宴
レイドダンジョン<山岳の奥地>ボスモンスター<ウルツァイト・コボルト>を撃破した俺達は、ボスエリアに、俺達が所属しているギルド<ノアの方舟>の旗を建てた。
翌日、俺達は 「レイド初攻略」を祝ってパーティーをしていた。
パーティー用の食べ物は、俺達の先生である学<まなぶ>先生が買ってきてくれた。
学先生はかつて、PVPの大会で複数回優勝経験がある。
学先生のレベルは90でカンストしていて、かなりの実力者だ。
「学先生、レイド終わったけど、この後は何すんの?」
俺は飲んでいたジュースのストローを咥えながら言った。
「次は、ダンジョン出てから秘密の事をする」
「秘密の事って何?」
「まぁ、でも今後絶対的に活躍するものを皆にプレゼントする。ものっていうと、失礼かもしれないけど……」
「学先生!こっち来てー!」
遠くの席から別の生徒が先生を呼んだ。
「あっ、ごめんな、話しはここまで。呼ばれたから行ってくるわ」
学先生はそういうと席を立って行った。
「おーい、みや!お前もこっち来いよ!」
少し遠くから雪美の声が聞こえた。
ちなみに「みや」というのは、俺のあだ名で、雪美のあだ名が「ゆき」、雫月のあだ名が「しず」になっている。
雫月とはレイドチームが違うのであまり会話をすることが無いが、かなりの親友だ。
「だいぶテンション上がってるな、ゆき」
俺は少々呆れながら言う。
「全然上がってないって。みや、そこのたこ焼き取って」
雪美はピザを咥えながら言う。
どれだけ食べてもVRでは太らない。
「俺、たこ焼き嫌いなんだよね。そもそも、蛸が嫌い。てかお前食べ過ぎたろ。現実でも身体壊すぞ」
そう言いながらも俺はたこ焼きを渡す。
「ばっきゃろい!好きな物食べて身体に悪い訳ねぇだろ!」
雪美はいつもこの「好きな物は食べ過ぎても身体に悪く無い」理論で給食を食べていた。
残すことはなかったが、その後は確実にトイレの番人になる。
「俺はお前と5年間同じクラスだったが、お前が給食後にトイレに駆け込まなかった日は無かったよな」
「お前らせっかくのパァーリィー<パーティー>をトイレだので汚すなよ」
ハイテンションな望雨が横から肩を組んでくる。
「望雨!痛い痛い!お前の職業は重戦士<バーサーカー>なんだから筋力クソ高いだろ!」
「あぁ、ごめん、ごめん、てか雫月はどこ行ったんだ?」
「雫月はなんか、下級生に引っ張りだこみたいだぜ。特に4年生と仲良いらしい」
雪美がたこ焼きを頬張りながら言う。
「下級生ねー。あいつ昔から年下意識高いよな」
俺もずつと前から気になっていた。なぜ雫月は下級生からの信頼が厚いのかと。
「そーいや雫月といつも一緒にいるスナイパーの子の名前、何て言うんだ?」
雪美はまだたこ焼きを頬張りながら言う。
雪美が知らないってことは俺も知らない子なのだろう。
「あの子の名前は對馬 奏斗<つしま かなと>。
職業 狙撃手<スナイパー>
種族 ルー・ガルー
所属ギルド ノアの方舟
で、コンバートしてたよ」
と、望雨が雪美のたこ焼きを盗み食いしながら言うった。
「あ!俺の愛しいオクトゥプァス<Octopus>取りやがったな!お前!かけ算で苦手な段はなんだ?」
「ふ……舐めるなよ……。俺は6の段が大嫌いだ」
望雨はこの世の理を知ったかのような口調で言う。
「どうやら俺と貴様は気が合わないらしい……。俺の愛しいオクトゥプァス<Octopus>を食した罪……思い知るが良いわ!」
「二人共……!食事中なんだから静かに食べなさいよ!てかそもそも<オクトゥプァス>って何よ」
そう話しかけて来たのは、現在進行形で雪美の恋愛対象の草薙 優奈<くさなぎ ゆうな>だった。
優奈が話しかけて来た途端、雪美の顔は蛸のように赤くなってしまった。
「ほんと、男子の会話は聞いてて面白いよね。なんでかけ算の話がで出来たのか不思議だけど」
そう話しかけて来たのは、俺と現在進行形で両思いの、岩永 沙鶴<いわなが さづる>
沙鶴とは小学5年生のクリスマスに俺がアタックして、OKを貰った。最近の小学生は付き合ったりするらしいのだが、お互いにそんな熱狂的では無いので、両思いという関係で止まっている。
「おーと、俺はお邪魔かな?」
この恋愛関係を知っている望雨は席を外した。
「今の望雨のセリフ……どういう意味?」
優奈は純粋な気持ちで聞いた。
「分かんない。てかさー、ゆき、顔色大丈夫?無茶苦茶赤いよ」
優奈は雪美が恋愛感情を抱いていることを知らないので、ばれないようにと話しを変えた沙鶴の対応は、今世紀最大だと思う。
「どーせたこ焼き食べ過ぎたんだろ?」
俺はコーラを一口喉に通して言う。
優奈の容姿はというと、灰色のショートボブに大きな灰色の瞳。
目立たない色合いだが、おしとやかな言葉遣いは少し和風なイメージがある。
身長はというと、雪美より少し低い位で、体格はかなり小柄だ。
沙鶴はというと、ストレートだが、毛先は巻かれている純白のミディアムヘアで、緑色の瞳は白い肌のおかげで少し目立ってみえる。
どうやら雪美はまだ固まっているようで、もはや
「雪」ではなく「氷」だろうか。
「ゆき、たこ焼きラストの1個貰っちゃうよ」
俺は嘘だが、こんなことを言うと、
「舐めるなよ。俺のたこ焼きへの愛は俺の身長よりも高く、みやの身長よりは低い」
「そんなにじゃねーかよ」
俺はしっかりと雪美のボケにツッコミを入れる。
雪美の顔が赤くなっているのを俺はいじっているが、内心俺もかなり緊張している。
俺は沙鶴のVRでの姿に一目惚れしてしまっていた。
後書き
第8話をお読みくださりありがとうございます。
ヒロインがやっと登場したのに、ヒロインっぽいことをしていなくてごめんなさい(笑)。
雅と雪美と雫月がメインのはずなのに、雫月がまったく登場しておらず、雫月の恋愛対象もいないのはわざとです。今後の展開に大きく影響を及ぼすので。
(口が滑りすぎました)
出来るだけ毎日投稿したかったのですが、明日の投稿はお休みします。
ご愛読ありがとうございました