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第六話

塔の中で


 ルカとロフィはロボットによって、やけに広い部屋に連れてこられた。

 そこの椅子には女がポツンと座っていた。

「私を見て、何か思い出さない?」

その女性は言った。

「……。何かって、なんですか?」

暫く、見つめていたが、何も思い出せないそうでロフィは言った。

「思い出してほしいことがあるの。昔の事よ。子供の頃、サラとバリとあなたはよく一緒にいたわ。そこに、私もいたのよ」

「……一緒にいた?」

「そう。思い出して……」

女が静かに語るのにイライラしたようにルカは言った。

「おばさん誰よ!」

おばさんという言葉に女の顔が豹変した。

「小娘が!」

と、言うとどこからか体に電気が走った。

「痛い!」

「何するんだ!……」

ロフィは怒鳴ったが、急に何かが頭に浮かんだ。

「なんだ?なにか、思い出したかい?」

「……前にも誰かがあんたに電流流されていた。……あれはサラだ……」

「ほかには?」

「叩かれたサラと小さい僕……でも、サラは今と同じだ……バリもいた。頭がよかった」

「そうそう、そして、ある日、火事になったときに君たちは逃げた」

「バリが言ったんだ。逃げようって。なんでだか、僕にはわからなかった」

やっと、電流のしびれがとれたのか、ルカは強気になって言った。

「あんたなんか、パパにやっつけてもらうから!」

「パパ?科学研究所の所長のトカのことかい?」

「そ、そうよ」

「くくくくくくく……あっははははははは……」

女は高らかに笑った。まるで、馬鹿にするかのように。

「何がおかしいのよ!」

ルカは怒鳴った。

「おまえの父親の作品を見たいか?」

と、女は笑うのをやめて言った。

「……作品?」

「ああ。みせてあげるよ。失敗作でよければ……」


 朝、時間ギリギリに学校ついた。教室ではムラサキがほっとしたように言った。

「お、サラ、久々に登校か?」

「すみません、風邪で寝込んでいまして。あ、えっと、バリですがリズラノの森に魚を見に行ったそうです。それから、タームはお父さんの看病疲れからか、今度はタームが寝込んでいます。ルカはお父さんと一緒に研究所にいます。ロフィもそこにいます」

「なにも、一度にいなくならなくても……」

と、先生は渋そうな顔をした。

「今度の学校の始まる日には全員戻ってくる予定です」

「そう。わかった」

席に着くと、ミコが早速聞いてきた。

「リズラノの森って?」

「シェオ地方とカルナレ地方の間にある森の奥に川があるのよ」

「よかったね、ミコ」

「追いかけて、シェオまで行くところだったもんね」

双子たちが言った。

「そう思ってね。全快じゃないのに、学校に来たのよ。これだけ、言いに来たの。まだ、体がだるいから早退するわね。これ、お願い」

と、サラは包みを渡した。

「なに、これ?」

「バリの日課。昼休みに池の魚にパンをまいて。気にいていたから。よろしく。また、次の学校の日にね。じゃねん」

「バイバイ。おもしろそうね」

「私もやる」

双子の二人は目を輝かせていた。学校を早退したサラは、とりあえずパン屋のおばちゃんの葬式をすることにした。その日の午後には店の解体も業者に頼んだ。

マスターは店を修理することにしたらしい。本人曰く、自分が帰ってこられなくとも、店を継がせたい人がいるらしい。サラのマンションの住人はもう誰もいなくなっていた。


塔へ


 夜には、レムのマンションにそろっていた。武器を選ぶ。爆破ものは遠慮した。塔を壊しては元の子もない。

「車で行きますか?」

「そうね」

レムが運転する車で施設も前までやってきた。門番がいる。

「おかえりなさい」

門番が声をかけた。

「ああ」

それだけ言って、トカは奥へと入っていった。いつも何の違和感もなく入っていた場所なのに、まともに見るとこんなに不気味なのかと改めてトカは考えていた。授業中で、Cクラスが下を走っているのが見える。

「トカ氏」

急に声がかかって、びくっと体が勝手に動いた。

「ガレン」

「ロべリィーさんがお待ちよ」

ガレンが、くるりと後ろを向いて職員専用のエレベーターに乗るのを、あわててトカは追いかけた。

「……君は知っているのか?ルカが誘拐されたことを」

「ええ」

「なんで、助けてくれなかったんだ!君の子供と同じクラスメイトだろう!」

ガレンは眉一つ、動かさずに言った。

「私は自分の子供たちになんの仕事をしているのか言ったことがないわ。ここで働いていることも知らない。そして私の仕事内容について、あの子たちは別に疑いもしなかった。でも、あなたのお嬢さんは違う。真実を知ろうとしていた。パンドラの箱のようなものね」

 どんどん上がっていくエレベーターの中でトカは聞いた。

「……ルカは無事なのか?」

「そうね……痛めつけるようなことも、薬でいうことを聞かせるというようなことはしていない、と言えるわね」

「そうか」

 トカはほっと息をついた。

「安心するのは早いわよ」

「何?何かしたのか?」

「会えばわかるわ」

 ドアの奥に彼女はいた。まるで、女王のような椅子に座っている。

「おかえり、トカ・ジューデェル」

彼女はいつもと変わらない笑顔を見せた。

「ロベリィーさん、ルカはどこですか?帰してください。お願い致します。」

「帰して?別にさらってきた訳じゃないよ。勝手に来たんだ。それに、そこにいるじゃないか」

壁の隅っこにはルカとロフィがいた。二人とも顔が真っ青だ。縛られているもの、しっかりと足で立っていた。

「ルカ!無事か?」

「近づかないで!」

側にと寄ろうとするトカにルカは悲鳴にも近いような声を上げた。

「どうしたんだ?パパだよ?」

「……」

「ルカ?ロべリィー、ルカに何をしたんだ?」

「何もしていないわ。ただ、やけに私に刃向かうものだから、ガレンが見せただけよ。あなたの作品たち……」

ロベリィーはにっこりとほほえんだ。それと同時にトカの顔が青ざめた。

「ルカ……」

ルカは震える声で泣きながら言った。

「私は……私はパパが立派なお仕事をしているんだと思っていた。自慢にさえ思っていたのに!なのに、なんなのよ、あのガラスケースの中の化け物たちは!」

「ひどいわね。あれは人よ。おまえの親父が作った……」

ロベリィーはニヤニヤ笑いながら言った。

「よせ、ロベリィー!」

「もう遅いよ、パパ。全部見たもの。なによ、あの化け物!どこが人だって言うの!そんなに人体実験したいんだったら、自分を使えばよかったのよ!パパなんか大っ嫌い!」

「あーあ、偉大な所長も娘に嫌われて形無しね。大丈夫よ、もう実験なんかしないわ、クビにするから。いらないわ、あなたなんか」

「やろう!」

トカが武器を出してロベリィーに向けて打ったが、電流の粒はすり抜けてしまった。奥の壁で焦げ目を作った。むなしく音だけが響いた。

「馬鹿ね。私の体はここにはないのよ。くくくく……、衛兵!」

ドアの前にいた衛兵がやってきた。

「トカと娘を第七研究所へ」

「やめろ、やめろー、ロベリィー!」

父親のトカは大騒ぎをした。娘は泣きながら素直に腕をつかんだロボットについて行った。

「さて、ロフィ、何か思い出さないかい?」

「……何も」

じっと見つめ返してロフィは言った。

「本当に?」

「……俺が何を知っていると考えているんですか?」

「私の体だ」

「……なんで俺が?」

「おまえが隠したからだ!思い出せ!」

ロベリィーは怒鳴りつけた。ロフィは顔をしかめた。また頭痛が襲ってきたからだ。


一方。

塔は森の中を歩いていかなければ、近づくことができなかったせいか、サラたちはやっと塔にたどり着いたところだった。

「あく?」

サラが聞いた。

「あいていますよ?」

と、レムがドアを開けて言った。

「へぇ。入ってみよう」

ドアの向こうは明るいロビーが広がっていた。奥には階段がある。

「ここは……なんなんですか?」

と、ユニは辺りを見回していった。

「子供の遊び場よ」

「遊び場?」

「なにか、きます!」

レムが鋭く言った。

「……無断者、通行禁止だ」

いつの時代のものかわからない甲冑を着ている機械が言った。

「こっちの武器は最新科学だよ!」

と、マスターは武器を向けた。

「ほい!」

レムが投げつけると、何か青い光がビリビリと走った。

「行きますよ!」

レムが言い、全員で奥に向かって走り出した。

「なんだ、あれ?」

と、マスターは目を丸くして言った。

「強力電力。古い甲冑なんか着ているから。でも、十分しか持ちません」

「こりゃ、各階に敵がいるものと持った方がいいな」

と、マスターは言った。

「チップ、取ったほうがいいかな?」

 

次の階には細い道があった。

「なんですか、これ?」

と、ユニが聞いた。

「迷路」

「迷路?こんなところに……」

「それも、しばらくすると、あぶない!」

サラは前を歩いていたユニの体を引き寄せた。すると、ユニの前で迷路の壁から出てきたブロックがガタンと閉まった。しばらくすると、音もなく開く。

「あの……ここは子供の遊び場って言っていませんでした?」

びっくりして、座り込んだユニが言った。

「あの時はこれはただのヤワヤワだったんだけど……」

と、サラもちょっと驚いたように言った。

「ヤワヤワ?」

「怪我をしない昔の材質のことだ。最近は見かけないけどな」

と、マスターが言った。

「しかも、急がないと、また形が変わるぞ。ほれ、立て。それともおぶるか?」

「大丈夫です」

と、ユニは慌てて立ち上がった。

上から横から出てくるブロックを避けながら、昔の記憶に頼りつつ走っていった。


「あの……なにもありませんけど?」

 やっと迷路から抜け出してみると、そのフロアには何もなかった。

「レム……」

サラはレムの方を見つめた。

「ここはまず、ユニさんが、あそこから足三歩分、飛んでください。マスターは、あっちで大足一歩分、サラはそこで五歩分」

「あの、間違えるとどうなるんですか?」

「これを投げると……」

マスターは腕を守るために覆っているカルカルを投げると、床が揺れた。そして、金属のカルカルは壁に当たり、壁には穴が開いたほど威力があった。

「なんですか、これ……」

「ぶにぶにと床が揺れるだけなんだけど、全員でバラバラにいくと、向こうまでいけないことがあるのよ。あっちこっちに体が飛ぶしね。壁に当たると、かなりいたそうよ。レムの計算通りに行かないと」

「わかりました。私は……ここでした?」


「ぜぇせぇ」

 いくら、中身が若くても体力は六十近くのマスターには次のフロアで炎柱の間を走った時点でかなり疲れたようだ。ちなみに、昔は服が少し濡れる程度の水が出る仕掛けだったが、いつの間にか変わったらしい。

「マスター、休んでいた方が……」

と、サラはためらいながら言った。ためらったのは、マスターの気持ちがわかるからだ。

「いや、あの女の顔を蹴るまでは……はぁはぁ」

「じゃ、少し、休んでから後から来て。先に行くわ」

「わ、わかった」

「行こう」

 三人は上へと駆け上がっていった。

とにかく作った人はよっぽど暇人だったのだろうとしかいえないほど、仕掛けの多い塔になっていた。

通路に穴があいていたり、ちがうタイルの上を歩いたり、大きなオノがふってきたり、道の真ん中にワニがいたりした。他にも、水の上はかなり大変だった。落ちれば人を食べるような魚がいたからだ。

催涙ガスもあれば、高熱線の中をくぐることになったり、地震があるらしい地面を歩いたりと苦戦を強いられていた。

レム家にあった防具はかなり役に立っている。

それと同時にたまに、ディー5が現れる。機械相手なので遠慮はしなくていいが、とにかく倒すのに体力を使う。

上に上がっていった連中も襲ってくる。しかし、彼らは何かしらの動物たちと融合されているのか、角を持っていたり、体型ごと変わっていたりと多種多様だ。言葉も通じず、とにかく邪魔をするので倒しておくしかなかった。

 戦っている途中でなにか、ガチャガチャと後ろから音がした。

「また、敵ですか?」

 さすがに、若いユニも疲れたように言った。

振り返ってみると、そこにいたのは飛行型ロボットのディー3型のロボットだった。

「ミスター援助」

と、機械が言いながら、丸いケースを取り出した。

「これ」

「これは……。完成したのね?」

と、サラはサンプルを受け取った。

「なんですか、それは?」

レムが聞く。

「親玉用のアイテムよ。ありがとう」

「あ、あと、武器の補充……」

と、機械が後ろの袋から出してくれた。

「あ、ありがとう。気をつけてミスターの元へ帰って」

「ハイ」

ロボットは再び、ガチャガチャさせて去って行った。

「よく、ここまでこられましたね」

ユニが言った。

「私の目にはコンタクトがついているからね。これで、ミスターが見てる」

サラが言った。

「いいなぁ。親がいて」

「体は無いけれどね。さぁ、まだ、先ね」

九階の最上階まで来るまでにはかなり体力を消耗すると言えよう。あと二階分が残っていた。

「まだあるなぁ……」

と、上を見上げていった。

「本当に」

「あれは?」

ユニが何か気がついた。

「弓よ!よけて!」

サラが言う。

「走るよ!」


地下へ


ところで、三階近くで疲れ果てていたマスターはミスターの援助のロボットには会わなかった。それは?

「ああ……まだ、二十歳なのに、やっぱり体が六十だときついな。なんだ、これ?椅子・・みたいだな」

と、一人になったマスターはぶつぶつと独り言を言っていた。

ちょっと出っぱっているところに、腰をかけた。すると、そのまま後ろに穴があいて開いて転がっていってしまったからだった。すべっている時間というものは、何が起きたのか理解できず、理解できた時に止めようとしたが遅く、そのまま下に落ちてしまった。

 ドシン

一番下につくまでには、手すりをつかむことに成功したが、足が地面に着いていて、あまり意味のない状態だった。

「あー……どこだ、ここ……」

マスターは辺りを見回した。持ってきた明かりをつけると、空洞のような空間にいた。真ん中にはどこからか、光が差している。その光の当たる場所になにかあった。

「なんだこれ?」

埃を拭いてみると、カプセルが出てきた。その中に入っているのは紛れもなく、ロべリィー・アシュレットのだった……。


バリ登場


「つ、疲れた……」

「私もです」

倒したロボットを下に引いて、座り込んで言った。

「どうりで、政府からディー5の前回収宣言がでないはずね。こんなところに、こんなにいたらねぇ……」

「はぁ。ちょっと、休憩しますか?」

体力のあるレムでさえ、息を切らしていた。

「賛成と言いたいところだけど、無理みたいよ。向こうから……衛兵が」

サラは立ち上がった。

「緑のねばねば、あと、一玉しかないんですけど……」

ユニが機械の残量を見つめていった。

「倒すしかないのか。いくぞ」

と、全員が身構えた時、後ろからロボットたちは倒れた。次々に倒しているのは……。

「バリ!」

ユニは隙を見て、ボールを打ち、五体は足止めに成功した。バリがやってきた。

「遅くなった。職員エレベーターの紐に捕まってきたんだけど、出るのが大変でさ。すごいセキュリティーだったよ」

「ほめている場合か!」

「あいかわらず、怖いな。その子が?」

と、ユニを見つめた。

「そう、彼女がユニよ。ユニ、彼は仲間のバリよ」

「よろしく」

と、ユニと握手した。

そして、思い出したように言った。

「あ、そうだ。タームとコザルドが下に来ていたぞ」

「うそ!だって、あの人、まだ入院中でしょう?タームだって検査は?」

「なんでも勝手に出てきたらしい」

と、バリは肩をすくめてみせた。

「うわ!なぁんて、無茶をする親子なのかしら!二人して、なにかあったらどうするのかしら?」

と、サラは考え込んだ。

「さぁ。ところで、マスターは?一緒じゃないのか?」

三人は顔を見合わせた。

「そういえば……」

「あとから来ると言っていたんですけど……」

「来ていませんね」

「来ているのか?」

「ええ。疲れているようだったので、途中で私たちだけ先に来たの。でも、追いついてもいい頃なのに……」

レムは上ってきた階段を見つめていった。

「そっか。じゃ、そのうち、くるだろ。あ、ルカとその親父は助けておいたぞ」

「ホント?」

サラの顔が輝いた。

「ロフィは?」

「一緒じゃなかった。ルカの運転手も敵側にいたんで、縛ってきた」

「運転手が……。だから、あんなに早く引越祝いが届いたのね」

と、サラは納得したようだった。

「引越祝い?」

と、バリは聞いた。

「ううん。いいの。で、ルカは?」

「怪我はないが、どうやら、父親のやってきたことを知ったみたいで」

「そう……。ロフィも見たのかしら?」

「さぁ。思い出さないといいがな」

「そうね。じゃ、進みましょうか?」

「ああ」


地下から上へ


 マスターはあっちこっち見て回った。そこは子供の遊び場の一部のようだった。マスターは必死で子供の頃の記憶を思い出そうとした。

「そっか。ここは砂場だ」

 砂といってもゼらルド砂漠のような砂ではない。子供遊びように開発された砂だ。そして、降りてきた通路は塔の緊急避難用に設置されたものだ。つまり、逆に上っていけば一番上までいけるということだ。

 マスターはカプセルに入ったままのロベリィーの体を運ぶことにした。

 もともと医療の方面で使われていたカプセルは、各家庭用にまで発展した。いろいろなタイプのカプセルがあり、ここにあるのは生命維持装置の付いたタイプだった。

「よっと」

 マスターはカプセルの装置を使って浮かばせると、長い滑り台を上り始めた。


そのころ、やっとサラたちは一番上のロベリィーに会うまでに至っていた。

「ひさしぶりね、サラ。昔のままね」

「おかげさまで」

「サラ!バリ!」

と、声が上がった。

「ロフィ!無事だった?」

「うん」

「そうか……。よかった」

バリは駆け寄りそうになっていた。

「……バリ、離れて!」

 サラはロフィに向けて武器を打った。

「おい!」

「よくみて。それはロフィじゃない!」

 そのロフィは倒れた。撃たれたところから金属が見える。

「よくわかったわね。さすが、ロフィを二十年近く見つめていただけのことはあるわねぇ」

と、ロベリィーは笑った。

「ロフィはどこ?」

「……だめよ。まだ、思いだしてもらうことがあるんだから、渡さないわ」

ユニは武器を一発打ったが向こう側に消えた。

「やっぱり、本物じゃないわね」

サラがいった。

「あたりまでしょう?誰があなたたちの前に体をだすもんですか」

「いまさら、ロフィに何の用?あれから、かなりの時間たったわ。いまさら、思い出せると思うの?」

「思い出すわ。自分のことくらい」

「覚えていないほうが幸せかもしれないのに」

「黙れ!ロフィはおまえには渡さない。私は……私は!」

ポログラムのロベリィー・アシュレットの顔は大きくゆがんだ。

「母親だろ」

と、また、声がした。

「ロフィ!」

 そこに本人がいた。

「どこにいたんですか?」

と、レムも言った。

「そこ。さすが、サラだね。僕のこと、機械と間違えなかった」

「ロフィ……思い出したの?」

サラの顔は悲しげにゆがんだ。

「ああ。思い出したよ。研究所のことも自分のことも。名前は本名だけど、苗字はサラとミスターで考えてくれたものだよね」

「ええ」

「思い出してくれた、私の、私のロフィ……」

「違う!僕はあんたの物じゃない。研究所に火をつけたのは僕だよ。あんたを殺すために」

と、ロフィははっきりと言った。

「ロフィ……」

「あんたの思考は間違っている。最初は高貴な理想だったのかもしれない。父さんは動物と協和できるような世界を望んでいた。だから、よく言っていた。いつか、動物と話せる日が来ると。でも、父さんが死んでからあんたはおかしくなった」

「……私は間違ってないなどいない!おまえが誰だ?私のロフィはそんなこと言わない」

「あんたは、人間と動物を一緒にさせることで動物言葉わかるんじゃないかなんて、恐ろしいことを考えたんだ。だから人体実験を始めたんだ。オレが、それで、何人、自分の友人を失ったか、わかるか?あんたを焼こうと決めたのもオレの意志だ。サラ、これは彼女の人工頭脳が喋っているに過ぎない。体がどこかにあるはずなんだ」

「これだろ?」

と、カプセルを運んできたマスターが後ろから現れた。

「マスター」

「下にあった」

 マスターはカプセルをぽんぽんと叩いてみせた。

「やめろ……何をしても無駄だ。彼女は目覚めない」

 ホログラムのロベリィーが笑った。

「残念でした。ミスターの部下が持ってきてくれたのもだわ」

サラは細く微笑んだ。手にはあの飛行物体から受け取った丸い物を持っている。

「……まさか!」

「あたり、エーアイキラー。頭に作り方さえあれば、優秀な科学者がいれば作れるのよ!」

彼女は瓶の蓋を開けるとそこにいた、ロベリィーはゆがんだ。ホログラムにだけ作用する、ミスター思案のピエーラ特注の薬だ。

「やめろ……やめてちょうだい。ロフィ……たす……けて……」

そこには誰も座っていない椅子だけがのこった。

「よくも、ロベリィーさまを!」

ガレン・リスベリーが銃をサラに向けていた。そして撃った。

「サラ!」

眉になったのはレムだった。

「レム!」

その間に、ガレンを後ろから取り押さえたのはコザルト警部とその部下たちだった。

「サラ、生きとるか?」

と、コザルドは真っ先に言った。

「ええ」

「ちくしょー、理想の国家がぁぁぁぁ!」

「連れて行け!」

「はっ」

コザルドの部下が暴れるガレンを連れて行った。

「みんな、無事?」

と、奥からタームが現れた。

「ターム!」

「うわ、レム、体に穴?」

と、タームはびっくりしたように言った。

「ええ。でも大丈夫。右半身は全部機械だから後でピエーラに直してもらうわ」

と、レムはなんでもないように言った。ただ、穴が大きすぎて体のバランスを取るのが難しいのか、少し、ふらふらしている。

「ロフィ……」

バリは声をかけた。

「母さんは……このまま、カプセルごと父さんの墓に眠らせてほしい」

と、カプセルの中をのぞき込んで言った。

「まだ、心臓だけはこのカプセルのおかげで動いているんだが、それでいいのか?」

と、マスターが聞いた。

「ああ。母さんもういないんだ。記憶さえ失わなきゃ、もっと早くにそうするはずだったんだ。それなのに……」

しんみりしている中、サラが急に思い出したように言った。

「それにしても、なんで、コザルドさんがここに?病院は?」

「『時の舞姫』が死ぬかもしれないって時に寝ていられるか!つかまえるのは絶対にわしだけだ!」

と、コザルドは体をそらして言い切った。

「ほう……。言い切ったわねぇ……」

タームが突然言い出した。

「ねぇ、ファグルは?」

「ああ、やつなら……こっち側の人間ではなかったが、敵でもなかったみたいだぞ」

と、バリがいった。

「?」

「後ろ」

ファグルはいつも施設であったときのような格好ではなく、きちんと正装していた。と、いっても戦闘用の正装だ。

「ファグル。よかった、無事だったんだね!」

「ええ。どうも、コザルドさんのご息子とは知りませんで。いろいろと、失礼を」

と、ファグルはぺこんと頭を下げた。

「ファグル?」

 タームは面食らったようだ。

「ファグルは国家機密警察からの派遣警察部員なんだ。わしもそんなものが出ているとは知らんかった」

と、コザルドが説明してくれた。

「そうなの?」

「ええ。変わった犯罪を調べていて、どうもここの卒業生が多いというもので、内密に調査をしていた者です」

「そうなんだ……でも、無事でよかった。あ、先に上に行ったって言っていた友人は?」

「手遅れでした……。足がすでにヒョウのような状態になってしまっていて……」

「そんな……」

タームが泣きそうな顔をしたからかもしれない、ファグルはあわてて付け加えた。

「あ、ですが、会話は出来ます。なので、話が出来る人……というか、彼らには、なにがあったのか、時間をかけてじっくりと聞くつもりです」

「そっか。……それしかできないもんね」

「そうですね。いまのところは」

「ルカたちも下で保護しておる。さぁ、これから、多忙になるぞ……。まずは……この塔を政府管理の元に置かないとな。被害者ではなせるものは事情聴取だし……あの、施設の方の連中もどうにかしないとな……」

コザルドが言った。

「私はミスターの元へ帰るわ。このままでいい」

サラがいった。

「いいのか?」

と、バリが言う。

「私より先に、どうにかしないといけない人が多いはずよ。マスターみたいに。早く死んじゃう」

「不吉なことを言うな!」

と、マスターは怒鳴った。

「ふふ。私もいいわ。ミスターとピエーラに体を直してもらって研究所の受付に戻ります」

「俺もいいや」

バリも言った。

「ねぇ、バリはなにがおかしいの?頭はいいし、体は強いし」

と、タームは不思議そうに聞いた。

「おかしいいとかいうなよ。傷つくだろう」

「あ、ごめん。で?」

「悪いって顔くらいしろよ。俺は水に浮かないんだ。息は出来るんだけどな。魚の一部が入っているもんで。だからAクラスだったの。水泳なんか最悪だからな」

「なるほどねー。でも、ちょっと見てみたいなぁ……」

「ユニは角、直してもらいなさい。そしてお母さんのお墓でも立てるんだな」

マスター穏やかに言う。たとえ、中身が若くとも、外見が老けているといい言葉のように思える。

「ええ。そうします」

「オレは……母さん、父さんのところに埋めたら戻るよ」

「わかった」

「よし、これで、決定だな。夜も明ける……」

と、コザルドはもう誰も座ることのなくなった椅子の向こうに見える光を見つめながら言った。


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