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輪廻巡る月夜の果てに  作者: 中沢文人
プレリュード
13/131

前奏曲

「さてと、とりあえず買い物行こうぜ。と言っても買うものなんて無いが」

「アポ取った瞬間にそれに関連する物が郵送されるんだったよな…まったく、羨ましいぜ」

「そうですね」


日本経済を牛耳るということはつまり、日本にあるもののほとんどは黒藤財閥の財産ということだ。流石に横暴が過ぎれば反発が起こるが、貸し切りにする変わりに商品券を渡すなどの後始末もしっかりしているために反発は比較的少ない。


「ま、そこら辺ぶらぶらして良さげなものがあったら買えばいいだろ」

「えぇ、意外と掘り出し物があったりもありますしね。では8時に鳳来(ほうらい)でどうでしょう?」

「あぁ、タクシーはいつものコードを言ってくれ。最速の道順、速度を無料でお届けする」

「毎回思うがいいのか?」

「気にすんな。身内贔屓したっていいはずだ」


瑠璃也達男性陣、翠沙達女性陣はそれぞれに準備を整え、次の日を迎えるのであった。




「んじゃ1番のりで降りるぞーとう!」

「ちょ、まて瑠璃也そりゃ!」

「早いです…って!」

「あはは」


時は早朝場所は太平洋沖縄県黒藤財閥私有地沖上空2000m。そこに飛び行くは生身(・・)の人間。


「さ、私たちもいこ!」

「「ま、まって翠沙ちゃん私たちまだ慣れてないってあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

「冬迦ちゃん、私たちも」

「うん」


そう、現代は上空2000mから生身の人間が落ちても平気な世なのだ。1000年以上も昔。人類滅亡の危機にして皮肉にも人類が急激な進化を遂げた出来事。第3次世界大戦での核放射性物質が遺伝子に異常をもたらせ、あるモノには奇病を、あるモノには崩壊を。そして、あるモノには超能力を。人口100億人の内極少数の人類だけが手にした能力だった。生まれた瞬間からその個性ははっきりとしていて、産後間もない赤子の髪色と目の色を調べるのはこれに関係する。超能力の中でも100人のうち80人が持つとされる念力は幼児期にある程度育てられる。もちろん個人差はあるが、最低限、高度1000mから落下するくらいは問題ないのだ。


「よし、一番乗り!」

「くそ、飛び降りた時間にそんな変わりはないってのに何でこんな差があるんだろうな」

「それは、瑠璃也君が超能力の扱いに長けているからでしょうね」


だが、やはり超能力も能力だ。使えば消耗するし個人差があるために、世間一般に広まっているわけではないのだ。各国軍は超能力に長けた人材を欲し、また超能力を養う教育を模索しているが、超能力に長けた人材は珍しく、超能力にも個人個人で使える能力の限界がある。加えて潜在能力なため教育するのにも限度がある。よって、今日(こんにち)でも軍事利用までには至っていないのが現状なのだ。そして瑠璃也と翠沙はこの超能力の扱いが異様に上手い。緋音も一般的にはそこそこなのだが、やはり瑠璃也と翠沙に比べると劣るため瑠璃也に才能を持っていかれたと言っているのは切実なのだ。


「よいしょ」

「わ、合計3人を同時に浮かせるなんて、やっぱり翠沙ちゃんは凄いね」

「ううん、そんな」

「やっぱり才能かぁ~お金持ちだし」


2人は素直に無邪気に純粋に翠沙を誉めて茶化しているんだろうが、高校生になってから友達になった2人は知らない。


「そんなこと」

「またまたぁ~持つものは万才を持つって言うし」

「そんなこと…ないって」

「「っ…」」


急激に変わる翠沙の雰囲気。その体から発せられるプレッシャーは歴戦の兵士でも一瞬で飲み込まれ気圧されるほどだ。当然一般人の2人はそのプレッシャーに飲み込まれ、立ちすくむだけだ。そこで2人に救いの手がかかる。


「っと危ない危ない。無事着陸完了!…うん?翠沙お姉ちゃんどうしたの?」

「ん?ううん、なんでもないよ」


翠沙が発していたプレッシャーは消え、いつものお姉さんのようなおおらかな雰囲気に戻る。


「そっか。せっかく海に来たんだし、パーっとはしゃごう!明日で帰っちゃうんだしね。先輩方も私たちとビーチバレーしませんか?」

「「う、うん」」


そう言って緋音は冬迦と2人を連れて浅瀬に向かう。ちなみに久和と桐谷は素潜りに行き、瑠璃也は翠沙を伴ってこの海辺を管理、運営する責任者、宿泊施設の責任者に挨拶に向かうために少し遠めの場所で待っていた。この5人は翠沙が発したプレッシャーに気付かなかったわけではなく、ただ知っていた。冬迦は過去にその地雷を踏んでしまっていたために尚更腰が引けていただろうが。


2人は翠沙の地雷が何だったのかを知らない。そして力あるものの努力も知らない。確かに超能力には個人により扱える上限が決まっているし、翠沙にはまだその上限は来ていない。だが、ここまで上達するのに苦労がなかったわけでもないのだ。そして、金持ちにも苦労はある。上には上の苦労があるというものなのだが、それを知らぬ下のものは上のものの苦労を知らずにその立場、名誉、力を嫉妬し奪い自滅する。だがその中でも例外は存在する。初めから恵まれているもの達だ。権力者の子供は親に後継ぎに、と教育させられるが、苦労するのが大半だ。しかし、恵まれているものは難なくこなし、期待以上の結果をもたらす。世間が言う天才とは、真にこういうもの達のことを言う。そして現代におけるその真の天才達の代表格が1世代前に天才だと世間を湧かせた黒藤家の現当主、黒藤和也の息子にしてボケた顔であくびをして翠沙を待っているこの男、黒藤瑠璃也なのだ。


「翠沙、行くぞ」

「うん」


真実を知らないものが見れば天才が天才と仲睦まじくしていると見るだろう。だが、真実を知るものが見れば片や苦労を知らずに初めから持つ力を振るうもの。片や苦労に苦労を積み重ねやっと建てた実力をも才能という一言で一蹴され永遠に目標に追い付けない哀れな存在だと見るだろう。それでもなぜ翠沙は瑠璃也に寄り添い瑠璃也は翠沙を受け入れるのか。それは過去の約束であり、お互いがお互いを目標としているからだ。翠沙はいつか訪れるであろう自身の極致として。瑠璃也は努力の仕方を教えてくれる手本として。お互いがお互いを目標としている限り、どちらかに限界が訪れなければ止まることはない。2人は本質が全く違うからこそ互いが巧く噛み合い相乗効果が生まれていると言えるのだ。




「ふぅ~遊んだ遊んだ。これを明日も1日続けるってなるとキツいものがあったよね」

「そうだね~流石るーくん気が利くね」

「「そうだよねー」」

「どっかの誰かさん達は3日ここにいるつもりみたいだったがな」

「うぐっ…いえしかし、いつもなら3日間貸し切りにする所でしたから」

「そーだそーだ!俺らはなんも悪くねーぞ!」


挨拶を終わらせ戻ってきた瑠璃也は久和と桐谷と一緒に競泳を。翠沙はビーチバレーをした。途中瑠璃也達もビーチバレーに合流したりスイカ割りなどに方向転換したり素潜り競争したりと遊びつくし、時刻は早くも夕方だ。夕方になると影が落ちやすく体のコントラストも分かりやすくなり、瑠璃也と久和のがっちりと締まった筋肉が重厚に積み重ねられた無駄のない体や桐谷の細身ながらも脂肪が一切なく、基礎的な体幹の筋肉はもちろん、特に腕の筋肉と脚の筋肉の隠された発達具合も目を見張るものがある体も見やすくなっている。翠沙の女性っぽい豊満な体の裏に隠された無駄が一切ない鍛えられた体も見るものがみれば(じっくりと見るわけにもいかないが)分かるだろうし、冬迦のスレンダーながらも部活動を精一杯頑張っていると分かる筋肉の付き方は夕方の陰り方によって例に漏れない…が、例外は緋音の肢体。コントラストなどなく平坦。この言葉に尽き、これ以外に表す言葉はない。


「んじゃ、火起こすぞ」


瑠璃也は炭を積み立てると超能力により発火させた。この発火の超能力は超能力者ならば持たないものはほとんど居ないと言っても良いほどだ。規模はやはり個人差があるが、どの超能力者も炭に火をつけるくらいならば容易だ。瑠璃也ならば周囲の酸素が十分ならば家屋でも一瞬で消失させてしまうし、翠沙も同じようなことができる。発火能力に特化した者ならば核爆弾級の爆発も発生させることが容易だと世間では噂されている。


ジュウジュウと良い音をたて香ばしい匂いを撒き散らしながら焼けていく肉と野菜。食事というのは味覚だけではなく視覚、聴覚、触覚、嗅覚の五感全てを最大限に使って楽しむものだ。そうした食事は美味しく、より楽しく感じることだろう。だが1人で食べては味気ない。つまり、バーベキューは文化なのだ。


「うんめぇ!!」

「最高級の菜肉、択捉菜肉ですか…何万するんでしょうねこれ」

「やっぱ脂っこいなぁ…胃もたれしそう」

「野菜もたべないとねー」


多数には受けの良い高級菜肉だが、緋音は口に合わないのか脂っこい肉を好まない。緋音はあまり高いものが好きではないようだ。菜肉というのは動物がほぼ絶滅した現代にとって、動物性肉と代わるものだが、動物性肉以上に高たんぱくで野菜特有の食物繊維、ビタミンなどの栄養素もたくさん含まれている優れた食料だ。一般的に一部の野菜が放射線によって突然変異し動物性細胞を持ったのが始まりだとされるが、本当の所はわからない。




晩餐を終え食後の休憩。瑠璃也達は届いていた花火セットで花火をする。それぞれ食事の後にシャワーを浴び、貸し出し自由の浴衣に着替えていた。


「んじゃーいくぞー」


瑠璃也は苦労して準備した打ち上げ花火数百発の導線に火をつけて打ち上げる。全ての打ち上げ花火が一斉に飛んでいってはつまらないと導線の長さは無差別にし別々に飛んでいくようにしたのは正解だったようだが、数百発の打ち上げ花火が一斉に飛んでいくのも壮観であっただろう。いや、むしろそれも良いなと思った瑠璃也は。


「わぁーーー!」

「すっごい…」

「昼間みたい!」

「きれい…」


さらに千発もの花火を海上に浮かべ、超能力で一斉に点火し打ち上げたようだ。これこそ、古くから共にバカみたいな事を真面目にやってきた者たちの行動力だ。息もぴったりで手際も良く、この3人でなければ数少ない時間で千発もの花火を準備はできなかっただろう。


花火はその圧巻の千発が一斉に打ち上がることで終わり、初日は船に乗り込みそこで寝泊まりする。船は次の日の早朝には目的地に着く予定であった。

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