時雨
優奈に対する俺の恋愛感情は、更に大きいものになっていた。
それと同様に優奈のいじめッ子へ対する嫌悪感は風船のように膨れ上がっていた。
今日の夕方、優奈はいじめッ子と会う約束をしているそうなのだが、俺はいじめッ子と真っ向から衝突して優奈を助ける。
そんな大胆な行動でも、俺は恥ずかしく無かった。
「優奈、今日は俺の所に居なよ」
俺は少し優奈に近付きながら言う。
「え……でも今日は友達と用事があって……」
「うん。分かってる。でもその友達より、俺を優先して欲しい」
「ごめん。さすがにそれは出来ない。行かなきゃ……また……また……」
途中からは嗚咽混じりに、そして苦しそうに、悲しそうに、涙を浮かべながら話した。
恐らく、今まで何度もいじめッ子との約束を破った際に、何か酷い事をされたのだろうか。
その記憶は今でも明らかに優奈を蝕んでいる。
「優奈……。会って嫌な思いする奴と会う必要なんて無いよ。俺と居よう」
俺は思わず優奈の手を握ってしまう。
「でも、行かなきゃいけないの。ゆき君には分からないと思う。だから……、ゆき君は、私を見守ってくれるだけで良い……。最近さ……。ゆき君が私の所に寄って来ていたのはさ……。私がいじめられてるのを気づかってくれたんでしょ?」
こういう時、なんて返せば良いのだろうか……。
「今日、私も頑張って、あいつら<いじめッ子>との縁、切ってくる」
優奈の瞳はまだ涙が溜まっている。
「一人で縁切れる?俺も付いて行こうか?」
「大丈夫よ。私一人で……。ゆき君はここで待ってて」
「優奈……。今日の夜、VRで合おう」
俺は優奈の頭を優しく撫でて言う。
「うん。ゆき君の部屋で良い?」
優奈は少し照れながら言う。
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夕方、天気は大雨で、気温は低く、少し肌寒い。
放課後、優奈はいじめッ子との縁を切る為に、少し外れの公園へ出掛けた。
俺はどうしても留まって優奈の帰りを待つことが出来ず、優奈の後を尾行した。
公園に着くと、かなり離れた所から、優奈の姿を確認した。
そこで見た光景は、まさに「いじめ」。
優奈の傘は遠くに捨てられら大雨の中、優奈は地面に跪き、髪の毛も服もびしょびしょに濡れていた。
嫌悪感、罪悪感、敗北感、怒り、様々な感情が身体中を入り交じる中、必死で走った。
なぜだろう。こんな時、なんで涙が滲むのだろうか
雨と涙が入り交じり、俺の身体も大雨に打たれてびしょびしょに濡れた。
そんなのは関係ない。優奈だって濡れている。俺と同じように。
いじめッ子の一人が優奈の方を押し、優奈の身体は水溜まりに浸かってしまい、スカートさえもびしょびしょに濡れてしまう。
それを見て爆笑しているグズの極み共に、恨みや怒りを込めた強烈な蹴りを背中に入れる。
その後に、もう一人、もう一人と蹴りを入れて行く
「お前ら優奈のこと押したんだ。俺が背中から蹴って服が汚れようが平等だよな」
「おめぇ、こんな女が好きなんか?ハァハァハァ!
センス無ぇなぁ!」
「てめぇ!もう一回優奈を馬鹿にしてみろ!蹴りだけじゃ済まねぇぞ!」
俺は威嚇しながら本気で叫んだ。
「お、お前……なんだよその目……う、うわぁぁぁぁぁ!」
いじめッ子達は、恐怖の叫び声を上げながら無様に逃げて行った。
「優奈……。ごめん。もっと早く来てればこんな風になって無かった……。俺が来るの遅かったし、何よりこんな展開予想できたはずなのに……。ごめんな」
俺は優奈に傘を掛けながら言う。
「ゆ……ゆき君……。来てくれてありがとう。ゆき君……その目は……何?」
優奈のその声は凍えながらもしっかりと俺に訪ねた
恐怖とではなく、心配するように。
俺は水溜まりで自分の姿を確認する。
その姿は、俺の予想をはるかに越えた。俺の目は雫月の<オッドアイ>のようにしっかりと青く、少なくとも普通ではあり得なかった。
「なんだよ……これ……。俺の目……」
思わず声に出してしまう。擦っても擦っても、元の茶色い目には戻らない。
「ゆき君……学校に戻ろうよ……こんなと所に居てもなんだし……」
優奈は泥まみれになった足を払いながら言った。
「学校まで遠いしさ、この距離なら俺の家の方が近いよ……それに、優奈の髪の毛とか服とか、乾かさないと学校に帰っても先生に事情聞かれて色々問題になるし……」
「分かった。ゆき君の家行こうか」
自分で提案した選択肢なのに、yesと答えられると緊張してしまう。
「優奈が傘使いなよ。二人で使うと、あれだし……」
「あ、ありがとう……」
申し訳なさそうに返事をすると、優奈は傘を手に取った。
俺達は少し間を開けて歩きながら家へ向かった。
後書き
1,5章3話をお読みくださりありがとうございます
<雑談コーナー>
この回を見直して僕が思ったこと<VRどこ行った?>。
こんなに長引くと思いませんでした。
次回完結ですが、完全に小学生の少し甘酸っぱい恋物語ですね。
この編終わったら2章入りますので許して下さい。
ご愛読ありがとうございました。