円舞曲
「おはようさん、瑠璃也」
「おはようございます、瑠璃也君」
「おはよう重三、遠士郎」
いつも通りにいつも通りの挨拶をしてくる重三と遠士郎。それに対し瑠璃也もいつも通りの対応だ。
「クラス替えも無事にやり過ごしたな」
「成績でみちゃクラスは別になるが、振り分け試験は手抜いてないんだろ?重三」
重三は定期考査では手を抜いているというか本気を出していない。本来なら軍大学でトップを貼れる才能を持つ重三だが、高校生活においては『高校生らしさ』を求めているようだ。桐谷は平均的な学力なわけだが。
「また一緒になったね。今年度もよろしくね、久和くん、桐谷くん」
「こっちこそよろしく頼むぜ、翠沙ちゃん」
「ええ、よろしくお願いします、翠沙さん」
去年と同じようなやり取りを今年もやっている。
最初は立場上、瑠璃也に近づくために同じ学校に通っていた重三だが、今や完全に意気投合し親友となっている。瑠璃也と関係ができた当初は命令次第では瑠璃也に危害を加えることも躊躇いはしなかっただろう。だが今では軍がそのような命令を下した瞬間、軍を裏切るという確信まであった。これには軍も判断ミスだったかと頭をかかえている。
桐谷は自分から近づいたわけではなかった。中学の夏に森に遊びにいった瑠璃也と重三が偶然、一瞬だけ効力の更新のために結界を解除したその瞬間の霧夜家の森に踏み込んでしまったのが始まりだった。
目撃者は消さねばならんと数百人が瑠璃也と重三に襲いかかるもその全てを重三がゴム弾で無力化。最後に出てきた遠士郎が同じクラスの人間だと気づいた瑠璃也が、古式体術の道場だと勘違いし重三共々夏休みの間に世話になったのがきっかけだった。
瑠璃也はともかく(一般常識のため)重三の立場も知っていた遠士郎は消すには消せない存在だと口封じを断念。逆に勘違いを利用して引き込んでしまおうと考えたのだった。もう既に綾埜と出会い結ばれていた遠士郎だった故に、そのような選択肢があった。もし淵邇朧だったのなら、世界は変わっていたかもしれない。
これらの出会いは細かな点は少し違っていても、大筋は全ての世界での共通点だった。それはおそらく、瑠璃也が自分の力で獲得する親友、運命とも呼べる出会いなのだということかも知れない。
しばらく最近の出来事について談笑していると、入学式の時間になって集合の放送が入った。昨年度クラス委員だった中村瑞希が昨年度と同じように指揮をとって体育館に向かう。一応情報端末に席順、入り口と通り方が一斉送信されているが、それを解説したのだった。そしてそれは受け取っただけの情報よりも鮮明で分かりやすかった。
「そういえば今年は在校生代表として緋音ちゃんが挨拶するんだよな?」
「ああ、生徒会長とかで朝早くに家を出ていったぞ。6時半には学校に着いておかないととかなんとかで」
「大変ですね、生徒会長も」
桐谷黒藤久和と何だかんだ席が続く面々。これもいまのように関係が深くなった要因の一つなのかもしれない。ちなみに翠沙とは近からず遠からずだ。翠沙の名字である白江の"し"から久和の"く"までにはけ、こ、さ、がある。例えば『け』はマイナーだが"剣崎"などがあるし、『こ』には"小嶋"、『さ』には"佐々木"などの豊富な名字があるのだ。席が遠くなることもないし、近くなることもない。微妙な名前順だ。
体育館が暗くなり、盛大な拍手とともに新入生が入学する。瑠璃也達はコンサート会場のように変形した体育館の二階から、それを眺めていた。
瑠璃也の視界には新入生名簿が映し出されている。在校生全員に配られているものではないが、黒藤の権力をもってすれば入手することなど雑作もない…というか、普通の手段で入手したものだった。瑠璃也、翠沙は生徒会の入学式当日朝の準備を手伝っていなくとも、入学式の準備の手伝いはしていたのだ。お前ら暇だろということで手伝わされた重三、遠士郎ももれなく生徒会の手伝いで入手している。
新入生名簿は顔写真付きで住まい、家族関係など詳細なプロフィールが記述されているが、これは黒藤財閥の力で書き込んだものだった。当然関係者である翠沙、重三、遠士郎、そして調べた当人である瑠璃也の名簿にしか書き足されていない。調べだしたきっかけといえば、『顔写真と名前、入学試験結果とクラスだけじゃよく分かんないな』だった。
報告に上がった新入生の情報に目を通していった瑠璃也は頭を痛めていたという。新入生二百人のうち、過半数に迫るほどの人数には共通点があった。それは…
「あのなかの半分くらいが緋音ちゃんのファンクラブの会員メンバーなんだよな…」
そう、共通点は『緋音ファンクラブのメンバー』だった。この事実が理由で、瑠璃也は調べ上げた情報を緋音に渡していない。
今期の新入生は優秀だ。学力良し、発想力良し、運動神経良しの天才秀才英才揃い。やはり目を見張るのは入学試験を千点満点中九百九十点でクリアした歴代最高級の天才、天王寺 空 だ、そしてその五点差で惜しくも総代を逃した、今の世では珍しくない、綾峰学園に入学するためだけに日本籍を手にいれたという栗栖 鎮亜だった。
クリスは分かるがティナが鎮亜なのはきっと、Christinaのnとaを分けてしまったからだろう。そういう少し抜けたところが総代と少しの差を開けてしまったのだった。瑠璃也的にはtin/aではなくti/naにして千奈や千愛、知菜でも良かったと思っている。
瑠璃也の代では入学試験においての総代の点数は千点満点中千点。次席は九百九十八点だった。まぁ当たり前のように総代は瑠璃也、次席は翠沙だ。
この学校の入学試験の採点基準は大きく分けて三つ。学力:発想力:超能力だ。3:4:3で評価されている。
翠沙が入学試験において減点されたのは発想力だった。発想力という基準がなければ翠沙は瑠璃也と同じ点数になっただろう。だがそれを言ってしまえば、超能力という採点基準がなければ瑠璃也と並んだ人物も居た。その人物の超能力の点数は三百満点中百五十点。平均的な凡人程度だ。しかしそれを抜けば、学力発想力ともに満点。瑠璃也の代は魔境だった。そんな瑠璃也に匹敵するような人物の名前は葵木。葵木 美奈黄と言った。
ちなみに例年の入学試験の平均点数は七百点。七百五十点あれば入学安全圏内となっているが、今年度の新期生はといえば、平均八百五十点だった。これを見れば、新期生の優秀さが分かるだろうが、入学試験の成績順に並べ直して詳細なプロフィールに並べ直してみると…
「何度見たって異常だろう…」
上位のほとんどのプロフィールに『緋音ファンクラブのメンバー』という項目があった。これには流石の瑠璃也も白目を剥いた。その熱意をもっと別のものに活用してはどうだろうかと思っては見たものの、別の視点で見るとその熱意があったからこそこのような結果になったのだと思い、ものは言いようだなとか、使いようだなと考えたのだった。むしろ綾峰学園の学力向上のためにいっそ緋音を本当にアイドルにしてみようかと考え始めたほどだった。
脱線したが、本当に今期の新入生は優秀だ。なにせ瑠璃也と翠沙という例外を除いて、綾峰学園の歴史でみても入学試験での点数が九百点もあれば出世コースは必至。九百五十点以上の人物なぞ、二桁もいないほどだった。そんな人類の至高とも呼べる才能を持つ人物が同じ学年に、しかもクラス割りは振り分け試験の得点順、新入生は入学試験の点数順なため、同じクラスにいるのだ。その上天王寺、栗栖共々例に漏れず……瑠璃也は思わず、
「はぁ…波乱の予感しかしないぞ」
と大きな憂いと共にため息を吐いた。一番上から並んで五人、一人飛ばして十人、三人飛ばして二十七人・・・。そのプロフィールには『緋音ファンクラブのメンバー』という項目。つまりは、
「歴代最高級の天才がよもや緋音にご執心、か」
真面目に緋音にアイドルをやらせてみようかと検討し始める瑠璃也だった。
ちなみに桐谷黒藤久和の席順については完全に意識してませんでした。この第79話を書いていて初めて気づいたものです




