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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
フーガ
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遁走曲

「どんな状況なのか、理解した。だが、さっぱりだ……」

「僕もあらかたの機密を知っていますが、そこまでは知りませんでしたし…」


瑠璃也は嘘も隠すこともなく、ありのままをありのままに言った。この世界は繰り返していること。少しずつ変わっていること。前回の記憶を保持していること。ウイルスのこと。逃げた動機とその後のこと。月のこと。瑠璃也自身のこと。翠沙のこと。緋音のこと。『黒』のこと。知っていることを、全部。

それを久和と桐谷は、静かに聞いていた。何も言わず、静かに。


「とりあえず、当面は翠沙ちゃんを探しにいかなければならないってことだろ?」


瑠璃也の話を聞いていたのか聞いていなかったのか、要は、と久和がまとめる。しかし、その表情は険しい。


「難しいぞそれは…なんてったって、俺達はここの防衛を任されていてな…」


瑠璃也は、その返事をある程度予想していた。それは、福見と呼ばれた男の久和を見る目が尊敬と信頼で満ちていたからだ。故に、瑠璃也はあまり期待していなかった。


「しかし、そろそろ僕達に頼る体制も改めなければならないのも事実です。僕達に何かあったらすぐに崩壊してしまうのが現状ですし」

「……それもそうだな。俺らに支えられたものはきっと脆い……よし、引き継ぎをしたら瑠璃也、お前に着いていこう。その代わりといっちゃなんだが、引き継ぎを手伝ってはくれないか?」


だが、瑠璃也の期待は良い方に外れ、久和達は協力してくれるようであった。代わりに引き継ぎを手伝うというのは、瑠璃也にとってみれば願ったりだ。これでも瑠璃也は、黒藤財閥の当主としての役割を担っていた実績もある。引き継ぎにそう時間はかからないだろう。




「長らく…長らくお世話になりました!!皆さんお気を付けて、お元気で!!」

「お前らも、しっかりやってけよ…!!」


引き継ぎを済ませ、戦闘方法も教え込み、ついにこの日がきた。

男泣きをし見送る一同。最初に顔を見知った福見を始め、瑠璃也と短い期間であったが決して浅くはない関係を築いた者達だ。久和も久和で、つられたのかそれが久和の泣きかたなのかは分からないが、男泣きをしている。その背中を、今回、瑠璃也に同行するという仲間の一人、星柳深琴がさすっていた。

瑠璃也の記憶の中で現在確認できている四聖獣正当後継者は、朱雀の正当後継者、守朔千利。玄武の正当後継者、源武国。青龍の正当後継者、星柳深琴。そして麒麟の正当後継者、久和重三だ。この数億回繰り返している世界で、白虎の正当後継者のみが出てきていない。久和、桐谷にも聞いてみたところ、一度も見たことがないどころかいるかどうかも分からないという。それは、星柳に聞いても日本国の成田首相に聞いても同じことだった。まだ、白虎(びゃっこう)だけが名乗り出ていないという。


「最初の目的地はどこだっけか」


久和が問う。瑠璃也達は引き継ぎをする間に、旅の目的地を色々と絞り込んでいたのだ。それなのに、久和は忘れたという。恐らく確認の意味が強いのだろうが。瑠璃也は頭にきっちりといれた旅の道順の、最初の目的地を言う。


「ここから北にある聖地、白神山地だ」


瑠璃也の記憶では、白神山地からもウイルスに侵食されたもの達が出てきていた。この世界では白神山地から出てきてはいないが、それは繰り返して百回目のこと。数億回繰り返し、その記憶を詳細に覚えているわけではないが、その百回目のことは覚えていた。

――世界が、最も凄惨な終わり方をした。阿鼻叫喚の地獄絵図の野放図に。

覚えている。空は暗雲が支配し、地は憤怒、傲慢、怠惰、嫉妬、色欲、暴食、強欲が支配した。敵はウイルスなどではなかった。そんな生半可に生易しいものではなかった。人間だった。その時の最大の敵は、自分以外の全人類。いや、自分を含めた全人類だ。気を緩めればその強い衝動に支配され、道を歩かずとも、なにをしてでもその衝動に支配された人類に襲われる。それは地獄といっても、それでも有り余る凄惨さだった。それに比べればまだこの世界は、逃げやすい環境だった。その百回目の記憶を鮮明に覚えているからこそ、瑠璃也は絶望し、惨めに遁走し、一矢報いるために奔走するのかもしれない。次へ繋ぐために、と。




瑠璃也達の旅路は、それは楽なものだった。なにせ、人がいない。移動手段に車を選べば、守る法律も関係なしに最高速度を出せる。事故が起きる対象がないのだ。瑠璃也も、そうやって日本へ帰ったのだ。食料といえば、少人数の自給などそこら辺に生える菜肉を採れば問題ない。燃料が切れれば乗り換え、燃料が切れれば乗り換え、燃料が切れれば乗り換えを繰り返して群馬から白神山地へと向かった結果かかった時間といえば、三時間もしなかった。ついでに言えば、食料補充もしなかった。必要なかったほどだ。

現代の日本には、沖縄から北海道まで、脊椎のように通した道路がある。それは地上三十メートルにあり、これを走れば沖縄から北海道まで最短時間でいける。

とはいえ、人がいないと言っても車が放置されてないわけではない。逃げ惑い、結果殺され犯され操られるものであろうとも、それは生物に対してであり、機械を月のウイルスは犯せない。あくまでも、その文明は月への献上品だ。故に、その高速―南北端高速道路、通称なほた高速には、いや、なほた高速に限ったことではなく全ての道路において投棄された車がそこら中に散乱し、進路の邪魔をしていた。超能力を使えない今の瑠璃也が一人で日本へと帰るときには避けるしかなかったそれは、同行者に星柳深琴がいることによって、解決する。

日本が襲撃されたときに、南北端高速道路も道路の一部が崩れ落ちるということも、多々あった。故に一般道を通るしか先へ進めないはずだ。それも同時に、星柳深琴が解決した。

彼女が操るは、重力。そこらに投棄された車は、瑠璃也が走らせる車に近づいた片っ端から、磁石の同じ極同士を無理やり近づけ、片方の手を離すが如く。どこかへと飛んでいった。それはとても小気味の良いもので、瑠璃也も眠気覚ましにしていたほどだ。途切れた道も、道中重力を緩和し、最高速度以上の速度を出していた応用で、一瞬だけ浮かせれば解決した。だが、小さいもの、軽いものならともかく、一台の車を継続的に浮かせるには相当な計算を必要とし、空中を走るということは出来ず、更なる時短は望めなかったが、とりわけ急ぐ理由もなし、最高速度以上の速度を出すのも必要のないものだったのかもしれない。だが、急いだ結果、こうして巡り会うことができたのだ。


「『黒』」

「あれ、どうしてここに居るの、お兄ちゃん(・・・・・)?」


『黒』を構成する一人だった緋音はもう、完全に亡きものとなったはずだが、それでも、『黒』達から呼ばれるお兄ちゃんという言葉にドキリとしてしまう。緋音が死んだと分かっていてもやはり、この『黒』という集団を構成する人物達全てに親近感を(いだ)くのが原因だろうか。


「翠沙を元に戻す手がかりを探しにきた」


それは聞いた『黒』は、ふむ、と考える素振りをする。瑠璃也達には聞こえ無かったが、「これは予想外」という言葉は、どういう意味だろうか。


「まぁ、それはそうと、後ろで構えているお兄さんを下げてくれないかな?」

「―っ!?」


いつの間にか、桐谷が『黒』の背後でナイフを構えていた。それに目もくれずに、『黒』は瑠璃也に言う。


「お兄ちゃんが仕向けたんじゃないってことはわかってるからさ。このお兄さんも癖なんだと思うし、今回は見逃してあげる。だけど、私達の基本方針は、やられたら徹底的にやり返す。それを――」

「忘れないでね?」

「気を付けてね?」

「というわけだよ」

「なっ!」


これには桐谷も、久和も、星柳も驚いていた。いつの間にか、『黒』が増え、それが自身の肩にナイフを置いていたのだ。久和は、絶対に敵にしてはいけないと本能が警告する。星柳は、地上をまっさらにすれば良いだけだが、久和がいるためにそのような行動は起こせない。対し、桐谷だけは、霧夜だけは、これは瑠璃也以外の存在に対して、明確な敵だと判断した。そして、自分では勝てないとも。

「というわけだよってなに」

「いや、あの流れは…」

「やめてって言ったよね?」

「…はい」

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