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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
ワルツ
96/131

円舞曲

「どうしたんだい!?そんな、目を腫らして」


外で待っていたラーマとアダムが翠沙に駆け寄った。すぐに、隣にいない瑠璃也の存在に気付き、怪訝な表情をした。


「…瑠璃也は?」

「……ラーマとアダムに、伝言。ここまでありがとう、って」

「――っ!?そんな、それじゃ瑠璃也は!!」

「…消えた、のか」


寂しさと怒りで二人の顔が満たされる。しかしそんな二人の瞳が一点、翠沙の顔へと集中した。不思議に思った翠沙は一瞬、迷ったが、結局聞くことにした。


「どうしたの?」

「まさか、翠沙。気づいてないのかい?…あ、はは…あははは!そうか、そうか!!瑠璃也、君って奴は…ほんと、どうして……」

「え、え?どうしたの、急に笑ったと思ったら、急に泣いて。私の顔になにかあるの?」

「泉に映ると思うから、見てみるといいよ」


そう言われ、翠沙は水面(みなも)に顔を映す。その顔には…自身の額には、いやに達筆な字で『乙』と。そう、書いてあった。


△▼


「え、ちょ、これ、なにっ!!?」


拠点にしていた地下施設の壁という壁から、黒い何かが迫って私達を呑み込んでいっている。呑み込まれた私達からの情報は途絶え、その黒い何かの先は完全なブラックボックスだということが伺える。

その先に何が待っているのか、完全にわからないのだ。恐怖もしよう。しかし、最大の恐怖と言えば、それが自然現象ではなく、確実に私達を狙って追ってきていることだった。


「まって、助けっ――」


そしてとうとう、二世代最後の一人が黒い何かに包まれて消えた。残る私達は一世代のみ。しかしその黒いのは私を呑み込む寸前で、動きを止めた。


「ほんと、なにこれ…」


この世界では『M』と呼ばれてるんだったか、ウイルスに侵された人々を見れば一人も消えていない。つまりこれは、私達『緋音』、しかもウイルスを持った二世代以降の、『黒』を狙ったものだと言える。ウイルスを持たない一世代の『緋音』を一人も呑み込んでいないことから、これは確実だ。

目的がわからない。正体もわからない。裏で何かが手を引いているのかどうかさえわからない。


触ってみる?

吸い込まれたらどうするの?

でもこれがなにか確かめてみないことにはどうしようもなくない?

それはそうだけど…

でも、吸い込まれた私達からの情報がこないだけじゃなくって同期も切れてるって考えたら、中に入ったら死ぬかそれに近い状態になるのは必至じゃ?

なんか…ブラックホールを液体にして吸引力無くした感じっぽいね

とりあえず二世代をもう一度増やしてみよう

さんせーい!自分を犠牲にするってのも不思議な感覚だけどねー


そして、緋音が『複生』される。生まれるのは完全に『緋音』と同一人物のもの。多少寿命が減っていたりするが、それも『復元』で補えば問題ない。

しかし、二世代を作ったその瞬間に再び黒い何かが動き出した。


あっやばっ、巻き込まれる!

やばいよ逃げて!ちょー逃げて!!

あ、これ終わったかもしれない…じゃあね皆…お元気で………って、あれ?


瞑った目を開けてみると、消えているのは先ほど生んだ二世代のみ。黒い何かは『黒』を包み込むようにして呑み込んでいく性質上、隣にいた私は完全に巻き込まれるはずだったが、目をあければその黒い何かはすれすれのところを通りすぎてる。


あれっ、やっぱ生きてた!

はたから見た感じすり抜けてたよ

私達一世代には害がないってこと?

何か目的があって二世代を呑み込んでるって考えたほうがいいのかな

おじいちゃんも知らないって言ってるんでしょ?

うん。でもなんか大方予想はついてる感じはしてたよ。翠沙お姉ちゃんはなにか知ってるのかな?

翠沙お姉ちゃんとの連絡は?

取れないんだよね。どこに居るのかさえわかってない


「ここに居るよ」

「ん?あ、翠沙お姉ちゃん!ちょうど良いところに!」


タイミングを狙ってたかのように翠沙お姉ちゃんが来た。そして翠沙お姉ちゃん、この黒い何かを見て悲しげな顔をしている。何か知っているはず。


「早速だけど、翠沙お姉ちゃん。この黒いの、何?私達『緋音』には危害を加えないっぽいけど」

「…加える筈がない。加えられるはずがないよ…だってそれ、るーくんだもん」

「えぇ!?これが、瑠璃也お兄ちゃんって、そんな!!それって…るーくんっていう現象じゃなくて、黒藤瑠璃也だってことでしょ!?」

「うん、もちろん、そう」


まさか…けど、思えば呑み込まれたというよりも包み込まれたと言った方が良いような気はしていた。でも、なんで瑠璃也お兄ちゃんが?


「なんで瑠璃也お兄ちゃんがこんな姿に…それになんで『黒』を吸い込んでるの?」

「目的と過程が違うんだよ。『黒』を吸い込むのが目的じゃなくて、『黒』を無くすことが過程」

「えっ、それでも理由がわからないよ?」

「るーくんが黒竜化したあとのことから説明するよ」


翠沙お姉ちゃんから話を聞いた。遠目から見ていたし毎度のことだから瑠璃也お兄ちゃんが敵に回ったことで人類が初めて協力できたことは知ってる。だけど、問題はその後。まさか瑠璃也お兄ちゃんが地球に混ざるように溶け合って、地球と一体化したなんて。それで地球の龍脈を巡って、地球全体に広がるように瑠璃也お兄ちゃんはいる。なるほど、だから全世界に広がった一万の『黒』を呑み込む…包み込むことができたのか、と。

それで、重要なのはなぜそんなことをしているのかというところ。なぜ、瑠璃也お兄ちゃんは地球に溶け込んでまで『黒』を包み込んで無くしているのか。

それは、聞けばなるほど、自分の命を差し出してでもやるべきことなのかもしれない。現在進行している計画は本来なら翠沙お姉ちゃんがやらないといけないものだ。だから私が肩代わりしてる今の状況というのは異常だと言える。もしかしたらこのままだと、私達が望む未来には絶対に行けないのかもしれない。なにせ、もう億を越えるほど世界を繰り返してさえ、現状は変わっていないのだ。しかしその異常を正して本来の役割に戻るのであれば話は単純になる。

つまり瑠璃也お兄ちゃんは『黒』を消滅させることで私から『月の使徒』を引き剥がし、翠沙お姉ちゃんへと還元しようとしているのだと、翠沙お姉ちゃんは言った。

『黒』は私達『緋音』の二世代。『複生』による劣化でウイルスに侵食されるようになった『緋音』だ。ウイルスは宿主(『M』)の血を侵して月の思念を宿主(『M』)に植えつける。ウイルスは月の思念の受信機なのだ。それに横入りするのが『月の使徒』。上下関係でいえば、月、『月の使徒』、ウイルス、月操獣、『M』の順。だけれど、月は『月の使徒』の采配に任せているため、基本的に『M』と月操獣の支配権は『月の使徒』のほうが高い。まぁ、その『月の使徒』を操っているのが月なのだから結局は月のほうが高くなるわけだけれど。

というわけで、『月の使徒』とウイルスは繋がりがある。ここで思い出すと、私は月にあった石柱に血液を渡して繋がりを作ったことで、翠沙お姉ちゃんに流れるはずの『月の使徒』という『権限』を横からかっさらう感じで引き受けてる。しかし、世界を繰り返した後だから月の石柱には私が直接血を垂らした痕跡はもうない。けれどその石柱の役割はウイルスが担っていたわけだ。だからウイルスに侵された『緋音』である『黒』を居なくならせれば月と『緋音』との繋がりが消えて、『月の使徒』を本来の持ち主である翠沙お姉ちゃんに還せるというわけだった。


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