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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
フーガ
40/131

遁走曲

「で、お兄ちゃんは『月の使徒』を元に戻すためにここにきたんだっけ?」


『黒』がこほん、と咳払いをし、話と雰囲気を元に戻す。


「あぁ、そうだ」

「そっかぁ…――百回目のあの出来事を覚えているっぽいからこのまま逃げると思ってたんだけど、やっぱ余計なこと言ったかなぁ――でも、ここにはそんな大層なものなんてないよ?」

「……?いや、無くていい。いつかたどり着けば」


途中小声でなにをいっているか分からないところがあったが、瑠璃也は疑問に思いながらも答えた。その答えに満足したのか『黒』は


「なるほどね~。流石はお兄ちゃんだ」


と、歩きだす。瑠璃也は久和達と目配せし、着いていっても問題ないと判断した。




「私達の目的はこれ」


『黒』達が指し示したのは、虚空に空く、黒い穴だった。瑠璃也はそれに、見覚えがある。以前、翠沙が空け、そして入っていった穴だ。


「これは月に繋がっている穴。そして、月が手先を送る手段なの。同じものが世界各地に散らばっていて、一番大きいのは南極のかな。一番最初に空いたのも南極」


瑠璃也はなるほど、と思った。だから、最初の侵攻はどの世界でも南極からだったのか、と。


「これを閉じるには強い念力、まぁ、強い質量、重力が必要なの。本当は私達がやろうとしてたんだけど、時間がかかるからね。星柳さん、頼んでいい?」


聞かれた星柳は、瑠璃也ではなく、久和の方をみて、


「良いと思う?」


と聞いた。このパーティーのリーダーは瑠璃也だが、星柳は久和の方に信を置いているようだ。まぁ、長年の付き合いというものだろう。


「深琴、頼まれてやってくれ」

「分かったと思う」


そう返事をしたと思えば、穴の方に向き、念力を込めた。少しばかり時間がかかるとみたのか、桐谷が『黒』に質問をする。


「軽い質問ですが、いいですか?」

「ん、いいよいいよ。いまは機嫌がいいからね。次は絶対ないし、大概のことなら答えちゃうよ」

「そうですか。では、なぜ『黒』さん達がやると、時間がかかるのですか?」


次は絶対ない。これの意味も気になったが、桐谷はひとまず、最初の疑問を口にした。


「私達はね、お兄さん。お兄さんと同じように、超能力の絶対量が多いわけじゃないんだよ。超能力の絶対量を超能力量と呼称して例えると、そこのお姉さんの超能力量を百としたとき、私達は一くらいだと思ってくれて良い。一般人が三、一般の兵士が四くらいで、四聖獣の仮後継者達のような熟練兵が六だとすれば、そこのお姉さんが凄いことがわかって、私達の程度も分かりやすいよね。でもこれは感覚的なものであって例なんだから、絶対そうって訳じゃないよ。まぁ、要するに、私達の超能力量は一般人よりも少ない。あの穴は、ずっと質量をかけ続けていないと直ぐに回復するどころか、反動で逆に大きくなっちゃってさ。ほら、南極の穴が今一番大きいっていったけど、あれはどっかのお馬鹿さん達が水爆なんてものを撃ち込んだせいで、反動でおっきくなったわけ。そんなものをこの四人で閉じないといけないし、一人は周囲の見回りをしなきゃだから、三人でやるわけなんだけど、同時にやればスタミナ切れを起こしてね。だから一人少しずつローテーションで長い時間をかけて、重力もかけ続けるってわけなの。つまり、めちゃ時間かかってめんどい」

「なるほど、そうですか」


桐谷は、自身の超能力の絶対量――『黒』の言葉を借りれば、超能力量を『黒』達に見破られていることにすこしぞっとした。だが、それでももっとぞっとしたのは、桐谷と同じように超能力量が少ないのならば、桐谷すらも気づかないほどの気配を消す能力は、どのようにして成しているのか。


「どうして僕達の背後を取れたのですか?臨戦態勢ではなかった重三君はともかく、僕は常に周囲を警戒しているつもりなんですが」


これは答えてくれそうもない質問で、ある意味賭けだった。だが、意外にも『黒』はその質問に、答えた。機嫌が良いというのは控えめな表現だったようだ。


「それは、お兄さんがやってることと同じだよ。ただ、その練度が違うってだけ。お兄さんは、さっきの超能力量っていう表現をそのまま使うと、超能力量が普通の人より少ないでしょ?だから、効率を求めた。超能力者ってさ、自分より超能力量が多いひとがどのくらい自分より多いってのがよく分かって、自分より少なければみんなおんなじ量に思うわけじゃん?超能力者同士で無意識に発信してる電波的なやつ。私はお兄さんが私達よりも多く感じる。つまり、お兄さんは自分より弱い反応に、反応できなかっただけだよ」


なるほど、一応説明はつく。だが、自分以上の才能を持ち、自分以上の努力をしたものなど、居るのだろうか。


「その実力に至るためには、どれ程の才能と努力があったのですか」


それを聞いた『黒』達は、一斉に桐谷を見た。実際はそんな気がしただけだったが、桐谷は地雷を踏んだと思った。だが、それは気のせいだったようで。


「そっか、忍者のお兄さんには分かっちゃうのか。私はね、忍者のお兄さん。残念ながら、才能はこれっぽっちもなかったんだよ。だから私達は、忍者のお兄さんよりも長い時間、何倍も何十倍も努力をした。ただそれだけだよ。忍者のお兄さんなら、すぐに私達を越しちゃうんじゃないかな。応援するよ」


初めて、『黒』達から敵意がなくなったと感じた。同時に、瑠璃也以外の全員に対し、明確な敵ではなくなったと確信した瞬間だった。なにをきっかけに『黒』達がそうしたのかは分からないが、桐谷はそれは、推し量れるものではないと、それも同時に確信したのだった。

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