プロローグ
埼玉県。そう、これと言った特徴の無い都道府県。しかしドーナツ化現象で人口は増えつつあるのが現状だ。
そんな県のとある市内に住む山野海は、やはりこれと言った特徴も無い普通の少女である。
海は、海という名前のわりに海が好きでは無い。いや、潮溜まりにいる生き物を眺めたりするのは好きだが、泳ぐのが好きではないという理由だ。
つまり、あまりアクティブな少女ではない。
「あー、暇だなあ」
「なら勉強しなさい」
成績は良いわけでもなく悪いわけでもない。エプロン姿の母が軽く叱るが、海の耳には届いていない。
制服姿のままごろんとソファに横になり、片足を立ててリモコンの電源を付けた。
「ん?」
テレビの内容が不思議だった。今日のこのチャンネルなら、好きなアニメの再放送が放映されるはずだ。
海は勢いをつけて起き上がり、まじまじとテレビの画面を見つめた。
「今ならタダで契約……?」
内容は、一級品ではない魔法使いとタダで契約が出来るというものだ。宣伝をしている人をよく見ると、魔法使いのようなコスプレをしていた。
「魔法使いね……。本当にいるのなら是非契約したいもんだわ」
そう独りごちで、また横になろうとした時だった。テレビから「承りました」と頭に直接声が響き、海の視界は真っ白に染まった。