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56話 バタフライ


 俺は上から黒髪短髪に声を掛けた。


「こんな感じだ」


「……いや、無理だから……」


 壁に這うように生えるガジュマルの木。

樹齢何年なのか知らないが崖の上まで育っている。

 それを登り、洞窟の入口まで戻ってきたのだが。

少しボルダリングをする必要もあるけど。 普通の女性にはちょっときついかもしれない。


「ふむ。 梯子を作る材料はないなぁ」


 小さい洞窟のほうから行ってみるか。

水面から洞窟の天井まで一メートルは高さがあった。

 泳いでも行けるだろう。


「とう!」


 飛び込みってなんで楽しいんだろうね?

押し上げられる内臓。 数秒の浮遊感。

 着水した瞬間、時間の流れが止まったような感覚に包まれる。

息を吐きだしながら、ゆっくりと水面へ向かった。



「そっちから行こう」


「……うん」


明かりは見えている。

それほど遠くはない。 それでもやっぱり黒髪短髪は不安そうだ。


「大丈夫。 すぐに抜ける」


 俺の防水バックは浮き輪代わりになるので貸してやる。

服を着たまま泳ぐのは意外と大変だからな。


「泳げるのに……」


 丸いというより、ひし形の洞窟。

横に行けば壁も狭まる。


「なるべく、俺の後ろを泳げ。 横にズレると岩があるかもしれない」


「分かった」


 洞窟の終わりが見えてくる。


 空気は変わり、水面にはたくさんの緑が映る。 

抜けた先、振り返ると岩肌の見える崖が出口だった。

コの字を描くような湖は、森山を境に拠点側の湖と繋がっている。


「山の裏側まで来れたのか。 かなりショートカットになるな」


 ギャルたちのいる湖の拠点からは、小さい森山があって見えなかった位置だ。

筏を作ったら行ってみようと思っていたのだが。 先に探索できそう。


「あそこまで行くぞ。 大丈夫か?」


「大丈夫。 そんな気を使わなくていい」


「はは。 じゃ、どっちが先に着くか競争だな!」


「はあ!?」


 言ったがスタート。

俺は元気よくドルフィンキックをかます。

 得意種目はバタフライ。

圧倒的な迫力が魅力の泳法だ。


「はぁ、はぁ……めっちゃ疲れる」


「馬鹿だろっ」


 しかも、あまり速くない。

勝負は同着。 陸に上がると濡れた髪をかき上げ、服を絞る黒髪短髪。

 ぴっちりとした黒いズボンが張りつき、下着のラインが浮き出る。

服の下の肌は白く女らしい柔らかそうな肉だ。


「で、結局なにがしたかったんだ?」


「ん?」


「私を連れだして、どういうつもりか聞いてるんだよ」


 何があったか知らないが、覗き告白の後からイケメンがやけにスッキリとした顔をしていた。

お嬢様の顔色も良くなってきたし。 そうすると一番ヤバそうな顔をしていたのが、黒髪短髪だった。 基本、亜理紗以外と喋っているのをみないし。


「気分転換になったろ?」


「……なんなんだよ」

 

 亜理紗に振り回されるのは大変だろうしな。

まだ少しだけの付き合いだが、自由過ぎる。

 気付いたらいなくなってるし、テンション高いし。


 黒髪短髪は溜息を一つ吐き、腰を降ろして水を飲み始めた。

 俺は休憩しているように伝え、辺りを探索する。

基本的な植生は拠点側と変わらないが、いい樹木を見つける。


「バルサか、筏の材料に使えるな」


 軽くて加工しやすい木だ。 適度な強度もあるので筏に最適。

樹皮は縦に簡単に避けて紐として使える。

 少し作業に没頭したい。 とりあえず黒髪短髪に伝えてこよう。

できれば手伝ってもらおう!


「おーい。 あっ……」


「――っ!」


 キュッとしまった、良い小尻だ。

細いのも悪くないなと思わせてくれるような、良い小尻が見えた。

 目を丸くする黒髪短髪。 胸が小さくてもちゃんとブラするんだな。


「見ないでっ!!」


「おおっ、悪い」


 近くにズボンとシャツが干してあった。

脱いで乾かしていたらしい。 俺は急いで後ろを向いた。

 しばしの沈黙の後、黒髪短髪は訊ねてくる。


「……どうしたのよ?」


「ああ、ちょっとあっちのほうで作業してるから、休んだら来てくれ」


「……分かった」


 バツの悪い俺はすぐに移動する。

ワザとじゃないんだが、最近、着替えを覗いてしまうことが多いな。

 ほんとワザとじゃないんだけど。



 石斧を振るう。

木を切るというより、繊維を押しつぶすように。

 ある程度切れ込みを入れたら捻じりながら押し倒す。

走ってしがみつき捻じり倒すのも良い。 体重と勢いが使えるからね。


「これだけあれば行けるな。 残りはまた今度かなぁ」


 とりあえず黒髪短髪の小尻ぐらいの太さの物を六本、三メートルほどかな。

なるべく真っすぐの物が良い。 それに、もう少し細い物を二本。

 六本を床として二本を横に設置して、裂いた樹皮で結んでいく。

バルサの簡単筏の出来上がりだ。

 後は手ごろな枝を石のノミを使ってオールを作る。

長くて真っすぐな物がいいね。


「……おっさん、コレ」


「おう?」


 なかなか来なかった黒髪短髪から棒を渡された。

パドルに加工できそうないい棒だ。

 

「筏、作ってるんでしょ?」


「ああ、サンキューな?」


 見てたのか?

なんにせよ有り難い。 この棒で殴ろうとしてたわけじゃないよね?



◇◆◇



 二人でも、筏は順調に進んでいく。


「二人でも平気そうだな。 後四つ作って繋げようかな?」


 乗り心地は悪くない。 むしろカヌーより乗りやすい。

 八人乗りの筏を作るのは大変だ。

二人乗りを連結させた方が楽。 木材の運搬に昔は使われてたりする方法だ。


「いっぱい……」


 筏の下を泳ぐ魚。

透明な湖は優雅に泳ぐ魚たちを観察できる。


「落ちるなよ?」


 下を覗き込む黒髪短髪に注意する。

できれば重心を傾けるのは止めて欲しいのだが。

 まぁ楽しそうだからいいか。

俺はゆっくりと手製のオールで筏を漕いでいく。

 風は緩やかで天気もいい。 大自然を満喫していく。


「あの島、行ける?」


「おー」


 湖の真ん中にある亀の背のような島。

かってに亀島と呼んでいる。 


「む?」


 流れがおかしい。 

亀島へと進むと、まるで侵入を拒む様に水の流れが遠ざけようとしてくる。

 

「すまん、ちょっと難しいな」


 パドルの推進力じゃ厳しい。


「ん。 いいよ、別に」


 俺たちは流れに逆らわず遠くから眺めた。

特に変わった様子もないのだが、何か、不思議な感じがした。



「お出迎えだな」


「……」


 拠点側の岸には皆が待っていた。

ちょうどいい時間だろう。 頼んでいたモノも出来ているかな?

 

 俺とは少しは打ち解けただろうか。

次は皆でレクリエーションと行こう。







10/14 修正:上の壁→洞窟の天井 修正させて頂きました。

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