二話:重戦士ミューリ
エバーメント学園の授業は迷宮探索だけではない。
学園という名が付いているからには、もちろん一般の授業も存在する。
クラスは年度末に行われる迷宮探索の結果によって決まっている。これは毎年必ず行われ、最上級生である四年生にとっては卒業試験も兼ねる。ランクと同じくFからAまで六つに分けられているものの、クラスはランクとは違い、単純なモンスター撃破や踏破階数によって決まるのではなく、探索中の行動全てを評価された上で決定される。例え深層まで潜れたとしても、パーティの足を引っ張ったりすれば上のクラスに行けるとは限らないし、同時に逆のことも言える。
ちなみにマーティはというと、既にソロという時点で協調性、社交性などにチェックが入って評価が下がり、さらには速攻で脱落したので探索結果の加点も望めず、案の定今年もFクラスに割り振られた。悲しいことに、マーティにとっては毎年いつものことであった。
昨年度末の迷宮探索から、四年生になって初めての授業だ。周りの顔ぶれは、知らない顔もいれば知っている顔もいる。知らない顔は、今年入学した新入生だろう。
基本的にランクが低い生徒が多いが、新入生以外でFランクなのはマーティただ一人である。
今行われている授業は、エバーメント学園が属するトリュフェ王国で使われている文字について学ぶ授業だ。Fクラスに属する生徒の中には僅かだが文盲の生徒もいるので、授業は基礎を学ぶのが中心になる。
四年目になってもいまだに慣れない書き取りに四苦八苦しながら、マーティは何とか授業のスピードについていく。毎回ノルマが決められていて、そこまで終わらなければ宿題になるので、マーティは割と必死だった。マーティと同じ思いなのか、忙しく手を動かしている生徒は多い。中にはやる気が無いのか机に突っ伏して寝ている生徒もいたが。
やがてチャイムが鳴り、午前の授業が終了した。
午前の授業と午後の授業の間には、一時間の昼休憩の時間が与えられる。マーティは自分の荷物が入った鞄を手に取ると、いつも昼食を取っている場所に移動した。
「相変わらず、人気が無いなぁ」
マーティがやってきたのは、迷宮から程近い丘の上にある雑木林だった。
迷宮からは近いが、ベンチも無ければ道も無く踏み入る生徒はいない。
一番高い木に、マーティはえっちらおっちら登り始めた。さすがに木登りが得意な動物のように軽やかとはいかないが、それでも慣れた様子で手間取ることなく登っていく。
枝が人間の体重を支えられる限界の高度まで上がると、マーティはようやく目的の場所にたどり着いた。
その場所は、マーティのささやかな秘密基地だった。一本の太い枝に対して二本の枝が手すりのように並行して伸びており、身体を支えてくれるためバランスを取らなくても落ちることはない。天然の枝だけで、ちょっとした椅子とテーブルが出来上がっている。
樹上の椅子に座り、近くの適当な枝に鞄を引っ掛けて、中から弁当を取り出し、テーブルに見立てた枝に置いた。
弁当とはいっても、迷宮探索に持っていくのと同じ小さなパンに、一欠けらのチーズ、果物という簡素なものである。チーズと果物は以前迷宮内で拾った怪しい代物だが、食べても腹を壊さないことは確認済みだ。
もそもそと弁当を食べ終えると、マーティは一息ついて外の景色を眺めた。
生い茂る葉の隙間から、迷宮の入り口がよく見える。迷宮探索は早朝から始まるので、昼のこの時間に迷宮に入る生徒はいない。出てくる生徒はたまにいるが、極めて少ない人数だ。
この場所から迷宮を眺めることが、マーティは好きだった。
雑木林がマーティの姿を覆い隠してくれるので、誰かに絡まれる心配がないというのもマーティが好んでこの場所を利用する理由の一つに挙げられる。
しばらくして、マーティは鞄を漁ると本を取り出した。
まだ村にいた頃、一時村に逗留した旅人から譲り受けたものである。何度も読み返した跡があり、ページはところどころ変色して黄ばんでいる。
表紙には『呼吸術』という文字が書かれていた。
「これが完璧に出来るようになったら、ぼくもきっと……」
期待を滲ませた声で呟き、マーティは本を開いた。
■ □ ■
呼吸術、という特殊な武技がある。
武技とはいっても武術ではなく、かといって魔法でもない。
端的に表すなら、他の動物の呼吸を真似ることで、その能力を再現する技法だ。
猫や馬、熊などの一般的な動物だけでなく、ベヒモスやドラゴンといった、災害級の動物ですら理論的には真似ることができる。
魔法を学ぶだけの金もなく、武技の適正すら持たないマーティに唯一残された、強くなれるかもしれない可能性だった。
本当かどうか疑わしい眉唾物の技法だが、幸いマーティはこの技法が実際に存在することを知っている。
見せられたのだ。マーティの目の前で。
その日は、今日のようによく晴れた日だった。
当時はまだ村で家族と暮らしていたマーティは、畑仕事の最中にいなくなってしまった妹を捜して探して村の外に出ていた。
マーティよりも幼い妹は、まだ幼児であることもあって非常に好奇心が強い。
ことあるごとにすぐふらふらと何処かへと行こうとするので常日頃気をつけてはいたのだが、それでもその時のようにちょっと目を離した隙に逃げ出してしまうことがあった。
自分もそうだったからマーティはきっと畑仕事がつまらないのだと思っていたが、捜さないわけにはいかない。幼児を一人にしておくのは色んな意味で危険なので、その都度家族の誰かが捜し回る羽目になる。今回はたまたまマーティが捜していた。
普段なら大抵村の中にいるのだが、見つからない。村の外に出てしまった可能性が出てきて、家族総出で捜索することになった。
ミイラ取りがミイラにならないように、家族全員で纏まって探した。しかし村中を探しても見つからない。マーティの妹は本格的に村の外に出てしまったようだった。
これではもう見つかるはずがない、きっとモンスターに食われてしまったのだと諦め気味な家族に憤慨したマーティは、反対を押し切って村の外で妹を探し続けた。
結局マーティの妹はたまたま通りかかった旅人に保護されていて、旅人とともに無傷で村に戻ってきていた。
入れ違いになった形のマーティはそのことを知らず、危険を承知で探し続けた。
だって、妹なのだ。見捨てていい筈がない。
そしてマーティはモンスターに襲われ、村から引き返してきた旅人に助けられた。
幼いマーティは、旅人に懐いた。旅人は旅で見聞きした出来事を面白おかしく語り、それらの冒険譚に幼き日のマーティは夢中になった。
旅人はしばらく村に留まり、時々マーティに稽古をつけてくれた。そしてある日、言い難そうに残酷な真実を告げた。
自分の見立てでは、マーティには武術の才能が欠片も無い。自分がそうだったから、よく分かると。
ショックを受けたマーティは、一晩中泣き明かした。
やがて旅人が村を去る日が来て、旅人は去り際にマーティに一冊の本をくれた。
この本に書かれている技術なら、武術の才能が無い人間でも、強くなれる。旅人は確かにそう言った。
大切なものじゃないの? と尋ねるマーティに、旅人は本の内容を全部覚えてしまったからと、どこか愛おしげに本の表紙を撫でると、村を去っていった。
きっと旅人にとっても、要らなくなっても持ち続けるほど、その本は書かれている内容以上に価値のあるものだったのだ。なのに、マーティに託してくれた。
小さな頃だったから、旅人の名前も、その性別すら、マーティは覚えていない。
それでも、マーティの手元には、貰った呼吸術の本が宝物となって残っている。
■ □ ■
午後からの授業には、戦闘訓練が入っていた。
動きやすい練習着に着替えたマーティは、一人で鍛錬場へと向かう。
鍛錬場にはちらほらと生徒たちが集まっていた。
基本的に授業はクラスごとに行われるので、今練習場に集まっているのは皆Fクラスの生徒たちである。
マーティが授業で使う学園の備品であるショートソードを選んでいると、最後にやってきた戦闘訓練担当の教官が、手のひらを打ち合わせる。
「おいガキども、いったん集合。駆け足!」
これが上位クラスならば見事な駆け足で整列する光景が見られるのだろうが、ここは成績最下位のFクラスである。真面目にきびきび走る者と、いかにもやる気なさげにとろとろ走る者が混在していて、実にバラバラだった。整列もせず、ただ集まっただけだ。
だが教官はそんなFクラスの様子にも慣れているようで、強面の顔は平静を保ったまま、授業の内容を述べていく。
「今日は一対一の試合を行う。準備運動を終えた者から、対戦表を受け取りに来るように」
教官の号令で、生徒たちが鍛錬場に散って準備運動を始めた。マーティも念入りに屈伸をして、身体の調子を整えていく。才能に恵まれていないとはいえ、一応マーティも武芸者の端くれであるから、身体はそれなりに柔らかかった。開脚の状態から、上半身を前に倒して地面に伏せることもできる。
準備運動を終えたマーティは、教官から自分の対戦表を貰った。対戦は全部で六試合組まれていて、残りの授業時間を六等分して制限時間が決められている。
「初戦はミューリか。……って、どうして彼女がFクラスにいるんだ?」
対戦表を確認したマーティは、まだ準備運動を続けている女子生徒に目を向ける。
女ながら筋肉がよく発達した男顔負けのがっしりとした体格の持ち主だが、童顔で愛嬌のある顔立ちなせいかあまりいかつい雰囲気はない。程よい肩までの長さで整えられた赤毛と、垂れ目でぽやっとした茶色の瞳が印象的で、第一印象としては、むしろ可愛い系の部類に入る。脇に長剣と大盾を置いてあるところことから見ても分かる通り、顔に見合わずれっきとしたパワーファイターである。
マーティと同期でありながら、彼女はもうDランクに上がっている。三年という月日を考えればそれほど早いというわけではないのだが、一向にランクが上がる気配のないマーティにしてみれば、十分早いといえた。
はっきりいって、Fクラスにいるには場違いな人物である。
対戦表を受け取ったミューリは、中身を一瞥すると真っ直ぐマーティのところへやってきた。
手を差し出して握手を求めてきたので、マーティも応じる。特に力を篭めている様子はないのに、ミューリの握力は万力のように強かった。実際にミューリの視点ではただ握手しただけで、特別に力をこめたわけではない。マーティが一方的に負けて痛みを感じただけだ。
「今日はよろしく。久しぶりだね、対戦するの」
「……お手柔らかに頼むよ」
さりげなく握手した手を背中に隠して摩りながら、マーティは苦笑した。
今でこそFクラスにいるが、マーティの知る限りでは、ミューリは前回までCクラスにいたはずだ。どうしてFクラスにまで落ちてしまったのかはマーティも知らないが、本来ならFクラスにいるような人材ではない。彼女のランクであるDランク相応に、到達階も平均到達階数の地下十二階を超えている。
ミューリは親しげにマーティに声をかける。
「ね、迷宮攻略、今何階まで進んでる?」
「……地下四階をソロ攻略中かな」
ぼそりと応えた瞬間、二人の間に妙な沈黙が立ち込めた。
吃驚したように目を瞬かせたミューリが、マーティに尋ねる。
「えっと……パーティ、組んでないの?」
「組む相手がいないんだよ」
分かってるくせに、とふてくされ気味のマーティに、ミューリがおずおずと言った。
「……わたしがいたパーティのリーダーに入れてもらえるように、頼んでみようか?」
「ううん、いいよ。実はもう、断られたことあるから」
「そ、そうなんだ……何だか、ごめんね?」
気まずそうに苦笑いするミューリに、マーティは首を横に振った。
「仕方ないよ。ぼくが弱いのが悪いんだし」
「マーティは別に悪くないよ!」
突然身を乗り出して叫んできたミューリに驚いたマーティは、反射的に後ずさる。
「ど、どうしたの、急に」
目を白黒させるマーティに対して、ミューリもあたふたと手を動かした。
「なんでもないよ」
本人はそういっても、態度がそれを裏切っている。
不思議そうに首を捻っているマーティに、ミューリが慌てた様子でまくし立てる。
「それより、そろそろ試合始めよ? 他の人たちも始めてるし、時間が無くなっちゃうよ」
納得したわけではなかったが、ミューリのいうことも最もだったので、マーティは追求をやめた。
お互いに向き合って礼をし、軽く武器を打ち合わせる。試合開始の合図のようなものだ。
即座にマーティは距離を取ろうとした。ショートソード一本で戦うマーティでは、盾持ちと不用意に接近していては不利だからだ。
ミューリもマーティと同じ認識なので、簡単にマーティの離脱を許さない。即座にマーティに追い縋って逃すまいとしてくる。それでも、武器を含めた重量差の関係で、二人の距離はゆっくりと開いていった。
ある程度距離を取ったマーティは、改めてミューリの動向を伺う。ミューリはすでに追跡を諦めて、盾を構えながらじりじりと間合いを詰めようとしている。
ショートソードで戦うには、ミューリが持つ大盾と長剣は少々難しい。リーチは長剣の方が長いし、防御の要である大盾は防具であると同時に、優秀な武器でもある。
思案するマーティの様子を隙と見たのか、思い切ってミューリが一気に距離を詰めてきた。重量のある長剣と大盾をものともせずに突進する様は、マーティに城門を破壊しようと突撃する攻城兵器の眼前に立ったかのような恐怖を抱かせる。マーティは慎重に回避するタイミングをうかがった。
「えい!」
可愛らしい掛け声とともに、ミューリが大盾を振り下ろした。大きな音がして、青銅の大盾の縁が地面にめり込む。
マーティは間一髪で、狙われた踏み足を引き戻して難を逃れていた。
掛け声は年頃の少女らしくとても可愛いが、やっていることはえげつない。まずはマーティの機動力を削ぐ腹積もりなのだろうか。
お返しとばかりにマーティもミューリの右胴目掛けてショートソードを振るう。一見隙だらけに見えていたので、もしかしたらこれで決まるかもしれないとマーティは密かに期待していたが、やはりそう簡単には上手くいかない。
盾を持つミューリの腕の筋肉が盛り上がり、大盾が素早く引き戻され、冗談みたいな速度で移動する。マーティのショートソードはまるで吸い込まれるかのように動いた大盾に防がれ、弾かれた。ミューリが絶妙のタイミングで大盾もろとも前に出たせいだ。
そして一歩踏み出したそこは、大盾の間合い。
「くそっ」
悪態をつきながら、マーティはいったん距離を取る。だが同時にミューリも走り出していた。間合い外と呼ぶにはまだ近く、長剣による狙い済ました一突きがマーティの喉元目掛け伸びてくる。
咄嗟にマーティはミューリの長剣に自分のショートソードをぶつけ、外側に払った。マーティの目の前で、ミューリの上体が流れる。
絶好の機会を、マーティは見逃さない。
「今だ!」
隙と見て踏み込んだマーティは、次の瞬間顔面に衝撃を受けて訳も分からず悶絶した。
払われた勢いを利用して、腰の回転すら加えてミューリが大盾を横殴りに振るったのだが、マーティの主観では大盾の動きを捉えきれず、分からない。
思わず足を止め、顔を押さえてうずくまるマーティの眼前に、長剣の切っ先が突きつけられる。
「またわたしの勝ちだね」
愕然として顔を上げたマーティの眼前で、肩で息をしながらもミューリがにこりと微笑んだ。
■ □ ■
全ての試合を終えたマーティは、疲れた様子で鍛錬場の隅に座り込む。
別の生徒と戦っていたミューリも決着がついたらしく、息を弾ませながらマーティの傍に寄ってくる。
隣に座り込むと、ミューリは無邪気にマーティに話しかけた。
「お疲れ様。結果はどうだった?」
「……全敗した。ミューリは?」
「全部勝ったよ」
事も無げに放ったミューリの一言に、マーティは酷く惨めな気持ちになった。
「ミューリは、強いね」
何も考えずに放った言葉だからこそ、実感がこもっている。
「強くなんかないよ。わたしなんかより、マーティの方がずっと強いよ」
「何で!?」
返された言葉にマーティは驚きと理不尽な怒りを感じて、ミューリに詰め寄った。
「ぼくは全敗したけど、ミューリは全勝したんだよ!? なのにどうしてそんなことになるのさ!」
勢いにたじろぎながらも、ミューリは真摯な瞳をマーティに向ける。
「試合の結果なんて意味ないよ。マーティは毎回ソロで迷宮に潜ってるじゃない。それって、すごく怖いことだよ。誰だって、できるようなことじゃないと思う」
何故かミューリに尊敬の眼差しを向けられて、マーティはたじろいだ。学園に来てから、そんな感情を向けられたことはなかった。
「そんなの、組む相手がいないから仕方なくだよ。好きでやってるわけじゃない」
憮然とした顔でマーティが反論すると、何故かミューリは頬を赤らめてもじもじしだした。意味が分からず、マーティは困惑した。
「……どうしたの?」
「あ、あの! それなら、今度の迷宮探索の授業、一緒に潜らない!?」
「え?」
尋ねるマーティに被せるようにして、ミューリが叫んで頭を下げた。
とうとうマーティの混乱は極地に達した。
「一緒に潜るって……。ミューリはもうパーティ組んでるでしょ? ぼくも入れてもらえるように頼んでみたことあるけど、無理って言われたよ?」
「それなら大丈夫。わたし、もうあのパーティ脱退しちゃってるから」
どこか言い辛そうにミューリが口にした言葉は、マーティの想像の埒外にあった。
「はぁ!? 脱退してるって、どうしてさ!?」
「去年ね、探索中にモンスタートラップに引っかかっちゃったんだ。わたしの責任だから撤退の殿はわたしが務めたんだけど、結局私一人じゃ支えきれなくて、全滅しちゃって。その探索が先輩たちの卒業試験だったから、皆カンカンで。責任取って辞めさせられちゃった。それどころか、噂が広がっちゃって新しいパーティとも組めなくて、実は去年の終わりからずっとダンジョンに潜れてないの。だから今年はFクラス」
あっけらかんとした口調だが、ミューリが語る内容は重い。
ミューリは豪商の娘だ。資金力だけならば貴族と同等だが、平民だ。身分の差はいかんともし難い。結果を出すことで押さえられていた不満が、失敗を機に噴出したのかもしれない。マーティはそう推測した。
モンスタートラップというのは、文字通り大量のモンスターをその場に呼び寄せるだけの単純かつ凶悪な罠である。警報であったり召喚であったり呼び寄せる方法は様々だが、どの道この罠が発動すれば最後、対処しきれないほどのモンスターが溢れ返り、探索続行は不可能になる。
「脱退直後に一回だけ一人で潜ってみたんだけどね。いつもの半分もいかないうちに囲まれて倒されちゃって、無理だなって思った。だから、やっぱりマーティは凄いよ」
若干興奮した面持ちで、ミューリはマーティを褒め称えた。賛辞に慣れていないマーティは、居心地悪そうに身じろぎする。
地下四階までしか進めていないのに、凄いと言われてもマーティは全く納得できない。
でも、ミューリではソロは辛いだろうなとはマーティも思った。
授業中だからこそ今は学園の備品の長剣と盾のみの軽装だが、探索時にはミューリは青銅製の長剣と大盾に加えて、青銅製の鎧を着込む。敵の攻撃を一手に引き受ける戦士としては当たり前の重武装だが、お世辞にもソロに向いている装備とはいえない。
金属製の武具は歩くたびにガチャガチャと音が鳴るし、周りの音も聞こえ辛くなる。逃げなければならない状況に陥っても、その重量が逃走の邪魔になる。
ソロのしやすさという点では、怪我の功名というべきか、マーティの装備はかなり向いているといえる。
それほど音は目立たないし、金属製のものよりかは軽いので、モンスターを振り切りやすい。
事情を理解したマーティは、ミューリとパーティを組むことに決めた。
どの道、一人での探索には限界を感じていたのだ。
「分かった。次の探索は一緒に潜ろう」
「やった! ありがとう!」
良い返事を貰えたことに興奮し、ミューリが飛び上がって喜んだ。