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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
コンツェルト
53/131

協奏曲

3話同時です

「ん~、私は産まれた頃からの出会いだからなぁ。なれ初めとか覚えてないや」

「もったいないと思う。なれ初めは、彼氏との最初の思い出だと思う」

「そうですね。私も遠士郎様との初めての出会いは、今でも鮮明に覚えています」

「へぇ?聞かせて聞かせて」


女子の方は平和に談笑していた。自己紹介を済ませ、瑠璃也達男性陣のようにお互いのパートナーの話をし終わった女性陣は、男性陣の武国を攻めるようなことを千利にはせず、それぞれの思い出話をして盛り上がっていた。

深琴が先ほど運ばれてきた茶菓子よりも先に、重三から貰ったお菓子を取り出し、モムモムと1つ食べきってから出された茶菓子に手を出した。そこには彼女なりのこだわりがあるのだろう。


「そうですね…最初の出会いは、幼い頃私がある組織に誘拐された時でした。先ほども言いましたが、私の父は黒藤財閥でもかなりの地位にいまして、当主の和也様にもとても贔屓にしてもらっています。ですので私もそれなりの警護を着けて貰っているのですが…その時私を誘拐した相手が悪かったのです」

「それを救ったのが霧夜家だったと?」

「いえ、霧夜家は誘拐する側でした」

「そっちかーい」


と思わず突っ込んでしまった千利。

霧夜家は暗殺、誘拐、潜入なんでもござれというように、依頼があればなんでもする一族だ。しかしいくら金を積んでも仕事は受けない。その条件とは、一族にとって有益であるか否か。ただその一点に尽きるのだ。

綾埜はしみじみと思い出すように、目をとじて語る。


「まあ、実際には淵邇朧様を除いた霧夜家の方々が実行犯で、救っていただいたのは淵邇朧様になんですけれども。私の誘拐を企てた組織の要求は、私と引き換えに当主の娘を交換すること。私をダシにして、財閥当主、和也様の娘の緋音様を手中に収め、新しく和也様と取引をしようと考えていました。緋音様を誘拐するのは霧夜の方々でも難しかったそうで、しかし和也様の腹心である私の父ならば緋音様に近づくのは不可能ではなく、3割ほど可能性があります」

「いまはそんなに高くないけどね。いや、東堂家の人たちを警戒してるわけじゃなくって、ただ緋音ちゃんの身辺警護が強化されたってだけで」


実際、緋音の身辺警護は尋常じゃないほどに強化されている。第一の要因としては、緋音のファンクラブの面々だろう。その団結力といったら、正式に雇われて緋音の身辺警護をしているガードマンも目を見張るほどだ。第二の要因は、ローネンの存在だ。彼女の身体能力、技量はずば抜けて高い。特に守る力に関してはセバスよりも高いと言える。それは、緋音にはあまり自分を守る力はなく、瑠璃也にはその力があることが理由だ。

ふむ、と皆が翠沙に目を向けながらも、綾埜の話に耳を戻す。


「しかし、父は要求に答えませんでした。娘の命と黒藤財閥での立場を天秤にかけたとき、黒藤財閥に傾いたのですね。私も薄々そうするだろうと思っていましたし、それが正しいとも思っていました。…人質に価値がなくなったと判断した組織の幹部が銃を私に向け、引き金を引くその瞬間に、その幹部の胸からナイフが生えたのです。姿は見えませんでした。音もなく、組織のメンバーに死が訪れる。その現実に私は恐怖を覚えるのではなく、感動すらしていました。やがて立っている組織のメンバーは居なくなり、私の目の前に血の一滴も浴びていない淵邇朧様が冷たい目で私を見たのです。そして、やはり冷たい言葉で言ったのです。『貴女が東堂綾埜さんですね』、と。それから私は淵邇朧様に抱えられ、家へと戻れたのです。恋をしたと感じたのは、やはり抱えられたときでしょうか。その後去っていく淵邇朧様の頬に接吻をしたときの淵邇朧様の顔は、忘れられません」


その時の淵邇朧は瑠璃也に会う前の、冷たく、静かで。血も涙もなく、冷酷無比で。正真正銘の霧夜淵邇朧であった。いつでも抜かりなく、気配を紛らわせるその能力を使っていないときなどない、完全なる闇と化していたのだ。その淵邇朧を認識する、まして触れるとは、瑠璃也にも出来なかったことだ。そして綾埜は完全警戒態勢の淵邇朧に触れるどころか、その上の頬にキスまでしている。当時の淵邇朧の驚きようといったら、ないだろう。あまりに超常なことすぎて、数日間理解できなかったほどだ。


「綾埜は、見かけによらずすっごく積極的だと思う」

「そうだね、私なんかるーくんとキスなんて片手で数えられる程度しかしたことないよ」

「え」

「うそだと思う!?」

「本当ですか!?」


瑠璃也の深層心理では、翠沙は居て当たり前の存在。そんな存在と愛を、間を確かめあうことなど必要なく、好きだ、愛してるなどの言葉もなければそれ以上の行為もない。瑠璃也が翠沙に愛を伝えるのは、一般的な異性交遊へと発展するための"告白"をするときだけで、それ以降は愛してる等の言葉は滅多に言わない。

この繰り返す世界で翠沙が瑠璃也に愛を受けたのは告白の時以外でいえば、人体の指で数えられるほど。お互いにお互いが愛していることは知っていて、それを伝えれば自分の愛がどんどん軽くなっていくような感じがするためなのだろう。

次の話は深琴と重三のなれ初めだ。


「みことと重三のなれ初めは、渋谷で買い物をしていた時だと思う。でもみことが重三をカッコいいって思い始めたのは、やっぱり四聖獣部隊の任命式の時だったと思う」

「あー…あれね。うん、あれは凄かった」

「どんなことをしたのですか?」


深琴が思い描く任命式が分かるのはこの中で2人だけだろう。

その時の凄さを詳細に表せないかと目を閉じ思い出す深琴。同時に、千利も思い出している。


「まず身体中に弾倉を隠して、2丁の拳銃を宙に高く投げたと思う。そこから懷に隠してたもう2丁の拳銃を引き抜いて3km先の的の眉間を正確に、2つの弾丸を1mmのずれもなく撃ち抜いて、すぐに目、肩、胸、脚を撃ち抜いていったと思う。弾倉が空になると弾倉が本体から外れないようにするロックを外して銃が高く飛ぶように宙に投げて、宙で銃と離れて飛んだ弾倉に弾を指で弾いて装填して、落ちてきた弾倉をキャッチすると同時に高くなってく銃に投げてセットし、始めに投げた銃をキャッチして4km先にバラバラに設置されてた的の眉間を正確に撃ち抜いてまた同じように投げて…って、しばらくやったと思う。一連の動作はずっと同じ場所で黙々とやってた重三だけど、今度は走ったり転がったりジャンプしたりして、どの体勢でもできることを見せてたと思う。最後は念力で作って宙に並べた複数の弾を思い切り蹴って、1km先の弾の眉間、目、肩、胸、脚、膝を一度に撃ち抜いていって、それを踊るように繰り返してったと思う」

「想像するのは難しいかもしれないわ。それほど常人離れの超人的なことをしていたんだもの。そこにいた全員を唖然とさせてたわ。深琴のやったことも唖然としたけれど」


重三の銃は特殊で一種のレールガンのように、火薬で弾丸を飛ばすものではないため、念力で弾を作れば、周囲に弾となる素材があれば弾切れすることはない。重三の超能力といえば銃弾を作ることに特化しすぎて、他のことは平均以下ほどしかできないくらいだった。


「ううん、対してみことのできることと言えば、宇宙からちょっと大きめの石ころを引き寄せるだけで、辺り一面を吹き飛ばすことしかできなかったと思う。重三の技術が羨ましくって、格好いいって思って憧れたんだと思う。ずーっと重三のことを考えちゃって、好きだって思ったのは任命式から半年経ってからだったと思う。でもその後思いを伝える勇気がでなくて、5年が経った夏休みに勇気を出して告白しようと渋谷でプレゼントを選んでたときにばったりあったと思う。それからしばらく一緒に見て回って、『誰へのプレゼント?』って聞かれて、『…久和くんへの』って答えて、その勢いで告白したと思う」

「ちなみに、深琴さん。告白したときは、何て言ったのでしょう?」

「『みことは、久和くんのことが好きだと思う!』だったと思う。…すっごく恥ずかしいと思う。綾埜はなんていったと思う?」

「そうですね…私は、『綾埜は淵邇朧様のことをお慕いしております!どうか、婚約者を決められる12歳になる前に、私と婚約してもらえませんか』でした。たしかに恥ずかしいですね。翠沙さんはどうなのでしょう?」


それまでうんうん、と聞くだけだった翠沙は唐突に話をふられ、すこし動揺しておもわずボロがでそうになるが、ぎりぎりで圧し留まる。


「ほ、ほら私は相手から告白された人だから、自分から告白したことはないんだよね」

「そうなのですね。なんと言われたのですか?」

「んー、『結婚するか、翠沙』だったかな」

「短いですね…そう言えば深琴さんと久和さんは婚約者でしたよね。婚約のきっかけとかはあるのですか?」

「みことも綾埜のように12歳で婚約者を決められると思う。でもみことは重三が好きだったから反対して、家出をしたと思う。でもすぐに見つかって連れ帰られそうになって吹き飛ばしてやろうかと考えたけど、そこに駆けつけてくれたのが重三だったと思う。告白したときは『星柳のことは仲間として好きだけど、ごめん、いまは任務に集中したいからそういう目線ではまだ見れない』って答えた重三だけど、『深琴の婚約者なら俺がなる!文句は言わせねぇ、文句があるならかかってこい』って言ったと思う。すっごくすっごくカッコよかったと思う」

「あの溺愛ぶりは、そうしてできたのね」


深琴の婚約者候補としてリストにあった重三はスムーズに縁談が進んだという。その時実力を測ろうとした先先代の星柳(せいりゅう)である深琴の父親と戦い勝利している。途中ガチになったのに差が埋められなかったというのは本人の言葉だ。


「…そう言えば千利」

「なにかしら」

「いまは白虎の正当後継者のことを知らないみことたちだけど、任命式のときはいたと思う。千利は覚えてると思う?」

「…そう言えば……いたわ。仮面をしていて顔はわからなかったけれど、確かにいたわね。声も喋らなかったからわからないけれど、動きは…いま思えば、凄さで言えばもしかしたら重三のよりも凄かったかもしれないわ。あのときは地味すぎて分からなかったけれど、そうよね、衛星映像と詳しい座標だけで、対象を目視もしないで何百km先でも弓矢で射抜くのは並外れたものだったわね。重三の派手さで影が薄れていたけれど…髪…髪の色はなんだったかしら」

「派手さで言えば千利も大概だったと思う。髪の色……たしか、すっごく薄い色だったと思う。薄い水色か…し―」

「―ん、あっちは終わったみたいだからこっちもここまでにしよっか」


と、男性陣の唇見てそろそろ切り上げるか、という言葉を読んだ翠沙が話の流れを制止する。次の目的地は遊園地、だったか。

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