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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
ワルツ
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円舞曲

家に帰った瑠璃也は早速重三と遠士郎に連絡して、天王寺という人物を紹介した。年上ばかりの面々に萎縮するわけでもない天王寺を重三はいたく気に入り、また遠士郎は天王寺のことを知っているようだった。まぁ当然といえば当然だろう。天王寺ほどの逸材を菱方グループは飼い殺していたために黒藤財閥は把握していなかったわけだが、さすがに霧夜が把握していないとは思っていなかった。

そんな顔合わせが終わったあとすぐにゲームの話になった。そこで天王寺がやってみたいと言い出したのは新作ゲームの、ライドトゥザムーンオンライン。通称RTTMOだ。これには重三が大賛成。早速ゲームをダウンロードし、四人でプレイした。

そこからしばらくして瑠璃也は葵木と知り合ったのである。




三ヶ月と少しが経ち、夏休みが始まった。順調に交流を深めた天王寺は今や毎日と言っても良いほど瑠璃也達と遊んでいる。もちろん勉学にも抜かりはない。超能力に至っては瑠璃也達と遊んでいれば自然と発達していくほどだった。

そんな瑠璃也達は今、黒藤家が所有する無人島の一つに来ている。メンバーは瑠璃也、重三、遠士郎、空少年、翠沙、緋音をはじめ冬迦と栗栖も来ていた。女性陣は平和に海水浴やビーチバレー等をして楽しんでいる。だが対して男性陣は…


「全員準備はいいか?」

「大丈夫だ。正直言ってこの勝負俺の圧勝だぜ?」

「サバゲーが重三くんの独壇場ではないということを教えて差し上げます」

「僕も準備オッケーです」

「そんじゃ…始め!」


密林でサバイバルゲームをしていた。弾は合成木製弾。ゴム弾よりも威力が格段に落ちた非殺傷性の弾で、対象を無力化するという目的に使われるものでもない。弾が体にあたると服が自動的に当たったところの色を変える。ただそれだけの目的で作られたサバゲー用の球形の弾だ。

サバイバルゲームをすることになったきっかけはふとしたことだった。天王寺がサバイバルゲームとはと聞いてきたのだった。重三は簡単に自分の体を使って行うFPSゲームのようなものと答えたが、天王寺がこれに興味津々。そこで重三がもしサバゲーするなら俺の圧勝だと言ったがために、いまここでサバゲーをやることになったのである。いや、それは違うと。瑠璃也や遠士郎はともかく、天王寺までもがやるまでは分からないと負けず嫌いを披露した。

物音もたてずに遠士郎は木と木を飛び移る。とりあえずの目標は重三だが、瑠璃也か天王寺を見つければ遠慮なく撃つつもりであった。ここは得意のフィールド、密林。いくら相性の悪い重三、しかも得意武器を与えられているからと、得意フィールドでなければそれを存分に活かせないのだ。

と、次の木に飛び移った瞬間、正面からグレネードが飛んできた。そのグレネードは周囲に弾を噴射、撒き散らす効果があり、避けづらい。

そんなグレネードが気配なく飛んできたために一瞬反応が遅たが、桐谷は難なくグレネードを距離を稼ぐため弾いて自身も大きく後退する…が、待避した先にはばら蒔かれたように同じグレネードが。罠かと気づいた時には遅く、桐谷は地上へと降りるが、それを狙ったように桐谷は何者かに遠距離から撃たれ敗退した。


重三はなるべく木が密集していない場所を選んでその場にじっと待機していた。目を閉じて音に集中、気配を探っているのである。瑠璃也は遠士郎と相性が悪いが、重三は瑠璃也に対して相性が悪い。だから警戒すべきは瑠璃也なのだが、この密林では遠士郎も侮れない。先ほど大規模な音が遠くのほうでしたが、規模から言っておそらく天王寺と瑠璃也がやりあったものだろう。遠士郎が出す音じゃない。

その重三の考えは外れていた。実際には桐谷は何者かの巧妙な罠にかかりなす術なく敗退したのだった。

近づく音が聞こえた。音からして瑠璃也だろうが…銃撃戦では瑠璃也にも負けない自信がある。ゲームで何度かやりあったことはあるが実際にこうして体を動かしての正面対決はいままでない。さあ、どんな手を使ってくるのか。

構えていた重三は木に絡み付く(つる)を利用したパチンコでグレネードが自分の方へと飛んで来るのを察知した。重三はそれが起爆する前にサッカーのリフティングの要領で高く飛ばした。そして続くグレネードを次々と打ち落としていく。ちなみにこの戦い、超能力の使用は禁止なためグレネードを飛ばすのは物理でないといけない。重三の超能力はといえば弾を作る力と、あとは一日一分くらいしか使えないある力だけだ。だからこそ重三にとっては有利な条件となり、瑠璃也からすれば不利な条件なはずだがなにか、じわじわと追い詰められているようで気味が悪い。

重三は移動することを決めた。それが相手の術中に嵌まっているとも知らずに。まぁ実際、留まり続けていても負けは必至だったが。

獣道をものともせずに重三は走る。そんな重三に対し相手は並走しているのか、度々横からグレネード弾が飛んで来ていたが、気配がしないのも気味が悪かった。もしかしたら相手を瑠璃也だと勘違いしていて、実は遠士郎だったり。

そう考えて重三は二、三発弾を撃ってみた。しかし当たった様子はない。そこで重三は気づいた。おかしい、と。こうも追ってきているのなら遠士郎でもさすがに気配を悟らせないことなど出来ないし、気づかれているのにここまで気配を消している必要はない。もしや、もとから気配など存在しないのではないか、と。しかし重三はそこで前方にうっすらと見える足をひっかけるために故意的に調整されたのであろう蔓を見た。見てしまった。

罠だと思った。先に気づけてよかったとも。重三は一秒にも満たない時間で考える。ここまで相手の手のひらの上だ。ならば意表をつくとしたら…ここはあえて、突っ込むしかない!

そう考えて重三が突っ込んだ先には四方八方をグレネードでかためられた場所だった。そうして重三も桐谷と同じく罠にかかり、敗退したのだった。




「やっときたか。最後に残るのは重三でも遠士郎でもなく、お前だと思ってたぞ、天王寺」

「ひどいですよ、僕ばっか働かせて」


そう、遠士郎と重三を敗退させたのは瑠璃也ではなく天王寺空少年だった。瑠璃也はと言えばずっと同じ場所で天王寺少年が来るのを待っていた。


「俺と天王寺、お前は指揮官向きの才能を持っている。が、その手法は全く別だ」

「そうですね。僕もそう思ってました」

「俺は自分のフィールドを拡大して敵に気付かれずどう巻き込むか。それを基礎として考えるが、お前はいかに相手を自分のフィールドに追いたてるか。相手フィールドをいかに自分のフィールドにするかを考えているだろう?将軍向きだよ、お前は。不意を突くのが俺。どうしようもない状況へと追い込むのがお前…さあ、やるか天王寺」

「それでは僕から遠慮なく!」


懐からグレネードを取り出す天王寺。遠士郎、重三戦と大量のグレネードを使ってきた天王寺だが、実際には大量に使ったグレネードのうち全てに中身があったのは遠士郎戦のときだけで、重三戦のときは三分の二の割合で遠士郎戦で空になったグレネードを使っていたのだった。

天王寺は遠士郎の避けの技術をよく目の当たりにしている。そのため完全に、それも何重に包囲した上で意表を突かないと簡単に抜けられてしまうと知っていた。しかし重三はその限りではないため、対瑠璃也戦に備えてグレネードを節約するため重三に対して使ったグレネードの三分の二は空だったのだ。

取り出したグレネードを瑠璃也に撃ち抜かれる。しかしそれも、空のグレネードだった。軽く舌打ちした瑠璃也は、天王寺の足元を撃った。詳しくは天王寺の足元に埋めておいたグレネードを撃った。しかし天王寺少年、これを踏むことで回避。これには瑠璃也も驚いたのか、声を上げた。


「おま、本当にサバゲー初心者か!!」

「いままで瑠璃也先輩に嘘をついたことなんて…ありますよ!」

「あるよな」

「しかしサバゲー初心者は嘘ではありません」


銃弾が飛び交う。幼少期の頃、竜也に鍛え上げられた体の動かし方。重心の配り方。銃の扱い。全ての経験でもって、瑠璃也は天王寺少年に相対した。しかし相手の天王寺少年はVRゲームでしか経験がない。それでいて瑠璃也に匹敵しているのだから、もしかすると瑠璃也の天才という称号は返上されてしまうかもしれない。まぁそれはこのゲームのルールに超能力を使ってはいけないというものがあるからで、超能力ありで言えば瑠璃也と天王寺少年を比べるとまだまだ差がある。


「けどま、まだまだだな」

「なっ!?」


パスン、と背後から(・・・・)瑠璃也に撃たれた天王寺。天王寺は瑠璃也と撃ち合っている途中だったはずだ。天王寺は瑠璃也を見失うまいと瑠璃也を前方に捉えていた。けれど実際の瑠璃也は背後から。どういうことだと天王寺は考える。しかし答えは、瑠璃也の口から出た。


「あらかじめここで止まるという地点を設定しておいたんだ。スイッチを押せば弾を撃つ仕組みをお前が来る前に仕掛けておいた。ついでに大音量のスピーカーも付けてな」


瑠璃也が首もとの小型マイクを見せた。


「思考と行動を誘導ですか…流石に上までは見てませんでした」


瑠璃也は天王寺を会話に集中させ頭上を跳び移る瑠璃也に気づかれにくくしていたのだ。あえて数十年前の道具を使って戦法を悟らせなかった手腕にも天王寺は脱帽していた。


「さて、敗者集合場所へと向かうか」




「くっそーやられたぜ」

「まさか空くんにやられるとは思ってもなかったですよ。大分気が緩んでいたみたいです」


ムスっとした顔で砂に埋められている重三と、真顔で砂に埋められている遠士郎。敗者は砂場で翠沙達に砂に埋められるという罰ゲームがあったのだ。ちなみに埋められるといっても砂を寄せてピラミッド状にしているため、建っていると表現したほうが適切かもしれない。砂場に立たせて周りを砂で固め、三角錐の頂上に頭を出している状況だ。

すでに砂場には二つのピラミッドが建っているため、空少年を加えれば三つ建つことになる。いまはもう無きギザの三大ピラミッドの完成である。


「そんじゃ、任せた」


瑠璃也が号令をかけると、ぞろぞろと出てきた女性陣。その目は太陽のようにギラギラとしていた。

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