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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
エチュード
22/131

練習曲

「うわぁ…」

「こりゃひどい」


辺り一面血だらけのはずなのに、死体がいっさい見当たらない。異常な光景であったが瑠璃也には見馴れた光景でもあった。それはオーストラリア大陸で散々流していったものだ。主は違えど噎せかえるように周囲を汚染する濃厚な鉄と生臭い匂い。だが、やはりか。


「違うな」


そう、それは明らかに違かった。見馴れていたそれとは全く別の物だったのだ。同族のものというだけでそこには得体のしれず、形容できないなにかがあった。それこそ、百戦錬磨なはずの四聖獣隊のメンバーが嘔吐(えず)き、その隊長達でさえ顔色が悪くなっているほどに。


そんな中を瑠璃也達は進む。ピチャピチャと広がる赤い波紋を残して。




「――っ!?誰だ!!」


隊員の1人が叫んだ瞬間、部隊は一瞬で戦闘体勢に入る。その迅速さには瑠璃也も驚かされるばかりだった。そしてそれは相手も同じなようで。


「見つからないように去んないといけなかったんだけどなぁ」

「…子供?」


おどけたように姿を現すそれ。黒い外套を頭から被って背の低い全身を隠し、少女とも少年ともとれないような中性的な声でいつの間にかそこにいた。


瞬間瑠璃也は警戒度を高める。瑠璃也の索敵能力(・・・・)はかなり高いし、この百戦錬磨の精鋭部隊ももちろん高い。だが、それなのにこの至近距離まで気づけなかったのだ。それは瑠璃也の索敵能力よりも相手の隠密能力の方が高いということにほかならず、さらに物陰から出てきたというわけでもないことからなんらかの手段によって透明化か、認識されないようにしていたということで。そんなことができるのは超能力しかないわけで、能力者として最高峰の存在が集まっている瑠璃也側の人間が至近距離になるまで気付けなかったということは。その考えに至らなかった存在の結末は当然。


「大丈夫か?ここは危ない――ぞ?」

「―ー!!貴様!!」


その授業料は命でもって支払うことになった。子供に見えるというだけで不用意に警戒度を下げてしまった隊員は膝から崩れ、絶命する。それを見た隊員…親友かなにかだったのだろうか、激昂し、発砲。その弾は超能力によって加速されており、感情的な攻撃ではあったが効果的であった。ただ、相手が悪かっただけで。


「ぐ、ふ…」


戦場での一番安い授業料とは仲間の命か。ただ未知の敵に関して、多くの命が代金として支払われるということは確定的だ。それを見た瞬間、瑠璃也は頭を爆散させた。


何度も言うように、リミッターが外れた超能力者は脅威だ。超能力者として並々ならぬ才能を持つ瑠璃也であっても、リミッターの外れた超能力者というのは複数かかってこられたら厄介な相手だった。超能力とはリミッターを超えた能力を行使することだ。人間が課されているリミッターは2つ。人間としての体を滅ぼさないように課されているリミッターと、生物としての体を滅ぼさないように課されているリミッター。そして隊員達生きている側の人間が行使する超能力は、人間としての体を滅ぼさないように課されているリミッターを超えた能力のことだ。よってウイルスに支配され、死者の体でも動くものは初めから人間としてのリミッターが外れているということになる。そんな存在が行使する超能力は、何を超えた能力なのか。だが破れた風船に大量の空気を吹き込んでも膨らまないように。そんな巧い話があるはずもないが、人間としてのリミッターを超えた能力と生物として行使する能力。どちらか強いかは言うまでもないだろう。故に。


「あちゃー、やられたか」

「な、なぜ!」


瑠璃也は殺された2人の頭を爆散させたのだ。それに残念そうに声をあげるものと、信じられないと声をあげ瑠璃也を睨む隊員。だが瑠璃也はその隊員に容赦なく殺意を向けた。


「黙れ。俺らはもうウイルスに感染している。ウイルスの特徴は生きるものに感染し対象が死んだ瞬間に発症するというもの。全員覚えておけ。今お前らがやるべき最優先事項は、死なないこと、そして死んだ仲間の頭部を破壊し、葬ってやることだ」


それを聞いた隊員達は息を飲む。だが先ほど瑠璃也を睨んだ隊員のなかには、まだ燻るものがあるようだ。しかしまだ我慢ができないと発言するものが1つ。


「ねーもういい?こっちはもう帰りたいんだけど」

「早くしないとみんなに置いてかれちゃう」

「そうなると困る」

「ものすごく困る」

「だから帰っていい?お兄ちゃん」

「っ!!?」


下手に動くと一斉攻撃をされかねないことを理解しているんだろうか、瑠璃也を指揮官とみて指示を仰ぐ黒い敵。だが、瑠璃也はそれどころではなかった。敵は1つだけだと認識していた瑠璃也は、いつの間にか増えていた黒い存在に対し、ものすごく驚いていた。背丈と黒い外套は同じようだが、それぞれ声だけが違っているのが不気味さを増していた。瑠璃也は久しぶりに、驚いた。だからここで瑠璃也がとれた行動は1つ。


「…あ、あぁ」

「ありがとう。お兄ちゃん」

「ありがとう。お兄ちゃん」

「また今度ね。お兄ちゃん」

「またいつか。お兄ちゃん」

「また会える。お兄ちゃん」


敵が逃げることを許すのみだった。




「なぜ、見逃がした」


先ほども突っかかってきた隊員が瑠璃也を責め立てる。だが瑠璃也はいたって冷静に見返しその質問に答えようとしたのだが


「見逃したんじゃない。見逃してもらったんだよ」

「隊長!」


その質問に返答をしたのは白神だった。この隊員も白虎隊の隊員なのだろう。ブローチの色が目印なのかどうかはわからないが、ここにいる者の中で同じ形のブローチをつけていないのは瑠璃也だけ。さらにそのブローチは白、赤、青、緑と別れており、その中でも隊長のブローチは精巧な装飾が施されている。質問をしてきた隊長は白いブローチをつけていて、白神も白い凝ったブローチをつけているということから少し考えただけの推測でしかないが。


「何度も言うが俺らは死にに来たんじゃない。調査しに来たんだ。死にたいんだったら4時間前に死んでくれ」

「あー、瑠璃也はな。たぶん、お前らの実力を買ってるんだよ。自分でも気づけなかった敵に気づけたんだからな。でもそんなお前らを容易く殺す奴が敵だった。そしてそんな敵が複数いて、見逃してあげるって言われてたんだ。瑠璃也はお前らが殺されないために、見逃されたんだ」

「しかし隊長!」

「まだつっかかるか?俺でもあんな奴を複数どころか単体(サシ)でも相手にしちゃ生き残れるかわかんねぇってほどだったんだぜ?それでもつっかかるってんなら、確実に俺よりも強い瑠璃也よりも前に俺とやるか?あ?」

「っ!…申し訳、ございません」

「…余計なことを言うなよ」

「仕方ねぇだろ?」


舌打ちし、瑠璃也は顔を背けた。それにしても、と瑠璃也は考える。先ほど見た黒い外套を着た存在に瑠璃也は何故か既視感と親近感を覚えたのだ。何故かはわからないし、あるいは勘違いだったのかもしれない。だが何かしら思うところはあったのだった。それは最後に姿を増やした複数の黒い外套を着た存在全てに対して、だ。


その後、おかしなほどにこれといった敵影はなく、瑠璃也達は疑念を浮かべながらも撤退したのであった。

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