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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
アラベスク
69/131

装飾曲

「さて、話をもどすぞ。この現実ではない世界を夢だと仮称して、お前ら、いつからこの世界が夢だと気づいた?」

「私はお腹の中だったかな。流石に、胎児からやり直せば異常事態だと思うよ」

「私は生まれてからかな?」

「ふむ、なるほど。して、お前らはこの夢に移る直前の、現実の出来事を覚えておるか?」


直前の記憶といえば、やっぱりるーにいと一緒に寝たことくらいしか…


「私はあんまり。月の意識に追いやられてたからね」


ああ!そうだ、そうだった。現実のみーねえは行方不明で、るーにい曰く月に乗っ取られていて、いまは月のどこかにいるっていう話だったっけ。あれ、だったらどういうことなんだろう?


「この世界はな、薄い膜で覆われている」


おじいちゃんが言う。午後二十二時二十一分。私が最後に時計を見たのが十五分だったのでおそらく寝付いてすぐのことだろう。世界を覆うように薄い膜が広がった。その膜の中で、全てはるーにいを受胎したときにまで遡ったという。まるで細胞が分裂して内部構造を書き換えるように。そうしてできたのがこの世界だというのだ。


「とまあこのように表現してはみたものの、実際にはよくわからんのだ、この世界は」

「でもなんで私や緋音ちゃん、竜也おじいちゃんだけが記憶を持っているの?」

「竜也おじいちゃんなら不思議はないしみーねえもまぁ分かるけど、私はよくわからないよ?」


おじいちゃんならどんな不思議も解決できそうな力を持ってるし、みーねえはるーにいと比べても遜色ない秀才だ。本人がなんと言おうと、私からみればみーねえは本物の凡人ではないのだ。


「実は儂は人間ではない」

「それはわかってるけど」

「いまさらなんだよねー」

「……まぁ、それ相応の理由があるのだ。しかし翠沙と緋音、お前らはよくわからん」

「おじいちゃんでも?ならとんでもない不思議がありそうだね」

「うむ。それ故に、いままでは何かを知っているか知りえる人物を探していた。だがしかし、これほど儂の親に言い聞かされてきた言葉である灯台もと暗しを実感したことはない」


…?つまりは、どういうことかを知っている、もしくは知れる人物は身近にいたってこと?


「入れ、カズ」

「え、お父さん?」

「そうだ。俺がこの状況を招いた張本人だ」


つまり、どういうこと?

話を聞くと、要するにお父さんが生き延びるために試行錯誤した結果、今の状況が引き起こされたのだという。

超能力の上位互換である権限という力で生き延びてきた和也は、ある日その権限の力によって、近い将来世界が滅亡することを知ってしまう。本来ならば一方的に破滅を迎える運命だったそれは、和也の権限である『作者』の力によって加筆される。和也の権限に破滅を完全に消し去る力はなかったが、ある条件を元に破滅を避けるといった方法で世界を救おうとしていた。…いや、生まれてくる子供を生かそうとした。ある条件とは、味方に有利になる条件を加筆すれば敵にも同じ分だけ有利になる条件を加筆しなければならないというもの。そこで和也はこう加筆した。『身内が敵となり、その自由意思は縛られる』『産まれてくる子供には特別な力が宿るが、その力は欠陥を持っている』『事が起こったときに味方の最大戦力の行動を条件付きで制限する』と。

敵に有利なのが『身内が敵となり、その自由意思は縛られる』と『産まれてくる子供には特別な力が宿るが、その力は欠陥を持っている』の欠陥を持っているという部分、そして『事が起こったときに人類の最大戦力の行動を条件付きで制限する』だ。そして味方に有利なのが『産まれてくる子供には特別な力が宿るが、その力は欠陥を持っている』の特別な力が宿るという部分だけ。最初から瑠璃也側に不利な状況なために依然として不利ではあるが、味方に不利な条件をつければつけるほど有利な条件の力が強くなる。妥協できるところは妥協した結果がこれだ。


「結果がどうなるかは賭けだった。既に存在してしまっているものの本質を変えれるほどこの力は便利ではない。賭け以外でどうにかなるものではなかったからな。だからこそ子供に頼るしかなかった。しかし、このような結果になるとは、こんな不甲斐ないとは思いもしなかった…本当に、すまない」


敵になる味方と力を持つ味方に関係は無いとしていたのだった。つまり、みーねえとるーにいの幼なじみという関係だ。しかしこれには利用価値がある。条件にある自由意思が縛られるというのは一見悪条件だけど、逆にいえば自由意思は失われないということ。なにかの物語みたいにみーねえとるーにいの関係が自由意思の束縛を外すかもしれない可能性となるメリットがある。こういうことがあるから条件は曖昧にしているということだけど…。

しかし、和也が想像もしていなかった事態というのは、なるほど、緋音が納得いくものだった。それは…


「緋音、お前の存在だ」


そう、緋音が産まれてくるのが不測の事態。『産まれてくる子供には特別な力が宿るが、その力は欠陥を持っている』の欠陥の部分が緋音なのだ。

なるほど、るーにいの欠陥の部分が私だとしたのなら私の凡人っぷりに理由がつく。しかしどうして、お父さんはそんなに深刻に事を見ているのだろう?


「緋音。俺は瑠璃也の力の欠陥を、一定の条件下でしか発揮できない、力の発揮までに時間がかかる、調整ができない、回数制限があるなど、数多の可能性を考えていた。しかし実際に瑠璃也に発現したのは星の器としての力。そしてその一卵性双生児であるお前は、瑠璃也の劣化コピーのようなものだ」

「それが欠陥とどう関係が?」

「お前も星の器足りえるってことなんだ、緋音。補足すると、いまのこの世界でこそお前の存在は安定しているが、現実のお前の存在は危ういはずだ。おそらくお前の寿命は20年よりも短い。これが瑠璃也の欠陥であるし、お前の欠陥でもある」


つまり、私がるーにいから力を奪ってから死んでしまう可能性もあるし、みーねえのように敵になる可能性もあるということだった。そして私がるーにいから力を奪って死んでしまえば有利だった条件は無くなって不発に終わり為す術もなく世界は終了。私が敵となれば敵がより有利となりこちらはより劣勢になると。私は時限爆弾のようなものだということだ。爆発するまえに処分してしまうのが建設的な判断。だけれど…


「私が欠陥ということなら、るーにいには欠陥がないってことになるよね?」

「そう、それも問題なんだ。まぁ不安定ではあるが、安定すれば完全なものとして定着するだろう」


お父さんが言うには、るーにいが欠陥を持つことで力の安定化を図っていた。後々その力を覚醒させ欠陥を取り除くというのも手だったという。しかしその欠陥が外部要因として別のものとなり、力が完全なものとしてるーにいの体へと宿った。その力は二つに割れた器に入れるには大きすぎる力だ。今の段階ではるーにいに宿る力が何ものなのかはわからない。だけど最悪、切り札を封じ味方が操られることを条件として得た切り札さえ、もしかしたら失うかもしれないということだった。もう何が問題で何が欠陥さえもわからなくなってきた。


「この世界がなぜ繰り返しているのか。それはおそらく、瑠璃也が無意識的に現実の世界に救いはないとして世界を作り変えているのだと予想している。実際どうなっているのかは俺の能力で見ても分からなかった。むしろ俺は繰り返していることにさえ違和感すら覚えなかった。これも憶測ですまんが、翠沙と緋音がこの繰り返した世界に気づけているのはそれぞれ別に要因がある。翠沙は瑠璃也の敵、月の器として。緋音は瑠璃也の半身故に」


なるほど、私が特別なんじゃなくて、私の出生が特別だから、産まれ方が特別だったから私は現実の記憶があるのか。これで疑問も晴れて憂いも無くなった。


「それで、お父さん。私達はこの後どうすればいいの?」

「もしこの世界が現実の時間まで繰り返されるとすれば現実より長く世界は進まないだろう。俺と竜也じいさんはこの仮の世界を終わらせる方法を模索する。翠沙と緋音は月の侵略を抑える方法を探してくれ」


こうして、この繰り返す世界が始まった。


▲▽

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