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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
カプリッチオ
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狂想曲

柄作夏代のプライドは折れていた。粉砕されていたとも言っていいほどに。

自分の才能が、生涯誇っていた才覚が、それを伸ばすためにした努力が。全て。劣るものだと。それも、格段に。

折れていた。自分は劣るものだと。所詮代えでしかないと。――自暴自棄だ。

だがそれは、戦場では命取りだった。しかし、今の彼女はそんなことはわかっていると言うだろう。どうせスペアだった命。人生。失っても、問題はないと。

他者からの評価など、気にすることもないというのに。自分の価値を、信じきれずに。


柄作が先陣を切った。黒藤瑠璃也を中心に扇状に部隊は展開したが、両者睨みあっていたところだった。

だが、地球防衛連合軍から攻撃を仕掛けた。

柄作は五百の短剣を黒藤瑠璃也に向けて短剣を集中的に浴びせる。逃げ場など全方位を短剣に囲まれているためにない。

故に、前回同様黒藤瑠璃也は、動かなかった。加えて言えば逃げ場を更に無くしてみせた。

瞬間、柄作夏代の頭部が破裂した。

黒藤瑠璃也を滅多刺しにせんと念力で勢いよく飛ばしていた短剣が急に力が抜けたように地に落ちる。

瑠璃也は動かなかった。攻撃もしなかった。ただ、敵――柄作夏代の五百の短剣を、超能力(・・・)、複製によって、千へと増やしただけだ。

常人(・・)は五百もの短剣を、いや。五百もの作業を手足の数が足りる足りないに関わらず、同時には出来ない。

だが柄作夏代は複数の短剣を一、具体的にいえば十の短剣を一とすることで処理数を五十としていたのだ。それが柄作夏代の限界だった。五百本操るのにも頭の容量の限界で長時間続ければ頭が痛くなり、一本でも増やしたり他の事をすれば直ぐに意識がとんでしまうほどだった。

故に柄作は五百の短剣を操るとき、立ち止まって、体を動かさないようにしているのだ。

だがそんな限界に近いことをしている柄作の短剣を、そのまま2倍にすればどうなることだろう。

先ほど柄作の頭部が破裂したのが答えだ。

短剣の数を2倍にすれば、グループ分け出来ていない短剣が五百、出来上がる。それゆえに一瞬で容量を十倍オーバーし、(知恵熱で)発熱し、一瞬で脳が焼ききれ、脳漿、血液が蒸発、頭部が負荷に耐えられなくなり破裂したのだ。

要は――生物としてのリミッターを、越えてしまったということだった。それで生物としての原型をとどめていられなくなったということだった。


その一連の出来事をみて、守朔、守朔千利は警戒度を最大にした。

守朔のその能力の性質上、守朔の動体視力と処理能力は異質だ。故に先ほど起きた一連の出来事――黒藤瑠璃也がやってのけたことを目視して、理解できたのだ。

黒藤瑠璃也はまず、五百もの短剣を寸分たがわず、同時に破壊…粉砕した。限界近くだったところに、五十、破壊されたと一瞬で脳が認識した。これだけで柄作の脳にかかった負荷はかなりのものだった。そのはずだった。それで済むはずだったのだ。

次に黒藤瑠璃也がやったのは粉砕した短剣1つで2つを複製…復元。大きさは当然半分になるし、質量も半分になる。だが、それぞれが柄作の操る短剣なのは確かで、数は2倍になる。そう、脳が判断したのだ。

一度壊れたものを復元された。一度終わったと認識したものを復元された。

それは、グループ分けしてやっと操れたものが、グループを壊され、個々になったものをさらに増やされたということだった。

グループ分けして五十だったものが同時に五百になり、負荷はこの時点で十倍になった。それだけだったらまだ、脳が焼ききれただけで済み、青龍、生笠の対人治癒能力で回復できただろうが、グループ分けできていない短剣がさらに2倍になったことで負荷は単純計算で二十倍。

そして黒藤瑠璃也に掛かった脳への負荷は、復元によって、原子1つ1つを操ることによって、柄作の何京倍にも値した。そう単純な計算ではなくとも。

守朔は、黒藤瑠璃也が人智の及ばぬ、人外の所業をしたことを見抜いたのだった。

その点、流石四聖獣の正当後継者といったところか。瞬時にそれを全員に伝える。全て言い終える。言い、終える。


「全員全力で警戒して!そいつは最早人間じゃない!!―かッ…はッ!」


黒藤瑠璃也の注意を引けば当然、次の的にされるだけだ。

黒藤瑠璃也は知っていた。青龍、生笠杞未の能力、対人治癒能力を。故に治癒できないように殺すのだ。頭を破裂させた柄作然り、胴体が消えた守朔然り。

生笠がスペアとされていた理由はこの点だ。

人の限界を突破せし超能力。それを自由自在に操る四聖獣の正当後継者達が追う致命的な傷ならば、治すこともできない大きなものだからだ。

だが、それでも、と。生笠は守朔の傷を治そうとする。

その間にも黒藤瑠璃也は暴威を振るう。片手間のように振るう。

どこの国の部隊だろうか。あるいは複数の部隊だろうか。

雄々しく叫び咆哮し黒藤瑠璃也に特攻する。そんな彼らの声が、突如消え、そして。

――光さえも消えた。

――飲み込んだ。

急激な減圧…どころではない。地表が、地球が全て飲み込まれる。人工島大和に立っていたほとんどの人物が、飲み込まれていった。――突如として発生した、そのブラックホールに。


「あり得ないと思う!!あり得ないと思う!!逃げ、逃げないとと思う!!!"あれ"は人間の倒せる怪物じゃないと思う!!!!」


唯一飲み込まれずに済んだのは、四聖獣部隊の面々。ブラックホールの重力を、引力をある程度緩和できる星柳がいる、四聖獣の面々だった。それでも、100mくらい引きずられていた。源武、源武国が全員の前に盾を連続展開しなければ、完全に飲み込まれていただろう。

ブラックホールを突如として発生させた黒藤瑠璃也の実力の一端…氷山の一角を、星柳は見事に妨害できた。だが、それは全力だった。

全力で止めたはずのブラックホールは、星柳の全力では止まらなかった。そういうことだった。

太陽系の外からも隕石を誘引し地球に降らせることのできる星柳が、止められなかったのだ。黒藤瑠璃也との実力の差を一番感じている人物だろう。

加えて、周辺視野で海を見れば、一切荒れていない。あくまでもいつも通りに、波をたてていたのだ。

あれだけの重力を完璧に制御し、外部へと伝わらせないようにした。

それを理解した星柳は、心の底から恐怖し、倒れ、うずくまる。失禁しなかったのは出撃前にトイレにいっておいたおかげか。


「ごめんなさいと思うごめんなさいと思うごめんなさいと思うごめんなさいと思うごめんなさいと思うごめんなさいと思うごめんなさいと――」


スッと、星柳のなにかが切れたように、力なく、声もなく、倒れた。黒藤瑠璃也は依然として、一歩も動いていない。手も足も出したが、動いてはいなかった。


四聖獣の面々はその後、次々と、なにかが切れたように倒れたのだった。

幸いなことだったのは、恐怖を感じ、絶望を感じてなお、苦しみを感じなかったことだろう。

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