能ある鷹は爪隠す
俺の心地よい春の目覚めは、耳元に転げ落ちた目覚まし時計のせいで、遥か彼方へ飛んで行った。
時刻は朝の7時。同じ部屋の誰かが、カーテンを開けたのだろうか、朝の日差しは俺の顔を鋭く刺した。
「雅君。朝ですよ」
そう言って俺の身体を揺すったのは、5年生の
五十嵐 天成<いがらし てんせい>だった。
雫月同様、俺も出来るだけ下級生と過ごそうと心がけてる。
その過程で、今最も仲良くなったのが、天成だ。
「雪美君!起きて下さい!」
天成は雪美を全身全霊で起こしている。
「うぅ~ん……。うん」
雪美が眠そうに相づちを打つ。
「雪美君~get up please!」
「ゆき!蛇居るぞ!」
俺は最終兵器を使い、雪美を叩き起こす。
「ファッ!」
謎の掛け声と共に、雪美はベッドから転げ落ちる。
寮生活が始まってから毎日朝からこんな騒いでいるのだが、なんだかんだ言って楽しい。
俺は顔を洗い、トイレを済ませると、一階の食堂へ向かった。
もうそこそこの人数が集まっており、朝からわいわいと、食事を楽しんでいる。
俺はそのまま配膳の列に並び、朝ごはんを貰う。
「雅君。お隣良いですか?」
眠たそうな顔の天成が言う。
「どうぞどうぞ」
俺は天成の椅子を引いてあげる。
「雅君。今日もPVPしようよ」
PVPというのは、<プレイヤーvsプレイヤー>の略である。
「いいけど、俺ばっかと闘って楽しいか?」
「全然楽しいですよ。僕が勝てるようになるまで続けますからね!」
今のところ、俺が負けたことは無いが、恐らくその理由は、「俺が年上だから」だろう。
ゲームでは、年の差などは全く関係無く、プレイヤー個人の「経験」、「技術」、「思考」、この3つが勝敗を分ける。
俺と天成が同じく年齢であれば、恐らく俺は天成に勝てないだろう。
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その日の夜。俺は天成と、ギルドハウスの庭でPVPを始めた。
俺はホームウィンドウからバトルを選択し、お互いに間合いを取る。
ある程度間合いを取ると、カウントダウンが始まる
10……9……8…………。
俺は右足を少し下げ、開始直後に駆け出せるようにスタンバイする。
4……3……2……。
俺は息を深く吸い、そして勢い良く吐く。
1!
刹那、俺は右足で地面を力強く蹴り、溢れんばかりの活気とともに長剣を右上から強く振り掛ける。
天成は俺の長剣を防ぎ、弾き返す。
天成と俺は一度間合いをとり、再び剣を交える。
右に一発、下からの切り上げを叩き込み、強烈な突きを入れ込む。
その突きを避けた天成は半減のスキルを発動させる
スキル<アンダークロウ>。一度後方に下がり、強烈な切り上げを放つ。この技は、相手の攻撃を受けた後でも発動出来る。
「あぁぁぁぁぁ!」
気合い溢れる掛け声とともに、突き進んで来る。
「俺はカウンター専用のスキルを発動させる。
スキル<リコイルカウンター>
このスキルは、相手のスキルを受け、その反動を二倍にして返すスキルだ。
俺は受け身の体制を作る。
直後、俺の身体はえげつない反動を受ける。
天成はスキルの硬直により数秒動けない。
俺はその隙を見て身体の中心めがけて剣を突き刺す
ドォォン!という大きな衝撃音が響き、とてつもない爆発が起こる。
強い反動を食らった俺は、どうにか前を見た。
そこには、「WIN!」の二文字が浮かんでいた。
「天成!大丈夫か?」
俺は吹き飛ばしてしまった天成の元に駆け寄る。
「はい。大丈夫です」
天成は首をポキポキ鳴らして立ち上がる。
「やっぱり雅君には勝てないや」
頭をかきながら天成は少し照れる。
恐らく「悔しい」という感情より、「負けて恥ずかしい」という感情があるのだろう。
俺はそんな天成の頭を優しく撫でた。
ただ俺は少し違和感を感じた。
それはスキルを俺に向けて発動させている時の天成の目が異様なものになっていた。
殺気に満ち溢れていた冷酷な目は、普段はとても純粋無垢な小学5年生だとは思えなかった。
そしてその目は血の色に染まり、暗殺者と言っても過言では無かった。
天成のあの目はなんなのだろうか……。
第12話をお読みくださりありがとうございます。
<雑談コーナー>
僕は学生の身分で、今は、なんとか毎日投稿できているのですが、進級すると、かなり厳しいものがありますね(笑)。
受験という訳じゃないんですが、睡眠時間が少なくなると、昔から体調を思いっきり崩すので、それが心配で、下書きを滅茶苦茶、貯めています(笑)。
「血筋」という設定があるのですが、それも物語に激しく関係してきますね。
序盤は関係ないですが(笑)。
ご愛読ありがとうございました。
※【追記】作中で、天成の学年が、【4年生】となっていたので、【5年生】と直しました。
今後は、このようなミスが無いように随筆します。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。