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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
フーガ
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遁走曲

目が覚めれば、翠沙の影は無かった。ただ、大量の日記だけが消えていた。

夢だったのだろうか、と瑠璃也は目を擦りながら起き上がる。

だが、ふと、違和感があった手首を見やれば、そこには白い、糸のようなもので作られたミサンガがつけてあった。

しかし、それは糸ではなく、髪の毛だ。と、そう、瑠璃也は直感する。勘じたのではなく、感じた。

生糸のような、シルクのような、翠沙の髪の毛だ。それを、アクセサリーとして瑠璃也に施したのは誰だと、予想するまでもない。


「ははっ…さて、次の目的地に向かう準備でもするか」


と、瑠璃也は久和達を迎えにいく。


「そうか、翠沙ちゃん…『月の使徒』と、話したのか」

「結局、元に戻す方法は分かっても実践できるものじゃなかったんだがな」


久和達に昨日の事を話し、瑠璃也達は次の目的地、南極に行くための準備を進める。

防寒具、武器、救命具、移動手段。移動手段は、鯨船を使うつもりだった。

財閥のダイオウクジラは、少ない数ながらも行方不明になっている個体がいるが、瑠璃也個人が保有しているダイオウクジラは、真心込めて育てたからか、頭脳に抜きん出ていた。そのため、まだ連絡は取れた。それを使い、南極へと向かう予定だ。


「長期的な食料、服、その他もろもろ……よし、忘れ物はないな」

「確認した。それでは、待ち合わせ場所へと向かうぞ」


こうして瑠璃也達は、大きな収穫を得ながらも、更なる情報を得るために南極へと向かう。もとはといえばこのパーティーも、翠沙を取り戻す方法を探すために組まれたものだが、南極では何が得られるのか。

それは、瑠璃也でも勘じることはできなかった。




瑠璃也は久しぶりに会ったダイオウクジラを労い、月の大地へと降り立った。

ダイオウクジラも久しぶりに会えて嬉しいようで、

『キュルルルル』

と甘い声を出していたほどだ。その様子からも、瑠璃也は軽く、罪悪感に苛まれる。


「さてと、とりあえず南極大陸…というよりもう月なんだっけか?に、降り立てたわけだが、何もないな。気温も10度くらいと、肌寒いくらいだし」

「侵略は進んでいるといっても、星同士のあれこれの意味なんて僕たち人間には分からないですからね」

「隕石でも落とすと思う?」


と、何についても隕石を落としたがる星柳だが、この場合、それはそれでいい案かもしれない。

そう考えた瑠璃也は、軽く考えた末に、許可した。それに対し星柳は


「大丈夫だと思う。最近、なぜかは分からないけれど、ただ放出するだけじゃなくてきちんと制御しなきゃ完璧とは言えないって思ったから、衝撃は伝わらないと思う」


なぜかは分からない、ということは、それだけ影響するなにかが無意識に起こったということだ。この場合、瑠璃也は思い当たる節がある。

この世界は繰り返している。前回、前々回、それより前と、影響するものはいくらでもある。


「んーっと、よいしょっと、と思う」


星柳が手を上げ、なにかを探る動作をした後にそのなにかを見つけたのか虚空を両手で掴み、それが重い物なのか、腰を落として、腕を振り下ろした。

その一連の動作に瑠璃也、久和、桐谷は嫌な予感がした。それはもう、10度の気温どころの寒さではなく、背筋に液体窒素を流し込まれたように、悪寒がした。


「な、なにを落とす気なんだ?」


思わず、久和がそう聞いた。それに星柳は、誇らしげに答えた。


「小惑星だと思う」


天災だ。天才ではない。天災だ。瑠璃也達はそう思った。

急に迫った命の危機に、それも身内が無邪気にもたらした命の危機に、瑠璃也達は何か安全な逃げ場は無いかと周囲を見渡すが、下手に進んで、月の大地の、おそらく中央付近にいるためにすぐには逃げられない。

万事休すかといよいよ諦めた末に、だが、天を仰ぎ始めた故か、それに気づいた。


「もう落ちてくると思う……?」


ゴウゴウと音をたてて落ちてくるはずのそれは、雲を突っ切り姿が見えるかという寸前で、軌道を逸らした。

その光景を見た久和と桐谷は瑠璃也を見るが、いまの瑠璃也にそんな力はないどころか、超能力が使える一般人程度も使えない。そのため、俺じゃないと首を振る。もちろん、私でもないと星柳も首を振っている。

では誰なんだとまた上空を見れば、軌道を逸らした小惑星の隕石は空に8つ浮かんでいる星――月の1つへと向かって、飛んでいった。

代わりに、何か小さいものが…いや、相対的に見て、だから、普通に見ればそれは空から落ちてくるには十分大きいものだ。それは雲を突っ切って、瑠璃也達の目の前を目指して落ちてくる。大きさは、人と同じくらいだが……よく見れば、人のような形をしていなくもない。

と観察をしていた瑠璃也達だが、流石に、地につくまでずっとその正体が分からなかったわけでもなく、高度500mくらいまでくれば、流石に何が落ちてくるかは分かった。

それは、人のようなもの、でもなんでもなく。人だった。


「間に合わないと思うの!!」


星柳が受け止める準備をしようとするが、星柳は本来、精密なコントロールが得意ではない。最近では練習し、自分で作った衝撃によって被害が出るということが無いようにしているが、それも準備時間がなければ出来ない。

助からない、と思い、諦め、墜落の衝撃に目を瞑った。だが、瑠璃也達に予想外のことが起きた。

咄嗟のことだから仕方のないことかもしれないが、よく考えれば状況的に、隕石が軌道を逸らした直後に、逸れた地点(といっても空中だが)から人が落ちてくるということは、その落ちてきた人は、ただ者ではないということだ。

まぁ、仕方がない。どちらにせよ、目的は果たせた。瑠璃也が直勘した、南極大陸に行く理由。その人物に、こうして会えた。


「やれやれ、骨が折れる。この馬鹿どもめ、小惑星なんぞ落としてどうする。(わし)が防いでなければ、お前ら、月を刺激した上世界を滅ぼしていたぞ」


と、骨が折れると言っても遥か上空から落ちてきたのにその様子がない、この人物に瑠璃也は、心当たりがあった。その、声、口調、そして、豪快、豪胆さ。

行方不明となって、この何億回も繰り返す世界で、その尽くで死亡報告がされる人物。それは――


「じっ……じっちゃん…?」

「久しぶりだな、瑠璃也。少しばかり見ないうちに、大きくなって」


黒藤瑠璃也の祖父にして、黒藤和也の父。直接の血のつながりはないが、瑠璃也が目標としていたその存在。

――黒藤竜也、その人であった。

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