始まり
君に会うまでどれくらい?
あなたに会えるまでどのくらい?
ふっと光が差し込んできてあきは目を開けた。
「…?」
ベッドの横にあるカーテンの引かれていた窓からほんの少し朝日が差し込んでいた。
あぁ、朝かぁ。
うーん、と腕を上に伸ばして伸びをする。
今日は確か日曜日だったよねぇ。そうだ、昨日は土曜日で一日バイトに行って…
あれ?私の部屋こんなとこに窓ない…
いまさらなことに気づいてさぁっと血の気が引いた。
ここ、どこ?
壁は上品なクリーム色、高い天井は木目をあしらったカントリー調で梁が通っている。
でも、この上品な感じからここがホテルか何かぐらいはあきにも想像がついた。
何で、こんなところにいるの…?
おそるおそるベッドの上に起き上がった。空調がきいているせいかむき出しの方も冷え切っていない。
むきだし…?
「…っ!!」
はっと自分の体を見下ろして思わず悲鳴を上げかけた。
はっ、ハダカだーっ!!って下着はつけてるけど。
もしやもしや…と思いつつ後ろを振り返ってさらに心臓がすくみあがった。
だ、誰かいる。しかもどうみてもこれは男の人。
頭の中が真っ白になった。
記憶はぜんぜんないが、たぶん一緒にベッドに入るようなことがあったんだろう。
男はベッドの中でぐっすりと眠りこんでいる。
少し薄い色合いの髪はやや長めで今は額にふわりとかかっている。鼻筋はすっと通って高く、唇は薄い。
一見するとインテリっぽい感じにも見えるがシーツから覗く腕や胸の引き締まった筋肉がそれだけではないものを感じさせる。
あきの世界にはいない人だ。
それだけはわかった。
と、とにかく逃げるんだ。
本能的にあきは悟った。できるだけ音を立てず、振動もしないようにそろぉっとべッドを降りる。
あたりを見回しても自分の服が見当たらない。
忍び足で部屋を横切り、一番近くのドアを開ける。
そこは広いバスルームだった。
洗面コーナーがあり、横には浴室へつながるガラス戸がある。
洗面コーナーには今入ってきたのとは別のドアがある。そろっとあけてみると、別の部屋へ出た。
リビングのような雰囲気でソファーやテーブル、大画面のテレビがある。少し離れたところにはバーコーナーまであった。
「あ、あった」
ソファーの上に放り出されていた見覚えのある服をみてあきはほっとした。
昨日着ていた自分のものに違いない。
会社から支給された、白のシンプルなドレス。それとハンドバック、サンダル。
赤面しつつあわてて身に着ける。正直昨日の服をもう一度を着るなんて嫌だったがしょうがない。それよりもここを出るのが先だ。
そそくさと着こんでサンダルを履く。リビングには先ほどのベッドルームにつながると思しきドアがある。時折様子を伺ってみるが何の音もしない。
まだ眠ってくれているようだ。
ハンドバックを探ってみると、昨日もって来ていたものは全部ある。財布に、携帯、ハンカチ、リップなどなど。
なんだかわからないけれどごめんなさい。失礼します。
ベッドルームの方向に向かってペコッと頭を下げるとそそくさと逃げ出した。
別なドアを開けると廊下に出た。幸いにも誰もいない。ドアの廊下側には6002の文字。やはりここはホテルらしい。
さっと廊下に出るとそうっと音を立てずに閉める。オートロックのしまる音がした。
あきは一目散に走った。
あきが廊下のドアを閉めたときベッドルームのドアが開いた。開いたドアにもたれかかりながらけだるそうに前髪を書き上げる男が一人。
廊下につながるドアを見つめながらくすっと笑みをこぼした。