協奏曲
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五年が経った。私達『黒』は四年で目的を完遂し、世界中を混乱に陥れた。だけど一向に黒藤瑠璃也が戻ってくる気配はない。運営の方はたぶんセバスがやっているのだろうが、それも長くは続かないだろう。そして白江翠沙も『月の使徒』に完全に染まったいま、ただただやることがなく終焉を迎えるだけの一年を過ごすことになってしまった。しかし転機は訪れる。
――ビリリ
と脳に電撃が迸った。それは長く永く待っていた終焉の合図。教帝が動きだし、世界の混乱を混沌へと変える合図。ウイルスを完全に支配し、月操獣に統制をもたらすものだった。それは私達『黒』も例外はなく、世代が若いものから倒れ、操られていく。獣に成り果てていく。次々に同期を切られ、遂にはのこり十五人になるまで続いた支配は終わる。残った十五人はウイルスの力を利用していないために支配を受けない。逆を言えば、それ以外の八千三十五人はウイルスの力を利用して得た力だった。
操られた『黒』達は全て世界を壊すために動く。しかし、立ち塞がる者がでてきた。各国の防衛軍ではない。そんな軍など、国を落としたために存在しない。いつか、取るに足らない存在だと切って捨てた存在だ。
「さぁ、リベンジ開始だ」
久和重三を筆頭に、並ぶのは見慣れた面々。星柳深琴、桐谷遠士郎、東堂綾埜、守朔千利、源武国だ。正直、この世界では素でも反則的に強かった面々だが、自分の超能力を見つめ最適化したお陰かせいか、かなり強化されているようだった。
久和重三の強化されている所は射程、威力、装填速度、装填数、速射速度。これにより対多数の戦闘を可能にし、殲滅力もかなり高くなった。
星柳深琴の強化されている所は精密性。狙った場所に狙った大きさの隕石を狙った衝撃で落としてくる。これは、久和重三との反対で対個の戦闘を可能にしている。フレンドリーファイアも無くなって利便性が大幅に向上した。
桐谷遠士郎、いまは霧夜淵邇朧か。霧夜の強化されている所は隠密性、瞬発力と持久力か。隠密性が格段に上がっただけでも驚異的で脅威的だったが、さらに瞬発力と持久力が上がったせいでその凶悪さに拍車をかけている。
東堂綾埜の強化されているところは射程、威力、精密性、そしてなにより、援護力が格段にあがっている。筆舌に表せないような援護射撃をし、全線に物資を射って送る。彼女がいるだけで全体の継戦能力は何倍にも膨れ上がっているだろう。
守朔千利は千の武器で扱うものが変わった。他に比べると地味だが、彼女はただそれだけで強い。以前は剣や弓、盾や爆弾等扱いが単純な武器が多かったが、いまでは銃を始めとした複雑な武器をも操作できるようになった。これは彼女の技術力がかなり向上したためだと思われる。
源武国は堅くなった。源武の名にふさわしく、星柳深琴の隕石にも耐えうるほどに堅く、そして殲滅力も高くなった。源武国に関しては、堅くなったというだけでも脅威だ。
正直、ここまで苦戦させられるとは思わなかった。教帝が操る月操獣の第一陣も数を減らし、私達『黒』もいたちごっこのように数を変動させていく。白神山地で会ったときは取るに足らない存在だと無視したけれど、ここまでのびしろがあるとも思っていなかった。これは、今後の立ち回りも考え直さなければならない。
かふ、と血を吐きながらも私は私を造り続ける。体への負担は少ないとはいえ、こうも立て続けに続けていては蓄積されるのだろう。だけど、時間稼ぎはもう十分…!!
だんだんと戦線を押し戻していく。月操獣第二陣が到着した証拠だ。これでもうしばらくは持つだろう。なんせ大型の獣たちで構成されている。絶滅した種まで含まれているからだ。
月は食べた生命を使役できる。それを月操獣として操っているから、過去何億年と蓄積された月操獣がいま戦っているものだ。それはいまの生命にとっては未知のものになるだろう。不定形の流動生物なんて、いまの生命にはない。今期初の生命が定形の生物一つだからだ。だから、今期の生命は前期以前の生命の倒しかたを知らない。これで時間を稼げば、第三陣へと繋げることが――!!?
「あ、あれは…!!」
パキ、パキと空間が割れていく。それは『月の使徒』のゲートホールに近いものだけど、あれは明確に月と地球との繋がりを利用したものだ。こう強引に空間をこじ開けるものは、それはもう『竜也おじいちゃん』しか…でも竜也おじいちゃんは南極大陸の座標から大きく出られないはず。ならあれは――!!
パキパキと拡張されていくひびからそれが見えてきた。最初は微かな黒い点だったものがバギギという強い音によって深くひびを侵食し、ようやくそれが爪だとわかった。その場にいる全員がその光景を唖然として見ていた。大きさでいえば人間の成人男性ほどの爪を一本一本生やしている手が空間のひびを拡張していく。その手は真っ黒い鱗に包まれていて、それはまるで本当に、『竜也おじいちゃん』のようで。でも『竜也おじいちゃん』におなじような威圧感はあっても、こんな入り雑じった強く、ただ無意識な意思はない。こんな…こんな、悲しみは。怒りは。憎悪は。――慈しみは。
やがて、数分も経たずにひびが数十メートルまで広がり、それが一気に姿を見せる。やはり、予想通りというか。それは『漆黒の竜』だった。『竜也おじいちゃん』とは正反対の、『漆黒の竜』。プレッシャーに負けて、立ち止まっていた月操獣第二陣が一斉に躍りかかる。けれど全て虚空に消えた。
「なんだ、なんだあれは…!!」
「やばいと思う!!」
混乱しているあのメンバーに教えてあげよう。あれは、あの竜は――
「あの竜は、『瑠璃也お兄ちゃん』。超能力の領域拡張を限界までやった生物の、成れの果て」
「あれが…?あれが瑠璃也だっていうのか?超能力の領域拡張って…それじゃ、俺らが使っている『超能力』ってのは、なんなんだ。俺らは何を使っているって言うんだよ…!!?」
正直、私達『黒』もこれは予想外だった。『月の使徒』から話を聞いたのとこの世界の現状を見るに、せいぜいが表皮の変異くらいだとたかをくくっていた。だけど実際はどうだ。これは限りなく完成形に近い、成れの果てではないか。まさかここまでとは…これでは、今後の世界にも支障を来しかねない。全力で止めなければ…!!
「お兄さんたち、さっきまでお互い戦っていた間柄だけど、瑠璃也お兄ちゃんのために共闘して!!」
「そんな虫のいい話があるかよ!!射線上にでるんじゃねぇぞ!!」
「うん、ありがとう重三さん!」
「―っ!?お、おう!」
私達は『漆黒の竜』に向かって走る。相手の力は未知数…いや、『竜也おじいちゃん』と同等くらいだと考えていい。なら人海戦術であっても勝てる気は……
猛々しく威嚇の雄叫びを上げる『漆黒の竜』に萎縮してしまう心を奮い立たせ、私達は突撃していく。だけどその全てがあの月操獣たちのように虚空に消え失せていった。上空一面を覆うほどの隕石も全てが『漆黒の竜』の腕の一振りで粉砕され、さらには『漆黒の竜』の右腕へと集められていく。惑星レベルの質量が圧縮され、圧縮され、圧縮されて人間の頭くらいの大きさになった。それを確認した瞬間、『漆黒の竜』が造った玉を握り砕き、それを振り上げ、槍投げの動作で月へと投げつけた。砕かれた玉は一瞬のうちに一本の槍へと変形してまっすぐ月へと向かっていく。そして――月のど真ん中に、大穴が空いた。
「な、なにが起こってるの」
「お前ら『黒』の筋書き通り…ってわけじゃねぇんだな…あれは」
「さすがの深琴でもあんなことはできないと思う!」
「…勝てる気が全くしませんね、あれには」
「…銃弾も弾き返されてます。無理ですね、あれは」
「せっかく強くなったのに、これじゃ意味がないわね。困ったわ」
「…あんなのは受け止めるべきではないな」
「そうだね。あんなの投げられて、うちの月も相当痛がってるよ」
「「「「「「――っ!!?」」」」」」
私達は驚かなかったけれど、他の面々は突如出現した『月の使徒』にびっくりしてしまう。すると、『漆黒の竜』の動きに反応があった。『月の使徒』を捕捉した瞬間、これ以上ない雄叫びを上げて突進してくる。それはアリが大型生物の全力疾走を目の当たりにするような。正直に言えば、怖くて怖くてお腹のした辺りがキュッとしてしまった。
「それじゃーいっちょやりますかー。愛する『地球の使徒』、るーくんのために全力で。あ、手伝えるんだったら補助お願いね~」
大口開けて迫る『漆黒の竜』相手に無抵抗でいた『月の使徒』は、遂にはそのまま食べられてしまった。終始唖然として見ていた私達だが、『漆黒の竜』が苦しむように声を上げたのを皮切りにさっきと同じように突撃していく。少しでも意識を削げれば上々、特攻覚悟でいかせてもらう。どうせこっちは有限だけれど無限に増える!!
『漆黒の竜』が苦しむ間、次々と攻撃を加えていく私達。遂には『漆黒の竜』の左腕と右翼が消失して、『月の使徒』が露出した左肩口から出てきた。
「いやー『月の使徒』とこんなに熱烈なキスをしたのは初めてじゃないかなぁ初めてだよねぇ初初だよねぇ!!?あぁ…それに加えて、1つになっちゃった。なったなってしまったよねぇるーくん!!子供もできちゃうよ!!」
…あれは相当嬉しがってるんだろうな。テンションが上がるのは分かるけれど、発言が少し気持ち悪い…よ!!
だんだんと『月の使徒』を中心にした連携にも慣れてきて、着実に『漆黒の竜』にダメージを与えていっているのが分かる。そして、とうとうそれが、その時がやって来たのだ。
「な、なんだ!?」
世界が揺れる。地面だけじゃない。空間も、時も、なにもかもが。
「まぁ仕方ないよねー、どてっぱらにあんな風穴開けられたら誰でも怒るっしょ~。それがたとえ衛星だとしても…んん??」
とうとう、月操獣の第三陣と第四陣が同時に…え?あれは、月操獣を率いてきているあの真っ白い生物は、ここにいるはずのない!?なんで出てこれ…
動揺も関係なしに、その存在はだんだんと近づいて来るのだった。
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前話の展開が翠沙視点、さらに今話では飛んで緋音視点なので意味わからないと思いますが、ここで捕捉をしておきます。
瑠璃也が(月を破壊するために)修行をすると言ってから5年の間のうち、最初の半年で修行地を求め最終的に南極に行き着き竜也に出会い、力の扱い方を知る。3年で地球からの支配を食らい、自我が薄れる。この話の冒頭まで次元の狭間で卵となって成長し、冒頭で孵化、そのまま次元の狭間をこじ開け出てきたという形です。
瑠璃也の超能力は瑠璃也本人のものですが、『地球の使徒』としての超能力と大きく連動しています。というか、地球が瑠璃也と結び付くための触媒に瑠璃也の超能力が使われているという形です。
もともと、一定数の人類は超能力を強化していけばいずれ制御ができなくなり、そうなった人類は化け物の姿に成り果てることを翠沙達は知っていました。瑠璃也は超能力を限界まで強化しても制御ができない器ではないですが、地球の干渉によって暴走、地球が恐れる存在の姿を形作り対抗するために竜化させられてしまい地球の制御下に置かれてしまったわけです。




