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新撰組秘帖 闇の参謀  作者: 瀬古刀桜
会津藩家老襲撃および壬生浪士組局長副長襲撃事件
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其の八

一八六四年(元治元年)七月一日・八木邸。

「ぶっ倒れていると聞いていた山南先生がいたのには、驚いたさ。俺の予想としては、永倉先生とよくて藤堂先生が来るもんだと思っていたのになあ。」

「せやな。尾形隊隊士うちのこ全員、驚愕したでぇ」

尾形と林の言葉に山南さんは笑った。

「此方としては、貴方達の動きに感服してばかりでしたよ。凄まじく悔しいことですが、君たちは私の予想を遥かに上回っていた。君たちを見て土方くんも私も、【監察方】設立を考えました。芹沢先生に反対されようとね。」



一八六三年(文久三年)五月二日 夜。

「護衛対象者が何で此処にいやがる」

「ホントなら、平助を連れてくる予定だったんだが、予定がいろいろ変わってなあ」

怒る尾形くんと、それを宥める原田くんに私は微笑んだ。

尾形くんの表情は、酷く険しい。

私達を本気で案じているのだろう。その表情に偽りはなかった。

「大丈夫ですよ 何か起こる可能性があるなら、私が監督役としていた方が確実でしょう?」

浅野くんが書いた報告書には、確かに暗殺対象者として私の名前があった。だからこそ、私は此方にいたほうが良い。彼らの目の届く所にいたほうが良いのだろう。

「ギリギリで何とかなるか・・・だが」

「君が、一番恐れている可能性を指摘しましょうか?」

私の言葉に、尾形くんが鋭い視線で睨みつけてきた。

「河上彦斎が、局長と副長もしくは、会津藩御家老いずれかをもしくは、どちらも襲撃する可能性」

「・・・ああ。出てこなければ御の字。だが、奴が出てきた場合・・・死者がでる。」

尾形くんは静かに肯定した。

「それほど強いのか?」

尾形君に問うて来たのは、永倉新八。

副長助勤を努める原田君の親友であり、神道無念流の免許皆伝の持ち主である。

剣の腕は壬生浪士組でも一、二を争う人物。

「アンタでも、おそらく奴には負ける」

だが、永倉くんでも、河上彦斎相手では負けると、尾形くんは断じた。

その時だった。

「尾形さん。」

闇夜から夜鷹姿の女が現れた。

「浅野。宴の支度は整ったか。」

「はい。すべて。宴の支度は整いました。」

すうっと暗闇に紛れるように女が気配を消していく。

「浅野?え、あれ・・・どういうこと?」

「?」

原田と永倉が首を傾げるなか、私は一人納得した表情を浮かべた。

「そういうことですか・・・」

先ほどの夜鷹は、副長助勤の浅野薫君だろう。尾形君の副官であり、報告書を作成した本人。

男より女に変装したほうが、正体がバレないと考えての変装だろう。

「そういう事だ。情報収集において、浅野薫は誰よりも腕が立つ」

私の表情に気づいた尾形くんは、笑って肯定した。確かに、あの格好なら島原にも堂々と潜入できる。

きょとんとしている二人を無視して、彼はある場所へ急いだ。


一八六四年(元治元年)七月一日・八木邸。

「今でこそ、局中法度には、【金策すべからず】と書いてあるが・・・」

俺と山南さんは尾形を睨みつける。

「あの当時には、法度そのものはなかったんだし。隊士達養うために仕方なしにやったんだ。それに。稼ぎはほぼ、壬生浪士組の運営のための資金として渡していたろう。」

「元々は、土方さんのヒステリーが原因なんやから。勘弁してやってぇな。」

林は尾形を庇う。

その様子を見ながら、俺はその当時を思い出していた。


一八六三年(文久三年)五月二日 夜。

京都のある一角にある小料理屋に尾形は入っていった。

「【狸の飯や】?何じゃこりゃ?」

「見ての通り、ただの飯やだよ。」

俺の言葉に、尾形は笑った。一見すると、ただの小料理屋だ。

だが、二階に上がると、尾形隊の連中が武装していた。

俺と新八、山南さんを見た隊士連中は、唖然とした表情を浮かべていた。

無理もない。コイツ達にとっては、護衛対象者の一人が、目の前にいるんだからな。

「「「「何で山南先生が此処にいるんですか!!尾形さん!!」」」」

「原田先生に聞け」

尾形の答えに、全員が一斉に俺を見た。

「ホントは藤堂を連れてくるつもりだったんだが、いつの間にか、こ〜なっちまったんだよ。勘弁してくれ」

じろりと、尾形隊隊士全員から睨みつけられた。

パンパンパンと手が鳴る音が響く。

林が手を叩いて鳴らした後、言った。

「ええことやないの。護衛対象者がわい達の近くにいるっつうことは、それだけ仕事がやりやすくなるんやでぇ。ありがたやと思おうやないの。なあ、浅野」

「ええ。やるべきことは変わりません。」

尾形が浅野と打ち合わせをしている間、林が別の部屋から三人分の一通りの武具と羽織を出してきた。

鎧を手にとり、俺は驚いていた。軽い。

「これは凄い・・・」

「身体に馴染む。隊で使っているよりも良いな。これ。」

山南も永倉も、驚いた表情を浮かべていた。無理もない。

「見た感じで武具を選んだが、大丈夫そか」

林の問に、俺は頷いた。新八も山南さんも、頷いた。

「気に入ったなら、上々や。隊で使っている武具より、軽いけど強度は上げてあるさかい。存分に暴れ」

「費用はどのぐらいかかる代物なんです?」

武具の値段を聞いてきた山南に、林は笑った。

「材料費のみや。わいの手作りやからな」

林の言葉に唖然とする山南さんと新八。

俺は、尾形の方に視線を向けた。尾形は、笑いながら肯定した。

「事実だよ。林は爆薬の扱いやら、武具作成においては一流だ。俺直属の隊士達は、全員特殊武器の使い手なんでな。その武具の修繕なんかも手がけている」

「鍛冶師やったり、浮世絵師に変装して島原にいったり、結構、仕事の幅広いですからね。林さんは」

尾形の説明を、浅野が補足した。浅野の説明に、林が苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。

「浅野。奉行所の頼みで医者として死体の検死をやったり、島原で芸者に変装して、三味線奏でたりしているお前さんにゃ負けるでぇ」

「ええ。芸者として、副長の座敷に出たこともありますけど、気づかれませんでしたからねえ。」

・・・マジかよ。俺は、新八と顔を見合わせた。

女においては百戦錬磨のあの土方歳三をも、騙したのかよ。コイツは。

その様子に、尾形は笑うと言った。

「新藤、神田。お前たち二人は五十鈴屋の警備に当たってくれ。新藤、お前は斬剛糸で戦ってくれ」

尾形の割り振りに、二人は頷いた。

「斬剛糸?」

首を傾げる山南さんに、林が解説した。

「糸状の刃の暗器や。糸状にした鉄に金剛石ダイヤモンド)を練りこんで強度を上げてある。伸縮自在、近距離戦、遠距離戦両方に対応できる。新藤は剣もできるが、斬剛糸を扱わせてもかなりのものや。なにせ、浅野直伝の名人やからな。新藤と組む神田は体術の達人や。アイツと互角にやれる奴は、尾形さんか松原ぐらいなもんや。尾形さんは基本的に、近距離戦を得意とした奴と、遠距離戦を得意とした奴を組ませて、互いを補完させている。」

「成る程。考えましたね。」

林の解説に、山南さんは頷いた。

「木村は山南先生と、三輪屋の警備に当たってくれ。山南先生、お願いします。」

頭を下げる尾形に、山南さんは首を縦に振った。

「大丈夫ですよ。木村君、よろしくお願いしますね。」

「こちらこそ。」

山南さんの言葉に、木村は笑って答えた。

「木村、いつも通り鎖大鎌で頼む」

「あいよ。大将。」

尾形の依頼に、頷く木村。木村をからかうように、林が山南に言った。

「木村の武器は鎖大鎌。山南先生が使う赤心沖光よりも、【長い】武器や。すなわち、木村と山南先生で、近距離遠距離を補完できる。コイツは曲者ですが・・・まあ、安心してください。腕だけは確かや」

木村と林がじゃれている間に、尾形は次の指示を出した。

「石岡は永倉先生とともに、川北屋の警備にあたってくれ。永倉先生、お願いします。」

「あいよ。頼んだぜ。石岡。」

尾形の依頼に、新八は笑って答えた。

「新八。」

「何だ。」

「石岡は俺と互角に戦える方天戟の使い手だ。だから、足引っ張んじゃねぇぞ。」

「・・・お前な」

俺の言葉に軽く噛み付こうとした新八に、笑って石岡が言った。

「よろしくお願いします。永倉先生」

「頼むな。」

新八は罰が悪そうな表情を浮かべた。尾形はその間にも指示を下す。

「店の警備にあたる者は、浪士が来たら閃光弾を使って屯所に合図を送れ。」

「閃光弾?」

「爆弾の一種だよ。コイツを地面に叩きつければ、閃光が上がる。」

俺の問に、尾形が懐から小さな珠を、山南さんと新八に渡した。

「派手な光が上がれば、【不審な光が上がった】という名目で、壬生浪士組も正式に隊士を動かすことができるだろ?浅野、林。お前達二人は局長と副長の警備に回れ。もし、彦斎が現れた場合、お前達二人で戦ってくれ。局長と副長を頼んだぞ。」

「わかりました。」

「派手に暴れるけど、ええの?」

「構わねぇ。なるだけ派手に暴れろ。可能であればすぐに俺も向かう。俺と原田先生で、会津御家老の護衛に回る。原田先生、何か文句あるか?」

俺が笑っていることに気がついた尾形に眉間に皺が寄った。

「いや。凄いと思ってなあ。」

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