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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
ワルツ
80/131

円舞曲

「緋音ちゃん、堂々としてたよね」

「あとで録画見せてくれ、翠沙。撮ってるだろ?」


入学式が終わって教室へと戻る途中、翠沙が瑠璃也に並んで話す。しかし思いがけない瑠璃也の返事に、翠沙は首をかしげた。


「あ、うん。もちろん撮ってたけど、なんで?るーくんも撮ってたんじゃないの?」

「もちろん、と言いたいところなんだが」

「なんだがって…もしかして、寝てた?」

「いや、新入生名簿を見ててな。集中しすぎて気づいたら式が終わってて」

「へ?」


擬音をつけるならぽかん。そんな音が聞こえそうなほどに、翠沙が間抜けな顔をした。しかしすぐに我にかえって、今度は真面目な顔になった。


「なにか気になるところでも?」


翠沙からすれば、異常事態。この繰り返す世界で高校生活最初のイベント、入学式はといえば今後の世界に未来があるかないかを見極める重要なイベントでもあるのだ。入学式の在校生代表は黒藤緋音。中等部生徒会長を務める緋音の勇姿を見るか否かでは、瑠璃也が(いだ)く緋音に対しての重要度をはかる(測・計・量)のだ。入学式がつまらないと寝ていれば、イコール緋音の晴れ舞台には興味がない、つまり緋音の重要度は低いということになる。入学式に寝ていたというのは最低の重要度だ。緋音の勇姿を見て感想を言うことにも意味がある。緋音との距離感を測るのだ。

つまり、これまでの世界では瑠璃也は入学式での緋音の晴れ舞台を、『寝ていて見ていない』か『起きて見ている』かの違いしか無かったのだ。それが今回は『起きてはいたが見ていなかった』。異常事態、イレギュラーだ。

そして内心、焦りまくっている翠沙に瑠璃也は容赦なく、いやそんな翠沙を知ったことではない瑠璃也は翠沙にとってさらに意味不明なことを言い出した。


「いや、気になるほどでもないんだが、緋音をいっそアイドルにしてみようかと想像を膨らませていたんだよ」

「なんて?」

「緋音がアイドルになった未来を想像していたんだ」


思わず二度見した上に聞き直した上で理解が追い付かなかった翠沙。


「ど、どういうこと…」


そしてとうとう、完全に混乱しだした。

瑠璃也は入学式で起きていた。つまり、緋音の重要度は最低ではない?けれど寝ていたイコール緋音の晴れ舞台を見ないということは、緋音の晴れ舞台を見ないイコール緋音の重要度は最低なわけで?いや、これは確定ではない。瑠璃也は緋音の勇姿を(うつ)している録画をあとで見せろと要求したため、重要度は最低ではない…けれどリアルタイムで見るほうがいいわけで?しかもしかも緋音の晴れ舞台を見なかった理由が、緋音をアイドルにして未来の晴れ舞台を想像していた?本来なら緋音の重要度が最低な緋音の晴れ舞台を見ないという行為をしていたのに、実は見てなかった理由が緋音の晴れ舞台を想像していたら気づいたら過ぎてたというもので?微妙。微妙なライン過ぎて判断に困る。しかもなぜアイドル?分からない、分からなすぎる。

あーもう頭ぐらぐらする!

そんな苛立ちを感じている翠沙に気づかず、瑠璃也はさらに続けた。翠沙の『ど、どういうこと?』を混乱からくる、無意識に出てきた言葉だとは思わずなぜそんなことを思ったのかという意味だと捉えたのだった。まぁ意味合い的には当たらずも遠からずだが、それは翠沙が説明を求めているときに必要なことで、いまは混乱して頭の中を整理している翠沙。そんな翠沙により情報を与えてもっと混乱させてしまう。


「翠沙も見たはずだが、今期の新入生は優秀だ。しかも優秀とは言ったが、実際には歴代でも今後でも見ることがないだろう成績を、今期の新入生は叩き出している。そんな新入生の過半数、しかも上位のほとんどが緋音のファンクラブのメンバーだ。信じられないことに人類史でも最高峰の才能をもつ人物2人のうちどちらもがそのメンバー。つまり緋音と同じ学校に入るために研鑽したということで、それは実際に新入生の過半数に迫るほどだ。しかもそのほとんどが上位ということであれば、緋音という存在は人物の繁栄に重要な役割があるのではないかと考えてな。新入生次席入学の栗栖を見ても、どこで知ったのかは不明だがおそらく栗栖は綾峰学園に通うために日本籍をとったのではなく緋音と同じ学校に入るために日本籍をとったと考えられる。それほど緋音の影響力は大きいというわけだ。国籍は一度変更すれば理由がない限り5年は自由に変えられないからな。いまでさえ緋音の影響力がこれほどなのだから、大々的に売り出したらその影響力はどうなる?それを想像していたわけだ」

「え、ええと?」


重要なのは新入生で、緋音ちゃんはアイドルで晴れ舞台は影響力が大きくてファンクラブは想像で??

全く固まらなくなった思考。そして翠沙はとうとう、考えを放棄した。ぱーだ。頭がぱーになった。くるんくるんでうふふになった。そんな意味不明なことを考えて、ふへへと笑って知能指数をかなり落とした。

そんな翠沙のふへへという笑いを翠沙も緋音のアイドルになった未来を想像したのかと勝手に解釈した瑠璃也は、うんうんと納得した様子で頷いた。




そんな翠沙が緋音に助けを求めたのは仕方がないことだった。だからこそ、これまでの世界では無かったことが起こったのだ。


「翠沙お姉ちゃん!?お兄ちゃんも、どうしたの?」

「ミシャ?ミサ!翠沙ってあの、アーチャーミサですか!?」

「緋音様のお兄ちゃん呼び、しかもお姉ちゃんまで…あぁ…これがかつて世に蔓延したという尊死」


突然室内に乱入した翠沙と瑠璃也に対しての反応を天王寺と栗栖で比べると栗栖のほうは比較的常識的(?)な反応だった。しかし天王寺はといえば、今にも魂が離れていきそうな雰囲気で…というか、なんか体が光っているような気がした。が、緋音の『栗栖ちゃん天王寺くんごめんね』という一言で発光が収まり体に力が戻った。


「あ、ごめん緋音ちゃん!お話し中だった!」

「あー…まぁもう仕方がないよね。栗栖ちゃん天王寺くん、翠沙お姉ちゃんとお兄ちゃんも同席させていい?」

「もちろんです!いつか話をしたかったのですが、良い機会に恵まれたことを光栄に思います!」

「は、はひ!ぼ、僕も構いませんっ!」


瑠璃也は天王寺の反応を見て、顔写真や経歴と、人格や性格はやはり結び付かないものだなと改めて思い、どうせならと笑って緋音の提案を快諾した。一度話してみるのもいいだろうと。


「それでどんな話をしていたんだ?」


席に着いた瑠璃也が切り出す。座っているのはもはや瑠璃也専用の席となっている場所だ。というのも、緋音がいたのは中等部生徒会室。つまり、翠沙が動揺して突っ込んでいったのは入学式の事後で忙しいであろう中等部生徒会室だった。

しかし見ればほかの生徒会の面々は居ない。どういうことだろうと普通は考えるが、瑠璃也は緋音の優秀さを知っていた。緋音は中規模管理職向きなのだ。後処理に時間がかかるほどの量を残すはずがない。そして瑠璃也はこうして天王寺と栗栖を集めてしていた話に当たりをつけている。しかし砕けた雰囲気と話の道を戻すため、瑠璃也が切り出したのだった。

ちなみに栗栖が口にしているのは英語。音声として発信されているのは日本語だ。これも電子デバイスの機能の一つである翻訳の恩寵であった。


「うん。栗栖ちゃんと天王寺くんに生徒会に入らないかって話をしててね。とりあえず入ってくれるのはいいんだけど、書記か会計かでね?」

「会計に相応しいのは私です!」

「いえ、総代である僕です!」


ぐぬぬ、と陰険な雰囲気になった二人を見て察した瑠璃也と翠沙。それに苦笑いをする緋音。

二人がなぜ会計という役割に執着しているか。

綾峰学園の部活動の予算は中等部、高等部に分けられている。それを振り分けるのは生徒会、そしてもちろん、生徒会長だ。

同じ学園内だとしても高等部と中等部ではやっている内容が違うのだ。例えば翠沙が所属している弓道部では、高等部の人間は筋肉トレーニング、集中力を高める瞑想、そして的を使った実践的な練習をする。しかし中等部ではまず最初の一年を基礎的な筋肉トレーニングと瞑想の練習、弓の射方講座や高等部の先輩の射ち筋見学といったように、やることが全く変わってくる。それによって講師も変わってくる。そのため必要な道具や出費も変わるのだ。

数年前までは全て高等部の生徒会が予算を管理振り分けしていたが、部活動内で中等部予算と高等部予算で管理しないといけなくなり問題が起きたことが少なくないと言えるほどの数あって、いまでは中等部と高等部の予算で別れている。

これがなぜ、栗栖と天王寺が会計の立場を争うことになったかと言えば、結論を言えば会計は役割上、生徒会長との連携が強くないといけない。つまりは、緋音とよく話すのだ。各部活動の活動から予算を割り出し振り分け活動の視察をしてと、会計でしか生徒会長と過ごせない時間があるのだ。それを狙って栗栖と天王寺は会計の座を争っているという訳だった。

正直話が平行していたし荒れていたから緋音からすれば翠沙と瑠璃也の乱入は嬉しいものだった。今までの世界では一旦クールダウンの時間を与えるという建前で問題を先送りにしたいがために後日改めて相談、そして話をなあなあにして二人を会計兼書記にしてしまうという方法をとっていたのだが、ちょうどいいと思った緋音だった。栗栖も天王寺も優秀だからこそ、会計兼書記でも問題なかったのだが。

――これが新たな分岐点だったとも知らずに、緋音と翠沙は間抜けな顔で笑っていた――

20201017いだくをなつくと読んで紛らわしいためルビ振りしました。

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