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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
オーバーチュア
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序奏曲

序楽曲


「とりあえず戻ろうぜ。どっか第23中隊専用の部屋とかないのか?」


『それには私から説明するよ!ここは演習訓練室。例えるとチュートリアル室だね。どこかに入り口っぽい部屋があるはずだよ!』


周囲を見渡すとそれらしき扉があった。全員気づいたみたいだ。


『そこから出るとそれぞれ部屋があるよ!第23中隊はたぶん、右にまがればいいんじゃないかな?まぁ扉の上に番号が振ってあるから23番を探してね!なに?この後何をすればいいのかって?この施設を探索するといいよ!補給物資がどこにあるかとか、後方勤務の皆に挨拶するとかね!この訓練室にきてDAVEの操作に慣れる、というのも手かな?』


特に決まっていない、ということか。そういうとこだけ現実味があるんだよな。


「とりあえず移動するか」


全員室内から出て、右に曲がる。通路はいかにも研究所のような質素な白い壁が一面に広がり、本当に通路と扉しかなかった。


「これも安い所以か?」

「ありえるな」


扉の上部を見て番号を確認していく。


18…19…20…21…22………壁。


「壁じゃねぇか!」

「壁だね」


『あ、ごめんごめん。モニターから見ると右なんだよね。君たちからみると左だったよ』


俺達は引き返し、通路を進む。


『ちなみに私、今は君の頭のなかに直接話しかけてるから周囲には聞こえてないんだ』


ん?まぁゲームだから当然か?

その言葉を深く考えることもなく、納得する。それはいつもの瑠璃也では考えられないほどの行為だ。


『君、自分が操作してるキャラ、作った覚えある?」


…?あぁ、そういわれてみればないな。だからなんだって言うんだろうか。


『今、だからなに?って思ったでしょ?思考誘導されてるんだよ。このことについて深く考えないように。そして知人のキャラの容姿をみてごらん?』


あぁ、クワガタとアビスだろ?容姿はいつもと変わんな…いや、VR空間内のはずなのに現実の容姿だ!

VRゲーム機に現実の容姿を反映する機能などない。ゲームを始める際には必ずキャラクリエイトかキャラ選択が必要になる。だがこのゲームはどうだ。リアルの容姿が反映されているではないか。


『そうそう。それじゃ、君の色覚サポートを無くすと』


周囲の景色が変わる。人間だと思っていた、キャラクターだと思っていた第23中隊の皆は…今は人形だ。どういうことだ?それにこの声の主、開発者の関係者じゃないのか?これは明らかに隠しておきたいことのはずだぞ…わざわざ思考誘導するくらいなんだ。


『うわ、自分で思考誘導プログラムを解除するなんて驚き。ね、人形でしょ?いやぁ安価の新作ゲームに興味本位でハッキングしてみたら同じクラスの人がいてびっくりしちゃった。それじゃ、久和君、桐谷君の思考誘導プログラム解除しちゃうよ。ついでに覗き見防止のフィルターと音声が出ないようにするね。会話は脳内に直接くるから』


クワガタとアビスが歩くスピードを落とし、俺の隣に並ぶ。


「すまん。なんか変なことに巻き込んだみたいだ」

「脳内に直接音声が来たんだが…お前らもか?」

「いや、頭ん中がいきなりクリアになって、情報が入ってきた」

「僕もです」


『君たちにはそのままこのゲームを遊んでもらいたいんだけど…いいかな?』


「お前の目的が分からないぞ」


声は女。だがこの時代、声なんてものはいくらでも偽装できる。その上ここはゲームの中。この声も本物ではないとみるべきだ。

そして俺たちの名前を知っている。ということは俺たちに近い人間ということに…はならないだろうな。俺も重三も遠士郎も、社会では有名だ。表でも裏でも、どちらでも。

接触してきた目的がわからない。考えても仕方ないことを瑠璃也は、素直に聞くことにした。


『いやぁ、ただの好奇心だよ?なんでただのゲームにここまでのことが出来るのかとか、国のゲーム安全法をどうやって掻い潜ったのかとか。』


「なるほどな。で、お前は誰だ?」


『教えちゃったら面白くないじゃん。どうせなら調べてよ。三人なら簡単でしょ?』


表の世界を牛耳る黒藤家御曹司の瑠璃也。日本の軍部最高戦力である重三。裏の世界では不可侵の存在として恐れられている霧夜家当主、最高戦力の遠士郎。少し裏の情報まで齧った程度でもこれくらいのことはわかる。

ということは、いま話している相手は裏社会に足を突っ込んでいるということだ。…だが。


「へぇ、それは僕も入ってるんですね。ただの影の薄い一般人ですが?僕は」


『桐谷君の一族のことは知ってるよ?あ、だからって暗殺はやめてね?私こそ一般人なんだから』


「へぇ?あなたは少々知りすぎているみたいですね」


それが遠士郎に繋がると知る存在は瑠璃也が知っている限り、世界でも片手の指ほどしかいない。それを知っているこいつは…。


「あん?遠士郎が忍者の家系だってことは当然しってるし…それ以外なら心当たりがないぞ…」

「はぁ!?」

「それ以外となると…もともと影が薄いのを技術によってさらに薄くしてるってことくらいか?」

「嘘でしょう!?」


ちなみに片手の指といっても、数えてみると瑠璃也、重三、そして黒藤家当主である黒藤和也とそのボディーガードの白江家当主、そして瑠璃也のボディーガードであるセバスで埋まる。

まあ当然であろう。霧夜家といえば暗殺者一族として有名で、一般人がその情報を少しでも握ってしまっただけで半時間後には世界からその存在の痕跡さえ消えているだろう。

そして、遠士郎が=霧夜家当主の霧夜淵邇朧だということを知ってしまえば、本来ならば即刻首はねものだが…。


『はっはっは。親友には筒抜けだったみたいだね。』


「おいおいなめんなよ。親友にもしもの時があって手助けする時に家の事情とかで助けられなかったらどうすんだ」

「そうだぞ。最大限のことをするためにな」

「二人とも……恥ずかしくないのですか?」

「「そこを素で返されたらね!?」」


淵邇朧も、遠士郎となって大分瑠璃也と重三に甘くなっている。


『あっま!甘いよ口の中が!厚い友情が甘いよ!』


「で、三人で調べろと?」


『まぁ、そうだね。でもでも?三家の力を合わせても調べられるか分からないけどね』


「さて、葵木さん。なめんなよって言ったはずだが?」

「おい、その役は俺もやりたかったぞ重三」

「僕の家はそんなに知られているんですか…」


話している間にも考えてを纏めていた瑠璃也たち。


『うそ!?なんで分かったの!?」


「学校の奴らはだいたい徹底的に調べ上げてんだ。ハッキングマスターさんよ?」

「現代のAR技術を使った最新の情報型チップコンピュータじゃなく、旧時代のパソコンを使ってハッキングしてるんだってね」

「さらに、世界各国からは要注意危険人物に指定されてるんですよね。たしかボタン1つで世界を滅亡させることができるのだとか?」


ハッキングマスター。葵木美菜黄。彼女は時代錯誤も甚だしい、500年以上前の情報端末を使って快楽的に各国の情報機関のデータにハッキングを仕掛けている。実際黒藤家も何度かハッキングされているが、重大な情報は旧時代の方法に則り紙媒体で保存しているため漏洩をするとしたら直接乗り込んでくるしかない。

そして、それを成せるのは霧夜淵邇朧でも無理だ。なにせ、いままでその情報を守ってきたのは黒藤財閥を何十年もの年月、何回もの激動の時代を支えてきた前代当主、黒藤竜也。そしていまは、竜也を凌ぐ、世界一の天才だと言われている黒藤和也が守っている。万に一つもないだろう。


『むっ、セキュリティ見直さないといけないかな。それにその話をここでされると傍聴がないかスッゴク不安になるんだけど?』


「大丈夫だろ?」

「あぁ、俺でさえお前を調べるのに苦労したんだ」

「それくらい対策済みでしょう?」


『かなわないなぁ』


事実。葵木の情報の裏に隠されたものを、隠されていると思うには大分苦労した。

普通、表の情報を調べる瑠璃也と、裏の情報を調べる重三と遠士郎が同一人物を調べた場合、所々得ている情報が変わってくる。そのはずなのに、いざ情報を擦り合わせてみると全く同じだった。これはおかしいと、入念に調べた結果の情報に違和感が無かった。これが決定的だった。


「で、そんなハッキングマスターさんが俺らになんのようだ?」


『うーん、今回接触したのは利用しようとしたからなんだよね』


「やけに素直じゃん」


『だって存在消されちゃうの、嫌だもん。今回接触した目的だけど、本当に最初はこのゲームに興味本位でハッキングしたんだよねー。そこに君たち3人がいるじゃん?この際ちょうどいいから君たちの実力をはかるのもあわせて力量によっては利用させてもらおうと考えたわけなんだけど、結果は実力をはかるどころかこっちの正体がばれちゃって』


「で、何に利用しようとしたんだ?」


目的次第では…。そんな意味を言葉の裏に潜ませて、瑠璃也は問う。


『私って結構有名じゃん?だから君たちを傘にしようと思ったんだよね。安全策だよ。要は保険、防波堤だね』


「なるほどな」

「それなら仲間になるか?一緒に馬鹿しようぜ」

「心強い仲間が増えますね」


『えっ、いいの?』


「あぁ、問題ないどころか歓迎するまである」

「今回助けられたしな」

「僕たちにも、あなたにもメリットがありますし」


『助かったのも時間の問題だったとおもうけど…桐谷君なんかは違和感があったようだし?』


確かに、遠士郎は違和感を感じていたようだ。


「えぇ、ログアウトしたら調べようかと思っていましたよ」

「で、本当のところはどこなんだ?」


『えっ?全部本当のことを言ったんだけど』


葵木の動揺する声が聞こえた。少し意趣返しができたと、瑠璃也は少し気分が良くなる。


「いや、第23中隊の部屋はどこだ?」


『あ、それね。第23中隊の部屋はそこの角をみぎ…君たちからみたら左だよ』


この会話の中でもずっと、瑠璃也たちは施設内をさ迷っていたのだ。思考誘導がかけられているとはいえ、さすがに他の面々に申し訳ない。


「で、俺らにこのままプレイして欲しいと?」


『そそ。君たちがいないと始まらないんだよね。世界各国が融資してこのゲームを作ったみたいなんだけど、その目的が分からないんだ』


「ハッキングすればいいんじゃないのか?」


『それがね、いまどき紙で情報が伝達されていて、ハッキングしても意味がないんだよ。明らかに警戒されてる。現代においては異常だよ』


黒藤財閥のように紙で情報を保存するだけでなく、紙で情報を伝達する。それほどに機密性が高いのだろう。


「なるほどな。言いたいことは分かった。でもなんでこのゲームをやりつづける必要が?」


『もう分かってるでしょ?このゲーム、世界各国が合同で作ってるんだ。だからプレイヤーを特定して接触、なんてこともあり得る。そして接触する価値のあるプレイヤーなんて上位のプレイヤーくらいでしょ?それにこのゲーム、ランキングだってあるんだし。』


「まぁ囮だな。いいぜ。利用されよう。」


『もう、仲間にしてくれたんじゃないの?利用じゃないよ。協力だね。代わりに私が君たちの専属オペレーターになろう』


「まじかよ心強すぎ」

「僕も乗りましょう」

「楽しければいいぜ」


そんなこんなでパーティーメンバーが増えた俺達は第23中隊専用の部屋に入るのであった。

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