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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
マーチ
131/131

行進曲 end

編成も済んだ後は、やることと言えば一つだ。

相手は国家でも人間でもなし。宣戦布告などという文化もなし。そもそもなんの予告もなしに先に攻撃を受けたのはこちらであるがゆえに。


「全軍、作戦開始!」


勝手ながら、世界の全戦力を翠沙を取り戻すために使わせてもらう。

この大型作戦には『DAVE』をはじめとした『RTTMO』の戦力も加わっている。完全に地球の存亡を懸けた、これに負ければ滅亡必至の大攻勢だ。ただ、それにはそれなりの輸送手段が必要となる。

『ゲート』を使えば簡単に月へと渡ることができるが、兵器が入れるほどの大きさ、特に現状かなり大きな戦力となっている『RTTMO』のロボット達は最低でも5mを越える巨体なため、直径最大3m強の『ゲート』を通ることはできない。そうなれば必然、『ゲート』を通って月へ進攻するのなら歩兵だけとなり、出待ちでもされていればすぐに壊滅する。

そのため、月への戦力の輸送には万単位の大型の戦艦を宇宙仕様にして射出している。重力系、移動系、崩壊系、爆発系の超能力者が休みなく動力となってくれたお陰でやっとできた芸当だった。ただ、宇宙での動力源も彼ら彼女らの超能力で抽出したホロムなので、2日3日は核融合炉をフル稼働で動かして補助動力として休んでもらい、後々また動力源となってもらうが。

ちなみに、重力系最強の星柳は重三に着けている。重三の対個としての力は地球の重力だから成し得る偉業で、月の重力ならばその力は半減の半減、そこらの爆発系超能力者の歩兵のほうが使えるだろう。

そのため、星柳には月を重三のフィールドにしてもらうことと、遠慮なく隕石を落とせるよと声をかけて前線に出てもらうことにした。……まぁ、その裏には、もし地球に隕石を降らすことになった際に味方の宇宙戦艦が巻き込まれでもしないようにという危機管理もあるのだが、言わなくても良いから言わないでおいた。

他には、守朔千利等の操作系の超能力者は雑魚処理に大きな適正があるため、地球での防衛に回している。防衛と言って世界中に広く浅く配置するのは悪手だと思うだろうが、実際は防衛するのはゲート周辺だけに集中でいいのだ。

月操獣はあくまでも元々は地球の生命体。ウイルスによって月の環境でも生きていられるようになっているとはいえ、宇宙空間を生身で移動できるわけでもなし、地球への進攻は必ず『ゲート』が使われる。そのため、『ゲート』を通ってきた月操獣を瞬間に駆除すればいいのだ。

ゆえに前述の通り宇宙空間では戦闘行為はないと思っていた。甘かった。何もかも。

遠方でキラリと何かが光ったと思った瞬間、戦艦の数十隻が攻撃を受けた。


「なんだ!?」


天才であっても、知らないことは考えにも寄らないのであって。月の戦力にUFOがあると考えつくことはできなかった。


「両翼広がって前衛は防壁展開!観測結果は!?」

「現代技術よりも何段階か上の、高度科学文明による射撃です!」

「科学文明!?なんだそれは」


まさか、獣を主戦力としていた月が、現代よりもはるかに上の文明の兵器を持っているなんて。普通、爆弾やら銃を隠して棍棒や槍で戦う軍隊がいるとは思わないだろう。


「二撃目!」

「第に――」


こちらの科学技術による兵装の防壁は突破され、しかし超能力者による防壁によって簡単に防げた。

だが、観測系超能力者が観測してからそれを報告するまでのわずかな時間に装填し、発射し、着弾したということは超能力の防壁は常に張っておかなければ危ないということだ。

して、超能力も所詮人の能力の一部。ただでさえ消耗が激しい防壁を広範囲に、しかもずっと維持しなければならないというのは、瑠璃也であっても重労働である。いくらこの場にいる兵士が一般人よりも超能力が鍛えられていて、世界大戦によってさらに向上していたとしても、死にそうなほど頑張って1時間持つかどうか。10分を超えたところで防壁を切らす者がしばしば出てくることだろう。それを絶対に悟られてはならない。


「全軍防壁を維持しながら早急に星球の陣となり、左翼が先に1分間交互に全方位に防壁を展開せよ」


星球の陣というのは、瑠璃也がいる旗艦を核に星のように固まり、球となる防御陣形で、瑠璃也が考えた陣形である。

囲まれたり、先ほどのような貫通力のある光線でも撃たれれば一網打尽にされるため、超能力者がいなかった時代ならこの陣形は完全に悪手だが。

移動する戦艦に次々と光線がぶちこまれてくるが、瑠璃也の防壁がその尽くを防ぎ、星球の陣が完成した。

この陣形の本領は、相手の攻撃手段よりも自軍の防衛手段のほうが遥かに勝っている場合に発揮される。自軍の消耗を抑えながら相手の消耗を誘い、相手が攻撃を辞め自軍を囲おうものなら御の字。内側から爆発するように攻撃し殲滅する。そうでなくとも相手側に徐々に動いて内側へと食い込めればいい。

だが、これは本来なら脳がない、能もない月操獣のために考えた陣形だった。たまたま相手の兵器をこちらの超能力で簡単に防御できただけで、本来なら星球の陣で張る防壁も通常の兵装だけの予定だったのだ。

そして


「ちっ…ただの月操獣じゃないってことだ」


やたらと突っ込んでくるいままでの月操獣とは違い、陣を変えられる前に戦力を削れるならば削ろうという欲も見えたし、どうしても攻撃が通じないなら一旦待つという知能も見える。

正直、この作戦において月以外はただの消化試合だと思っていた。月との戦い以外は戦争ですらない、蹂躙だと。だから火急性を要する事案のため、全世界の戦力を投入しながら、軍事演習などもせず、指揮系統の構築だけで宇宙にまで出てきたのだ。

それが、こんな。科学技術だけでいえば自軍とは格が違う、文字通りの格上と戦争をするのなら、こんな烏合の衆では太刀打ちできない。だから作戦指揮はプランAだのプランCだの省略したものではなく、逐一指示を出す形にしているというのに。

科学技術が格上というのなら、通信も傍受されているであろう。それこそ、幼子同士のないしょ話のように、つつぬけで。先ほどの通信で超能力の防壁に時間制限があることを悟られただろうが、しかしそれが早くて10分だとまでは悟られていないはずだ。


「仕方ない…月戦まで消耗は控えたかったんだが。緋音、しばらく頼めるか」

「ん!でもお兄ちゃん、気をつけてね」


宇宙戦艦に乗り込んでいる瑠璃也だが、別に宇宙空間で生身でいられないわけではないのだ。自身の周囲だけなら一年中防壁を展開できるし、圧縮した空気も持ち歩いている。前述したことはあくまでも、万を超える戦艦を覆うように一人で防壁を展開するなら、瑠璃也でも重労働なだけである。だからこそ瑠璃也は天才だと言われているのだ。


「緋音、頼む」


いままでは自軍側は一切の攻撃をしなかった。それを緋音の指示のもと、鉄の砲弾で威嚇射撃をする。当然、全軍への威嚇射撃の通信も傍受されているだろうが。

自軍が、敵艦に向かって数発、砲弾を放つ。それが着弾する直前で力を失い、慣性を無視して止まった。


「ま、移動手段としては上出来だな」


それでも瑠璃也の進攻を防ぐことはできなかった。砲弾内に潜伏し飛んで近づいてみてわかった。やはりこの超技術、超能力にとって見れば取るに足らない技術なようで、安心した。これなら超能力で増幅させた科学の力でも通用するだろう。


「さて、UFOに乗り込んだわけだが…」


即座にぶっ壊して、まだいくつかあるUFOを破壊して回るか。それとも乗っ取ってしまうか、鹵獲してしまうか。…いや、と瑠璃也は思い直す。この戦争が終われば、黒藤財閥は解体し、競争に自由が生まれる。その際にこのUFOの研究をしているかいないかでスタートラインが違うのはいただけない。念入りに破壊しておくか…。

UFOは無人で操作されていて、その点から見てもとんでもない超技術なことが伺える。科学技術だけで、『DAVE』等と同等、いやそれ以上の遠隔操作をしているのだ。正直、解明したい。だが、競争に自由が生まれればいずれかたどり着く境地だろう。

そんなUFOをものの数分で、旗艦と思われるUFO以外を原子レベルで崩壊させ、旗艦に乗り込んだ瑠璃也。だが乗り込んだ瞬間、異様な雰囲気を感じ取った。


「なんだ…これは」


まず、ほかのUFOと違うのは乗組員がいることだった。その乗組員とは…


「殺ス…絶対殺ス…」


人間、だった。人間の屍だった。

――…どういうことだ?月の進攻はここ数年、あるいは数十年前から始まったことだ。…いや、そもそも月操獣ってなんだ?絶滅した動物たちだと思っていたが、そこに猫や犬、象やライオン等の進化期までいたとされる動物は居なかった。しかも歴史上でもまず見ない不定形の生物までいるのはおかしい。いや、月の進攻はかなり前からあって、その際に絶滅したとか?しかしそれなら、地球の生物が軒並み滅んでないことに疑問が残る。このUFOに乗る人間は何者なんだ…?

疑問に思いながらも、襲われれば対処するしかない。瑠璃也は襲い来る敵を丁寧に一人一人拘束していき、遂に最深部へとたどり着いた。そこには親玉だと思われる人物が思い人が来るのを何百年何千年も待っていたかのように鎮座していた。


「貴殿が来るのをずっと待っていた」

「俺を…?」

「我ら『アトランティスの民』。かつて栄華を誇り、月に侵され、操られ、こうして次へ託すことしかできない。月は特殊なウイルスによって生物を支配しているというのは既に知っておろう。我は少々免疫があるようでな。こうして、話すだけの意思が残っている」


ウィルスに侵された乳製品を食べることによって免疫がつくことは動物実験でわかったことだが、免疫があるとこうして支配されたあとでも会話できるほどの意思能力が残ると判明しただけでもこの出会いに意味がある。

そう打算的な考えをしながらも、瑠璃也は戦闘体勢を崩さずすぐにでも目の前の存在を抹消できるようにしていた。


「それでよい。…我らは安らかに眠りたい。そのために、貴殿に月の正体とそこから予想される倒し方の考察を授ける。まずは月の正体。それは時間を食らう生物だ。時間とは物質が宇宙の法則のままに動くこと。月は未来の物質の運動エネルギーを食べ生きている。現在しか観測できない我らにとっては理解ができないことだが、月はその存在を現在の外側に置き、宇宙の法則を観測出来ていると予想される。つまり、今を生き、現在にしか存在できない我らには月への攻撃手段がなかった。しかし、貴殿らのその力は、宇宙の法則の一部を一時的にだが書き換えるもの。貴殿であればあるいは、宇宙の法則の未来に、月は死ぬという法則を書き加えられれば、月を殺せるかもしれない」

「すまないが、何を言っているのかさっぱりわからん――」


瑠璃也は天才だが、妄言を根拠に世界の真理を理解できるほどの頭脳は持ち合わせていない。月の正体はなるほどそうかそうだったかとまだ納得できる。理解はできないが。だが、宇宙の法則によって必ず起こる未来の運動エネルギーを食べる?存在を宇宙の外側に置いている?俺らが宇宙の法則を書き換えている?さっぱりだ。

…ただ、宇宙の法則を書き換えているというのが超能力のことだというのなら。


「――が、…なるほど。俺らには月への攻撃手段がない、ということはないんだな」

「そう…だ……」

「…?どうした?」

「いや、月からの支配に、なにか雑音が――」

「――いやー私を差し置いて、なに人の夫と逢い引きなんてしてるのかな?」

「翠沙!?」


突如、UFOの壁を突き破って入ってきた存在。それは、地球対月の発端となったとも言える、瑠璃也の探し人だった。


「余計なことをしゃべっちゃうおくちはチャックしましょうね~」


壁を突き破って入ってきた翠沙は、アトランティスの王の頭を踏んでいて、そしてそのまま――


ゴジュリ。


「翠沙」

「前にも自己紹介したよ?私は翠沙じゃない。『月の使徒』だよ、『地球の使徒』」

「さっき、俺のことを人の夫と言っていたが、俺は翠沙の夫だ。『地球の使徒』は『月の使徒』とは結婚してないはずだが?」

「つれないなぁ…どうでもいいじゃんそんなこと。それよりさ!ね、ふふふ。あれ、食べていいのかな?いいんだよね?だって、そのためにわざわざ連れてきてくれたんでしょ?あんなにかき集めて、食べやすいように料理までしてくれて!へへへ、いいなぁ楽しみだなぁ…我慢できないよ!」

「させるか、よっ!!」


翠沙が艦隊に単身突っ込もうとする。実際、そのほうが瑠璃也としてはやりづらい。翠沙が敵だと、月の使徒だと軍にしれわたれば、翠沙の意識を戻したときにいろいろと面倒なことが起こる。

加えて、月操獣も交えた乱戦の中であれば翠沙との1対1に持ち込めるが、軍全体が翠沙1人に集中してるなかでは1対1に持ち込むのは難しい。

――それに、なんで裸なんだよ。

だから、ここを逃すわけにはいかなかった。


「いっっっったぁ…!!もう、なにするの?私のご飯を邪魔するのは、いくらるーくんでも許さないよ?」

「俺は『地球の使徒』なんだろうがよっ!」

「もう!さっきは『地球の使徒』じゃないとか、今度は『地球の使徒』だとか、言ってることが支離滅裂だよ!」

「お前がな!」


艦隊に向かって飛んでいこうとする『月の使徒』の右側頭部を思い切り蹴り抜き妨害した瑠璃也。

そして少しの問答をし、『月の使徒』が弓を持った。翠沙が普段空中の成分を念力で固めて作る弓は透明に近い薄い水色のような色をしている。しかし、『月の使徒』が持った弓は真っ黒だった。人間の目では絶対に認識することができない、暗黒物質で作られたであろうその弓で、『月の使徒』は瑠璃也に殴りかかった。


いや、おい!弓で殴りかかってくんなよ!


弓で殴りかかってくるとかどういう了見をしているんだと思ったが、これが意外にも厄介な戦法をしていた。

殴りかかってきた弓をかわした先に、矢が飛んでくるのだ。近中遠距離をカバーする戦法なのだろう。超能力で強引に突破しようにも、『月の使徒』の不思議な力によって超能力が無効化され、攻撃を許してしまう。

かといって、それ以上の力でもって『月の使徒』を攻撃してしまうと、翠沙を傷つけかねない。瑠璃也が望むのは翠沙が帰ってくることであって、翠沙にかかってる洗脳を解くことだ。決して、翠沙を殴ったり蹴ったり、傷つけることが目的ではない。


手詰まりか…?


そう思った矢先、『月の使徒』はなぜ、俺の身体強化の超能力を無効化しないのかと、疑問に思う。

できないのか。


「なぁ『月の使徒』。俺が持つ超能力の全てのリソースを、身体強化に使ったらどうなると思う?」

「…気づかれたか」


空間が爆ぜる。宇宙空間での戦いにおいて、上下左右、全ての方向は無意味だ。だから、足場が下。念力で無理やり固めた足場を蹴り破り、加速。加速。加速。加速――


「おらッ、よ!!」

「―グッ!?」


防御の姿勢も意に介さず、思い切りぶん殴る。それは勢い止まず、月にクレーターを作ってやっと止まった。


「いったぁ…」

「さすがのゴリラでも今のは効くか」

「はぁ…嫌だけど、ちゃんとしないといけないか」


『月の使徒』はそう言うと、一転。背中から8つの光珠を生み出し、神父服のような、修道服のような、どちらともつかない衣服を纏った。


「やっと戦闘体勢か」

「本気で殺すから、気をつけてね?るーくん」


『月の使徒』は光珠を槍に変化させ、瑠璃也の胸を突く。瑠璃也は即座に反応し、槍の軌道を反らそうと構えるが――槍の先端に、3つの光珠が見えた。


「ぐっ…ハッ」


体内への槍の侵入は浅い。極限まで身体強化をしていたおかげか。


「はは、その光珠、ゲートも作り出せるのか…」

「これでわかったでしょ?いまの一撃は確実にるーくんを殺す一撃だった。これでもまだ戦うっていうの?」

「ああ」

「この、分からず屋!」


『月の使徒』がもう一度、こんどは肉が薄く致命傷になる首を狙って槍を突き立ててくる。瑠璃也はそれを血を溢しながらも全力で回避。体の周囲を覆っていた空気でどうにかして止血を試みる。ただ、これは応急措置だ。傷は塞がったわけではない。早く傷を治さなければならないが、瑠璃也には治癒能力が――

――超能力とは、宇宙の法則を書き換えるもの

と、すれば。治癒能力とは、徐々に傷を無いことにする能力なのではないか。

意識する。すると、みるみるうちに傷が塞がっていった。


「…へぇ、治癒能力か。もうそこまで、地球と深く繋がっているなんて」

「…?まぁいい。俺は超能力とはなんなのかを深く理解した。『月の使徒』、お前の能力も」

「へぇ?それじゃ、そんな気がするまま死んじゃえ!」


『月の使徒』が二本の槍を持ち、瑠璃也に突き。瑠璃也はそれを防がず――


「なんっで」


貫くという概念で作った槍が、折れるという概念を含んでいないはずなのに、折れた。


「いまの『地球の使徒』は、もうほとんど地球と同化してる…?」

「簡単な話だ、『月の使徒』。俺は宇宙の法則を曲げ、その槍を脆くした。脆くなった槍は、俺の服すら貫けなかったわけだ。ほら、いま握っているところすらもぼろぼろと崩れている。はは、まるで砂だな」

「なん、て、能力」


これは脅威だ。世界を滅ぼしかねない、災厄だ。そんな超能力は、私が打ち消さなければ…


「翠沙。お前の能力は、歪んだ理を正す能力だったんだな」

「それは、どういう…」

「不思議に思ってたんだ。なんでお前の能力が、超能力を未然に防ぐものじゃなく、発現した現象を打ち消すに留まっているのか」

「……」

「正しいものは正せないだけなんだよな」

「それが、なんだっていうの」

「つまり、超能力で歪めた理は正しくないってことだ。これが何を意味するか、わかるか?」

「そんなの、どうだっていいよ!!」

「ま、そりゃそうだ。この戦闘には全く関係がない。ただ、時間を稼ぐのには充分な時間だったよ」

「なっ、あ」


フッと、翠沙の意識が消える。いや、翠沙を操っていた糸が、外れる。

翠沙が『月の使徒』ではなくなった。それは、宇宙の法則――運命と呼ぶものを、書き換えてしまったことと同義だ。




その皺寄せは、当然ある。




――空間が割れた。そこから紫煙がこぼれ、漂い、侵食してきた。不快な甲高い音が響く。それはまるで赤子の産声のように、宇宙に悲鳴をあげた。空間の悲鳴の声だ。


「なん、だ…?」


一瞬だけ現界して見えた二又のなにか。蛇の舌だとわかったのは、それの鼻先が空間を割って姿を見せたときだった。

一目でわかった。それはこの世界の全ての存在を賭してもどうしようもない、絶望の権現。死を象徴する神とさえ思えた。

その神が吐く息に触れた存在は瞬間に例外なく死を迎えた。特に、戦力のほとんどを固まらせていた地球防衛連合軍なんて、蟻の集団に溶岩を流し込むように一網打尽となった。


それは瑠璃也であっても例外はなく。


そして、世界は巻き戻る。




□□□


「………」


■■■


行進曲end マーチ

久しぶりに理不尽なぶつ切りエンドです。


ぶつ切りエンドになる条件は、誰かの思惑が達成したとき、またはなんらかの条件が満たされたとき。今回は誰の思惑通りの世界になったのでしょうか

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