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迷い迷われ気付きゃ数年。

作者: 茂野



俺の家の真向かいの家は片親らしい。

父親と、息子二人と娘一人。って母さんが言ってた。

息子二人は俺よりもうんと歳上で、娘の方は俺より四つも歳上なのだそう。

でも俺は真向かいの娘だけは見たことない。息子二人は友達と遊びに行くのか、しょっちゅう家から出ていくのを見た。俺も、「内緒だよ?」って、キャンディを貰ったことがある。良いお兄さんって印象だ。


とある日、学校の帰りに珍しく娘が外に出ているのを見た。四つも歳上なのに俺より身長は低く、気持ち悪い、何とも言えない笑を貼り付け、腕や首、足にはぞわっとする程青痣が浮かんでいた。____気持ち悪い。本当に、心底気持ち悪いと思った。

兄の方は愛想良くニコニコ可愛らしい笑みを浮かべているのにそれがどうだ、娘の方は兄の笑を真似したような、気持ち悪いのっぺりとした笑みを浮かべてる。友達、居なさそう。当時俺は、5歳だった。



「向かいの娘さん、今年で中学生になるみたいよ。迷、1度御挨拶に行かない?近所と交友関係を持っているのも大切でしょう?」


母さんの口からそんな言葉が漏れる。

そうか、あの気持ち悪いヤツは中学生になったのか。9歳の俺はそんな事を考えていた。

母さんの言うことは最もで、渋々であるが向かいの家に『俺だけ』行く事になった。

おかしいじゃないか、母さんや父さんも行くべきなのに、「四つ上のお姉ちゃんが居るから迷でも優しくしてくれる」だからだって。面倒だ

ぴんぽん、とベルを鳴らす。暫く玄関の前で立っているとたたたた、と足音が微かに聞こえ、ガチャリと、軽快な音が鳴ると扉が空いた。

そこに立っていたのは黒いセーラー服に身を包んだ女の子だった。あの気持ち悪い笑は浮かべず、柔らかく聖母のような笑みを俺に向け、「いらっしゃい」と微笑む。

おいおいどうした、四年前と随分違うじゃねぇか。俺は小さいながらにそんな事を思った。低身長は相変わらずだが、見ないうちに女の子っぽくなっていた。

「こ、こんにちは…」 俺は精一杯、声を出して持っていた折菓子を渡した。ありがとう。と相手が微笑み、折菓子を受け取るとを見るとほっと息を吐いた。

「そうだ、折角なら上がっていかない?うちの兄さん、せっかく近所のおばさんがケーキを持ってきてくれたのだんだけど、甘いの苦手なんだ。ショートケーキとか、チョコケーキあるよ。丁度お父さんも居ないし、内緒だよ?」そう言ってはにかむ彼女は2番目の兄と良く似ていた。流れ流され、俺は彼女の家に招かれた。表札には、武渡 と記されていた。





____


後に、俺の嫌いなあののっぺりとした、気持ち悪い笑が彼女に張り付く事なんて、9歳の俺には到底考えることが出来なかった。

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