最強への転生
「異世界転生、してみるかい?」
夢なら夢で構わない。この世界に生まれて28年間、菱屋恭介にとっては、耐えるばかりで面白味の欠片も無い人生だった。最期の光景は、目の前に迫るトラックの車体。恐怖心に包まれながらも、それでも逃げることをしなかった。考えてみるまでもなく、この世界に未練などなかったからだ。
「異世界、転生……?」
トラックに跳ねられた激痛、途切れた意識。
気付いたとき、真っ白な世界にいた。
何も無い空間で、電子音のような声だけが、恭介に問うてきた。
ーー異世界に転生してみるか、と。
「あんたは神か何かか? 異世界転生って、ラノベかゲームみたいな話だな」
「私が何であるかは説明が難しい。君が神と思うなら神でもいいのではないかな」
「まあ、何でもいいさ。別に全てが夢でもいい」
現世に未練はなく、死後の世界がどんな場所かは知らない。
そうであるなら、これが夢であっても問題無い。
「異世界転生させてくれよ。ただし条件がある」
「条件?」
「異世界では、俺を最強の存在にしてくれ」
恭介は特にこれといった取り柄も無い凡人である。
いや、家族とも反りが合わず、彼女はおろか友人もいない、中堅企業の子会社でこき使われる人生は、凡人未満と言っても過言ではないだろう。
「いいよ、君を最強の存在にして転生させよう」
その言葉が終わると共に、恭介の意識は途切れた。