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1話 プロローグ

 花見時のとある日。


「俺のせいだ……。 俺が落っこちまえなんていったから……うぅああぁ……!」


 そのニュースは流れた。

 乗員乗客300名を乗せたファイヤージャパン航空666便が突如姿を消した。

成田空港を出発しオーストラリアへ向かう最中の出来事だった。


 ニュースに映し出される青年。

姿を消した航空機に知人が乗っていたようだ。


「バイトの後輩が幸せそうに、彼女と二人で卒業旅行に行くなんて言うんですよ、だから、俺は……落っこちまえって……」


 青年の流す涙が本心からの言葉では無かったことを表していた。

フライトレコーダーから受信した記録を頼りに、太平洋沖を懸命の捜索が行われた。


 しかし、一切の痕跡を発見できず、ついには捜索は打ち切られてしまった。


 『まるで神隠し』

 次の大事件が起きるまで、新聞各紙を賑わせる。


◇◆◇



ザザザァ……。


「大丈夫だ、理子! 俺が必ず守ってやる!!」


「英斗君……」


 ターコイズブルーの美しい海。

 波打ち際で手を取り見つめ合う二人。 若い美男美女のカップル。

これが映画だったなら、なんと画になることだろうか。


(うぜぇ……)


 そんな二人の後方。

背の高い木、ヤシの木の木陰から眺める男は紫煙を燻らす。

白い砂浜には不釣り合いな、くたびれたスーツにネクタイ。

 死んだ魚のような瞳。 目の下には長年の不摂生で出来た隈が色濃く残っている。

とはいえ、太陽の光を軽減してくれるようには思えない。


「ふぅぅ……」


 長い溜息とともに辺りを見渡す。

スーツの男と同じく、木陰に入りじっとしている者が多い。

若い男女数人が海で遊んでいるのを冷めた目で見ている。 


 おそらく南国の海辺なのだ、常ならば若者たちが普通だろうに。


「……」


 スーツの男は残骸を見た。

無残な姿をした鉄の塊。波打ち際に転がっている。

 数百人の人間と、大空を飛び遠く離れた場所まで運んでくれる人間の叡智の結晶。


 今ではただの不格好なオブジェだ。


チャプチャプ……。


 手に持つペットボトルを揺らし、不安になる音を立てる。

水の残りはもう少なくなっていた。


(やっべぇな……)


 照り付ける太陽。

湿度が高く、普段よりも水分が必要だ。

 こんなことになってしまってからまだ半日も経っていない。

 救助はいつくるのか? ただ待っているだけでいいのか?


――本当に来るのか?


 スーツの男は重い腰を上げ、人の気配のない森を見つめた。


(帰ったら仕事は辞める。 絶対辞めてやる! 賠償金で悠々自適生活だ!!)


 男は拳を握り突き進む。


「……死んでたまるか。 俺だけでも、生き残る……!」


 男はたった一人、森の中へと進んでいく。



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