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55話 この変態野郎めっ!!


 薄暗い洞窟。

湖から少し離れた崖にあったそこで、黒髪短髪の声が木霊する。

 その声はとても低く、ドスが効いていた。


「……私をこんな所に連れ込んで、どうするつもりだ?」


 洞窟探検。

ケイビングだよ?

 

「やっと本性を現したか! この変態野郎めっ!!」


「いや、誤解だぞ?」


 黒髪短髪はなにか勘違いをしているようだ。

 まずは俺との親睦を深めようと連れだしたわけなんだが。

ゆらゆらと揺れる松明。 ゴツゴツとした岩壁を背にこちらを睨みつけている。

 鍾乳洞ではなさそうだな。

ゴロゴロと岩の転がる地面。 この先はいったいどうなっているんだろうか。


「よし、行ってみよう!」


「はっ!? 話を聞いてるのかぁっ!!」


 洞窟は人が通るのに十分な広さがある。

この暗闇の先にどんな光景が待ち受けているのか。

 考えただけでもワクワクする。


「ワクワクするなっ!」


「はあ……?」


「男のロマンだろうっ!」


 黒髪短髪のように、大口を開ける洞窟。

 俺が動き出すと、黒髪短髪は下を向いて頭を左右に振った後、ついて来た。

空気はひんやりとしていて湿気は高い。 歌の様に、高い音が聞こえてくる。

 

「……っ?」

 

「空気の音だろう。 どこかに繋がってるのかも」


 まぁ無理せずいける範囲で探索しよう。

洞窟は地下よりも若干上り坂だ。 奥へ進むに連れて道が広くなっていく。

 一歩ずつ、危険を確かめながら進む。 洞窟に住む小さな生物たちは驚き、岩の陰に隠れていく。 曲がりくねっているが一本道だ。 俺たちは無言で進んでいく。


「あ……」

 

 明かりが見えてきた。 

産道から生まれる赤子のように、俺たちは洞窟を抜ける。


「うわっ!?」


 三十分ほどか。 思ったよりも短い探検だった。

しかし最後に俺たちを待ち受けていたのは、やっぱり神秘的な光景だった。


「おぉ。 飛び込めるかな?」


 洞窟の終わりは切り立った崖、そして泉の上だ。

湖のほうから繋がっているのだろうか。

 高さは約八メートルといったところだろう。

深さにもよるけど、下に岩がなければ飛び込めるかな。 

 水はとても透明度が高く、岩がないことは見て取れる。


「正気……?」


「あっちの木からも降りられるぞ」


 大きなガジュマルの木だ。

垂れ下がる根は柳のようになっている。

 下を見下ろし僅かに震える黒髪短髪。

高い所、苦手なんだろうか? 背も低く胸も小さい、イケメンよりも華奢な体付き。 

 だけど気は強いのだろう。 俺が心配そうな目で見ていると、睨みつけて吠えた。


「……怖がってなんかない。 そんな目で見るなっ!」


 可愛げのない奴だ。


「ふぅ……。 お、そうだ」


俺は垂れ下がる根を引っ張る。

いくつもの根は絡み合い、腐ってもいないようで強度は十分にあった。

 グイッ、グイッと引っ張ってさらに確かめる。


「たぶん、大丈夫だろ」


 万一切れても、下は水だ。

ターザンのごとく、俺は宙を飛んだ。


「えっ……」


 枝がしなる。

葉や枯れ枝は落ち。

 俺は根を握りしめながら、半弧を描く。


「はあああっ。……ははっ!」


 思ったよりも大きな泉。

周りを崖に囲まれたプールのようだ。

 俺は根から手を放し、足の先からダイブした。


(深い……)


 底に足がつかない。

五メートル以上はありそうだ。

 飛び込みに驚いた魚たちは動き回り、動くたびにできる気泡が上へと昇っていく。


「ぷふぅッ……」


 水面へと顔を出した俺は辺りを見渡す。

崖の下まで泉は広がり、小さな洞窟は湖に繋がっているようだ。

 自然のプール。

立派な観光名所になれそうな場所だ。


「おっさん! 生きてるかーー?」


「おう! 気持ちいいぞぉ。 おまえも、来いよーー」


 上からこちらを見下ろす黒髪短髪。

覗いては戻り、覗いては戻る。 まるでバンジージャンプをためらう芸人のようだ。

 

「岩とか、ない?」


「無いよ」


 何かブツブツ言ってる。

周りは壁だが、ガジュマルの木を登れば戻ることも可能だ。

 飛べないなら、無理に飛ぶ必要もないか。


「怖いなら、戻っててもいいぞー?」


「っ!」


 黒髪短髪は洞窟の方へと戻っていく。

まぁしょうがないか、と思っていると走ってきた。


「――怖くなんかないって、言ってるだろぉッ!!」


 根をロープの様に使い飛んだ。

しかし手を放すタイミングが遅い。


「んやぁあああ!?」


 半回転しながら頭からダイブした。


「……大丈夫か?」


「……」


 上がってこない。

 十メートルの高さから飛び込めば一トンの衝撃が来ると言われているが。

ちゃんと着水の姿勢をとらないと危ないぞ?


「ぷはっ! はぁっ、はぁ、はぁぁ……マジ顔痛い……。 ……ぷっ、ははっ、あははっ」


 ヤバイな。 急に笑いだした。

頭を衝撃でやられたのだろうか?


「……大丈夫か?」


「はっ、はああっ、あははっ。 死ぬかと思った……!」


 死にかけてテンション上がったのね?

化粧のとれた愉快に笑う顔は、ピリピリとした険がとれていた。

 その屈託のない笑顔は男女ではなく、ちゃんと女の子の物だった。


















寝不足でござる……( ˘ω˘)zzz

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