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第五話

ルカとロフィ


そんな会話が教室で行なわれていた頃、ルカとロフィは結ばれていた。縄で。

「なによ、これ。なんのつもりよ!」

大声が響き渡るとその声でロフィも目が覚めた。

「何?何、これ……オレらは……」

しばらくすると、ロフィは自分が後ろで縛られていることに気がついた。

「サラの家から逃げてきてどうなったのかしら?」

と、ルカもため息をついた。

「さぁ……」

「のんきなこといってないで、どうにかならないの?」

「無理だよ、かなりきつく結んである」

と、動いてみたロフィが言った。

「静かに」

声がした。

「誰よ、どこにいるのよ」

「ここです」

目の前に現れたのは……。

「あんたは……うちの運転手!いいところに、助けてよ」

と、ルカはほっとしたように言った。

「それはできません」

「なんですって?」

と、ルカは顔を青くして言った。

「どういうことよ!」

「あなたは、私の名前など覚えていないでしょうが、私はここで雇われている者です。静かに、されませんと、打ちます」

にっこりといつもと変わらない笑顔をした。彼が持っているのは最新式の武器だった。いつもと通り過ぎる口調がかえって不気味だった。

「……私たちをどうするつもり?」

「とにかく、おとなしく待っていてください。そのうち、許可が下りたら、どうにかしますから。では」

そういって、彼は去っていった。

「どうにかって、どう?」

「なんで、ルカのところの運転手が?」

「知らないわよ!サラ悪いのよ!」

もはや、八つあたり状態にあった。動き回ってみたが、とにかく、きつくしめられていて、ついにルカはあきらめた。


 一方、施設の廊下では昼休みに既にタームの姿がAクラスの前にあった。

「あれ、珍しいな。タームが俺を待っているなんて」

「すごい、文字の量だね」

バリがしまいかけている電子ノートを見て言った。

「ああ。さっきまで、海底学をやっていたんだ。で、どうしたんだ?」

「んー、先に授業が終わったんだ」

「へぇ……Bクラスになるとそうなのか?」

「なんていうか、簡単なことしかやらないんだ」

と、拍子抜けしたように言った。

「へぇ……勉強が?」

「うん。体育もやけに簡単になったんで拍子抜けした気分だよ」

「そうか」

それが、タームが昼休みに言った感想だった。

「あーいやだ!これが毎日続くのかと思うとぞっとする」

五限が終わって部屋に戻るなり、大声でタームは怒鳴った。よっぽどイライラしていたらしい。ちょっと驚いたようにバリは言った。

「なんだ、まだ一日目だぞ、もう飽きたのか?」

「飽きたというか……ファグルがさ、先に二人ほどBクラスにいったって話、覚えてる?」

「ああ」

「一人はもうやめてた。もう一人はさ、……なんていうんだろう、元気が無いんだ」

「落ち込んでか?」

「そういう落ち込んでいるんじゃなくて、話しかけてもぼんやりしているし、自分が意味の無い存在だ、みたいなことを言うし、鍛えることもやめたみたいで、あんなにがっしりした体系の人が……つまめる肉があった。なんか、昔の面影がないんだ……なんでだろう」

それを聞いて、バリには思いつくことがあったようだ。

「ターム、頼みがある」

「何?」

「すぐにここをやめて、サラと合流してくれ。彼女の居場所はチェルトタウンのミスターって人が知っている。店のマスターにサラか俺の知り合いだと言え。それから、自分のおやじに会いに行け。サラへの伝言は、俺は三日後に上に行く。あの塔のことだ。逃げ出した子供はたぶんそこから来たんだと伝えてくれ。それだけでわかるはずだ」

「わかったよ。ずいぶん、急な話だね。一人で大丈夫?」

「大丈夫じゃないから伝言を頼んでいるんじゃないか。それから、自分の検査もしろよ」

「検査?病院で?頭以外、どこも悪くないよ?」

と、タームは冗談を言ったが、バリはにこりともせずに話を続けた。

「いまは、まだな。たった三日で、そんなにぼんやりしたようになったというファグルの知り合いの話が気になる。たぶん飯に微量に何か、含まれているんだろう。これをもっていってくれ」

と、バリはかばんの中からケースをたくさん取り出した。

「なにこれ?」

「今まで出た、食事のサンプリングだ。少し取っといたんだ。サラに渡してくれ」

「こんなことしてたの?」

と、サンプリングのケースをまじまじと見つめながら言った。

「まずいのは本当だが、なにか、妙な味がしてな」

「言ってくれよ!」

「死んでないから大丈夫だ。さ、行ってくれ。気をつけてな。

「わかった。やめてくる」

タームは荷物を詰め始めた。

その女はタームが去っていくのをモニターで見つめながら笑った。

「さぁ、どうなるかしら……?」


タームはその日の夜にやめて、翌日、明後日には学校に行くと連絡を入れてから、病院へと向かった。

「えっと、……まずは病院だな。親父の見舞いと自分の検査っと……」

誰に言うわけでもなく、タームはつぶやきながら歩いていった。後からつけてくる人にも気がつくことなく歩いていった。ところが、いるはずの病室に行っても、コザルドは見つからない。そばを通った看護士に聞いてみた。

「あの……すみませんが、ここにいたコザルドはどこにいったのでしょうか?」

「失礼ですが、どちらさまですか?」

「入院しているのは父なんですけど」

「ちょっと、お待ちください」

電子機器はいくら発達していても、看護士が直接身につけていることはなかった。

「ありました、移動になった患者さんですね。こちらへどうぞ」

「移動になった?」

ところが、通された部屋は病室ではなく、事務な部屋だった。たかが、胃潰瘍で、なにか、宣告されるんだろうかとつまらないことは脳裏を横切ったとき、男性がやってきた。

「あの。父は?」

「息子さんですか」

と、白衣の男性は言った。

「はい」

タームは慎重な面持ちで答えた。なにか悪化したとでも言われるのだろうかと緊張した。

「本当に?」

「ハイ?」

思わず、すっきょうとな声をあげてしまった。

「特別に上から支持がありまして、このスキャナーの上に手を置いてください」

「これ……ですか?こうでいいですか?」

素直にタームは手を大きく広げておいた。すると、名前が表示された。

「ターム・ロイズ。コザルドさんとは苗字が違うようですが?」

「……ぼくは母方の姓なので」

「わかりました。ではこれから三十項目の質問に答えていただきます」

と、医師の格好をしたその男性は電子ノートを広げた。

「あの、なんかあったんですか?今までは会えたのに」

「わかりませんが、上からの要請です。ご了承ください」

「あの、じゃ、別に、容態が悪いとかそういったことではないんですね?」

「そうとも言えますし、そうでないとも言えます。始めます。まず、あなたのお父さんのフルネームから……」

母親の名前から、祖父、祖母、血液型、誕生日、しまには趣味から、やっているスポーツまであげることになった。

「剣道と柔道」

「三十項目のうち、二十五項目以上突破したので面会を許可します。こちらです」

また、エレベーターで上の階へと連れて行かれた。途中で金属チェックや赤外線チェックを受け、声紋と裸眼の登録までされた。さすがにここまできると、げんなりしてくる。やっと病室までたどり着いたときにはもうすでに、疲れていた。

「父さん」

「おお。ターム、ひさしぶりだな。元気だったか?」

久しぶりの息子の顔を見たコザルドは顔をほころばせた。

「何があったのさ?これ、なんで、こんなに会うのが大変なんだよ」

と、タームの方は会うなり文句を言った。

「うむ、よくわからんが、私の命を狙っている者がいるようでな」

と、コザルドはいつもと変わらない口調で言った。

「誰に?何で?」

「よくわからんが、それを上の者が心配してくれてな。で、厳重になっているんだ」

「にしても、ずいぶんと、おおげさじゃない?」

と、タームはくたびれたように言った。

「私もそう思う。だが、解除しようにも誰がこうしているのかわからないんだ。誰も教えてくれないしな」

「そうなの?なんで、また?」

「さぁな、私の知らないところで何者かが動いているんだろう。それより、お前ちょっと逞しくなったな。運動でもしていたのか?」

「まぁね。あ、そうだ。僕も検査を受けたいんですけど……」

声をかけると、近くにいたロボットの看護士が答えた。

「明日なら可能ですが?」

「じゃ、明日、来ます」

「どこか、悪いのか?」

「さぁ、まだわからないよ。じゃ、また明日来るからね」

心配そうな顔でコザルドは息子を見送った。


「ここかな?」

タームは病院からそのまま、まっすぐにチュエルトタウンに向かった。店の中には誰もいなかったので、タームは恐る恐る無言でコップを拭いていたマスターに話しかけた。

「あのー、サラさんの知り合いなんですけど、ミスターさんて方います?」

「いないよ」

手も止めずにマスターは答えた。

「いない?あの、どこに行けば会えますか?」

やっと、マスターは手を止めて言った。

「あんた、なんで、ミスターに会いたいのさ?」

「えっと、友人に会えって言われたものですから」

「友人?」

 やっとマスターは顔を上げた。写真にはなかった顔がそこにはあった。

「ええ。バリ・クレントという人です」

「あんた、バリの知り合いか?」

「ええ」

ドアの開く音がした。

「いるよ。待ってな」

と、マスターが言いかけたときだった。

「そりゃー好都合だ」

後ろから声がした。

「誰だ、てめぇらは?」

「俺達もミスターとやらにお会いしたいんだがねぇ……」

この男、ルカの運転手である。しかし、タームには面識がなかったので、わからずにいた。いつのまにか、タームの後ろには人だかりができていて、そして、武器を構えている者までいた。

「通せ」

マスターの後ろから、声がした。

「しかし……」

と、マスターはためらった。

「いいんだ、通せ」

「わかりました」

マスターは横へとずれた。

「じゃ、遠慮なく……」

一番前にいた男はそういうと、武器を連射し、ドアに無数の穴を開けてドアをけり、中に入った。

「……誰もいないじゃないか……」

「おい。……おい!店の奴、どこに行きやがった!」

マスターの姿もタームの姿も店から見えなくなっていた。走って逃げていたのだ。

「はぁ、はぁ。あいつら、店、壊しすぎないといいけど。はぁ、はぁ」

「大丈夫ですか?」

と、タームは心配そうに言った。タームは息さえも切らしていない。施設での特訓の成果だろうか。しばらく走ってから、マスターは振り返って安全確認してからゆっくりと歩き出した。

「あんた……息も……きらしてないねぇ」

「ちょっと、バリさんと鍛えさせられていたもんですから」

マスターは目を大きくして言った。

「もしかして、施設でか?」

「そうですけど。知っているんですか?」

「ああ。あんたがタームだろう?」

「そうです。あの、ミスターさんに会えってバリさんが」

「ああ、わかってる。パン屋に行こう。あれが早い」

マスターが指したのは馬だった。

「あれ、馬ですよ?」

「乗れないのか?なら、後ろに乗って行け」

「電車とか、車とかじゃダメなんですか?」

「ばか。電車だと、代金支払いが手の指紋照合だろう。車だと、行き先がばれる。いくぞ」

マスターはポケットからお金を出して、馬の綱をはずした。無人の馬貸しだ。事故を起こしても自己責任。車は勝手に障害をさけて通る機能がついているために、車にぶつかることはなかったが、振り落とされて、怪我をしても本人のせいというシステムになっている。タームは馬に乗るのは初めてだ。

「行くぞ、落とされるなよ」

「う。うわっ!」

馬は特に急ぐわけでもなく、ぽかぽかと足音を立てて走り出した。

「わわわわわわわわわ……」

「舌をかむぞ」

タームは黙った。しばらくいくと、再び、無人の馬貸しにつく。馬をつないだ後、歩いて、パン屋に向かった。パン屋は閉まっていた。

「このパン屋……」

と、タームは辺りを見回した。

「知っているのか?」

「ええ。来たことが。でも、閉まっていますよ」

「鍵はある」

マスターは開けてはいると、言った。

「おい、ルベルト、ルベルト?」

タームは初めて、パン屋のおばさんの名前がルベルトだと知ったが、もう呼ぶことはなかった。パン屋のルベルトは土色をして倒れていた。部屋もかなり荒らされていた。

「……亡くなっているのですか?」

「そうみたいだな。サラのマンションは壊れちまったし、後は……研究所か」

「壊された?研究所?」

なにが、どうなっているのか、いまいちタームには、理解し切れていないようだ。

「ああ。いくぞ。今度はタクシーだ」

タームはほっとした。馬は乗りなれていてもお尻が痛くなる。しかし、タクシーに乗ったものの、途中で何かあるんじゃないかとタームは身を小さくさせていた。

「ワイス、緊急事態だ。ピエーラに会いたい」

と、つくなり、あのロボットだといわれていた受付嬢に向かって言った。

「ええ。サラさんも来ているわ」

「本当に?よかった、やっと会える」

「こちらは?」

ワイスは聞いた。

「タームだ。サラとバリたちの知り合いだ。なにかあったら、入れてやってくれ」

「わかりました」

と、受付嬢は頷いた。

「よし、行くぞ。こっちだ」

「あ、はい」

タームは慌ててついて行った。エレベーターで上っていき、ゴミの落ちていないようなきれいな絨毯のひいてある廊下を歩いていった。ドアも三つ以上あけ、奥へと進んでいった。最後のドアの向こうには、サラと机に向かっている男性がいた。なにやら、機材が並んでいる。

「サラ!」

タームは感動したかのように言った。やっと、サラに会えてほっとしたようだった。

「ターム……どうしたの?」

「バリが伝言だって。あと、これ……」

タームはバリから受け取ったサンプルケースをガサゴソと取り出した。

「なんだ、それ?」

マスターが聞いた。

「夕食のサンプリングだそうです。何か入っているらしくって。僕も明日、親父のところでついでに検査してきます。検査するように、バリに言われたんで」

「そう。なんですって、バリは?」

「ああ、えっと、二日後には施設の近くにある塔に行くそうです。子供はきっとそこからきたんだって。応援がいるみたいです。ところで、子供って誰ですか?」

「そう、わかった」

サラはサンプルを受け取ると、机の前にいたピエーラに渡した。マスターは近くにあった椅子に座った。

「お願い」

「ああ」

と、ピエーラ受けとると、機材にそのケースを入れて、なにやらやりだした。タームもマスターの横に座った。

「ルベルトは死んでいたよ」

と、マスターが言った。

「コザルドさんが狙われたときに手を打っておくべきだったわ」

サラは悔しそうに言った。

「親父が狙われた?」

「ええ。大好きなお酒で三秒かからないうちに天国行きだったわ」

タームは顔を青くして言った。

「あの……昨日、生きていましたけど?」

「生きていてくれないと困るわよ!そのために病室、移したんだから。

「じゃ、あの、大量の質問攻めで答えられないと会えないのは……サラのせい?」

「そうよ」

「でも……なんで君が?」

「狙われたのは絶対に私のせいだからよ」

「一体……」

「一サンプルの結果がでたよ」

と、もくもくと作業していたピエーラが唐突に言った。

「薬?」

「弱いけどね」

と、ピエーラがうなずいた。

「え、薬って?え?」

食べていたせいか、タームは急にオロオロしだした。

「無気力になるのはそのせいね。これは予想でしかないけど、たぶん、Cクラスの食事には筋肉を強くするようなものが入っていて、Aクラスには頭に刺激する何かね」

「あの……バリは大丈夫でしょうか?」

と、タームは心配そうに言った。

「大丈夫よ、ある程度は」

「一体……どういうことなんですか?」

「なんだ、話してないのか?いや、聞いてないのに、あの施設に行ったのか?お前、馬鹿か?」

マスターがあきれたように言った。混乱しているタームにどう説明していいか、サラは少し迷っているようだが、やがて立ち上がって言った。

「……ターム。エーアイキラーを知っているわね?」

「もちろん。歴史でやりましたけど、一昔前に流行したこの地にあるほとんどの地方のロボット関係を停止させたウィルスですよね?」

「そう。そして、それは解毒剤をもって終結した」

「そうですよね。それで?」

「悪魔の子は悪魔だと信じる者がいたら?」

「悪魔の子?」

 唐突に話が飛んでタームは面食らったようだ。

「そう、エーアイキラーを作った人は悪魔だとさえ言われたわ」

「でも、子供は死んでいるですよね?」

「正確には、人体実験に使用されていただけで生きていたとしたら?あなたの目の前に」

サラはやわらかに微笑んだ。

「生きている?目の前に?……それがサラ?でも、そんなの、変だよ!」

タームは必死に、混乱する頭の中で整理整頓をしている。

「なにが?」

「だって、サラはまず、若い。それに、バリやロフィと幼馴染なんですよね?」

「間違っていないわ、全員、人体実験用の子供だったの」

サラは寂しそうに言った。

「ところが、ロフィだけはそれを覚えていないのよ。ある意味、幸せだわ。あまりにショックな出来事のせいと、医者は言っていたわ。そして、無理に思い出させることはしなかったわ。かつて、私たちの施設ごと彼らの配下になった。その時は知らなかった。私たちがどんな運命のもとにあるかなんて。やがて、それがわかった。研究所が火事になったときに逃げ出した。それを救ってくれたのがミスターとピエーラだったの」

「ピエーラって、彼ですよね?」

と、タームはまだ机で作業しているピエーラの方を見つめて言った。

「そうよ」

「じゃ、ミスターって?バリに会うように言われましたけど」

「私の父よ。本名はジェディンというの」

「ジェディン?……聞いたことがあるような気が……」

「エーアイキラーを作った人物だよ」

と、マスターはぼそっと言った。

「作った人……ですか?」

「そう。そして、彼は子供が人体実験になってしまってショックのあまり、体を壊してしまった。そこで、全てを機械にすることを選んだ。主要部分を残して。子供はここにいる。もう、壊れる体もないの。死んだことに……なっていたわ」

「でも、それが?」

男の声がした。

「ある日、私が生きているという噂が流れた。だから子供を誘拐して、エーアイキラーよりも強力なものを作らせようという奴らが現れたのだ」

そこにあった機械が急に言った。それは機械だらけの物だった。タームはたくさんある機械の中に紛れ込んでいて気がつかなかったのだ。あまりに溶け込んでいて、声がしなかったら気がつかなかっただろう。

「これなら、私だと気がつかれない。こんな姿で失礼」

「たしかに……全然わかりませんでした。あなたをというより、サラを狙っているのは誰なんですか?」

「サラのいた施設の者達だ。噂はたぶん、ポニュの軍隊だろう」

「なぜ、ポニュ地方の軍隊が?」

機械はガチャガチャと音をさせながら動いた。

「あそこは前の紛争のときに武器を大量に輸入しては軍隊に売っていた。両方の軍に。ところが、紛争が終わって漁だけじゃ儲からなくなった。だから、なにか戦いの名目が必要だった」

ドタドタと大きな足音が聞こえた。すると、急にドアが開いたと同時に男性が慌てて入ってきた。汗だらけでかなり息を切らしている。そこにいたのはルカの父親だった。

「なんですか、所長。どうしました?」

と、ピエーラは立ち上がった。

「こ、これを見てくれ」

トカはディスクを一枚持っていた。それをスクリーンに写して見ると……。

「これ、ルカとロフィじゃない!」

サラが声を上げた。

「次に文章が出るんだ」

と、トカは言った。

「時の舞姫に告ぐ。来い。さもなければこの子達の命はない」

と、マスターがその文字を読み上げた。

「なんで、ロフィはともかく、サラのクラスメイトまで捕まっているんだ?」

「ルカは君の事を探っていたんだ、サラ。運転手によれば、本当はまっすぐ帰るはずだったのに、君のマンションに予定を変更した。それから帰ってこないんだ。どういうことなんだ!」

「誰につかまっているんですか?」

タームは素朴に聞いた。

「施設の人間によ」

と、サラはあっさりと答えた。

「あの僕の入っていた施設?」

「あそこは、ポニュ軍のかつての軍事施設の遺品なの。人体実験の施設は燃えてしまったけど、実験はまだひそかにではあるけれど、行なわれているよ。そうでしょ?所長さん」

いきなり、話が自分にふられて、トカはあからさまに動揺をしていた。

「何で私に聞くんだ?」

「それなら、なぜここにこれをもって来たの?」

「それは……受付に君が来ていると聞いて……」

「嘘はダメよ。あの受付の子はそんなことは言わないわ。ミスターの仲間だもの。だからあなたは知っているんでしょ?私が時の舞姫だって」

「え、えええええ!!何を言っているんですか、サラさん。時の舞姫は親父がもっと若い時からずっと追いかけているんですよ?」

と、タームは本当に驚いたように大声を上げた。叫び声に近いような状態だ。

「だから?」

と、マスターはいつもと変わらない口調で言った。

「だから……って……年齢が合いません!」

 混乱のあまりか、泣き出しそうになっているタームをみて、サラは少し笑った。

「合わないのは年齢じゃなくて見た目よ」

「見た目?」

「私はもう四十よ」

「四十?」

「そう。言ったでしょ。人体実験にされた子供だったと。そして遺伝子操作の結果、体の細胞の老化率はすさまじく遅くなった。コザルドさんは知っているわ。なぜ、私のお金の送り先がゼランド砂漠なのか」

「おやじがですか?」

「そう。当時私たちがいた施設が火事になったとき放火ではないかと疑われてね。そこで出会っているの。あなたもそこに勤めていたのよね、所長さん?」

「……」

「トップはロベリィー・アシュレット。忘れもしない名前ね。サブは秘書のガレン・リスベリー。双子たちの親よ」

「……あの、学校の……ワカラとワカナのですか?」

「そう。なにか聞き出せないかと思ったけど、親は仕事の内容は一切、二人に言っていないみたいなの」

「だって……四十って、学校は?」

まだ、タームは信じられないようだ。

「私は当時の反ロボット軍から実験用にここに送り込まれたの。そのときにはもう、軍は戸籍を抹殺していた。私も、ミスターも。だからそこ、逆に、学校や役所のメインコンピューターに侵入して新しく、戸籍を作ったのよ。十八として」

「じゃ、バリやロフィも?」

「バリは、来たときにはもう私は実験された後で、成長スピードが遅くなっていたから、外見はバリと同じように年を重ねていたけれど、中身は随分違ったわ。幼馴染というよりかは、母親のようなものね。ロフィは私が実験されたことも知らなかったんだと思うわ」

「そうなんですか……。この……文章内に出てきている娘って言うのは?」

「私のことでしょ」

突然のことにタームは、びっくりした。振り向くと、音も立てず小さな女の子がドアの前に立っていた。

「こんにちは、所長さん」

と、少女は冷ややかに挨拶した。

「……誰だ、君は?」

「知らないなんていわせない。私の頭に、こんなの作って」

少女は、お団子にしていた髪をほどいてみせた。そこには何か、ふくらみがあった。

「こぶ?」

タームが聞く。

少女は横に首を振った。

「いいえ。これは角です。名前が、ユニというので、ユニコーンにちなんで、角を二つにしようとしたんです」

「角……」

 タームは呆然とそのふくらみを見つめた。

「そう。あの施設の最終目的は金属では入れない国に普通以上の能力を持った人間の殺人マシーンを送り込むことだった」

「殺人……」

「あの施設を覚えている?Aクラスは勉強だけを。そして、政財界に送り込む。Cクラスは体力を鍛え、あの施設の見回りや軍隊に回す。Bクラスは……」

女の子が引き継いだ。

「Bクラスはだんだんと自分の存在価値がわからなくなってくる。そんな中、特別になろうと実験に参加する……。最初は人が集まらなかったから、片親とか、身寄りのない子供を探し、片親を殺していた。私の母もそうよ」

「彼女は塔から逃げてきたの。世間に人体実験のことがばれるわけにはいかない。噂だけでも困る。あそこは有名な優秀な子供を育てるといわれている施設だからね。なんとしても、止めようとするでしょう」

 サラは視線を画面に戻した。

 トカはもう泣きそうな声で言った。

「ルカ……」

「ロフィとファグルは?どうなるの?」

と、タームは聞いた。

「ロフィは大丈夫。でも、ファグルって誰なの?」

「施設の中で会ったんだ。軍隊に入るために三年いるって人なんですけど……」

「三年も……。救えても普通の人ならギリギリね」

と、サラは首を振った。

「さて、どうする?」

マスターは立ち上がって言った。

コンコン 

ドアがノックされた。全員が見つめる目線におそるおそる社内ポストマンは言った。

「あの、所長宛に速達で届きましたが?」

「よこしてくれ」

ポストマンはぺこりと頭を下げると去っていった。中を開けると、またディスクが入っていた。スクリーンに出してみると……。

「時の舞姫に告ぐ。時間と場所の指定を忘れた。場所は知っているはずだ。娘が逃げてきた塔にいる。時間は人質が実験台にされるまでだ。以上」

また、マスターが読み上げた。トカは床にぺたんと座り込んでしまった。そして、頭を抱えた。

「実験台……それだけは!それだけは……助けてくれ!」

トカはサラのほうを見つめた。懇願するトカにユニは冷たく言った。

「よく言うわ。人の頭は笑っていじっていた人が!自分の娘だけは守ってくれ?よくそんなことが言えるものだわ!」

「私は!私はただ……人と動物が統一された世界をと……」

「ありえない理想だな」

マスターが言った。

「出てきたよ」

と、突然ピエーラが言った。話を聞きながら、成り行きを見ながらもサンプルの検査を続けていたようだ。

「Cクラスの弁当からは筋肉強壮剤が。Bクラスからは無気力になる沈静タイプの薬物が。Aクラスからは脳細胞を刺激する薬物が。サラの予想通りだ。これじゃ、自分は天才だって言う人が出てきてもおかしくないな」

「変な人はもういました。でもいつの間にか、いなくなるんです」

と、ユニが言った。

「そうなの?所長」

「私は……なにも……」

トカの額には汗が浮かんでいた。

「いいえ!私のこの角はあなたの提案です。何も知らないなんて言わせない!」

ユニの言葉は冷ややかだった。

「……私はただ、脅されていただけなんだ!本当なんだ……」

「笑いながら角にしようと言っていたあなたが?」

「……」

「どっちにしろ、ルカにはあなたのしてきたことが知られることとなるわね」

と、サラははっきりと言った。

「……そんな……言うのか?」

トカは不安そうな顔をした。その言葉に逆にサラの方が眉をひそめた。

「どうして、私が言うの?あなたも行くんでしょう?」

「私もか?」

「あなた……ルカの父親でしょう?」

サラが当然という口調で言った。

「次の実験日はいつなんだ?」

マスターが聞いた。

「……三日後だ。必要な動物がやってくる」

「じゃ、明日の夜には行きましょう。早いほうがいいと思うし」

サラが決めた。

「僕は何をすれば?」

「タームはお父さんのところで検査を受けてきて。体内の薬を抜くのに、時間がかかるの。たぶん、三日くらいかかるわ」

「でも……何かすることがあったら、しますよ?」

「ありがとう。でも、あなたの体に何かあったら、コザルドさんに顔が向けられなくなっちゃう。あの塔には何があるかわからないし、それに、コザルドさんのほうも隙をねらって、襲ってくるかもしれない。気をつけて見ていてほしいの」

「……わかりました」

しぶしぶながら、タームは頷いた。

「ミスター、準備しに行ってきます」

「帰ってこいよ」

「もちろんよ」

「わかった、気をつけて」

機械はカチャカチャと動いた。

「行きましょう、ユニ」

「俺も行くぞ」

マスターが伸びをした。

「あそこでの、恨みは今でもなお、だからな」

「あの……マスターも何かあえるんですか?」

タームはじろじろとマスターを見つめた。

「彼、老けて見えるでしょう?でも、あなたと同じ年なの」

「……六十過ぎて見える……」

タームは呆気にとられたような顔をした。

「私と同じ、年齢に関する遺伝子をいじったのね。でも、同じ研究だったのにまったく逆の結果が出たの。もちろん、なぜなのか未だにわからないけど」

「私も行きます」

ドアが開くと、女性が入ってきた。

「あ、受付の……」

タームは気がついたようだ。

「あなたも、サラの仲間なんですか?」

「彼女はレムよ。正確には私の仲間ではなく、ミスターとピエーラの仲間なの。彼女もお父さんを亡くしているの。手先が器用でね」

「武器ができております。いろいろと」

彼女はいつもと変わらず礼儀正しく言った。

「では、行ってきます」

「ああ、気をつけて」

出て行く姿はいつも、学校に行くときと変わらない姿で出て行った。

「待ってくれ!」

トカはあわてて、サラの後をついて行った。

「私はどうすればいいんだ!」

「自分で考えなさいよ。じゃねん。」

サラたちはトカを振り切って歩いていった。

マスターが言った。

「どうする?俺の店は壊されちまったぞ?」

「まず、私の家の地下に行きましょう」

レムが言った。

「地下に何かあるんですか?」

と、ユニが聞いた。

「レムの家の地下は武器の宝庫なの。この日のためにね」

「もちろんですとも」

と、レムは涼しい顔で答えた。

「私はとりあえず、明日の朝が学校に行ってくる」

「学校に?それはマズイんじゃないか?」

マスターは心配そうに言った。

「そうなんだけど……あるお嬢さんがバリを追いかけてシェオに行きそうでね。あ、バリはシェオ地方に魚を見に行っていることになっているの」

「シェオはまずいんじゃないか?最近、治安がよくない」

「そうなの。それに、タームのことも学校に説明しないといけないしね。タームは明日、朝から病院の方に送るわね。今日はレムの家に一緒に来ましょう」

「わかりました」

と、タームは神妙な面持ちで頷いた。

レムの家


レムの家はめずらしく一軒家だった。後ろにあるどこかの神のまつられている建物が日陰にならないようにということらしい。太陽の神であることから、人工的に太陽が当たるようでは困ると信者が訴えたためだった。

「広いんですね」

と、ユニは見回していった。必要な物以外は何もないというくらいにさっぱりした部屋だ。

「こっちよ」

 レムは地下へと向かった。

 地下室には上の部屋とは違って、たくさんの物でふれていた。

「凄いなぁ……」

と、タームは感心したように声を上げた。壁にまで武器があった。

「こんなにあるとはな」

 マスターもしげしげと見つめて言った。

「しかし、攻撃用じゃないな。他には……防具か?カルカルだな」

「攻撃用って?」

と、タームが聞いた。

「そうなの。攻撃用の武器というのは相手を殺傷できる武器の事よ。でもここにあるのは、ピエーラが発明したものばかりで、相手を足止めしたり、道を進むための補助道具がほとんどなの。人間相手でも、せいぜい気絶まで。私たちは人殺しにはならない。」

と、サラが説明した。サラはここに、これだけの武器があったことを知っていたようだった。

「人もいるの?」

「だって、タームがいた施設で上に上がっていった人たちがいるかもしれないでしょう?」

「あ、そっか。」

「これは、なんですか?」

と、ユニが壁にある地図を見つめて聞いた。

「見取り図だ」

と、レムが答えた。

「みんなで、協力して思い出したくもない塔の見取り図だ。あそこは、昔は私たちの遊び場だった」

「遊び場?でも、そんな……」

「面影はないでしょうね。さて、みんな、どれ持って行く?」

と、サラはみんなを見つめた。


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