57話 一番ヤバい
ギャルの元気な声に出迎えられる。
「遅いよー! お腹ペコペコだよっ!」
「はは。 すまん」
昼には帰るつもりだったのだが、だいぶ遅くなってしまった。
「準備は?」
「大丈夫です」
爽やかな笑顔を見せるイケメン。
黒髪短髪のことを話したら気になっていたらしく、かなり乗りきで協力してくれた。
「美紀ちゃんお帰りですぅ〜〜」
「ただいま、亜理紗」
まずは食事だな。
軽く運動もしたし、俺も腹が減った。
「食事の準備も万端ですよ」
「おう。 サンキューな」
木の棒を組み立て作った立ちカマドでは、お嬢様や貧乳ポニテが料理をしている。
高い位置で料理をできるほうが楽でいい。 揺れないようにがっちりと作ろう。
「山田さんの好きなエビも、たくさん獲れましたよ!」
「おお!」
偉いぞイケメン!
俺はイケメンの尻を叩き感謝を示す。 さぁパーティーを始めよう。
BBQだ。
「イイ匂い〜〜」
肉や魚の焼ける匂い。 さらにキノコも。
鉄網が無いので串焼きと、木の板に張り付けて遠火でじっくりと焼く。
外はカリっと中はしっとり。
「燻製もいい感じだな」
出かける前に用意していた燻製もイイ感じ。
スモークが効いた旨味が詰まっている。
「おっさんと二人で大丈夫だった? 変なことされなかった??」
「大丈夫。 ……下着見られたけど」
「ええっ!? おっさん、サイテー!!」
やっぱりまだ根に持ってるのかな?
黒髪短髪を中心に会話が弾んでいる。
例え俺の悪口が含まれててもいいことだ。 自業自得の部分もあるしな。
「酒が欲しいなぁ」
秘蔵の酒は前にイケメンと飲んでしまった。
前は毎日寝る前は飲んでたんだがな。 飲まないと眠れなかったんだけど。
タバコも辞めれたし、健康的になったものだ。
「エビうまっ」
「美味しいですね」
ココナッツオイルで素揚げにしたエビ。
青っぽい透明だったものが、喜び踊り美味しそうな赤色に変化する。
ほんと酒が欲しいなぁ。 もう、作っちゃおうかな?
「ストレートフラッシュ!」
「ひええぇ!?」
手製の椅子付きテーブルでトランプをする。
俺は高らかに役を宣言しカードを机に並べる。
「おっさん、強すぎっっ!」
「イカサマ……?」
楽しい時間は過ぎるのが早い。
辺りは薄暗くなり、湖面には月が映り始める。
そろそろメインイベントに行こうではないか。
「よし。 じゃ、服を脱げ!」
「はぁ!?」
「それは、ダメでしょぉ! おっさんの変態っ!」
「山田さん……それはさすがに……」
違うよ。 トランプで勝ったから命令している訳じゃないよ?
「そろそろ風呂にしようぜ?」
親睦を深めるには裸の付き合いだろう。
いや、すでに水浴びとか一緒にしてたけどさ。
俺たちは覗いてただけだけど。
「風呂?」
「ああ。 二人が出かけてる間に作ったんだ。 美紀ちゃんも一緒に入ろうよ!」
そう言ってギャルはとある小屋を指さす。
風呂だ。 全体を大きな葉で覆われた、サバイバル蒸し風呂。
サウナだね。
結構な大きさ。 一日で造るとは、皆で頑張ってくれたらしい。
「はは、いい感じだな!」
俺はさっそく服を脱ぐ。
湖の側に造られた風呂場。 脱衣所はさすがに無いのでしょうがないよね。
「……中に入ってから脱ぎなさいよ」
貧乳眼鏡ポニテから冷静なツッコミをいただく。
「はいはい。 おっさんはそっちね?」
すでに見慣れたのか、ギャルの反応が冷たい。
一番初心な反応をするのが黒髪短髪である。
「あれ、男女で別?」
「当たり前でしょ!?」
「男二人? クフフ……」
別と言っても小屋は一緒。
真ん中で敷居が備え付けられている。
まぁ葉っぱなので所々覗けそうな穴があるけど。
(上から覗けるなぁ……)
覗こうと思えば、だが。
「では、いきますね!」
そう言うとイケメンは風呂場の奥に水を撒いた。
「おおっ!」
風呂場の中を一気に水蒸気が充満する。
暖かい。 イケメンが水を撒くたび、水蒸気が部屋を満たす。
熱気が、俺の体を包み込む。
息苦しいほどのそれが、とても気持ちいい。
「ふぁふぅ……」
「大丈夫、亜理紗?」
「一度出て、水浴びしてきたらどうだ?」
なかなか部屋の温度が上がっている。
すぐ近くに湖があるから、クールダウンしてまた入ればいい。
水浴び健康法だ。
「それは?」
「ついでにな?」
レモングラスを潰して出汁をとる、その中に焼けた石を入れる。
風呂場の中に爽やか香りが漂う。
せっかくだからアロマも追加だ。
「足は大丈夫か?」
「はい! 貰った薬が効いたみたいです、ありがとうございます!!」
七種の薬草とイノシシもどきの脂を混ぜた、おっさん特性軟膏が効いたか。
◇◆◇
気になります……。
「ふぁっ、あっ、熱いです……。 山田さん……」
「くくく、それがいいんだろう?」
何が熱いんですか!? 何がいいんですかぁ!?
聞こえてくる怪しげな音に耳を傾ける私。
この葉っぱで作られたカーテンの向こうで、一体どんな蜜月の時が刻まれているというのでしょうか?
脳内スケブしないとぉおお!
「千春? ……何をしようとしてるかしら?」
「はっ!?」
魅惑のカーテンを覗こうとしたら、ガッシリと、綾子ちゃんに肩を掴まれました。
「許してください、綾子ちゃん。 私、覗きたいんです!!」
「いい加減にしなさいよぉ!? あんた、まともそうに見えて、一番ヤバイわよっ!」
綾子ちゃんだって、脳内で武将変換して変態ソロプレイしてる変態さんの癖にうるさいのです。
「ちょ、ちょっとだけですから……」
「ダメよ!」
綾子ちゃんのお邪魔虫。
でも私は必死に覗きました。 そして一枚のSSを脳内ストレージに保存しました。
山田さんの引き締まったお尻。
パンパンとリズムを刻む乾いた音。
苦渋の表情を浮かべる英斗君。
(嗚呼。 至高です……)
脳内補完は乙女の嗜みです。




