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5. 捜索

正直、貴弘は焦れていた。

あの日あった彼女はすぐに見つかると思っていたのだ。

イベント会場で出会ったのだから関係者なのは当然だし、入場するためには社が発行した招待券が必要だった。

そこからたどれば「白いドレスを着た肩ぐらいまでのウェーブのかかった髪をした女性」はすぐに見つかると思っていた。

しかし、秘書の回答では「見つからない」という。

個別に招待している女性の中には貴弘が挙げた条件にあてはまる女性はいなかった。

しかし、当日は男女比率をあわせるため、複数の派遣会社から派遣された女性が入っていとのことで、今度はそこから当時参加した女性の洗い出しをしてくれているのだがこれが遅々として進まない。

『個人情報が…』とか『社の規則で…』などといって社員の特性を教えてくれない会社もあるのだ。

秘書である佐脇にもお手上げといった感じなのである。

…見かけだけは。


こいつは腹で何を考えているかわからん。

それでもさすがに難航しているようである。

貴弘にもそう簡単に見つかるとは思っていない。だが、それでもなお探したかった。



あの日自分の心を捉えてしまった彼女を

あの日自分がぐっすりと眠れるほどの安堵を覚えた彼女を。



貴弘は元来自分のベッドでないと眠れないタイプだ。

どんなに女性とのSEXに燃え上がったとしても、自分の家に帰るか、あるいは女性を帰してからでないと本当の意味での休息は取れなった。

なのに。

なのに、だ。


何を感じ取ったのか、あの女性の横で自分は熟睡をしていたのだ。

隣から彼女がいなくなったことに気づくまではぐっすりと寝入っていた。今となってはそれこそが腹立たしいことなのだが。

彼女が出て行こうとしていることにもっと早く気づいていれば追いかけることもできたのだろうに。

それ以前になぜ彼女の名前を調べておかなかったのかも悔やまれてならないことだ。


見つかるまでどれぐらいかかるだろう。

それでも。

貴弘は必ず見つけ出してみせるつもりだった。

そして見つけたら今度こそ手放すつもりはなかった。


「専務」

「何だ。」

目を上げると佐脇がやや呆れるような目線で、口元がゆがんでますよ、といった。

「何を考えてるんだ」

「別に」

秘書の佐脇は貴弘にとっては入社当時からの知り合いだ。

入社した当初から秘書室に配属されていた佐脇は、年が近かったこともあり普段は気軽な口をきく。

そしてあの日の貴弘の行動を知っている唯一の人間でもある。

「腹黒そうな笑いだったぞ」

「腹黒って…おまえなぁ」

ぎしっと椅子の背もたれにもたれながら佐脇を見上げる。

「いいから早く見つけろよ」

「そうはいってもなぁ。あの日どれだけの人間がいたと思ってるんだ。100は優に超えてるんだぞ」

さらっと佐脇が言うがあの日は参加人数だけならもっといたはずだ。

「正式な招待客にはいなかったんだろ」

「ああ、それは確かだ」

佐脇はうなずいて手元の手帳を広げた。

いやにもったいぶった動きだ。それに口元が笑っている。

何かあるな。


「…調べた限りではあの日入っていた派遣会社は3社だ。うち2社は服装なんかの指定や管理はしていなかったようだ」

「残りの1社は?」

貴弘は思わず意気込んだ。

佐脇は貴弘をチラッと見て、さらに楽しそうな目になった。

完全に遊ばれているような気もしたが、そんなことはどうでもよかった。

「早く言え」

「はいはい。…エルスタッフといって、普通の人材派遣会社だな。イベントなんかに人を派遣していることもあるようだが。自前のもので参加したのもいたようだが、何人かは社から支給されたものを着ていた者もいるようだ」

その言葉に貴弘は目を向けた。

「社からの支給?」

「正確にはホテルからの提供物だ」

「ホテルから?」

一体どういう意味だ?

「今回のイベントはホテルとのものだろ?エルスタッフはホテルとの契約で人を入れていたようだな。それでホテルから服を提供したらしい」

イベントにふさわしい服装を、ってことか。

「どこのだ?」

佐脇はニヤッと笑った。

「何だよ」

「別に…ドレスは『エルヴ』のものだ。あのホテルに入ってただろ?ちなみに男性は違うけどな」

「『エルヴ』か」

名前になんとなく聞き覚えがある。たぶん昔付き合ったいた女性から言われでもしたんだろう。

見ると佐脇がニヤニヤとしている。

「何だ」

ムッとしていうと、佐脇はもったいぶって口を開いた。

「当日『エルヴ』が貸し出したドレスは10着。デザイン違いか色違いのものを貸し出している。ピンク、ブルー、…そして白が2着、だ」

「行くぞ。昼はキャンセルだ」

すばやく立ち上がった貴弘に、そう言うと思ったよと佐脇は肩をすくめて見せた。



「手配済みです。専務」

ドアに向かう貴弘の目は獲物を見つけた鷹のように光っていた。

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