004 テイム
振り下ろしたバットが角に当たり折れた。でも万能バットには傷一つない。すごいバットだな。
「メェェ」
HPバーは緑まで減った。羊戦士の動きがパタリと止まり、瞳から大粒の涙をぽろぽろと流し泣き始めた。
「メェェェェェン、メェェェェェン」
手を目に当てて泣き続ける羊戦士。まったく戦う意をなくしてしまったようだ。
「ああ!ヨウちゃん!!」
と、 少女が駆け寄ろうとするが、
「来るな!」
と、俺は万能バットを向けて近づかないように威嚇した。
少女はびくっとなり足を止める。
テイミング……実行…実行…。テイムの魔法がかからない。五割の成功率では難しいか?
泣き続ける羊戦士の腹を思い切り蹴り上げる。
「ヴェェェッ、ゴホッ」
羊戦士がその場にうずくまる。
緑の部分が一気に黄色に近づくいたので、もう一度テイミング実行する。おっ、かかったぞ。
よし命令だ。
「泣きやめ!」
「メェン…」
涙を堪えているようだ。その姿を見ているとなんだか鬱陶しく感じてしまう。
俺はさらに命令する。
「気をつけ!」
「メェ」
槍の石突を地面にドンとつけて、まるまるとした体を精いっぱい震えながら伸ばしている。
「え?……ヨウちゃん、どうしてそんな奴の言うこと聞くの?」
「こいつは俺のものになった。ガキはおとなしく家に帰れ」
そういうと少女は
「う、う、うわああああああああん」
泣きながら走っていった。しかし、このままだとまた何か連れてきそうだ。移動しよう。
少女が走っていった方角と逆の方角に羊戦士と草原を歩いていく。
そして俺が次にとった行動は……。
「持っている金を出せ。全部だ」
魔物にたかっていた。
もこもことした毛皮で見えなかったが、肩に掛けていたポシェットからもぞもぞと貨幣を出して差し出す。
「メェ」
二G……。
受け取る。なんだろうこの圧倒的な虚しさは……。
「持っている物全部出せ」
薬草や槍の手入れ用品などの日用品を次々とポシェットからだしてくる。おおよそ入るわけないものまで出てくる。こいつ一丁前にアイテムボックス持ちかよ。
そして最後に大切そうに大きな卵を出してきた。
五十センチはあるだろう。飯用にとっておいたやつか?あとで俺が代わりに食ってやることにして全て没収した。
はい、次。羊戦士の頭を万能バットで殴る。
バコッ。
「メェン…」
今度は狙い通り脳天にヒットする。ちょうど一区切り分減り、今度は赤色すれすれの黄色部分で止まった。
能力永久無効化…実行。
かかった…。何が変わるのか観察していると…。
持っていた槍を手放し、二足歩行をやめ、両手を地面につけた。大きな目はみるみる小さくなり、ほっぺたのふくらみが消えた。人化していた部分がなくなり羊の顔になった。お、草を食べ始めたぞ…。
「メェェェェェ」
うむ、実に羊らしい。もちゃりもっちゃりと口を動かしている。
羊戦士ではなくなり、顔のでかい水色の羊になった。もうこいつには用はない。もう一度羊の頭を万能バットで殴る。
「メェェ……」
HPバーがなくなるギリギリの赤い部分で止まり、ふらふらしながらも羊は逃げようとしている。
テイミングの効果は切れているな。おそらくテイミングが能力永久無効化に上書きされると解釈した方がいいのかな…。
そして、強制レベルダウン…実行。一発でかかった。
分析能力で見る。
◇ ◇ ◇
羊…(レベル1)
◇ ◇ ◇
おおっ!レベル一になった。
実験終了したので、最後の一撃を見舞う。羊はしばらくその場に倒れたままの状態だったが、光となって形が変わる。
羊肉二百グラムと毛皮がその場に残ったのを俺は槍と一緒にアイテムボックスに回収した。