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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
エチュード
21/131

練習曲

「状況は!!?」

「被害は依然として拡大中!!原因は不明です!」

「んなことを聞いているんじゃない!!いまどこまで拡大しているんだ!」


普段は冷静沈着な瑠璃也をして大声を出している。それほどまで状況は緊迫し、瑠璃也もまた、焦っていた。緋音を殺害した組織を潰し回っていた時は怒りと喪失感、それを上回る無力感によって八つ当たりする対象が絞られていただけだったのか。


「――ば、馬鹿な!!いくらなんでも早すぎる!!」


最新の情報を受け取った男が叫ぶ。その声色に含まれるは、驚愕、疑い、そして絶望。


「何があった?とっとと報告しろ!」

「はっ!誠に信じられない内容ではございますが」

「御託はいいと言っているのがなぜわからない!?早く報告しろと言っている!」

「結論を先に述べさせていただきます!被害はすでに北アメリカ大陸全土へと広がっているとのことです!北アメリカ大陸北部より発現したのは最初のみで、その後は大陸中からほぼ同時に発症者が出現したとのことです!」

「馬鹿な!」

「いくらなんでも早すぎるぞ!!」


瑠璃也でも、あり得ないと思った。だがそれも一瞬で、思考停止を辞め切り替える。オーストラリア大陸での殲滅戦で生き残った発症者が大地震で流れの変わった太平洋を漂流し北アメリカ大陸に流れ着いたという可能性も無いわけではなかった。ここでなぜ、どうして、早すぎると嘆いていてもなんら変わりはない。解決策、いや、対抗策を早急に実行すべきだ。だがそのためにもまずこの場の混乱を鎮めなければならない。司令部が混乱していては手に終えないだろう。


「全員、一度黙れ」

「なぜこんなにも早く――」

「全員口を閉じて黙って俺の話を聞け!!」

「!!!」


瑠璃也の一喝の元、司令部の面々は一旦押し黙る。だがそれも長くは続かないだろう。故に、瑠璃也は頭を冷やさせるためにと冷徹とも言える声音で言い放つ。


「お前らがそれでどうする。俺らがそれでどうする。そのままでは敵の思うつぼだ。敵は兵力が南極大陸近郊に集結するのを待ち、機を狙って北アメリカ大陸を襲撃した。もう1つ可能性があるとすればただの偶然か。ただこの確率は限りなく低いと見ていいだろう。故に、敵にも頭があると見るべきだ。それなのに俺らが、司令部が混乱し思考停止してどうなる?そのような時間があったら…働け。脳を動かせ。やることを思い出せ。やらなければならないことを自覚しろ。殺る対象を見失うな。敵は未知のウイルス。その性質は宿主が生存している場合発症せず、死亡した後に発症、操る。ならば、敵を屠り、味方の生存者を増やすのみ。やることは、やらなければならないことは通常の(いくさ)となんら変わりはない。そうだろう?」


そ、そうです!と司令部員は急いで指示を飛ばすために通信機を持ち、声を張り上げる。そう、やることはなんら変わらない。ただ障害を廃し、味方が傷つくのを避ける。単純明解にして戦の基本だ。故に行動するのも素早かった。




△▼

「さすが、と言ったところかな」

「うん、さすが」

「これほどまでに早く立て直すとは」

「思わなかったね」


黒い外套(がいとう)を羽織り全身を隠している多数の人物はそのどれもが小さく子供のような背丈であった。周囲は混乱の渦。その混乱をもたらしたのは他でもない、この黒い人物だった。手段は簡単だ。あるウイルスを付着させたナイフで手頃な人物の心臓をひと突きするだけ。それが警戒心を薄くする子供であればなお良い。注意すべき点は自身の正体がバレること。これだけは避けなければならない。


「ささ、早く撤収しちゃお」

「ユーラシアの方は黒藤財閥当主自ら潰してきたから勝ち目がなかった」

「あれは反則」

「おかげで今回ユーラシアでも起こすつもりだった作戦がおじゃんになっちゃったし」

「私達は隠れるだけで手一杯」

「でも実力の一端は見えた」

「収穫でもあったね」


黒い集団は音もなく混乱に乗じて離脱するのであった。

▲▽




混乱から立て直したとはいえ、状況は一向に良くはなっていない。敵はリミッターなしの超能力を乱発するもの。対してこちらは1人1人はそれほど強くないもの達。この戦力差をどうにかしなければならないだろう。


「南極大陸近郊に出撃している部隊のうち少数精鋭だけを引き抜いて調査をする。異論は?…よろしい。なら―――」

「―――なら、私の部隊を貸しだそう」

「成田首相?」


再度言うが、敵はリミッターが外れた超能力者。下手な部隊で事にあたれば余計な被害をもたらすだけでなく、その被害によって敵の数が増えてしまい危険度が増すだろう。リミッターが外れてしまえば凡人の超能力などみな同じような出力となる。よって、少数精鋭で敵の数を減らすしかない。


「どうせいずれは日本に来るんだ。なら北アメリカ大陸で少しでも減らしておいた方がいいだろう」

「誰を貸し出してくれるんだ?」

「珍しく下出だな!はっはっは、気分がいい。よし、4つ、こき使ってくれて構わない」

「感謝する」

「あぁ、見返りなど求めない。自己防衛などに見返りは求めんだろう?」


瑠璃也としてもこの申し出はありがたかった。黒藤財閥の剛権を使うにしても本土防衛戦力を引っこ抜くわけにはいかなかったからだ。ただ、黒藤財閥総出で事にあたっているというのに、もう少し協力があってもいいと思っているのだが。


「行動するなら早い方がいい。どれくらいで着くんだ?」

「実は北アメリカ大陸が襲撃を受けたと聞いたときに呼んでおいたんだ」

「仕事が早い」


とそこで司令室のドアがノックされる。瑠璃也は入室の許可を出し、共に(・・)北アメリカ大陸へ向かう戦友達と顔を合わせる。


「これが私が子飼いにしている部下、四聖獣の名を冠する部隊の隊長達だ」


並んで見せるのは2人の男と2人の女。年代はどれも20代前後だろう。


瑠璃也は見知った顔を見て、少しばかり納得する。


「白虎隊隊長、白虎の白神(しらがみ)拓杜(たくと)

「青龍隊隊長、青龍の生笠(いがさ)杞未(このみ)

「玄武隊隊長、玄武の彦部(ひこべ)晶久(あきひさ)

「朱雀隊隊長、朱雀の柄作(つかさく)夏代(なつよ)


なるほど、と瑠璃也は納得する。あのとき瑠璃也の防護結界を貫通し眉間を貫けたのは白神の実力だが、そんな実力者がどこの所属でもないということは無いといって良い。それ相応の立場があってこそだったのだ。


「久しぶ――」

「あーっと!無駄話はおいといて、仕事の話をしよう。な?」

「…あぁ」


なるほど、これが口裏合わせか。どんなことを言ったのかは知らんが、と瑠璃也は4人の顔を見る。瞳に宿るは強い意思。それぞれが使命を全うせんという力強いものだった。内3人の白神を見る目は懐疑的だったが、仕事ともなると切り替わるだろう。


「合格だ。直ぐに出発する。準備しろ」


瑠璃也はそれだけを言い、5人を退出させる。瑠璃也自身も準備をするためにまず飛行機の手配、物資の手配、敵勢力の確認をし、戦闘服へと着替えた。




「なにあれ、偉そうに」


柄作が気に食わないと悪態をつく。それに対し白神が苦笑しながら反応した。


「実際に偉いしな」

「でもあれはなくない?なにが合格だ、よ。ムカつく」

「けどそれができるだけの力があった」

「そうだけど…」


この4人の中で瑠璃也の気迫に飲まれたのは3人。言わずもがな、1年もの時を過ごしたことのある白神以外の3人だ。


「カッコよかったし」

「それは!関係ないじゃない…」

「おい、無駄話は終わりにして早く準備しないと置いてかれるぞ」


彦部が急かし、準備を始めた。


それから瑠璃也達が北アメリカ大陸へと向かったのは30分後のこと。北アメリカ大陸が襲撃を受け始めた時の3時間後のことであったが、戦況は良くなるどころか悪くなる一方だった。

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