王子の婚約破棄?
なんとなく書きたくなりました。
「シャーロット。貴女の犯した数々の罪は明白だ。
このような事を犯した貴女との婚約は破棄させてもらう」
卒業祝賀会の最中、私の婚約者であるカイルロッド王子殿下がおっしゃられた。
カイルロッド様の腕にしがみつくように一人の少女が寄り添っている。
少女の側にはカイルロッド様の側近となるべく集められた、各家の優秀な者たちも、寄り添っていた。
少女ーーアリア嬢は、上目遣いにカイルロッド様を見上げた。
「カイルロッド様、シャーロット様は悪くありません。
わたしが、カイルロッド様をお慕いしてしまったのが間違いだったのですから」
「アリア、それは違う」
「そうだ。悪いのは君をいじめた、あの女だ」
アリア嬢の取り巻き達が、口々になぐさめようとする。
「そもそも、あの女は、男をたぶらかして取り巻きとしているんだぞ。
そんな女がしたことで君が哀しむことはない」
彼等の言葉通り、私の側にも幾人かの側近候補達がいた。
とはいえ、彼らにどうこう言われる覚えもありませんが。
「彼らは私の手伝いをしてくれていただけですわ」
私の返答にアリア嬢の取り巻き達はいきりたつ。
「アリアを傷つける手伝いをか‼」
側近候補達は、呆れたように取り巻き達を見ていた。
「次期王妃となられる方の手伝いとは、他者を傷つけるものではありません。
貴殿方にはそれもわからないようですね」
この場は私に任せてくれていた彼らも、一言言わずにはいられなかったようですね。
「私が行ったという罪とは何でしょうか。
心当たりがございませんの。
教えていただけませんか?」
「ふざけるな」
取り巻き達が騒ぎたてる。
「知りたいのなら、教えてあげましょう」
カイルロッド様が口をひらいた。
「貴女は〇月〇日に、アリア嬢の教科書を焼却していますね。
そして□日には、授業中にアリア嬢の制服を風魔法で破いている。
▲日はノートを水びだしにし、■日は貴女と話あおうとしたところをひどい言葉で傷つけ、とうとう◆日には屋上から突き落とした。
アリア嬢が風魔法の使い手だったため、事なきを得たが、貴女のしたことは殺人です。
そのような方とは、結婚出来ないということも判りますね」
カイルロッド様の言葉の途中、私がノートを水びだしに、というところで首をかしげた取り巻きが一人。
「殿下、▲日はシャーロット嬢は僕とグエン殿と一緒に行動していました。
ですから、シャーロット嬢がノートを水びだしにできるはずがありません」
「何を言ってるんだ!」
「アリアの言葉を疑うつもりか!」
取り巻きの一人の言葉を他の方々が否定する。
「そうですか。他の意見はありませんか?」
「あとはカイルロッド様のお言葉のみにございます」
カイルロッド様のお言葉に、淑女の礼をもってこたえる。
側近候補達は私と同じように、カイルロッド様に頭を垂れた。
「まず、アリア嬢。
貴女は校内において、複数の異性を惑わせました。
それも身分のあるもの達を、庶民の貴女がです。
その罪は正式に司法において裁かれることになります」
「えっ⁉」
アリア嬢は戸惑ったように声をあげる。
身分制度があるこの国において、下位のものが上位のものと対等に話すことは許されません。
たとえ、特待生であったとしても。
「エリオスを除いて他の方々も、実家にて沙汰をまつように。
エリオスは惑わされていたとはいえ、アリア嬢の言葉のあやまちを指摘したことで、情状酌量です。
あと一年の学生生活で、自分を見すようにしてください」
「カイルロッド様、どういう事ですか⁉」
アリア嬢と取り巻き達は声をあげる。
「いずれ王の側近となる方々が、一人の女性に惑わされてはいけない、とういうことです」
国政を担うものが、一人の言葉だけで全てを動かすことは許されません。
「そもそもシャーロットは風魔法を使えません。
それにもかかわらず貴殿方は彼女に罪を押し付ける。
他の日も貴殿方の誰かがシャーロットと言葉を交わしていたはずです。
なにしろ、そこに私もいたのですからね。
彼女の言葉に盲目なだけの貴殿方は、私の側近としてふさわしくない、ということです」
「学生の間にそれを試すことも次期王、王妃の役割ということですわ。
私の側におられる方々は、私にもアリア嬢にも惑わされず、皆様が放棄されていた生徒会のお仕事を手伝ってくださったのです」
「カイルロッド様は? カイルロッド様もわたしの側にいてくださって……」
「私が貴女の側にいたのは、仕事の後。
もしくは、貴女と別れた後に片付けていたのです」
「そんな……わたしと居ると楽しいって……」
「ええ、楽しかったですよ。貴女の話す庶民の生活については」
つまり、監視ついでに仕事についての知識を得ようとしていたということですね。
「ウソ‼ ゲームではそんなの無かった!」
「この世界にはゲームではございません。
私達はみな一度きりの人生を歩んでいるだけですわ」
あら、アリア嬢も転生者でしたのね。
私はこの世界を模したようなゲームは存じ上げませんけど。
「‼ あんたがバグなのね‼ 消えなさいよ‼ あんたさえいなければ……‼」
「それはこまりますね。
シャーロットの家は今、この国においてとても重要なのです。
失うわけにはいきませんから、シャーロットとの婚約破棄はできません。
そもそも王族の婚姻は、いわば国との契約ですからね」
カイルロッド様のお言葉が終わると、どこからともなく現れた兵士達が、アリア嬢とエリオスをのぞく取り巻き達を連れていった。
「これで終わりですね」
「もう、アリア嬢に妬かなくてすみますね。
ほっとしました」
「おや、妬いてくれていたのですか?」
「もちろんです。
たとえ仕事だとしても、婚約者が他の女性を見ていらっしゃるのは、苦痛ですもの」
「そうですか。
では埋め合わせとして、なにかプレゼントさせていただきます」
「楽しみにしておりますわ」
「ところで、彼女の言っていたゲームについて、貴女は知っていましたか?」
「いいえ。ですがここは現実であってゲームではございませんもの。
内容なんてどうでもよいことでしょう?
私達はこの世界で生きているのですから」
私は前世からの想い人にそっと微笑みました。
そして、カイルロッド様と私、側近となられる方々は、王宮でのパーティーのために会場を去るのでした。
ーーー
やっと終わった。
一世代に一度とはいえ、その年の学園長はストレスで胃をこわすといわれりるだけはある。
あとは、生徒達にこの事を説明すればわたしの仕事は終わりだ。
あとは、後継者に学園長はの地位を譲ってゆっくりしよう……
王子と主人公は前世で恋人どうし。
一緒に事故で亡くなりこの世界に転生。
ヒロインはこの世界がゲームと思っていたけど、現実にはゲーム補正も、決まった未来もあるわけない、ということです。