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*真夜中戦争  作者: Namako
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03

「あ、結局巻き込まれたんだ? 花狩先輩も運が悪いね」


 すっかり馴染んで敬語すら邪魔になった年下の後輩は、平然と美術教室の掃除を行っていた。

 油絵独特の匂いやらが何年もかけて染み付いたいつもの教室。花狩は去年から、この教室に放課後通うようになっていた。だが、今となっては丁度いい集いの場になるのだろう。それでも、この教室以外に人の気配は散りもなく、普通コースが普段使っている教室には廃花ハイカ……化け物の気配さえしなかった。

 ここまで何も襲撃されずにやってこれたのも、花狩自身相当驚いている。こんな異常事態だからこそ、化け物が闊歩しそうなものなのだが。どうにも今回は、そんな予想をぶっちぎるような輪廻災厄らしい。

 まぁ、とりあえず。


「お前が巻き込まれていたことに俺はビックリだよ、志雄」


 今日、二年生は授業じゃあないだろう。


 竜崎志雄リュウザキ シオ、美術コース二年生。前世、『アルトリウス』。

 前世がとある国の王子だという割には、そういった雰囲気を全てぶち壊すほどに、マイペースで自由な言動を噛ます通称「王子」。

 何故にここにいるかを問えば「昨日、学校帰りに街をふらついていたら突然」だそうで。どうやら志雄は、昨日からずっとこの奇妙な真夜中の世界にいるそうだ。粗方情報を共有してもらったはいいが、とりあえず出遭った人間は花狩と未来で四人目。志雄自身を合わせれば、人間と確認できている数で五人。今此処にいない二人は、街を調査しているらしい。

 

「まぁ、そういうわけさ」

「簡単に纏めると、何も分かっていないんだな」

「そういうことにもなるね。今のところ『輪廻災厄』だってことと、延々と真夜中が続いていることぐらい」

「真夜中っていっていいのかも悩むがな、あの空は」


 薄汚れた教室の窓から外を覗く。ビーズを空にぶちまけた様に輝く夜空、現実離れした世界の蓋。空に何かが飛んでいるが、黄金色をした糸が引いているので明らかに現実の物ではないだろう。

 さてどうしたものか、さっさと災厄を終わらせたいが、どこまで時間がかかるのか。此処までの規模のモノは初めてで、「そういう世界」に生きてきた志雄でさえもどうすればいいのか、検討がつかないそうだ。原因が誰なのか、何なのか。そもそも何故花狩たちのみが巻き込まれたのか。そういった問題も山済みなのだが、その前に食糧はどうするのだろう……と考えていたが、志雄曰く「骨董屋」……此方側に協力してくれるヤツが今この街にいるらしく、そういった生活面での問題は心配しなくていいらしい。因みに、骨董屋は人間にはカウントしていない。


「なぁ、桜庭。竜崎」


 話しこんでいると、ずっと口を閉ざしていた未来が言葉を投げかけてくる。不安げというよりも、お前らは何を言っているんだといわんばかりの「思考停止」の状態に陥っているようだった。花狩たちは慣れない苗字呼びに何か感じたのか、すこしだけ反応が遅れてしまう。


「志雄でいいよ」

「花狩でいいって言ったよな」

「む……すまん、じゃあ花狩、志雄。……その輪廻災厄だとか何とかは、なんだ。今の状況のことを指しているのか」


 さぁ此処で問題の輪廻災厄について、確認がてら話すことにしよう。

 輪廻災厄というものは、花狩や未来といったような「前世の力」を持つ者によって引き起こされる、文字通りの「災厄」だ。


「簡単にいうとね、まず世界には前世の力を持つ人……僕たちは簡単に『魔法使い』と呼んでいるんだけど、その魔法使いには『良い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいるんだよ。そして輪廻災厄というのは──」

「分かった、悪い魔法使いが引き起こすものなんだな? それで、良い魔法使いがそれをどうにかする」

「うんうん、そういう感じ。というかバッチリだよ」


 まぁ、簡単に言ってしまえばそういう話になる。

 良い魔法使いと悪い魔法使い。子供染みたネーミングだろうが、何を言おうがまだ花狩たちは子供を卒業できない子供たちだ。ただ、じきに大人になることになっている、たったそれだけの子供たち。

 しかし不気味なのは、今回の輪廻災厄にはそういった「魔法使いの子供たち」のみが巻き込まれているという現状だ。

 普通……といってはなんだが、今までの輪廻災厄は一般人をターゲットにしたモノがとにかく多かった。ごく稀に特定の魔法使いを狙った復讐劇の為に、一般人を巻き込むなんてバイオレンス極まりないものもあったが、大体はそんな感じだった。

 だが、今回は何かおかしいのだ。あの空き地からこの学校まで歩いてくる間、花狩は誰一人として一般人を見かけることがなかった。

 一般人が巻き込まれていないのには安心すると同時に、何かこれ以上ないほどの魔法使いに対する害意を、悪意を感じてしまう。気のせいであればいいのだが。こんな時母がいれば……いや、そんな悪い勘を平然と肯定するのだろうな。

 ……母?

 そうだ。


「志雄、一応聞くけどスマホは確認したか?」

「スマホ? ……あー、まだ確かめていないよ。ちょっと頼んでいいかな」

「は、何、電波って」


 未来がなにやら困惑しているが、やはりそうだったか。

 志雄は今まで魔法使いとして生きてきた。いや、確かに学生生活もちゃんと送ってきているが、本筋は魔法使いとしての活動だった。だからこそ、一般人がすぐにするべき行動を彼はしない。そもそも、行動パターンに組み込まれていないのだ。

 思い出せてよかった。こういう時、無理に一般人として生きてきた経験がとてもありがたく感じる。

 早速花狩はスマホを開き、つい癖でメール……というよりもメッセージを開いてしまう。今時は普通のメールよりも、標準に入っているメッセージ機能のほうが優先率が高い。それに、母がなにか異変に気が付いていれば何か連絡があるはずだ。そんな確信が花狩にはある。


「……母さん…………」


 そんな確信を肯定するように、メッセージには予想通り母からのものが届いていた。

 しかし、これは酷いだろう。

 落胆する花狩の横から志雄と、未来が覗き込んでくるが、その二人でも文面に驚き目を丸くしている。


『また厄介なのに巻き込まれたみたいだけど、大丈夫大丈夫。頑張れ。by母』


 大雑把で丸投げするのは、こんなときでも変わることがない魔女の母であった。

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