しろいマフラーと くろいねこ
どこにでもあるような まちに どこにでもいるような ふうふが いました。
よそからみれば ありふれた ふたりでしたが
ふたりは なかむつまじく とても しあわせでした。
このまちには それはそれは きびしい ふゆが やってきます
まいにち つめたいかぜが びゅうびゅうと ふき、
ときには ゆきが はらはらと ちらつきます。
さむいなか しごとへ でていく だんなさん。
おくさんは だんなさんに しろいマフラーを おくりました。
まだ きぎのはっぱが あかやきいろのころから こつこつ あんだのです。
それが ようやく かんせいしたのです。はじめて ゆきが ふった よるのことでした。
「ありがとう。これで ことしのふゆは あたたかく すごせそうだ」
おれいを いうやいなや だんなさんは くびに マフラーを まきます。
「うふふ。わたしの みたてどおりね、よく にあってるわよ」
ほくほくがおで かがみのまえにたつ だんなさんをみて おくさんも ほほえんでいました。
つぎのひも ゆきは ふりつづけました。
まちを ゆくひとびとは コートのえりをたて せっせと はやあしで あるきます。
だんなさんも かおを マフラーに うずめ、かえりみちを いそぎます。
こんな ゆきのよるは かさをもつても かじかんでしまいます。
ふと だんなさんは がいとうのしたの ダンボールばこに きがつきました。
はこには「ひろってください」のもじが かいてあります。
なかには いっぴきの くろねこが まるくなっていました。
くろいけなみは ゆきがおちると とたんにとけて じっとりと ぬれています。
「にゃー」くろねこは かよわく こえをあげます。
だんなさんは しゃがみこんで ねこに こういいました。
「ごめんな。うちは ペットを かうのは できないんだよ」
もういちど ごめんな、と つぶやきます。
そして、だんなさんは くびに まいた マフラーを はずし、
くろねこの うえに かけてあげました。
だんなさんは いえにかえると おくさんに ねこのことを はなしました。
そして マフラーを おいてきてしまったことを あやまりました。
「マフラーは また あんであげるわよ。
でも、ねこは こごえさせるわけには いかないでしょう?」
あなたはまちがってないわ。そういって おくさんは だんなさんの ほほに くちづけました。
つきひはながれ やがて あたたかい はるがやってきました。
せんじつまで へたっぴだった ほととぎすも いまは よいうたごえを ひびかせます。
ふたりのあいだには あかちゃんが うまれました。
きゅうじつの はれたごごです。ふうふとあかちゃんは こうえんまで さんぽします。
すると きんじょの いえから みゃー、と なきごえが きこえてきました。
「おや? こちらのおたくは ねこなんて かっていたのかい?」
くびをかしげる だんなさんに おなじく くびをかしげる おくさん。
ふたりは そっと うえこみから にわを のぞきました。
すると……
そこには 2ひきの こねこが じゃれあっていました。
つやつやとかがやく くろいけなみをもった こねこです。
そのとき だんなさんは あっ、と こえをあげました。
「あのこだよ! きみからもらった あのマフラーをあげた ねこだ!」
だんなさんが ゆびさすほうこうを みると くろねこが いっぴき すわっていました。
くろねこには すずのついたくびわが つけられています。
そして おしりのしたには しろいマフラーが しいてありました。
「よかった。ぶじに ひろわれたんだね。ほんとうに よかった」
「そうね。おなかにいた ちいさな ふたつのいのちも、ね?」
ふうふは かおをみあわせると にっこりと わらいました。
こねこたちが あそびつかれて ねむってしまうのは まだすこしばかり さきのようでした。
おしまい。
語感のセンスが欲しい今日この頃。
皆さんのこころが少しでも安らげば幸いです。