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001 闇主様のお考え

ここはとある異世界の闇主の部屋。


「おい!セバ」

 闇主が側近にやや怒りを含めた声で呼びかける。


「ははっ!」

 闇主の前に現れた執事のような燕尾服を着た男、セバは軽くお辞儀をする。闇主は女だった。キャバ嬢のような盛り髪スタイル、肩紐の白のワンピースには大胆にスリットが入っているが、中が見えることもおかまいなしに脚を組み替えながら部下を問いただす。


「なんだこの状況は」


「見事に冒険者に蹂躙されております」


「”見事”とか敵のことをほめる奴があるか、もっと何とかならんのか」


「どうもチートスキルを持った奴らが多くおりまして、我が軍勢はどの世界でも大変不利な状態です」


「なんでこうもチーターが多いのだ?」


「推測するにどうもあちらの軍勢が、異世界からの民にチートを与え、大量に召喚をしているようです。そやつらが好き放題に暴れているのでどうしようもありませんな…」


「バカ!諦めるな…。そうだ!わらわも、異世界から召喚すればいいじゃないか?」


「でも前に探すの面倒だって言って、やらなかったじゃないですか」


「う~……。いや今日はやる。絶対探してやる。異世界でわらわの味方になってくれる奴を見つける」


「どうやって探します?適当にあちらの世界で大きな金属箱の乗り物に轢いて殺しても、敵の軍勢につくことが予想されますが――」


「適正な奴を探して、召喚しないと敵になるということか」


「左様でございます」


「前回の時には何か策があったんだろ?話してみよ」


「これでございます」

 セバと呼ばれる男は名刺サイズの大きさの石をタップしてAR表記を浮き上がらせる。そこには小説を投稿し、読者と交流するサイトが表示されていた。


「なんだこれは?」


「”特区”で異世界の物語を趣味で書いている者たちの交流する場所でございます」


「あの”電子特区”か……。それでここには多くの物語が書かれておるな」


「おそらくこちら側の世界からあちらの世界の者をチートを与えて呼び寄せいている物語ではないかと推測します。ここに書かれている物語を我々も読んでいき、我々と目的を同じとする者にチートスキルを与え召喚すれば…」


「思惑通りに働くということか!冴えているなセバ!して、めぼしい奴はおるのか?」


「いえ、なにぶん量が多く、わたくしだけでは読み切れません」


「闇主様もご一緒にお願いいたします」


「当てもなく探し出すよりかはいいか。よしやろう!」



 闇主とその部下がサイトを読み始めて三日が経過した。


「うが~~!」

「どうなされました?」


「なんじゃこいつら、上位はみんな悪を倒すとか、世界を救うとか、魔王を倒すとか、まったりゲームの世界を旅するとかそんな話ばっかりじゃないか」


「上位はそのようなことになっておりましたか。わたくしは下位から上位に向けて読んでおりましたが、似たような話が多いですな…。近いものとしてダンジョンを運営する話もありましたが…。我々が望んでいる物とは程遠いですな。十八禁のところへいきますか」


「はぁ~?十八禁?そんなところ行ける訳ないだろう!十五禁のギリギリのところで頑張るんだよ!それが美学ってもんだろうが?」


「なんのためのギリギリかはよくわかりませんが、一つ我々の思考と近い内容が書いている物語がありました。内容が鬼畜すぎるのですが、いかがでしょう?」

セバの薦めで闇主はその物語を読み始める。



「なかなか大量に書いてあったな、文章が今一つで面白くないのだが、考え方はかなり好きだな……。そろそろ疲れたし、こいつでいいんじゃないか?」


「え!?たった一人だけですか?もっと召喚しなくていいのですか?」


「え~だってメンドクサイもん!今日はもう寝るの。あとは適当にやっておいて~」

 振り返り、闇主は赤く上気した顔を見せないように部屋に引き上げる……。(なかなか感じさせてくれる文章だな……、最近していなかったし、今日のオカズはこれにしよう)


 引き上げる闇主の背中を見送りながらセバは問いかけた。

「与える能力はいかがなさいますか?」


「好きにしていーよ、わらわの加護を最大につけてあげて」


(もう飽きたのか、早すぎでしょう。まあとにかく候補者を一人見つけることができたのだから良しとするか……)

 と、セバは心の中で呟き、早速行動を開始した。



 ここはとある都市のとある民家の一室。


 男はパソコンの画面に向かってぶつぶついいながら、とある小説投稿サイトの閲覧数画面をカチカチとページを再読み込みさせる。


 (アクセス数は一時間で十くらいか…。全然伸びないな…。ひょっとしてこのアクセス全部俺じゃないのか?お気に入りの数もさっきと変わっていない。)


 男は大きなため息をついて、吠えた。

「なんでアクセス数が伸びないんだよ!こんなに面白い作品なのにもっとランキング上位でもいいんじゃねーか?」


 (俺の書いている物語は、鬼畜ハーレム異世界転移ストーリーだ。「にゃん」とか「にょ」とか「なの~」とかの語尾を付けてしゃべる獣人系の幼女は一切でてこない。ありえるわけねえだろう幼女がモンスターより強い世界って。なんで身長百二十センチもない奴が重たいハンマー振り回したり、薙刀操れんの?地面にあたっちゃうでしょ?


 「もふもふしてて気持ちい~」、「ぽよぽよしててかわい~」なんて表現なんかも一切無い。そんなテンプレートみたいな表現で伝わるかよ。もふもふってなんだよ。絶対に獣臭けものしゅうでくさいに決まってる。そうやって書けば盛り上がるのか?


 ん……!?だったら俺も書いてみようかな……。いや、気持ち悪くて書けない、無理だ……。


 リアルな鬼畜表現のみで成り立つハーレムストーリーを書き始め、はや半年たった。二日に一回は四千字を超える投稿を繰り返し、SNSでも宣伝しまくっているが一日のポイントランキングなどは千位以内に入ったことがない。


 絶対面白いのに、誰も認めてくれないのか。うぅ尿意が……トイレ行こう)


 男は階下のトイレに向かうために階段を下りる。


 途中で誰かにありえないところから膝カックンをされる。闇主の意向をうけ、この男を迎えに(殺しに)きたセバが手だけを階段の中からだしてバランスを崩させたのだ。


 男は後ろに倒れ、何度も階段で後頭部をぶつけながら、物凄い音と共に下まで落ちた。


 享年二十五歳だった。



 真っ暗な空間。俺はそこにある椅子に腰を掛けている。


 目の前には天井からのスポットライトで浮き上がっているところがある。


 コツコツコツと足音を響かせ、燕尾服を着た男がその場所に現れた。


「ようこそ、我らの世界へ」


「え?異世界にいけるの?」

 きたきたこの展開、実際に体感すると感動ものだな。


「左様」


「やった!何してもいいの?」


「いえ、勇者的な活動はNGです」


「世界を救う的なやつが?」


「はい」


「それはないな。他には制限あるの?」


「十八禁はダメです。十五禁の範囲内でするようにお願いします」


「はぁ?どうすればいいんだよ?ハーレムとかできないんじゃないの?」


「ソフトにお願いします」


「なんだよ、ソフトって、やることはどうしてもハードだろうがっ!!」


「ご容赦を…」


「まあいいよ、そっちで適当に編集しておいて、好きにやるから…」

 一体どういう風に編集するかは俺の知るところではない。


「はい、ではチート能力ですが何をお望みになりますか?」


「……対人戦闘で負けたくないな、何かいい能力ないの?」


「それではこの”スローモー”とかいかがでしょう?」


「どっかで聞いたことあるな~。じゃあそれと…相手にチート持ちいるの?」


「多くおります」


「じゃあ能力永久無効化と奴隷化術、強制レベルダウン1、あとテイムもしたいな」


「はいはい…なるほど書かれた物語に出てきておりましたな…」


「えっ!?なに、俺の作った話を読んだことあるの?」


「はい、それで適性があると闇主様がお決めになられました。あなたは闇主様に選ばれしものなのですよ」


「闇主様ってことは、悪属性側なんだ。まあなんでもいいよ、元の世界では何もすることもなかったし……。それじゃあ話が早いな、俺の書いているあの世界の主人公と同じ能力にしてよ」


「かしこまりました。ではお困り事がありましたら、日記帳に書いてください。できるかぎりフォローします」


「りょうか~い。んじゃまいってきまー」


「それではご存分に…」


そして目の前が真っ暗になった。


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