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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
カプリッチオ
31/131

狂想曲 end

◯◎●

『――被害者は黒藤緋音。車で移動していたところ襲撃され、誘拐、殺害されたと検識の結果、明らかになりました。警察は調査を打ち止め、犯人も明らかになっておりません』


そんなニュースがテレビから流れた。

翠沙は驚愕に顔を染め、テレビを凝視している。

だが、瑠璃也はずっと無表情で翠沙を見ているだけだった。

翠沙が体を震わせ、瑠璃也に言う。


「る、るーくん、あ、緋音ちゃんが、緋音ちゃんが……緋音ちゃんが!!」


呂律も上手く回らない様子であった。とてもあの白江翠沙だとは思えないほどに、動揺していた。だが、対象的に黒藤瑠璃也は、変わらぬ表情で、変わりなく翠沙を見つめているだけだった。そんな黒藤瑠璃也が、口を動かす。


「だからどうしたんだ。俺は翠沙を、翠沙だけをまもる」


翠沙は何を言ったのか理解できないと、もう一度、聞き返す。


「な、なんて、なんて…なんて言ったの…?」

「俺は翠沙だけをまもる。そう言ったんだ」


今度ははっきりと、その言葉が脳の奥、心の奥まで届いた。

瞬間、血が、頭が、心が、沸騰した。昇華した。

もちろん、比喩的な意味でだ。ただそれほどに、目の前が赤く染まった。


「貴方は誰!るーくんを何処にやったの!?私だけじゃない、緋音ちゃんにも愛を向けていたるーくんをどこにやったの!!」

「俺は黒藤瑠璃也だ。俺は何処にもいってないぞ?」


自分でもなにをしているのかがわからない。感覚がない。なにかに支配されているようだ。

おかしかった。何もかもがおかしかったんだ。瑠璃也が転移できることだって、創造できることだって、緋音の死に動じないないことだって。

――私にだけ愛を向けていることだって。

何もかもがおかしくて。何もかもが可笑しかったんだ。


「ふざけないで!!」


と。翠沙は鉄格子を消し、黒藤瑠璃也の頬をひっぱたく。

これには黒藤瑠璃也も予想しておらず、何が起きているのか理解できていない様子だった。だが、それに構わずに翠沙は叫ぶ。悲痛な叫びを。報われないと。悲難の独白を。


「ふざけないで!!緋音ちゃんがどんな気持ちで暮らしてると思ってるの!!どういう覚悟で代わったと思ってるの!!私のためなんかじゃない、るーくんの幸せを願って役目を引き受けたのに!!それなのに!!!るーくんは都合よく忘れて!!るーくんだけが都合よく忘れて!!私達がどんな思いで、どんな想いで!!それなのにるーくんは緋音ちゃんが死んでも何も思わずだからどうしたって、ふざけないでよ!!自分だけが被害者だって思わないでよ!!自分だけが辛いんだって思わないでよ!!るーくんよりも!私よりも!誰よりも!!緋音ちゃんが、緋音ちゃんが辛いんだ!!苦しいんだ!それでも耐えてるんだよ!!るーくんが幸せだったらいいって、耐えてるんだよ…笑顔で受け入れてるんだよ…私が、私が――――」


あぁ、やってしまった。こんなはずじゃなかったのに。悪いのはるーくんじゃなくて。他の誰でもなくて。私、なのに。

●◎◯


最後の方はよく聞き取れなかった。私が、私がの先だ。

翠沙が何に対し怒っているのかがわからない。

いや、分かっている。分かっているつもりだが、正確なところがわからないのだ。

きっと、緋音の死をどうでもいいと言った俺に対し怒っているのだろう。その発言が怒りの原因だろう。だが。

だが、翠沙はもっと、別のことに対し怒っていた――ような気がした。それがなにかはわからない。分からないが、激昂していた。憤激していた。激怒していた。憤怒していた。――後悔していた。

荒れた呼吸を整えた翠沙は一言、ごめん、と。私が怒る資格なんてないのに、と先ほどまでの気迫が嘘だったかのように戻り、牢屋にも戻り、膝を抱えてうずくまった。


それが翠沙との最後の会話で、最後のやりとりで、最後に見る感情だった。




「懲りないな、奴らも」


襲撃者が来たようだ。それも単身で乗り込んでくるような。自殺願望者だろうか。


「ごめんな、翠沙。行ってくる」


そう、黒藤瑠璃也は立ち上がり、城を出る。そいつは、堂々と。そこに、立っていた。それを認識した瞬間、綺麗な軌道で眉間へと向かってくる弾丸を、目視(・・)した。

それを首を曲げ、避け、そして。眉間に穴が空いた。そして寸分違わずもう一発、弾丸が入り、最初に眉間に穴を開けた銃弾が貫通する。同時に、胸には風穴が空いた。撃ち込まれた一発の弾丸は裂け、杭となって胸を貫いたのだった。

それは一瞬のことだった。治るのも一瞬のことだった。

黒藤瑠璃也は弾丸を撃ち込んだ者の顔を、見る。弾丸を撃ち込まれた時点で予想していた人物に違いなかった。


「よぉ瑠璃也!!久しぶりだなぁ元気にしてたか?」


久和重三。個に対し、世界最強と言われる、四聖獣部隊の1人。"麒麟"の久和重三だった。

その実力は黒藤瑠璃也がその銃弾を身に受けた通りに、疑われることはない。

千の武器を自在に操る四聖獣、守捉千利でさえも、本気で殺しにかかってすら、勝てなかったのだ。

だが、それでも。


「あぁ、見ての通りだ」


黒藤瑠璃也は怪物だ。脳に銃弾をぶちこまれようが、胸に風穴が空こうが、すぐに治る。麒麟でも、いくら麒麟でも、黒藤瑠璃也を相手にしては勝ち目がない。撃ち込んだ銃弾は意味を為さず、だが相手の攻撃は強大なものだからだ。

黒藤瑠璃也は前回同様、ブラックホールによる面制圧で一瞬で勝負をつけようとした。だが、それは失敗に終わった。


「させねぇよ」


弾丸が眉間を貫く。まるで追尾してきているかのように、正確に避けたはずなのに貫かれ、ブラックホールを作るために演算していた脳が一度破壊され、プロセスも最初からになる。

久和重三は勝てない。ただ、ただではやられるつもりはなかった。ただで殺られるつもりはなかった。

黒藤瑠璃也は知らないことだが、久和重三の婚約者が四聖獣、星柳、星柳深琴で、黒藤瑠璃也が彼女を殺したという事実に久和重三がどれほど怒り、どれほど哀しんだのか。


「ただでは死なねぇ。ただでは殺されねぇぞ」


久和重三は復讐者だった。

殺しにかかっていたのだから、殺される覚悟もなければならないはずだ。それは久和重三も分かっている。

だが、そんなもの、久和重三には関係なかった。知ったことではない。

故に、ただでは死なんと。殺られんと、久和重三は人工島大和に立っているのだ。

かつての親友同士が、殺意でもって。狂気でもって、対峙する。

人類の敵。絶対悪となった黒藤瑠璃也が思うのは、なぜだろうという疑問だ。


どうしてこんなことになったのか。なぜこんなことになっているのか。

どうして俺らは殺し合いをしているのか。なぜ殺し合うことになっているのか。

そんな後悔を、黒藤瑠璃也はしていた。


――わけではない。

久和重三が単身のりこんできた理由だ。

あの久和重三が勝算もなく乗り込んでくるとは思えない。復讐にくるのだとしても、わずかな勝算があって初めて、ギャンブルに持ち込むような性格だ。

黒藤瑠璃也との戦闘において、まず久和重三に勝てる確率はない。0%だ。四捨五入も小数点以下切り捨てでもなく、0%だ。逆立ちしたって勝てはしない。

だが、それでも久和重三は目の前に立っている。現在進行形で銃弾を撃ち込まれている。自身の実力を過信するたちでもない。

億分の一でも勝算がなければ勝負にはでない。そんな性格だと黒藤瑠璃也は知っていた。裏を返せば、億分の一でも勝算があるからこそ、勝負しているのだ、目の前の男は。

それはなんだ?俺に勝てないと分かっていても、挑む理由が。銃弾を撃ち続ける理由が。時間を無駄にする理由が――時間を無駄に?まさか!!

黒藤瑠璃也はそれに気づいた瞬間に焦ったように城へと戻ろうとする。が、それを許すはずもなく、脚に数百発銃弾が入り、再生する端から破壊される。


「させねぇっていってんだろ」


転移しようとするが、それも無意味だった。転移するため脳が演算し、破壊され、発動するまえにリセットされ、演算し、破壊され、発動するまえにリセットされ、演算、破壊され、発動するまえに――

黒藤瑠璃也は辞めた。目の前の男に構うのをやめた。

黒藤瑠璃也の勘は、相当鈍っていたようだ。瑠璃也だったならば、すぐに閃き、すぐに戻ったというのに…いや、それどころか城から出はしなかっただろう。まもるべき対象から離れるという愚を犯さなかっただろう。

黒藤瑠璃也は死んだことにも構わず、久和重三へと詰め寄る。単純に肉体の力で、久和重三を殺す。


「こん…の!!」


久和重三も負けてはいないが、それでもしばらくすれば意識を失い…。


「瑠…璃也……。俺、の……親…友―――」


――窒息して死んだ。

それを感慨もなく罪悪感もなく確認した瑠璃也は急いで、瑠璃也は(・・・・)急いで久和重三の亡骸を浮遊させ、城に戻る。

翠沙のいるもとに。翠沙がいるとこに。翠沙が、翠沙が――


――血濡れで倒れていた。


それは、綺麗だった。人を1人殺すために必要な傷が、即死できるほどの致命傷が、ぴったり1人分だった。鮮やかな殺害だった。

幻想的で美しく、血濡れでなければ眠っているかのように、死んでいた。息はない。だが苦しげもなく、安らかに、穏やかな顔で、死んでいた。

黒藤瑠璃也は呆然と、それを見た。近寄った。


――殺された。再生した。


「本当に化け物ですね」


もう一度、殺された。再生した。切り落とされた首が離れるまえに傷口が塞がる。まるで首が刃を飛び越えるように。

忍者一族で最強のこの男。黒藤瑠璃也でも感じ得ないその隠密性は、どこからくるのか。その男――桐谷(きりや)遠士郎(とおしろう)、本名を、霧夜(きりや)淵邇朧(えんじろう)は、密着するほどの近さで、背後に立っていた。

今度は背中を蹴り跳ばされ、翠沙の血に濡れる。


まもり、きれなかった。まもり、きれなかった。まもりきれなかった。守り、護りきれなかった。まも護りきれなか守りきれなかった


――守護(まも)りきれなかった。


――ざまぁみろ。一度失敗した奴は二度失敗する。


「それではおさらばです。黒藤瑠璃也さん」


胸に小太刀が生えた。それもまた、除去され、再生する。

霧夜はそれを見届け、やはり自殺した。自殺も綺麗に、ぴったり1人分、致命的で即死できるものだった。

黒藤瑠璃也もまた死んだ。

そして生き返った。


「う…うあ、うあぁ…うあああぁぁぁあぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」


瑠璃也が、生き返った。

慟哭。悲嘆。哀傷。悲鳴。

それは、地球の嘆き。

無意識に、瑠璃也は最後の能力を使う。

麒麟、久和重三の死体。

忍者一族最高戦力、霧夜淵邇朧の死体。

そして、最愛なる白江翠沙の死体。

それら全てが極光に包まれたのだった。


□□□

「この光…壊せたのか」


全てが等しく消え去る中で唯一、その存在だけがそれを免れていた。その存在の影は、影というには不釣り合いなほどに、白かった。

そしてその影は、その肉体に見合わぬほどに大きく、獰猛で、ただただ、優しかった―――


狂想曲end カプリッチオ

次章 遁走曲、6月から更新です。ツイッターである程度は先読みを更新してますので、気になる方はそちらをご利用下さい。ユーザー名は中沢文人です。

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