表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

13

 鏡守 -KAGAMIMORI-


Episode 7:反射する私


 その日から、美羽は鏡を見るたび、わずかな違和感を抱くようになった。


 洗面所の鏡、スマートフォンの前面カメラ、電車の窓――


 “映っている美羽”が、ほんの少し、動きが遅れている。


 最初は疲れだと思った。目の錯覚。偶然のタイミング。


 けれど、それは少しずつ、明確に“ズレ”を持ちはじめていった。



---


 月曜日の朝。

 美羽は、登校中にふと足を止めた。


 小学校時代の記憶が――改ざんされていた。


 「朱音って、昔から一緒だったよね?」


 麻理が笑顔で言った。


 朱音。そう。親友。中学からじゃなかった? いや、小学3年の時にはもういたはず……?


 写真。アルバム。LINEの履歴。


 すべてに、朱音がいた。


 でも、美羽の中の“感情”だけが、首を横に振っていた。


 (おかしい。こんなに鮮明なはずなのに――“懐かしさ”が、ない)



---


 放課後、美羽は鏡守の間を訪ねた。


 老婆は、美羽の顔を見るなり呟いた。


 「もう、始まっておるな」


 「“反射体”が、君の意識と重なってきた。朱音を戻そうとした代償じゃ」


 「代償……?」


 「思い出そうとしたことは、すなわち**“新たな存在”として構築すること」

 「君が“あの子”を強く思うほど、朱音は“朱音ではない何か”として世界に滲み出す」


 「その影響が、君にも出始めておるのじゃ」



---


 その夜、美羽の夢に“鏡のない部屋”が再び現れた。


 そして、そこに座っていたのは朱音……ではなかった。


 美羽自身だった。


 けれど、表情が違う。目に光がない。

 何かが“抜け落ちたような顔”。


 そして、夢の中の“もう一人の美羽”が、ゆっくりとこう囁いた。


> 「あなた、わたしを見ていたんだよね」

「ずっと前から、ずっとずっと――鏡越しに」

「でもそろそろ、“入れ替わって”いい頃じゃない?」





---


 朝。

 制服のポケットから、一枚の手紙が出てきた。


 自分の字だった。


> 〈記録改変確認報告〉

・朱音:再構築成功(表層人格統合率92%)

・高梨あかね:記録統合済(廃棄予定)

・ミウ(観測者):交代準備完了




 (……誰が書いたの?)


 確かに、自分の筆跡なのに、書いた覚えがない。


 鏡を見る。映っているのは、美羽。

 でも、その唇がゆっくりと動く。


 「“わたし”はあなた。だから、あなたは“もういらない”」



---


 鏡が、笑った。


 スマートフォンの画面に映る自分が、まばたきしない。


 電車の窓に映る顔が、口を裂いて笑った。


 廊下を歩く美羽の後ろで、足音がずれて重なる。


 自分の名前を、クラスメイトが口にするとき、

 なぜか**「どっちの“美羽”のこと?」**と、聞き返したくなる。



---


 夜、美羽の部屋の鏡が、ついに**“音を立てて”ひび割れた。**


 そこに、もう一人の“美羽”が立っていた。


 白い制服。瞳に色がない。

 だけど、完璧に“自分”だった。


 彼女は、鏡の向こうから問いかけた。


> 「あなたの名前は、何?」




 美羽は、言葉が出なかった。


 その代わりに、“もう一人の自分”が、笑って答えた。


> 「わたしの名前は、“ミウ”。本物の、“ミウ”。」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ