02
なし崩し的に輪廻災厄に巻き込まれ、少女を連れ歩くことになったのだが。まぁまず、輪廻災厄って何ぞや? といった話からだろう。というか、現に少女に何ぞと聞かれているので。説明しておこう。今のうちじゃあないとゆっくり話している暇なんて、出来そうにない。
あたりの景色も中々酷い有様なのだが、その話は後回しにさせてもらう。
さて、物事の説明は毎度厄介なもので。とくに輪廻災厄に関しては、花狩が片足突っ込んでいる「ある事情」の根底から話さなければならない。まったくグレーゾーンの立場は本当に苦労するよ。
「……先に聞くけど、前世と現世云々の話は」
「何の話?」
こいつ根底から理解していなかった。
じゃあ何で襲ってきたのかと聞いてみれば、「気がつけば」襲っていたらしい。制御に慣れていないやつがなりやすい無意識行動だが、なんて恐ろしい子だ。
いや、本当に無意識行動なのだろうか? 嘘をついている可能性も否めないが、今は何も知らないを前提にして話すことにしよう。
「あー……まぁ、まずだな」
まず。前世という概念がある。その前世は全ての人に当然のようにあり、至極当然のように「非現実」だとされている。大雑把にいえば、自分が生まれ変わる前の姿だ。そして現世、つまりは今この状態のことを指す。ここまでは通常通り、現実通りに捉えてもらっても構わない。
だが厄介なのはここからだ。
何故、花狩や少女が高校生だというのにも関わらず、アレほどまでの剣舞に洒落込むことが出来たのか。
それは前世の「記憶」と「知識」を、現世に生まれつつも覚え続けててしまっているからなのだ。それを自覚する時期は、人によって違うが。
「つまり、俺やお前が平然と戦えたのは、二人とも何かしら前世の『力』を使いこなせていたからというわけだ。此処までOK?」
「あぁ、なんとか」
便利な恩恵だろうと思うだろうが、大間違いだ。問題は前世から受け継いだ「記憶」や「知識」にある。
「知識」の中には生まれながらの才能、身体能力などがあるが、それ以上に魔法といった非科学的要素も含まれる場合があり、大抵の場合、知識さえあれば発動できてしまう。人並みはずれた力、特別な、力。少女が太刀を振るえたのも、そもそも太刀を持っていたのも、この「知識」に依存する魔法のお陰だ。因みに花狩には魔法はある一分野のものしか扱えない、そういう前世だったのだろう。
さて、そんな「知識」をいきなり授けられた人間がまずとる行動は。
「大抵のやつが、好奇心と私欲に走る」
「好奇心は分かるけど、私欲……?」
「ものによるがな」
人は欲に忠実だ。特に今の世界では。
唐突に目覚めた「特別な力」に酔ってしまう者も、少なくない。
「けど、ボクは無意識だった」
まぁ、欲に溺れるやつは「知識」が先に目覚めた場合だ。少女の場合、先に「記憶」が目覚めた場合。
「お前は記憶に乗っ取られていたからな、欲よりも前の……前世の執着が強かったんだろ」
「記憶」は人格を持つ。そう、サークルのメンバーに教えられた。
自分の物ではない他者の記憶。鮮明すぎる記憶は、「今の自分」を「塗り替えてしまう」ほどの強い力を持つ。
「よく分からない」
「だろーな。俺も最初聞いたときはよく分からなかった」
けれど、今ならば痛いほどに分かる。
去年の冬。花狩は様々な事情が重なって「記憶」に飲み込まれたことがあった。刻み込まれた記憶は酷く惨いものだった所為なのか、どうなのか。前世で背負った罪を、今になって抱え込んでしまった。前世で抱いた憎悪を、自分のモノと勘違いしてしまった。自分が『桜庭花狩』なのか、『シュガー』なのか、分からなくなってしまった。
今思い出せば恐ろしい話だ。
「例えばお前、……えっと名前は?」
「ロザリア……」
「違う、今の名前だ」
「……ミキ。葦原未来 」
「じゃあ未来、お前、今俺の顔をみたらどう思う。正直に言ってくれて構わない」
「……。」
未来はすこし考え込むと、こう答えた。
「無性に、殺したくなる」
その答えは予測していた。
「だが、俺と未来は初対面だ。そうだろ?」
「……そう、だな」
「でも何か知らないが、俺を殺したい衝動がある」
「あぁ」
──その衝動は、未来のものではない。
恐らく、未来の前世である「ロザリア」の衝動だろう。全くシュガーは、一体何人の恨みを買っていたのだろうか、自分の前世だというのに涙が出る。
さて私情に走る前に説明に戻るが、何故未来のものではないはずの衝動に、未来は翻弄され殺人行為寸前まで至ったか。
「今のお前は、未来は、ロザリアに飲み込まれかけているんだ」
名を聞いたとき、未来は最初『ロザリア』と答えた。自分が『ロザリア』だと、思い込んでいるからだ。だからこそ初めに自分の名を言い出すまで時間があったのだろう。
今は今、前世は前世。その線引きをするのは自力では到底難しい。
なぜかって?
悲しいことだが、前世のほうが明らかに充実した人生を送っているからだろう。それはもう、今送っている日常がかすんで見えてしまうほどに。
「まぁ……なんだ、その」
ふと立ち止まって、芦原未来へ振り返る。
不安そうにしている少女が、驚いたように立ち止まったのが良く見えた。
「未来は未来であればいい、その力をどう受け止めるかは未来の自由だ」
さて、輪廻災厄に関して話す前に学校にたどり着いてしまったので、説明は一旦此処で切ることにしよう。……輝かしい夜空の下、一つの校舎しかない花狩の通う学校に灯る明かりは殆ど消えていたが、丁度いつも使っている美術教室からは見慣れた光がある。どうやら予想通り、サークルメンバーも巻き込まれているようだった。この様子では輪廻災厄に関しての話も、すぐに話せるだろう。散々な状況だったが、ふと安心を感じた。