第二話 一騒動と寮
遅くなってすみません。
なんか自分でも何書いてるか分からなくなってきた・・・・・。
長い始業式も終わり、わたしたちは教室に向かった。
迷子になっていたせいでHRに間に合わなかったので、教室に入るのは初めてだ。当然場所も分からないので、クラスのみんなについていく。
道中はやっぱり質問攻めにあったけど、比佐と亮太君のおかげでさっきみたいに混乱することもなかった。
HRに間に合わなかった理由を聞かれたときはちょっと恥ずかしかったけど・・・。
「ここが教室だよ。」
話に夢中になっていたわたしは比佐の声で我に返った。Bクラスはわたしをいれて24人。教室は普通の学校の教室と同じぐらいで、わたしたちには十分広い大きさだった。
「わたしってどこの席に座ればいいんだろう。」
HRに出ていないのでどうしたものかと思って比佐に聞くと、比佐は廊下側の一番後ろの席を指差した。
「ここだよ。朝担任が言ってた。」
「そっか、ありがとう。」
「ちなみに私は前の席。亮太が私の隣よ。なにかあったら何でも聞いてね。」
「助かる!!本当にありがとう。」
一応職員室には真っ先に行ったのだが、担任はすでに体育館に行ってしまっていて、いまだ会えていないのだ。
「ねぇ、担任って大宮奈子先生だよね?どんな人なの?」
「えっ!?駿河、大宮奈子って知らないのか?どんだけ田舎で育ったんだよ。」
どんな人なんだろうと思って聞くと、みんなありえないという顔をした。
「そ、そんなに有名な人なの?」
「ああ、光属性の魔法使いの中じゃ白羅家の次にすごいって話だ。ただ・・・」
「ただ?」
するとみんなはがくがくと震えだした。
な、何があったの!?
「あの人はホントに恐ろしいの。模擬戦なんてやってみなさい、動けなくなるまでボッコボコにされたうえに治癒魔法も何にもなしで放置されるから。」
「光属性だけど性格は悪魔だな。闘ってるときが一番楽しそうなんだよ。俺なんか前両腕骨折させられて、二時間ぐらい放置されたぜ。くそっ。」
「ほぉ、お前らあたしのいない間にあることあること吹き込むたぁいい度胸じゃないか。えぇ?」
突然後ろから聞こえてきた低い声に全員びくっと反応した。その声はものすごーく怖い。おかげでわたしまでがくがく震え始めてしまった。っていうか全部あることだったんだ。
「おおおおお大宮先生・・・・・?い、何時の間にいらっしゃっていたのでございましょうか?」
「わ、私たちは別におおお大宮先生の悪口を言っていた訳ではないんですよ?本当ですよ?」
必死で言い訳をするみんなを冷ややかな目で見る大宮先生。確かに恐い。
そして大宮先生は急にニコッと笑った。それはまるで慈悲を与える天使のようだった。
「そうだよな。可愛い教え子たちがあたしの悪口なんか言うわけないもんな。ごめんな、疑って☆・・・・・・・次の模擬戦覚悟しとけよ?」
『は、はいぃぃぃ!!!』
大宮先生恐いです。本当に恐いです。わたしはこの人にだけは逆らうまいと心に決めた。
「よし、じゃあHR始めるぞー。まぁもう馴染んでるみたいだがら、駿河の自己紹介はいいか。」
あ、はい。すみません。
先生は適当にこの後の予定を話しながらプリントをくばり始めた。
「この後は寮での手続き関連を各自で片付けろ。駿河はあたしと一緒に来い。で、突然だが明日模擬戦をすることになった。詳しくはプリントに書いてあるからちゃんと読んどけよ。」
「へ?」
『・・・・・殺される!?』
「ちゃんと読めと言っただろう!!今回の模擬戦の相手はAクラスだ。あちらから申し込んできたのでな、いい準備運動になるだろ?」
『瞬殺されますよ!!?』
綺麗にみんなの声がそろった。わたしは一人首を傾げる。
「ねぇ比佐。Aクラスってそんなに強いの?」
後ろからつついて聞くと、比佐は驚いた顔をしたがすぐに納得した。
「そっか、麗は知らないか。Aクラスっていうのはあの七羅が所属してるんだよ。特に私たちの代は木羅と土羅以外の五家が揃ってるの。Aクラスに入るには七羅の誰かに勝たなきゃいけないんだけど、強すぎて彼ら以外にAクラスになれた人がいないくらいよ。」
「そ、そんなに強いんだ。」
わたしは誰も勝てないと聞いて思わず大宮先生が五人いる場面を想像してしまい、恐怖で顔を引き攣らせた。そんなに強い人なんかと闘ったら・・・・・。
「・・・・・気をつけないと・・・。」
「ん?なんか言った?」
「えっ?あっ何でもないよ。」
危ない危ない。思わず口に出しちゃった。でも、本当に気をつけないと。ばれたら大変なことになっちゃう。
「というわけだ。まぁ適当に頑張れ!じゃあHR終わりな。駿河、来い。」
「あっはい!!」
先生が号令もなしに出でってしまうので、わたしは慌てて後を追った。
教室を出ると廊下には誰かを待っているのか、生徒が5人立っていた。
先生は彼らに気付くと少し嫌そうな顔をした。
「よう。Aクラスがウチに何の用だ?」
え、Aクラスぅ!?この人たちが?
わたしは彼らをまじまじと見た。さっきの話からしてきっと恐い人たちなんだろな。
「おはようございます。大宮先生。Bクラスに用があるというより、そこの彼女に用があるのですよ。」
「え・・・?わたし?」
慌てて周りを見渡すけど、眼鏡をかけた男の子は明らかにわたしのことを言っている。
転校早々なんか悪いことでもしたっけ?・・・・あ、遅刻か。
「ご、ごめんなさい!!遅刻したことは謝るんで許してください!!」
「は?」
「・・・プッ、しょ、翔ドンマイ!!」
必死に謝ると、その男の子は唖然として固まってしまった。他の4人は笑いを堪えている。
「あ、いや、そのだな。俺たちは別に君が遅刻したことについて怒りに来たわけじゃ・・・っお前ら笑いを堪えるな!!」
男の子が怒鳴ると、4人はついに声に出して笑いだした。わたしは何が起こっているのか分からず、ただ驚いていた。
恐い人たちかと思ったらふつうの人たちなんだ。
ようやく笑いが収まると、男の子は咳払いをしてこちらに向き直った。
「自己紹介がまだだったな。おれは風羅翔。Aクラスで、この学校の生徒会長もしている。で、こいつらが・・・」
「俺は炎羅和也だ!!お前と同じ火属性。よろしくな!!」
翔と言うらしい男の子を押しのけて前に出てきたのは、和也という暑苦しい人。体格が高校生とは思えないのでちょっと恐い。若干ひいていると、髪をポニーテールにした女の子が和也君を蹴っ飛ばしてしまった。
「あんたはいちいち暑苦しいのよ!ごめんね、この馬鹿が。あたしは水羅美月。よろしくね?」
「僕は白羅理桜。一応副生徒会長だよ。こっちは黒羅ケイ。よろしくね、駿河さん。」
「・・・よろしく。」
そして、ニコニコと笑っている男の子が理桜君で、その隣にいる無愛想な女の子がケイと言うらしい。
なんていうか・・・個性的なひとたちだなぁ。
「あ、えっと。駿河麗です。よろしくです。・・・で、そのぉ・・・・遅刻のことじゃないなら何のご用ですか?」
遠慮がちに尋ねると、好き勝手にワイワイやっていた5人はようやく本来の目的を思い出したらしい。
「すまない。俺たちは君に勝負を挑みに来たのだ。」
「え?勝負?」
勝負って闘うってこと?この人たちと?
混乱していると、今まで黙っていた先生が慌てだした。
「何を勝手に!!駿河は入学したばかりだぞ!?いくらB判定がでたからっていきなりお前らなんかと闘わせるわけがないだろう!!」
先生はAクラスと何かあったのか、すごい剣幕で怒っている。
けれども5人は涼しい顔だ。
「入学したばかりだからこそですよ。彼女の実力がどんなものか見てみたい。大丈夫です、和也なんかには闘わせませんから。」
「なんだと!!翔!約束が違うじゃねぇかぼふ!?」
「馬鹿は黙ってなさい!!理桜、こいつ動けないようにしといて。」
「ん?いいよ?111010888・光糸」
理桜君は魔法陣から出てきた光の糸で、和也君をぐるぐる巻きにしていった。
それはもう遠慮なく、しかもニコニコ笑いながら・・・。
その横ではケイちゃんが理桜君にひいている。よかった、正常な人がいて。
「先生、どうかしたんで・・え、Aクラス!?」
騒ぎを聞きつけた比佐まで出てきちゃったよ。他にも亮太君とかもいて、ぐるぐる巻きの和也君を見て唖然としてるし・・・。この人たちってどうしてこうも自由なんだろう。
「とにかく、明日の模擬選で駿河さんには俺と闘ってもらいます。理事長の許可は取ってあるので。では明日。」
なんか一方的に言い残してAクラスは帰っていきました。和也君をひきずりながら・・・。
先生はまだ怒ってるし、もう何がどうなってるの!?
「えっと、麗?今、どういう状況なの?」
「ごめん、比佐。わたしにもワカラナイヨ。」
***
「まったく、なんなんだあいつらは。」
あの後なんとかみんなに正気に戻ってもらって、職員室にきたんだけど・・・。先生はまだ腹の虫がおさまらないみたい。
さっきからずっとこの調子だ。
「あのぉ・・・先生?寮の話はどうしたんですか?」
「ん?ああ、悪い悪い。寮の登録しないとな。」
よかった。先生もとに戻ってくれた。
「ちょっと待ってろ。駿河のカードは・・・と、これだ。ほれ。」
と手渡されたのは1枚のカード。そこにはわたしの顔写真と名前、クラスなどの個人情報が書かれていた。寮の項目にはまだ何も書かれていない。
「それがおまえの身分証だ。この学校の施設を使うときなどに提示する。持ってないとどこも入れないし出ることもできない。まあセキュリティ管理のためのものだ。これから寮で登録する。ついて来い。」
寮は校舎から少し離れた所にあった。その大きさは高級ホテルのよう。全校生徒が200人しかいないことを考えると大きすぎる気がする。
エントランスに入ると、一階は大きな公用スペースになっていた。食堂もあり、何人か生徒の姿も見れる。
先生は奥にある受付のような所に向かってどんどん歩いて行く。ぽけーと周りを見渡していたわたしは慌てて先生を追いかえる。
受付には先生と同い年ぐらいの女の人が座っていた。真っ赤な長い髪は一つに束ねて後ろに流してあり、整った綺麗な顔が顕わになっている。でも、その口から僅かに垂れている涎がすべてを台無しにしている。
「おいこら!朱音!お・き・ろ!!」
「ふわ?あともうすこsh・・・。」
揺すっても叩いても起きないその人にキレた先生は台に置いてある犬の置物(なんで犬?)を振り上げた。
そのまま振りおろそうとする先生を、わたしは必死に止めた。
「お、落ち着いてください先生!そんなもので殴ったら怪我じゃすみませんよ!?」
「離せ駿河!!あたしはこいつを殴りたいだけなんだ。」
「だからそれがだめなんですよー!!そこの人ー!!じゃない、えっと朱音さん?起きてくださーい!!」
何度か呼びかけると、十六回目ぐらいで朱音さんはようやく起きてくれた。
「ふわあー。よく寝た。・・・あれ?奈子ちゃんどうしたの?あっ、その犬の置物可愛いでしょ?奈子ちゃんも欲しくなっちゃった?でもあげなーい。」
「いらん!!くそっ、どうしてこんな奴が寮母なんてやってるんだ。」
「それはねー。ひ・み・つ♡」
この人・・・だんだんイライラしてくるなぁ。先生じゃなくても殴りたくなってくるよ。ふふふ・・・。
「っうううう。こらえろあたし!!・・・・・・ふぅ。で、本題にはいる。こいつが新しく来た入学生で、私のクラスの駿河麗だ。駿河、このウザいのが凛堂朱音。何故かこの寮の寮母をやっている。」
「わぁー、入学生かー。よろしくね?麗ちゃん♪」
「えっと・・・・はい。」
あんまり関わりたくないけどしょうがないよね。
「じゃあ麗ちゃん、IDカードを見せてー?」
カードを差し出すと、朱音さんはカードを機械に挿入して何かを書き込んだ。
「はい、これで登録完了だよー。麗ちゃんの部屋は819号室、八階の左から十九番目の部屋だねー。」
「あ、はい。」
登録はあっさりと終わってしまった。前の学校はIDカードなんかの便利な機能がなかったので、ここに来てから驚いてばかりだ。
「寮の規則とかめんどーなことは部屋にある端末にIDカードを差し込めば見れるからー。」
「・・・・・と、いうわけだ。じゃあ、明日は八時に教室でSHRをしたあと、闘技場で模擬戦だ。あいつらと闘うことになってしまったがしょうがない。気合いいれてやれよ?あと体育着も忘れるな。じゃあな。」
先生は早口でそれだけ言うと、速攻で帰ってしまった。
あとに残ったのはわたしと、ニコニコと手を振っている朱音さん。
・・・・・。よし、部屋に行こう。
翔はこれからどんどん可哀想なキャラになっていく予定です。