろう。なら時間を無駄遣いしないためにも、記憶を引き継がれる可能が高いこの世界は良い感じで終わらせないと駄目だ。

条件は、瑠璃也お兄ちゃんが怒らない、悲しまない終わり。

しかしよくよく考えてみると、この世界、どうやって終わらすのかが疑問だ。再編のトリガーを引くはずの瑠璃也お兄ちゃんはすでに地球と一体化。トリガーとなるのは、一つは瑠璃也お兄ちゃんの完死。これは瑠璃也お兄ちゃんが地球と一体化したことによって達成できない。二つ目は翠沙お姉ちゃんの死を瑠璃也お兄ちゃんが確認すること。これも瑠璃也お兄ちゃんが確認できる状況にない。…ということは……。

これは…後腐れなしの終わり方はできないな。手駒は、今はもう『月の使徒』が私の手元にないためこの身十五つのみ。もういっそ、竜也おじいちゃんに地球を穿ってもらったほうが手っ取り早いかもしれない。…ん、思いつきだったけど、その方が後腐れなく、さらに時間も無駄にならなくて、さらにさらに労力も必要ない。万々歳の終わらせ方だ。けど地球を壊したら世界が繰り返されるかどうかなんてやったことないし…


ていあーん!終活だけど、手っ取り早くおじいちゃんに地球壊してもらったほうがよくない?

んー、おじいちゃんは乗り気になると思うけど、地球と一体化したお兄ちゃんにどんな影響あるかわかんないし…

そもそも繰り返されるかどうかわかんないしね

新しいことはどんどん試してみないと

でももし繰り返さなかったら?そこで終わりよ?

その時はその時よ。三つめの条件と似通った感じはあるから繰り返さない確率は低いはず

以上を踏まえて反対意見は?

はーい!リスクに対してメリットが少ないと思います!もう何年かともしかしたら次の世界にかかる無駄な時間を節約したいのはわかるけど、それだけのために次の世界が繰り返すか繰り返さないかで賭けるのは釣り合わないと思うね

なるほど。これに対して反対意見は?

それじゃ私から。地球を壊したら繰り返されるのか?っていうのがわかる。これも一つのメリットだよね。もともとこの世界は新しいことが沢山起きてて、瑠璃也お兄ちゃんが地球と一体化したのがまずイレギュラーなわけじゃん?地球イコール瑠璃也お兄ちゃんだとするなら、地球を完全破壊することは瑠璃也お兄ちゃんを完死させることと同義なんじゃない?繰り返す三つめの条件に似通ってるわけだし

ふーむ…革新か、保守か。難しいね。一回おじいちゃんに話してみよっか?

さんせーい!


というわけで南極大陸に潜んでる私の一人が竜也おじいちゃんに意見を聞きに。話を聞いたおじいちゃんはものすごく嬉しそうな顔でいろいろ考え込んでいた。けれど返事は予想とは全く別のものだった。


「ふむ…試してみたい気持ちはあるのだがな。いかんせん、できそうにない」

「えっ、おじいちゃんが?あの、おじいちゃんが!!?」

「どの爺か知らんが、儂にはできんだろうな。緋音、気づいておらんか?この大地がもはや地球ではないということに」

「えっ?」


言われて初めて、意識した。たしかに、似てる。けど似てるだけだ。そりゃもう、何億回も踏んだ大地。靴越しからでもわかる。これは…


「月?」

「そうだ。ここは既に月の大地。南極大陸はもはや、月の大地へとすり代わっているのだ。その上、似ているからこそ南極大陸と同列に認識される。この月の大地でも儂は外に出られん」

「でもここを壊せば…?」

「ここを壊してもどこにも影響がないのは確認済みだ。それに、すぐに再生するのだ。儂との戦闘で、これほど荒れていないのはおかしいだろう?」


たしかに。でも月の大地なら月の大地で、空に浮かんでるアレにダイレクトアタックできるってことだけど…


「…まぁ、1度楽しくなってきてな。つい本気でこの地を消滅させてしまったのだが、すぐに復元した」

「そんな早いの?」

「うむ。どうやらこの地は月の並列存在のようなのだ。緋音、お前の『複生』のようにな」

「でも、なんで急に?」


月にそんな能力があったことなどなかった。せいぜい地球に突っ込んできて捕食するか、地球のどっかに門を開いて月操獣を送り込むくらいのことしかできなかったはず。


「もう翠沙に『月の使徒』は渡ったのだろう?ならそれが条件だな」

「そっか、『月の使徒』の本来の持ち主だもんね…でも残念。せっかく思い付いたのに、おじいちゃんができないなんて」

「衛星や惑星の1つや2つ壊して整形するなど雑作もないことだがな。壊した先から元通りでは、時間と労力の無駄だ。やったところで意味がないならやることに意味はないだろう」

「そっか…それじゃやっぱり、いつも通りが一番ってことか」

「そうだな。だが、それが正解だと思うぞ。これは儂の勘だが、流れに逆らうよりも流れにのった方がよい方向に転がる」

「お、久しぶりのおじいちゃんの勘。それなら、そうだね。十数年くらいいまさらだもんね。ありがとうおじいちゃん、相談、のってくれて」

「うむ。ご苦労だった、緋音」

「―っ!!」


久しぶりに、おじいちゃんに労われた。それだけでどれほど救われるか、わかっているのだろうか、私のおじいちゃんは。不意に見せる優しさの反則的な魅力を、おじいちゃんは知ってるのだろうか。


「ま、まぁ?寄る年波には抗えないっていうか?人間時の流れには逆らえないっていうか?だから何もしないよりはしたほうが良いってね?」

「…緋音。儂はそのような生き方の難しさをよく知っている。少しばかり気恥ずかしいが 、もう一度言うぞ。ご苦労だったな、緋音」

「えへへ…そんな、改まって言われると照れるねなんか。頑張ったご褒美とか、無いの?」

「ふむ…褒美か。大したもんでもないが、世界とかどうだ?」

「お、おじいちゃんがそれ言うと冗談じゃなくなるよ!?」


だてに激動の時代の黒藤財閥を支えてきた人じゃないのがおじいちゃん。世界を手にいれようとしたらそれこそ、十年も経たずに手に入れちゃって片手間に私に渡してくるだろう。


「まぁ 、ケリがついた後でな。期待して待っておれ」

「うん、期待してる」


ふふふ、終わらせないといけない理由が増えちゃったな。ちょっと気張って、でも緩やかに。流れに身を任せて、でも流れを作って。そんな風に世界を変えていこう。

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